ルースミア、守護7魔将をフルボッコする
「おい魔王! 居るならなぜさっさと迎えに来なかった!」
「済まんな、てっきり楽しんでいたように見えたのだ」
なるほど、転移者であると知っている我以外がいるときは魔王に徹しているわけか。
魔王は玉座に座しながら愉快そうにしているが、守護7魔将と呼ばれている連中は殺気立った目で見つめてくる。
と言ってもアーリーとリッチとストームジャイアントは違ったが。
「して我に何用かな?」
「うむ、こいつらの保護をしてもらう」
守護7魔将がざわつきだして、中には笑ってくるものまでいた。
それを魔王が手振りをして黙らせてから、身を乗り出してきた。
「それによる我のメリットは何か?」
「そんなものはない。 我が保護しろと言ったのだから、貴様はこの4人に衣食住を提供するだけだから難しい事はないだろう?」
一瞬の静寂が訪れたあと、守護7魔将たちの我慢の限界にきたようだ。
「貴様! 魔王様に対して無礼にもほどがあるビホッ!」
アイボールが我に向かって頭部についた複眼から光線を飛ばしてくる。
複眼から出る光線には様々な種類があるが、その大半は状態異常をもたらすものがほとんどだ。
アイボールは馬鹿ではなく、むしろずる賢い魔物だ。 放った光線は我が避ければ、我の後ろにいるカルたちに当たるよう狙って飛ばしている。
——もっとも避ける必要など無いのだが。
直撃したが何も起こらない。 起こるはずが無い。
番が言うには酒を飲むと呑まれるらしいが、基本的には我に状態異常は効果がない。
「な! 何故だビホッ!」
驚くアイボールは魔王の制止も聞かずに光線を放ち続けてくる。
その最中、我が魔王に目を向けると諦めたような顔を見せてきた。
つまり配下を失う覚悟をしたのだろう。
我は光線を浴びながら一歩また一歩と歩いて近づいていくと、焦ったアイボールはその巨大な口で噛みつきに飛びかかってきた。
——ガブッ!
牙が我を捉え、不快を感じる唾液が我に纏わりつき、舌ベロが撫でまわしてきてめちゃくちゃ気持ち悪い!
「気持ち悪いわっ!!」
力の加減を普段はしているが、あまりの不快感に加減はしたつもりだが上顎と下顎を掴んで引き剥がした。
「グウェェェェェェェぎゃぁぁぁぁっ!」
バリバリと肉が裂ける音が聞こえたが、とりあえず気持ち悪い口から出られた。 と思ったが、よくよく見てみればアイボールの口のところから上下二つに引き裂いていてピクピクしている。
それもしばらくすると動かなくなった。
「き、貴様! 魔王様に頼みごとをしに来ておきながらクアウテモクを殺すとは!」
「我に喧嘩を売ってきたのはコイツだぞ吸血鬼」
「私はヴァンパイアロード、ファン・ルイス=アレギ。 不死王である私を吸血鬼と一緒にしないでもらいたい」
「——あ? 貴様、今なんと言った? 不死王、だと?」
「そうだ、私こそ不死王。 恐れ慄いたか?」
不死王が誰かに仕える存在なわけがない。
我の知る不死王は不滅の象徴であり、我ですら絶対に殺す事のできない数少ない存在だ。
その不死王の名を語る奴など同じく破滅の象徴である我が許すわけにはいくまい。
「不死王の名を語るというのであれば、決して滅びぬのだろうな? 我の知る不死王は不滅の象徴だぞ?」
「その通り、私は不滅だ」
そうまでして言うのなら我も象徴の1人として貴様を破滅してやろう……
「本物の不死王に以前教わった魔法だ。 もしも貴様が本当に不死王であるなら滅びる事はない。 喰らうがいい……デストラクトアンデッド!」
手を不死王を名乗る愚かな吸血鬼ファン・ルイス=アレギに向けてその魔法を使った。
ファン・ルイス=アレギは愉快そうに我を見ていたが、その魔法が発動した直後に衣類だけを残して塵となった。
我の知る不死王はこの状態からでも即座に復活を果たすが、所詮は偽物。 復活する事なく沈黙した。
それまで黙っていた悪鬼が動きだす。
「我が名はバール、貴様が魔王様の客人にふさわしいか試させてもらう」
「試すという事は、死にたくはないということか?」
無表情か。 まぁいい、手加減はしてやるか。
バールは我にその手に持った剣で斬りかかってくる。 初めて見る剣の形状をしていて、掴む場所の下からも刃があって扱いにくそうに見えるのだが……
リストブレードで攻撃を受けようとするが、軽く躱されて我の身体に薄っすらと傷をつける。
「貴様……神の力を使えるのか!」
「知らん、だが我には貴様の行動が読める!」
厄介な相手だ……神の力、人種は騎士魔法と呼んでいるものだが、予測する能力や防壁といった攻撃を予測できたり防いだりと神に備わった能力で、一般的には人種の神にしか与えられていないものだ。
おそらくこの悪鬼は魔王に召喚されたからか、無意識のうちに使う事が可能なのだろう。
だがそれも所詮は我らと対等にさせるべく持たせた力。 それを凌駕すればいいだけの話だ。
「行くぞバール! 一応加減はしてやるが、死んでも恨むなよ!」
まずは加速の魔法で速度を上げてみるが、なかなかにいい動きを見せて我の攻撃を防いでくる。
そこで力を加えてやると徐々に攻撃を防ぐので精一杯になってきた。
「その剣、よくもっているようだがそろそろ終わりのようだな!」
ハッとした顔でバールが己の剣を見る。 既に刃こぼれも酷く、ところどころにヒビまで入っていた。
「降参するか? しないのであれば続けるぞ!」
一気に間合いを詰めて斬り刻もうとした瞬間、バールが武器を手放して防壁で防いできた。
「ふはははははははっ! いつまでもつか見ものだなぁ!」
手を差しのばした防壁も徐々に押していき、限界が近づいてきている。
「なんか俺、ルースミアの方が魔王に見えてきた……」
「う、うむ……」
「ま、参った……降参する!」
カルたちの声が聞こえたすぐ後、バールが降参の声を上げた。




