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ルースミア、最強の魔法

 今、シャリーが作り出したワームホールの中を移動している我だがどうにも納得がいかない。

 だいたいなぜ我が逃げる様なことをしなければならんのだ!



「凄いな……これは一体どうなってんだ?」


 もっともその原因はこいつらなのだが……


「確かワームホールとか言っておったのぉ」

「なぁルースミア教えてくれ、これはなんなんだ?」


 面倒だったがこいつらを先に黙らせないと落ち着いて考える事もできそうにない。

 そこでワームホール内に落ちていた石を拾ってカルに投げつける。


「今親指が触れている場所から小指のところまで最短距離で動かしてみろ」


 言われて不思議そうにこうだろ? とでも言いたげに動かしてみせてくる。

 その石を奪い取り、親指の部分から小指の部分に向けてリストブレードでまっすぐ穴を開けてからまたカルに渡す。


「これが最短距離だ」

「え!?」

「そりゃズルじゃろ」

「あ、なるほどぉ!」

「……虫食い穴」


 これで分かったかと思ったのだが……


「それ本当に凄い切れ味なんだな」


 その言葉に我を含む全員が一斉にカルを見た。


「ねぇカル、もちろんワームホールの意味が分かった上で言ったのよね?」

「いや、石に穴を開けただけだろ?」

「カル……お主そこまでバカだとは思わんかったわい」

「……ないない」


 ティアたちに説明をされてやっとカルも理解した様で、今更驚く姿を見せてきた。


「って事は今俺たちは帝国の町中をまっすぐ進んでるってことなのか」

「そういう事だ」


 呆れつつもこれで考える時間が取れる。

 4人がワイワイ後ろをついてきている間にこの後どうするか考える。



 まずは魔王に会いカルたちの保護を約束させ、そのうえで魔王の狙いを確認しよう。

 よほど馬鹿げた事を言わない限りはそれで魔王は放っておき、その間に我はサンドロ=アルベスとホセ・イグナシオ=ルリの2人の始末だ。

 この2人だけは許せん。




 考えがまとまった頃にワームホールの出口が見えてきた。 だがその出口は徐々に閉じてきている様にも見えた。


「……あの雌め!

貴様ら急いでここを抜けないとワームホールに取り残されるぞ!」


 時間と空間を自在に操る能力をシャリーは持つ。 その力はシャリーだけが持つもののはずだが、(つがい)の知人で操れる者がいる。 まぁ今はそれはどうでもいい、我はさっさとワームホールを抜け出てカルたちが出てくるのを待つ。

 最後にクリストが抜け出たところでちょうど閉じた。



「ほぉ……」

「うおっ!」

「こいつは驚いたわい」

「……到着ぅ?」

「魔王の城ね」


 シャリーの奴め粋な事をしてくれる。 いや、焦っているのかもしれないな。

 そうでなければここまで手助けはしまい。


 ワームホールを抜けた先には目の前に魔王の城がそびえていた。

 禍々しいまでのその城はありえない形状をしていて、バランスを無視した作りになっている。


「まさか玄関をノックでもするつもりか?」

「もう気がついているはずだ。 向こうからやってくるだろう」


 言うが早いか城の門がギギギィっと音をたてながら重々しく開かれ、その中から有象無象のモンスターたちが立っていた。


「ね、ねぇルーちゃん、これってかなーり危険な香りが私するんだけど……」

「魔王の差し金ではないな。 不満を持つ愚かな部下がとった行動だろう」


 魔王とは話し合い、我と事を荒立てる気がないのはわかっている。 となればそのやり方に納得のいかない者の仕業だろう。


 門が開ききると一斉にこちらへと走り出してきた。



「貴様らは下がっていろ」

「まさかルースミア1人であれだけの数を相手にするつもりか!?」

「いくらなんでも無茶じゃ!」

「貴様ら我を誰だと思っている?」


 カルたちにプロテクションフロムイービルの魔法をかける。

 人種であればたとえソーサラーといえども発動詠唱は必要だが、擬似魔法を使う我には本来発動詠唱すら必要ない。


「いいか? 手を出しさえしなければ貴様らは守られる。 おとなしくそこで見ていろ」


 さて、人の形でこれだけを相手にするのは100年ぶりになるか。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルースミアに言われた通り、俺たちは光に囲まれた場所に留まっている。

 魔王の軍勢は俺の前方の愛会を埋め尽くすほどいて、正直、もしこれで戦えと言われたらもってせいぜい数秒がいいところだろう。

 そんな状況にルースミアはたった1人で戦う気でいる。

 己の無力さを痛感する。 俺たちはルースミアの手助けどころかただのお荷物にしかなっていないんじゃないかとすら思う。 まぁ実際にそうなんだが、それでもルースミアはそんば俺たちの事を守ろうとしてくれている。


 それはここにいる3人も同じらしい……俺たちは無力だ。



 ルースミアは襲いかかってくる第一陣に向かってサンダーに似た魔術……じゃなくて魔法を使ったようだ。

 その雷が一番先頭の奴に向かって命中すると、そこから一気に周りにいる連中へと電撃が広がっていき次々と黒焦げになっていった。


 ルースミアはその様子を黙って見ているわけではなく、目で追うのがやっとの速度で敵中に飛び込みリストブレードで次々と切り裂いていく。

 時折動きが止まったかと思えば、ルースミアの至近距離でファイアの魔術に似ている魔法を使っている。


「……あれ、たぶんラファイガ以上の威力、最初のもラサンガ以上」


 驚いた顔でクリストが言うのだから間違いないんだろう。


「ねぇ……今気がついたけど、ルーちゃん押してってるよね」


 そう、何より驚かされるのは、あれだけの数を相手に一歩も譲らないどころか押していた。


「儂は夢を見とるのか? 恐怖すら感じることのないと言われとる魔王の軍隊が、後退しとるように見えるぞ」


 それは見間違いなんかではない。 ルースミアの圧倒的なまでの強さの前に、魔王の軍隊が尻込みし始めていた。

 そしてついには1匹が逃げだすと後を続くようにあの魔王の軍隊が背中を見せて逃げ出しはじめた。


「ここまで圧倒的かよ……」

「終わったようじゃな」


 アルバールが一歩踏み出そうとした時、ルースミアがまだ来るなと俺たちに手で合図してきた。


 直後、とんでもない爆風が魔王軍の軍隊を襲い、衝撃で次々と木っ端微塵になっていった。


「な、なんだこれは!」

「……わかんない、だけどとんでもない魔力の出力を感じる」


 クリストがさっきから驚きつつも口元は嬉しそうに笑顔を見せている。

 普段からニコニコしてはいるが、こんなにはっきりと感情を見せるのは俺たちでもそうなかなかない。


 爆風をなんとか耐えた奴もいたが、今度は目がくらむほどの眩しいを光を発したと思ったら再度衝撃波と爆風を感じた。

 徐々に周りが見えるようになった時の光景を俺は2度と忘れることはないだろう。

 魔王軍の軍隊は影だけを残して消えたものや、炭になって徐々に崩れていく。

 頭上には巨大なキノコのような雲が出来ていて、それがスーッと消えていく。


 ルースミアが満足そうな顔をしながら俺たちの方に振り返った。


「やはりこの魔法はおそらく最強だな」


 その様子を見た俺は心底ルースミアを恐ろしいと思ったのと同時に敵でなくてよかったと安堵した。




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