ルースミア、シャリーと力比べをする
イザベルがホセ・イグナシオ=ルリの言葉を遮って止めてきた。
「イザベル……姫、なぜ止める?」
「ルリ様がそのお方には勝てないからですわ!」
「なっ!」
イザベルの言葉に謁見の間は静まり返る。
「私が、勝てないだと?」
「はい、私は魔王にさらわれたときに見ていたことでルリ様にまだお伝えしていないことがあるのです!」
イザベルはあの時よく覚えていないような事を言っていたがそれは嘘だった。
我が片腕で首をつかんで持ち上げ、へし折って殺したところまでこの小娘は見ていたのだ。
「その程度だけで私が勝てない理由には……」
「もう良い!」
今の今まで一言も口を開かなかった皇帝が玉座から立ち上がって叫んだ。
そしてホセ・イグナシオ=ルリを見た後、我の方へ視線を向けてくる。
その視線には敵意は見られず、どちらかというとまるでこのタイミングを待っていたとでも言わんばかりの表情だ。
「娘……ルースミアと言ったか、もし帝国につき魔王と戦うというのであれば、魔王と繋がっているという報告は偽りだったとするが、如何する?」
慌てたのは今までまるでザマァみろとでも言いたげに見ていたサンドロ=アルベスの方だ。
もしこれで我が帝国に加担すると言えば、虚偽の報告をしたとでもされて立場が逆転する事だろう。
だが我も魔王に関与はしないと言った以上、帝国に加担するわけにはいかない。
そしてチラとホセ・イグナシオ=ルリを見れば口元がつり上がっていて、これが最初から仕組まれていたことだとわかる。
つまりサンドロ=アルベスは最初から帝国に利用されただけに過ぎなかったということだろう。
おそらくこうだ。
皇帝とホセ・イグナシオ=ルリは我を味方に引き込もうとしていたが、どうやって引き込むか悩んでいた。
そこへサンドロ=アルベスの虚偽の報告を受け、それを利用して一度捕らえようと考えた。
だがそれだけでは決め手に欠けるうえに、そんな横暴があれば帝国の信用にも関わる。
だがそれでも強行して我を探してみれば、妖竜宿で魔王と密会していたところに遭遇した。
今思えば城へ連れて行かれた時に魔王を追ったはずのホセ・イグナシオ=ルリが魔王と争った形跡がまったくなかった。
おそらくホセ・イグナシオ=ルリは魔王を追わずに嬉々として急ぎ城へ報告に戻ったのだろう。
そしてこれで大手を振って魔王と繋がりがあるとして捕らえる事ができるようになったといったところなのだろう。
「断る」
我は約束は守る。 それは至極当たり前のことだからだ。
「それでは魔王と繋がりがあるとし処刑ということになるが、構わぬとでも言うのか?」
「魔王が我の邪魔をしなければ関与しないと約束をした」
「皇帝、今のは間違いなく魔王と繋がりがあると言ったも同然だぞ」
帝国に引き込めないのであれば不要という事か。
デ・ラ・カルたちの方を見てみると、覚悟は決めた、そんな雰囲気が取れた。
それならば遠慮はいらない。
番の世界に行った時に見た、ルールブックとやからなんとか使えるようにした魔法がある。
そのルールブックのタイトルは、確かウィザードリィとか書いてあったと思う。
それにあった転移の魔法は仲間と認識さえしていれば、目に見える範囲にいれば共に転移できる。
危険はあるが交戦時の混戦の最中でも使えるため、この世界にある移動の魔法よりも便利な代物だ。
移動先を頭に思い描き、それがしっかり映像化された場合は安全に移動が可能となる。
移動先が適当な場合は距離を頭に思い描くだけでもいいが、その場合、土の中や石の中に移動してしまうこともあり、即死も免れないようなことになることもある。
「最後にもう一度だけ言っておくぞ。
我は貴様ら帝国と魔王には一切関与はしない。
だから今後我と我の仲間には関わるな。
もし次に邪魔立てをするようであれば、我が名に誓って貴様ら全員を破滅させる!」
そこで魔法を発動させた。
景色がグニャリとねじれたかと思った次の瞬間には妖竜宿の前についていた。
「ふむ、これは便利な魔法だな」
「な、ここは儂等がさっきまでいた宿屋じゃ!?」
「貴様らサッサと中に入るぞ」
「ルーちゃん逃げるんじゃなくて宿屋なの?」
4人を置いて妖竜宿に向かうと諦めたようについてくる。
中では慌てた様子のシャリーが苦笑いを浮かべ、眉尻をひくつかせながら待っていた。
「ルースミア様ぁ? よりにもよってなぜここに来たのですかぁ?」
「ふん! いつも貴様の掌で踊らされてたまるか! このあと我はどうしたらいいのか教えろ!」
シャリーが慌てている姿を見せるのは初めてだ。 まさか我がここに来るのがシャリーの想定外だったとでも言うのか?
「余計な詮索はやめましょうねぇ〜ルースミア様ぁ?」
「なるほど、貴様も所詮は創造神による産物というわけだな。
それでこれからどうすればいい?」
先程からシャリーが今まで見られなかった様子を見せまくるから楽しめる。
ククク……わかるか? いつもおっとりして見せているシャリーが今、悔しそうに口を尖らせているのだぞ?
「やはりルースミア様を呼び出したのは間違いだったかもしれませんわね……」
空気のようだったデ・ラ・カルたちが、今の会話を聞いて違和感を感じたんだろう。
「どういう事だ? ルースミアは……その、ここの女将と知り合い同士ってだけじゃなくて……」
「うむ、実はコイツが、我……むがぁ!?」
シャリーに口を押さえられてしまった。
それを引き剥がそうとするが、ここ1番の馬鹿力を発揮させているようだ。
いいぞ、一度力比べをしてみたかったのだ。 相手をしてやろう!
「ル、ルー、スミアさ、まぁ、その、無駄口を……ひ、控えて、ほ、欲しい、もの、ですわぁぁぁぁ!」
「パワーで! 我に、勝てるとでも! 思ったかぁぁぁぁぁぁあ!?」
グアヴァッとシャリーの手を引き剥がす。
とはいえシャリーのパワーもなかなかのものだ。
さすがの我も息が切れて肩で息をする。
シャリーも同様で、ハァハァと息を切らせ無理やり営業スマイルをしていた。
「さ、さすが……ですわねぇ……」
「貴様も、な……」
我もシャリーを力では制した満足感に満たされ口元が歪んだ。
「なんか……すまない……その、俺が余計な事を聞いたせいで……」
デ・ラ・カルたちを見るとカルとアルバールは真っ青な顔をしながらも辛うじて立っていて、ティアは意識を失って倒れていた。
クリストは気絶はしていなかったものの、へたり込んで失禁してしまったようだ。
それもそのはずで、我とシャリーが立つ床は踏ん張ったはずみで床が抜け、我の口を押さえていたシャリーのパワーで我の後方の壁が衝撃波でヒビが入り崩れかけていて、引き剥がそうとした我の方もシャリーの後方が同様に衝撃波にせいで宿屋の壁が崩れ、外が丸見えになっていたからだ。
「シャリーさん、何事ですか!」」
慌てて出てきたのはカイだ。
崩壊した壁を見て驚いている。
「なんでもないですわぁ」
「これがなんでもないわけないじゃないですか」
カイに言われてシャリーも宿屋の状態にやっと気がついたようだ。
「あらぁ……見なかった事にしてもらいますわぁ」
そう言うとパンパンと手を叩いただけで元どおりに戻ってしまった。
「貴様……時を戻したか」
「建物だけですわぁ」
シャリーの口元が緩み、手を口に当ててきてシーッとやってくる。
言うな、という事なのだろう。
それなら口を押さえないで最初からそう言え!
過去にあれだけ無茶苦茶な力を持つと思われていたシャリーも、ルースミアのパワーには勝てなかった様です。
更新が毎回遅くなってしまい申し訳ありません。




