ルースミアと敵対する者
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「貴重な情報感謝する。 サンドロ=アルベスよ褒美は何を欲する? 何なりと言ってみるがいい」
謁見の間にてサンドロ=アルベスは皇帝から謝辞を述べられる。
正確には皇帝ではなく勇者ホセ・イグナシオ=ルリだが、初代の勇者は皇帝と親しい間柄で噂では恋人同士とも言われているらしい。
「それでは……情報を提供こそしましたが、彼らは元同郷の者たちで元僕の仲間でした。 まさか魔王と繋がっていたなんて正直今も信じられませんが、陛下に勇者の称号を頂いたあとすぐに名誉を汚されたりしたのも、彼らの策略によるものだったと思うと残念で仕方がありません……」
サンドロ=アルベスはそう言うと顔を腕で覆い目を拭う。
その姿に謁見の間に集まる者たちから同情の声が広がった。
「処刑だ! 異論を聞く必要もない! そのような輩は即刻処刑しか有り得ん!」
「そうだ! そうだ! 魔王の手先はアイアンメイデンで苦しみながら殺してしまえ!」
もはや謁見の間では処刑の話が決まっていく。 それを聞いてサンドロ=アルベスは覆った顔の下で1度口元を歪ませた。
そして静まったタイミングで顔を上げて褒美に欲しいものをくちにする。
「……もし彼らを処刑するというのであれば、せめて思い出として彼らの遺品の武器がいただきたいと思います」
金でも地位でもないサンドロ=アルベスの要求はここでもまた感嘆の声が上がった。
「良かろう、その望み叶えるぞ。
直ちに装備品を持ってこい!」
勇者ホセ・イグナシオ=ルリのかけ声で兵士が小走りに出て行った。
しばらくすると兵士が荷物を抱えて戻ってくる。
「着ている服と防具以外です」
手渡されたサンドロ=アルベスは物色するように中を見ていくがお目当の物がない。
「あと1人分足りません」
直ちに取って戻るように命令され、兵士は急いで出ていった。
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サンドロ=アルベスの奴は我のこのリストブレードが狙いだったか。 だがコレは番が我の為にプレゼントしてくれた大切な物だ。
「ルースミア……」
そう心配そうな顔で我を見るな。
「『集団人物魅惑』」
兵士に向けて『集団人物魅惑』の魔法を使う。
「おい我が友たちよ、なぜそうまでして武装を解除したがるのだ」
「牢の中の友よ、友らの情報を提供した者が遺品にと欲しがっているんだよ」
なるほど、処刑は決定事項か。
「その者の名前は分かるか? 友よ」
「以前勇者の称号を与えられ、その後剥奪されたサンドロ=アルベスだよ、我が友」
やはりか……
「少し相談させてくれるか? 友よ」
「あまり時間は取れないが、友の頼みでは仕方がない。 急いでくれよ、友よ」
ということで振り返ってデ・ラ・カルたちを見ると驚いたままの顔だった。
「どうした?」
「いや……すごいなと思ってな」
「時間はないそうだ。 驚いてないでどうするか決めろ」
「どうするとはどういうことじゃ?」
「このまま処刑されるか、それともこの国を敵に回すかに決まってるだろう」
「もし私たちが処刑を望んだとしたらルーちゃんはどうするの?」
「その時は貴様らを置いてここから出るまでだ」
まぁ処刑しようにも我を殺すことなど出来はしないがな。
いや……勇者ホセ・イグナシオ=ルリの持つ剣なら可能か。
「友よ、そろそろ急いで欲しい」
「我は行くぞ?」
「待ってくれ、俺たちも無実の罪で処刑なんてされたくはない」
そうなるだろうな。 誰も望んで死を選ぶ者などいない。
4人が頷くのを確認して兵士たちの方に向き直る。
「というわけだ。 我らをここから出してくれ」
「済まないが友よ、さすがにそれはできない」
ふぅむ、魅惑がかかっていても逃がすようなことはしないか。 となると……
「勘違いしないでくれ友よ、我は直に渡したいだけだ」
兵士たちが困った顔で見合わせている。 面倒だが妥協点を探していくしかないだろう。
「サンドロ=アルベスは我の仲間だった。 せめて最後に会って直に渡したいのだ」
兵士たちはそれでも渋るような態度だった。
こいつらの忠誠は間違いなく皇帝なのだろう、それならば。
「皇帝の娘であるこの国の姫を救い出したのは我だぞ?」
これにはさすがに動揺を隠せない。
「確かに姫を救出した者は真っ赤な髪の女だと聞いていた。 まさか友のことだったとは知らなかった」
「分かった友よ、最後の願い陛下に咎められるかもしれないが叶えよう」
よし、上手くいったようだな。
牢屋の鍵を開けて出るように促してくる。
我が先頭にデ・ラ・カルたちが続き、兵士たちに案内されて移動した。
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移動した先は我が皇帝と顔を合わせた場所だ。 いわゆる謁見の間だ。
兵士たちが我たちを連れてきたため、謁見の間がざわつきはじめる。
「貴様ら! 誰が囚人を連れて来いと言った!」
「はっ! 友が直に渡したいというので、自分たちがお咎めを受ける覚悟で連れてまいりました!」
「友だと?」
おかしなものだ。 皇帝は鎮座したまま見ているだけで、今この場で実権を握っているのはどう見ても勇者ホセ・イグナシオ=ルリだ。
「勇者ルリ、俺たちは魔王と繋がってなんかいない!」
「嘘だ! 僕はしっかりと見ましたよ!」
デ・ラ・カルが勇者ホセ・イグナシオ=ルリに無実であることを告げた直後に違う場所から我が1番会いたかった相手の声が聞こえてきた。
「サ〜ン〜ドロ=ア〜ルベス、貴様ここにいたのかぁ」
嬉しさで顔がニヤけてくる。
「ル、ルースミア! こんなところでもしも魔……ウグッ! グググ……」
馬鹿な奴だ。
我が1歩1歩とサンドロ=アルベスに近づくと、サンドロ=アルベスも後ろに下がりだす。
それを止めてきたのは勇者ホセ・イグナシオ=ルリの声だった。
「止まれ」
歩くのを止めて振り返る。
するとデ・ラ・カルの首に勇者ホセ・イグナシオ=ルリが剣を突きつけていた。
「ホセ・イグナシオ=ルリ、貴様この間誓ったことを、よもや忘れたわけではないだろうな?」
「先に誓いを破ったのは君だ。
君は魔王と繋がっていたのだからな」
勇者というのになれる奴らはみんな脳足りんばかりなのか?
「ならば……我を敵に回す覚悟があるのだな?」
「君がそう言うのであれば仕方が……」
「おやめくださいっ!!!」
突然大声を張り上げて現れたのはイザベル、この国の姫だった。
更新が遅くて申し訳ありません。




