ルースミアも驚く絶妙なタイミング
どうしてこうなったのだ……
今我は個室にいる。 そして中には先ほどまで話をしていた魔王に加えて勇者ホセ・イグナシオ=ルリといる。
「なぜルースミアと魔王が一緒にここにいるのか説明してもらいたい」
「我が呼び出したからだ」
「呼び出した? まさか魔王とルースミアは本当に手を組んでいる……」
「そんなわけあるか!」
ん? 本当にとはどういう意味だ……
魔王の方は先ほどとは打って変わり、我に見せたような表情は消え無反応な様子を見せている。
バカバカしいことだが魔王にでもなりきっているのだろう。
「聞いてのとおりだ、私とルースミアは敵でも味方でも無い。
当方の手違いで我の守護7魔将といざこざができて、ルースミアが我に敵対するつもりか聞かれ、そのつもりは無いと答えたまでだ。
理由は言った、私は帰らせてもらうぞ」
ほぉ……我を庇ったか。 ククク……それで恩でも売っておいたつもりか?
魔王が立ち上がり部屋を出ようとする。
「待て! ここで会って無傷で帰れるとでも思っているのか!」
「ふっ、私は貴様よりもここがどういうところか理解しているつもりだぞ」
そう言い捨てて個室から出た時だ。
勇者ホセ・イグナシオ=ルリが抜刀して斬りかかる。 だが魔王は避けようともしない。
何故ならここは妖竜宿、シャリーの領域だからだ。
客である限りシャリーは相手が誰であろうと命の保証をする。
「ここでの争いごとは禁止ですわぁ」
ひょいと現れたシャリーが勇者ホセ・イグナシオ=ルリの剣を掴んで止めてきた。
その掴んだ手から血は一切出ていない。
「お、のれ……邪魔立てする気か! これは帝国に対する反逆行為と同じだぞ!」
勇者ホセ・イグナシオ=ルリは阿呆だな。 剣を素手で掴んで怪我すらしていない事にも気づかんか。
遠ざかる魔王から勇者ホセ・イグナシオ=ルリは目も離さず、ギチギチと掴まれた剣を無理矢理引き抜こうとしているようだ。
それを無駄な事をと思っていたのだが……
「……痛っ!」
あのシャリーが剣から手を離した? しかもその手から血がでているだと!?
ありえん、あの剣一体何なのだ!
シャリーが手を離したことで勇者ホセ・イグナシオ=ルリはそのまま魔王を追いかけていった。
残された我は血が出ているシャリーの手を見つめる。
「貴様のことだ、心配はしていないが……大丈夫か?」
「あらぁ、ルースミア様が心配してくださるなんて思わなかったですわぁ」
切れた手をパパッと振るとそれで切れたところは完治してはいる。 しかし怪我を負った事実に変わりは無い。
「貴様を傷つけることができるあの剣、貴様なら何かわかるのだろう?」
「そうですわね、アレを作り出したものは私だけではなくルースミア様も殺せるもの、と言えばわかってもらえるかしら?」
我を傷つけられるのではなく、殺せるものと言ってきた。 となればもちろん我と同等の存在以外ありえない。
「まさか! 奴らが目覚めたとでも言うのか!?」
もっともその奴らの1人にシャリーも加わるのだが、シャリーは残った他の奴らと違い基本的には無干渉だからこそ創造神も放置している。
「でももしそうだとしたら、今の神々の現状は非常に危ういものですわね?」
普段のおっとりとしたシャリーとは違い、表情も口調も緊迫感を感じられる。
確かに……この次元ではなく元の次元での話だが、多次元として繋がっている以上楽観視してはいられまい。
というよりだ。
「貴様だったのか……我をこの次元に引き寄せたのは」
「さぁそれはどうかしらぁ」
急にごまかすようにシャリーはニコニコと笑ってくる。
ふん、わかりやすい嘘をつきおって。 はなから奴らに我をぶつける気だったのだろう。
「どちらにせよ、あの剣の出所を探らねばなるまい」
「それだけではありませんわぁ」
まだ他に何かあるというのか?
「先ほどのあの魔王様がお亡くなりになってもダメですわ。
もちろんサハラ王様もだけど、サハラ王様はまず心配無いですわね」
番と魔王、2人の共通点は異世界からの転移だ。 転移は偶然などではなく、奴らが関わっていたということか?
「それで何故、番は心配がないと言えるんだ」
「サハラ王様は世界の守護者になって、今や最強の存在ですわ。
それに対して魔王様は?」
なるほど、だが魔王が死んだらまずい理由でも何かあるのか?
シャリーがうふふと笑いながら離れていく。
「おい待て! まだ終わってないぞ!」
シャリーを呼び止めようとした時だ。
我の手を掴む者がいた。
「魔王とつながりがある疑いがある。 おとなしくついてきてもらおう」
それは帝国の兵士だった。
気安く掴む兵士の手を振りほどこうとしたところで、個室の外にいたアルバールとクリストが既に手枷をつけられているのが目に止まる。
となるとおそらくカルとティアも今頃囚われていることだろう。
そして我も今実際に魔王と会っていたとなれば言い逃れる余地も無い。
我1人であればこいつらを引き裂いてしまえば問題無いが、ティアたちを放ってはおけない。
特にティアには我の大事なネズミーを預けているからだ。
屈辱だがここはおとなしく手枷をつけさせ、アルバールとクリストと共に我は城へと連れていかれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
城に着くと薄暗い地下へ連れて行かれ、武装を取ろうとしてくる。
リストブレードは刃をたたんでおくと手甲にしか見えない。 防具までは取られなかったため、番にもらったリストブレードは無事で済む。
牢屋に入れられると中には既にカルとティアがいた。
「アルバール! クリスト! ルースミアも無事だったか」
「一体何がどうなってるんじゃ?」
「……突然タイーホ」
「これを見てくれ」
カルが懐から羊皮紙を取り出す。
そこには
『デ・ラ・カルとその仲間は魔王とつながっている疑いがある』
とだけ書かれてあった。
「間違いなくやったのはサンドロだろうな」
「しかし強制という魔法をルースミアがかけたんじゃろう?」
「もしもサンドロ=アルベスがこれをやったのなら……これに関しては我のミスだ。 強制は我に対してと限定していたからデ・ラ・カルとその仲間とされた場合は発動しない。
……よくも考えたものだな」
「でもだとしたらサンドロは何のために?」
「……疑わしきは罰する」
クリストがボソッと答える。
よく分からないが、帝国は疑わしいようなら罰してまうのだと言う。
「サンドロの奴はそうまでして儂らを憎むというのか!」
「憎むな……人種は色恋沙汰になると盲目になる。 番もそれで大戦争にまで発展したからな」
「うわぁ……」
しばらくすると兵士が数人現れる。
「武装を解除していない者がまだいると報告を受けた。
速やかに隠している武器があれば差しだせ。
もし無いというのであれば、全員裸になって貰うことになるぞ!」
全員がすぐに気がついて我の手甲に視線が集まる。
サンドロ=アルベスの本当の狙いが分かった。
なんとなくシャリーの正体が明らかになってきているようなそうでないような?




