ルースミアと魔王
数日かけて帝都まで戻った。 その間、カルたちとは色々と話をし、この次元の世界や知識なども教えてもらった。
それにより分かったことは、まずルルアガ帝国以外の国は存在せず、あるのはルルアガ帝国に属していない小さな村や集落がある程度だということだった。
まさしく番の世界で見たラノベのように、無駄に余計な設定のない世界の作りをしていた。
ただし全てを知っているわけではないため、もしかしたら他の地に国があるのかもしてないとは言われた。
「どういうことだそれは?」
「裂け谷と呼ばれている巨大な谷があるんだ」
その裂け谷というのはそこから先が断崖絶壁になっていて、深さもわからず先に何があるかも分からないのだと言う。
飛行する魔術はないのか尋ねたが、やはりないようだ。
裂け谷のその先は創造神も作ってないだけなのかもしれんな。 魔王が次元について知らないようであれば、その時は裂け谷を越えてみる必要があるのかもしれん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
帝都に戻りカルは冒険者ギルドに報告へ、ティアは針と糸を買いに向かい、残った我たちは妖竜宿で待つことになった。
昼前に帝都に到着したため、妖竜宿の食堂もガラ空きだ。
「あらぁルースミア様、随分と可愛らしい格好をしてますわねぇ。 サハラ王様もその姿を見たら喜ぶかもしれませんわぁ」
「む……そ、そうか?」
番が喜ぶような格好なのか! いや、シャリーがそう言っているだけで番はどういうかわからんではないか。
「女将、待ち合わせなのだが構わんじゃろうか?」
「何か注文はしていただければ構いませんわぁ」
シャリーは客に対しては寛大だ。 だが客ではない場合や、無銭飲食をしようものなら容赦はしない。
番に聞いた話では、食い逃げしようとした人種の神々全員がシャリーの前に震え上がったと聞いている。
テーブル席に座ろうとした時だ。 シャリーが我には個室へと案内してきた。
「どういう事だ?」
「そういう意味ですわぁ」
分からんわ!
だがまぁこいつの言う事だ、必ず何か意味があるのだろう。 何しろコイツは……
「それ以上考えるのはやめていただきますわぁ」
……また我の思考を読んだか。
コイツと争う事になったら我もタダでは済まんし、争う理由もない以上おとなしくしておくか。
個室に入り込んだ我はあらかじめ金銭は持っていないと伝えておいた。 何しろコイツは金を支払う事で契約を結んでいるようなものだからだ。
「それなら問題ないですわぁ」
その意味がまったくわからんが、シャリーが問題ないというのであればいいのだろう。
しばらく1人でポツンと個室で待っていると、何も頼んでいないというのにカイがお茶を運んでくる。
「どうぞルースミア様」
「我は頼んでいないぞ」
「はい、でもシャリー様に言われたので……」
困った顔を見せてくるカイにそれ以上言っても無駄だと諦めて飲む事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この部屋は外界とを完全に遮断している。 そのため、外の音も聞こえてはこない。
シャリーが一体何の理由でここに我を入れたのかは謎だが……退屈だ。
苛立ちが募ってきた頃になってようやく扉が開く。
そこにはフードを深く被った見知らぬローブ姿の者が立っていた。
「なんだ貴様は、部屋を間違えているぞ」
「あなたがルースミアですか?」
「ん? そうだが、貴様は誰だ?」
「あなたが僕を呼んだんじゃないんですか?」
そこでやっと気がついた。 コイツは魔王と言われている者だ。
「座ってもいいですか?」
頷くと席についてフードをあげて顔を見せてくる。
「どうしました? 想像と違って驚いていますか?」
違う、いや違くはないのだが、まさかコイツは……
『貴様……日本人だな』
もういつの事だろう、死極の門を番と超えた時に番の世界に行ってしまった。 その時に習得した日本語で我は聞いてみた。
『な、なんで日本語を!?』
やはりそうだった。 特徴的な平べったい顔の作りに黒目黒髪という時点で番と似ている。
もちろん番とは似ても似つかないが、特徴が似ていただけだ。
『この言葉がわかるという事は貴様も転移してこの世界に来たのか』
『どうしてそこまで知っているんですか! 貴女はやはり神様なんですね! そうです、気がついたら転移しててそれでこんな世界に来ていたんです!』
神であるかと聞かれれば間違ってはいないが我の場合は竜の神格だ。 だが転移か……番とまるでそっくりだ。
つまり番と同様、コイツもイレギュラーの存在という事になる。
番には我が与えた賢人の腕輪で力を得たが、それ以降の力は本人が得ていったものだ。 転移してきた場合はなんらかの力を持っているのかもしれないな。 さて……
「だとしたらどうなのだ?」
『え?』
「だとしたらどうなのだと聞いている」
「僕を元の世界に……」
「無理だ。 それに貴様は魔王だろう?」
「そ、それは偶然で……」
偶然?
詳しく聞くと、この雄はこっちの世界に転移してきたら魔術ではなく魔法が使えたのだと言う。
つまりはソーサラーとしての素質があったのだろう。
ソーサラーとはウィザードと違い、魔法の書もいらなければ記憶の必要もない。 加えて詠唱も必要なくなる。 いわゆる擬似魔法が使える人種のようなものだ。
「なぜ魔王になどなった?」
「そ、それは……」
格好良かったから。
くだらん。 そんな理由だけで魔王になったと言うのか。
それで調子にのったら人種の敵、つまり魔王と呼ばれるようになってしまい、ホセ・イグナシオ=ルリと戦う事になったのだそうだ。
「貴様の配下にリッチやドラゴンがいたのはどういうことだ?」
「召喚魔法を使ってみたら出てきたんです」
ホセ・イグナシオ=ルリと戦って勝ちはしたものの、勇者に恐れをなした魔王は守りを固める為に配下を呼び出したと言うわけだそうだ。
「ではなぜ勇者ホセ・イグナシオ=ルリを殺さなかった?」
「当時の僕に人は殺せなかった」
話を全て聞いた我は愕然とする。 つまりコイツも我が元の次元に戻る鍵を知る由も無かったからだ。
「残念だが貴様が元の世界に戻れる術はない。 そうだな……例えるのなら、この世界は本や映画の中のようなものだ。 つまり実在しない世界という事だ。 どうして転移できたのかは知らないが、もう戻る事はできんよ」
そうなると当然ながら我が日本語が使える事を聞いてくる。 なので番に教わった事を教えてやった。
「じゃあ僕はどうしたら良いんですか?」
「知らん。 貴様の好きに生きれば良かろう」
「なら、もしこのまま魔王として生きたとして、神様が敵になるなんてことはあり得るんですか?」
「その心配はしなくて良いだろう」
「ルースミアも邪魔はしてこないんですね?」
「っは! 邪魔と言ってきたか。 だが我には関係ない事だ、貴様の思うように生きれば良いだろう。 ただし、その結果がどうなろうが知った事ではないが、我の邪魔をすれば……その時は容赦はしない」
「わ、わかりました」
ふぅ、どうやら魔王もハズレだった。 こうなると新たな手掛かりを探す必要があるな。
魔王が帰ろうと扉を開けた時だ。
妖竜宿の中には兵士たちが数名と、勇者ホセ・イグナシオ=ルリの姿があった。
「お前は……魔王!」
「なっ! 貴様はルリか、私がかけた呪いはどうした!」
ううむ、これは厄介な事になりそうだな。
間が空いてしまって申し訳ありませんでした。




