ルースミアの知らぬところで
この章の最終話です。
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いったい制約ってなんですか!
全くわけがわからないとでもいうように怒りながらサンドロ=アルベスは帝都に引き返していた。
ティアの気持ちはよくわかった、ならもうあいつら全員どうなったって知るものか!
でも制約だかなんだか知らないけど、ルースミアは確かに魔術とは違うわけのわからない力を使っていた。
それと……
サンドロは自身の斬られた剣を見て、ニンマリと顔を歪ませる。
あのルースミアが持っていた変わった武器さえあれば僕はもっと強くなれる。
何しろ僕の剣を本当に斬ったのだから。
カルたちは見ていただけだからどこまで気がついたかわからないけど、なんの抵抗も感じないで斬るほどのあの武器は何が何でも僕のものにしたい。
でもどうやって?
そこが問題だ。 制約がもし本当なら、ルースミアは『もし他者に話したりすればまず貴様の身体は激痛を感じるはずだ。 その警告を無視すれば無害な生き物に変化する』と言っていた。
それはつまり口にしなければ大丈夫なのかもしれない。 もし違ったとしても最初の警告で激痛を感じるだけですむわけで、すぐに効果は出ないみたいだ。
サンドロ=アルベスは悪巧みを考える。
それなら羊皮紙にでも書いて魔王とつながりのあることを伝えればいい。 そうすればおそらく全員拷問を受けることになって、帝国はおそらく疑わしき者は処刑するだろう。
僕は処刑された後の持ち物を遺品として貰えばいいだけだ。
そんなことを考えているとサンドロは自然と笑みが浮かんでいた。
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薄暗い広間には8人……と言っていいのかわからないが、少なくとも人ではない存在のものたちの姿がある。
「どうなさるつもりですか魔王様」
「ううむ……」
謁見の間のような場所で玉座に鎮座する魔王と呼ばれた者が、リッチのハビィ=モンテシーノスに聞かれて悩むようなそぶりを見せている。
その姿はごく普通の人、それも人間のように見える。 黒い髪に平べったい顔立ちをしていて、豪華な着ている服を脱げば誰も魔王だとは気づかないだろう。
「アーリーよ、その者は間違いなく竜の神格と言ったのだな?」
「そうですぅ魔王様ぁ」
ルースミアと別れた後アーリーは大急ぎで魔王の元へ戻り報告をした。
前もってリッチのハビィ=モンテシーノスからスケルトンソルジャーを一撃で粉砕した報告は受けていて、守護7魔将の中からアーリーが選ばれて接触と場合によっては討伐を命じた。
だが蓋を開けてみれば相手はなんと竜の神格だと言い、アーリーも服従させられたのか戦うことを拒絶している。
「神といえばレメディオスは悪魔なのだから、その存在は知っているのではないのか?」
レメディオスと呼ばれた女性が顔を上げる。
黒に近いドレス姿で長い黒髪に飾りのように見える山羊の角が生え、非常に美しい顔立ちをしているがその瞳は白目が無く黄色に近い金色をしている。
「魔王様、我ら悪魔にとって神は対極に位置するものとされておりますわ。 ですが実際には神はこの地に存在すると思われますが傍観しているだけ、突然現れるとは少々考え難いかと思われますわ」
「ふむ、そうか。 ではバールよ、悪鬼の立場からの見解はどうだ?」
バールと呼ばれたものの姿は、全身真っ赤で黒い模様がついて筋骨隆々としている。 頭に毛は無く、代わりに小さな角が何本も生え、腰布を巻いているだけの格好をしている。
「我らにとって神とはすなわち魔王様」
「そ、そうか。 貴重な意見をありがとう」
「魔王様、少しよろしいでしょうか?」
「うむ、ファン・ルイス=アレギか、なんだ?」
ファン・ルイス=アレギと呼ばれた男はバールとはうって変わり、容姿端麗だが青白く血色が悪そうに見える。 その正体はヴァンパイアの長であるヴァンパイアロードだ。
「相手は魔王様に会いたいと言っているわけですから、おそらくは交戦するつもりではないと思われます。 ここは相手の素性を知る上でも会っておくべきかと愚考いたします」
「なるほど……」
「もしもそれで魔王様に何かあったらどうする気だビホッ!」
特徴的な語尾で意見してきたのはクアウテモク、ふよふよと浮いた直径2〜3メートルの球体に巨大な一眼と口があり、頂部には短い触手があり、それぞれに複眼と言われる小さな目がついている。 種族としてはアイボールだが、いわゆるビホルダー系列のモンスターだ。
「まさかクアウテモクは魔王様の御身に何かがありうるとでも言うのかね?」
「そ、それは……」
「よい、クアウテモクは我が身を案じてくれただけだ」
「はっ」
そしてここまで一言も口を開かないでいた1人の巨人がいる。
コロナドと言う名で、身の丈6メートルはあり英雄的な体格の途方もなく大きな筋肉質の人間のようだ。肌は青銅色で髪は黒く、火花を放つような緑の目をしているストームジャイアントだ。
無口なのかその後も首を振るだけで一切喋ることはない。 だが腰からぶら下げている二本の剣は人間が両手で扱うグレートソードだ。
「分かった、ではどういった要件で呼びつけたのか、それと相手の素性を知る上でも是非一度会ってみたい」
「それではお連れのものを……」
「いや私1人で行こうと思う。 レメディオスら守護7魔将たちは待機していてくれればよい」
守護7魔将たちは困惑した表情を見せたが魔王の指示に従ったと
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ルルアガ帝国の一室、そこでは皇帝と初代勇者のホセ・イグナシオ=ルリがいる。
「ルリ、まさか本当に呪いが解けたとは驚いたぞ」
「私もだ」
「しかし私も見たがその呪いを解いた者は一体何者なのだ?」
「そうだな……少なくともアレは人ではない」
「まさか魔王の手下なのか?」
「いや、何かを知りたがっていたように思える。 知恵と知識を蓄えた者を探しているようだった」
「ふむ……」
「彼女は少なくとも敵じゃない、今は、だが。 仮にもし敵だとしても今優先すべきは魔王だ」
「そうだな」
ホセ・イグナシオ=ルリは一振りの剣を鞘から抜き放った。
「元通り戦うことができるようになり、私の手にこの聖剣アルマダがあれば、今度こそ魔王を打ち取ってみせる!」
聖剣アルマダと呼んだその剣は左右対称な両刃の直刀で、非常に強力な魔力を誰が持てもわかるほど放っている。 軽く一振りすると残像までもが見えるほどだ。
ホセ・イグナシオ=ルリはその剣を眺めながら、魔王討伐に意欲を見せていた。
謁見の間に戻った2人を待っていたのは、魔王軍の兵士であるスケルトンソルジャーの恐ろしいほどの数の残骸が見つかったという驚くべき報せだった。
「誰がやったかのおおよその見当はつくが……」
「うむ、そこまでの者となると放置してはおけぬな」
「だがとりあえず目下の敵である魔王軍の戦力は大幅に減ったはずだ」
「打って出るか?」
「いや、正確な居場所がつかめていないし、以前とは違って守護7魔将なんていうのがいるとなるとそう簡単にはいかないはずだ」
「では先にあの娘を探しだしてこちらに引き入れてみるというのはのはどうだ?」
話が決まり皇帝は早速ルースミアを探すように命じた。
かくしてルースミアの知らないところで様々な動きを見せはじめるのであった。
次回更新ですが、下書きの大幅な修正が出来てしまったためしばらく間が空くかもしれません。
楽しみにしている方にはご迷惑おかけします。




