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ルースミア異次元に立つ

 なんという事だ。 まさかニークアヴォの奴に投げられて異次元に叩き落とされるとは……

 しかしまだここが異次元であれば帰る術はある。

 もし(つがい)のように異世界であったならば、さすがに我といえどどうにもならないところだった。


 ちなみに異次元と異世界の違いは、その世界が実在するものであるのか否かだ。

 そしてここが異世界ではなく異次元だとわかる理由は、我の領域が効力を発揮しているからだ。

 ゆえに戻れない事はないのだが、そのためにはここが多次元世界のどこに該当するかがわからねばならない。

 それさえわかれば元の次元とこの次元との壁を越えればいいだけなのだが……


 手っ取り早いのは全ての世界を創造している創造神に聞けばいいのだが、いかんせん今はニークアヴォの奴めに囚われの身となってしまっているため聞くに聞けない。

 創造神は創造する力はあっても戦う力は皆無だ。 それゆえに我が(つがい)のように世界(ワールド)守護者(ガーディアン)を用意するわけなのだが、まさかこんな事態になるとは想定もしていなかったのだろうな。


 となるとこの世界が多次元世界である事を知っている者を探すしかないのだが、元の次元でもこの事を知っているのは我を含む極少数だからな……



「——ちょっと君? 君、大丈夫」


 ん? 考え事をしている間に声をかけられていたか。

 しかし我にはもはやこいつらに用はないのだがどうしたものか……


「別に怯えてる、っていう様子はないわよね?」

「むしろ儂には威圧的にさえ感じられるわい」

「……ウンウン」


 だがこの次元がどんなところか興味もある。 しばらくの間話でも合わせておくとするか。


「問題ない。 少し考え事をしていただけだ」

「そ、そうか。 それで……ご両親とか仲間とかお付きの人とかはいないのかな?」

「我1人だけだ」


 肩をすくめあって4人顔を見合わせているが、まぁ我の口調のせいだろう。


「こんな危険な場所に放ってはいけないわ。 えっと、私はティティアナ=カーノよ。 ティアってみんなは呼んでるわ。 あなたの名前も教えてくれるかしら?」


 エルフの雌か。

 金髪を後ろで纏めて縛っていて、格好は我と同じような白いローブ姿だ。 どうでもいい事だが、(つがい)が見たらきっと喜びそうな顔立ちだな。


「我はルースミアだ」

「ルースミアっていうんだ、可愛らしい名前だね。 あ、俺はカル。 デ・ラ・カルが正式な名前で、冒険者をやっている」


 ほら、とでも言うように何かを見せてくる。 おそらくこの次元の冒険者証か何かだろう。


 こいつは人間の雄か。一見優男にも見えるが、その目はしっかり我から離さず警戒を怠っていない。

 格好からしておそらく戦士か? しかし随分と軽装備にも見えるな。


「お主ロリコンじゃったかの?」

「違うわ! 俺は女の子には優しいだけだ!」

「へ〜、じゃあ私は女の子じゃないんだ?」

「……ウンウン」

「ティアは仲間だから……って今そんな事はどうでもいいだろ!」

「それもそうじゃな、儂はアルバール=デ・パブロ。 アルバールとでも呼んでくれ」


 ドワーフの雄、正直ドワーフはどいつもこいつも斧かメイスに毛むくじゃらで我には見分けがつかん。

 格好からしてまず間違いなく戦士だろう。


「クリスト=バイネス。 クリスト」

「クリストそれはさすがに短すぎじゃろ」


 最後が人間、雄で随分と無口なようだ。 だがだからと言って愛想が悪いのかといえばそうではなく今も笑顔で自己紹介をしているから表情は豊かだ。 人の会話にも和かに相づちはしている。

 こいつも黒色のローブ姿という事は前衛後衛2人づつのパーティといったところか。



「私たち、これから帝都に戻るところなんだけど、良かったら一緒に来る?」


 帝都というのだから人種も大勢集まっているはず、そうなれば祭られている神殿ぐらいはあるだろう。


「わかった、その帝都やらに案内してもらおう」


 また何やら苦笑いを浮かべながら顔を見合わせていたが、どうせ我の口調の事だろう。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなわけでこいつらと一緒に帝都に向かう事になったわけだ。


 色々と話しかけられて驚かされたのは元の次元との違いで、まず戦士なんかは変わらないようだが、魔法を行使するクラスが元の次元と大きく違った。

 それ以前にクラスという言い方も違うらしく、この次元ではそれ自体がすでに職業らしい。


 人間の雄の職業はローグだと言ったが、話を聞く限りではシーフかレンジャーに近いようだ。 そしてドワーフの雄はやはり戦士だった。

 残る2人はやはり魔法を使う職業で、エルフの雌が白魔術士、無口な人間の雄の方が黒魔術士というものらしい。


 白魔術士は神官のようで、黒魔術士はウィザードらしいのだが、ここで大きな違いがあった。


「……その白魔術士というのは神からの助力で神聖魔法を行使するのではないのか?」

「神? 違う違う、神なんて存在しないのに助力なんてないわよ?」

「なんだと……!?」


 どうやらこの世界には神は存在しないものらしい。 そうなると元の次元に帰るのがますます難しくなってしまうではないか。


 白魔術士とは何かを延々説明しているエルフの雌……確かティティアナ=カーノと言ったか、の話に耳を傾けながら、突きつけられた現実に考えを改めなければならなくなった。


 どうやら想定していた以上に元の次元に帰るのが小難しくなりそうだ。


「……っていう感じよ」

「ふぅむ、つまり黒魔術士と白魔術士は流派の違う魔術士のようなものなのか」

「うん、そうそう! ルーちゃん賢い!」


 ル、ルーちゃんだと!? ……まぁ悪い気はしないからいいか。


「ティア、一旦話は終わりだ」

「お客さんじゃ!」


 言うが早いかドスンと音をさせて進路を妨害するようにそいつが姿を見せてきた。


 デ・ラ・カルとアルバール=デ・パブロだったか? 2人がそれぞれ武器を構えて前に立ち、その後方にクリスト=バイネスも杖を手に身構え、ティティアナ=カーノは我を守るようにしている。


「大丈夫だよ、ルーちゃんは私たちが守るからね」


 我の護衛など無用なのだが、ここは素直に頷いておいてこの次元の戦いとやらを見ておくとするか。


「マンティコアだ!」

「手強いのと遭遇してしまったわい! 皆、棘に気をつけるんじゃぞ!」

「……りょかい!」

「うん!」


 ふむ、マンティコアか。 どうやら魔物は元の次元とそう変わりはないようだな。

 さすがの創造神も新しい魔物のネタは出なかったといったところか?



「……フレイラ!」


 フレイラ? 初めて聞く魔法だ。

 見た目は火球(ファイヤーボール)に似ているが……

 ふむ、飛来する火球が当たると普通に炎が燃え上がってダメージを与えるわけか。


 マンティコアが炎に包まれたが、あまり効いてないようだな。


 2人の前衛もいい動きを見せている、十分に戦い慣れている様子だな。

 しかしまだまだマンティコアには余裕がありそうだ。 どうする?


 観察を続けているとマンティコアが我と目が合って睨みつけてきた。 その好戦的な目つきにカチンときて逆に睨み返してやる。



『うぎょ、うぎょえぇぇぇぇぇ!』

「な、なんだ!?」

「まるで何かに怯えてるように見えるようじゃ」


 2人の前衛が振り返るが、首をひねっただけですぐに戦いに集中し直している。


「あんなマンティコアの姿、初めて見たわ。 一体何に怯えたのかしら」


 むろん我になのだが、特に言う必要はなかろう。


 一度落ちた士気はそう簡単には戻らない。 しかもその恐怖を与えた相手(我)が背後に控えているままではまともに戦えるはずもない。 マンティコアはタイミングを見て慌てたように飛んで逃げ出してしまった。


 情けない奴め。



「今のは一体なにが起こったんだ?」

「儂もあんなマンティコアは初めて見たわい」

「……ウンウン」

「でも、何に怯えたのかしら?」


 4人が不思議がりながらも移動を再開する。

 我は先ほど使った魔法に興味が出てクリスト=バイネスに聞くことにした。



「先ほど使ったフレイラとかいう魔法は一体どういうものなのだ?」

「……魔法じゃない、魔術。 それとフレイラは炎属性の攻撃魔法フレイムの強化版」


 この次元では魔法ではなく魔術というのか。


 無口だと思ったが質問すれば舌ったらずな口調と笑顔でしっかりと返してくる。

 しかしなんだこの可愛い生き物は……本当に人間なのか?


 とそれはさておき、ほとんどの黒魔術白魔術共に共通しているらしいが、ベースとなる魔術の頭文字に『マ』か『ラ』が着くと攻撃範囲が広がるらしく、語尾を『ラ』か『ガ』になると威力が上がるのだそうだ。

 当然のことながら魔術の強化には術者の魔力が必要になるらしい。


「つまりさっき使ったフレイムの魔術の最高威力はラフレイガというわけか?」

「……そぉそぉ」

「貴様はそれを使えるのか?」

「まだ無理……」

「ルーちゃんそれを使えるのは勇者や勇者に仕える方達だけよ」

「勇者だぁぁぁぁあ?」


 なんだその(つがい)の世界で見たことのあるゲームやラノベの様な設定は!




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