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ルースミア、帝都を離れる

この章の最終話です。

ブックマーク、評価ありがとうございます。

 妖竜宿(シェイディドラゴンイン)の食堂に連れて行かれるとデ・ラ・カルたちが待っていて、ティアに連れられる我の姿を見るとホッとしたような笑顔を見せてくる。


 椅子に座ろうとしたところでカイに呼び止められた。


「シャリーさんが個室の方をどうぞと仰られていますので、彼方の方へどうぞ」

「いや、個室なんて払う金ないからここでいいよ」

「いえ、個室はシャリーさんからですので料金はいただきませんので」


 デ・ラ・カルたちがお互いに顔を見合わせて困った顔を見せている。


「使えというのだ。 使っておいたほうが身のためだぞ」

「せっかくだから使わせてもらいましょうよ、ね?」

「……ウンウン」

「ルースミアのその言い回しはどうかとは思うが……そうさせてもらうか」

「そうじゃな」


 他の客がいる中、カイに案内されて個室に入り込む。

 中はごく普通の個室になっているが、我にはここが外と遮断され、音も一切漏れない場所であることを知っている。 他にもなにかしらの力が働いているのかもしれないが、わかっているのはそんなところだ。


 懐かしい空間だ、一時期はここによく座ったものだったな。

 カイの方へ視線を送る、するとカイも懐かしそうにカイが座っていた場所に視線がいっていた。


「ごゆっくりどうぞ」


 はっと思い出した様子でカイは出ていく。 そのわずかな間に我を見てはにかみながら会釈していった。




「ん……じゃあ、とりあえずルースミアが無事でよかったよ。 それで? 俺たちはなにを手伝えばいい?」

「そうだな、城であの皇帝にはなにを言われた?」

「あの皇帝って、ルーちゃん会ったことあったっけ?」

「それは後で話そう」


 というわけでデ・ラ・カルたちが城に行って何があったかを聞く。

 褒美を貰うか勇者にでもされたかと思ったが、このパーティのリーダーであるデ・ラ・カルがローグという事でお褒めの言葉を頂いただけだったそうだ。


「なぜローグはそんな扱いを受けるのだ?」

「ローグってのはならず者って意味なんだ。 そのローグが職業として確立しているのは、冒険者にとっては重要な存在だったからなんだよ」


 つまりローグは元の次元で言うところのシーフに近いようだ。 直感に優れるため罠や仕掛けられたドアなどに気づき、逆に罠を設置するのも得意なようだ。

 そして持ち前の器用さからあらゆる武器をそつなく使いこなせるらしく、単独行動にも優れている。

 一見デメリットがないようにも思えるが、たいていのローグはその能力の高さから高慢な態度を取る者が多く、危険が迫った場合は仲間を平気で見捨てるらしい。



「それならカルよりもサンドロ=アルベスの方がよっぱどローグらしいんじゃないのか?」

「ぶっ……ぶわぁっはっはっはっ! 言われてみれば確かにそうじゃな!」

「……そぉかも」

「そうよね、ルーちゃんが言って改めて思ったけど、カルってローグらしくないよね?」


 なんでなんで? と隣同士に座ったティアがカルに肘で突いている。


「いやぁ……ローグって嫌われてるの知ってたから、最初の頃は戦士だって言ってただろ?」

「うんうん、それでそれで?」

「俺がローグなら悪評のローグにならなければ、仲間からも信頼されると思ったんだよ」


 つまりローグは冒険者のパーティに必須と言われているが、何より信用がない。 それならカルは自身がローグでそうならないようにすればいいと考えたようだ。


「確かに、儂らはカルのおかげで今まで助かったからリーダーにもなってもらったんじゃったな」

「……うん、カル良い人」

「まぁそのせいで皇帝からは何ももらえなくなっちまったけどな」

「構わんよ、むしろカルがローグでなかったら勇者にでもされかねなかったんじゃ。 儂からすれば感謝しかないわい」

「……ウンウン」

「だってさぁ」

「ん、んんっ! まぁこっちはそんな感じだ。 ルースミアは悪鬼(デーモン)に攫われてどうしたんだ?」

「うむ、悪鬼(デーモン)の親玉を殺したら、そこにたまたまこの国の姫がいてな、そのまま城に連れて行かれてしまった」


 うおおおっとカルとアルバールとクリストが声をあげた。


「それってイザベル姫だよな?」

「遠目で前に見たことはあるが、べっぴんさんだったのぉ」

「……超美人」


 いいのか? ティアがご立腹だぞ。


 どうやら悪鬼(デーモン)を殺したことよりもイザベルと会ったことの方が重要なようだ。


「それでルーちゃんは皇帝に会ったんだ」

「うむ、そこで礼をされたところで、殺した悪鬼(デーモン)の親玉が現れて宣戦布告していったわ」


 一瞬にしてカルたちの顔から笑顔が消えていく。


「それってまさか魔王軍がここに攻めてくるってことか?」

「城の方では我が戻る頃には既に兵士どもが戦の準備を始めていたぞ?」

「そ、そんな……」


 何をそんなに怯えているのかわからないが、カルたちは体を震わせていた。


「俺たちは、魔王の手下によって滅ぼされた村の生き残りなんだよ」


 カル、アルバール、クリスト、ティア、それにサンドロ=アルベスは同じ村の出身だそうだ。

 それであの時サンドロ=アルベスが笑い者になっている時も笑ってはいなかったのか。

 仇を討ちたいというところなのだろう。


「わかった、貴様らも戦いに赴くつもりなのだな?」

「ルースミア何言ってんだ! そんなの無理に決まってるじゃないか!」

「……無理!」

「そうだよ、人じゃ魔王軍なんか相手にならないわ」

「悔しいが、そうじゃのぉ」


 あ、開いた口が……(つがい)なら間違いなく負けると分かっていても戦いに行くのだが……


「雑魚ならなんとでもなるが、魔将なんかが出てきたら俺らには勝ち目はない……」

「ルーちゃん、出会った頃に言ったよね、私たちは生きていくために冒険者をしているの。 死にに行くためじゃないんだよ」


 そうだった、元の次元の冒険者は危険を冒してでもより多くの財宝を得ることを生業としているが、この次元の冒険者は職業を活かして生きるために仕事として働いているのだった。

 つまりこのままでは戦力にはならない。 それで皇帝は勇者を選出し、職業という枠を超えさせて戦わせていたのか。

 だが……


「……貴様らは我に力を貸すと約束したな?」

「確かに言ったが、それはあくまで俺たちのできる範囲での事だ」

「ではどうする気だ? 魔王が攻めてくると知って逃げ出すのか?」

「ルーちゃんは強いからわからないかもしれないけど、私は勝てないってわかってる相手と戦う気はないよ」


 なるほど、シャリーがここを使うように言った理由がわかった。 今話していることが聞かれれば大事になっていたからだろう。

 こいつらでは使い物にはならない、ならば我が取るべき行動は1つだ。


「ならば教えろ、魔王は何処にいる」

「……魔王はここルルアガ帝国の帝都からかなり南に行った場所の丘のどこかにあるらしい、としか知らないんだ」

「ルーちゃん……まさか1人で行く気?」


 これまた随分と大雑把ではあるが道案内を頼めそうにない以上1人で行くほかあるまいな。


「そのつもりだ」


 デ・ラ・カルが頭を下げてきた。

 協力すると言っておいて手伝えないことに対しての謝罪だと言う。

 ティアもアルバール、それにクリストも習うように頭を下げてくる。


「もういい気にするな。 もとより貴様らの戦闘力には期待はしていないし、魔王が我の望む答えを知っているとは限らないからな。 だから貴様らは絶対に生き延びろ」


 魔王がもしも我の望む答えを知らなかったその時こそ、こいつらが頼みの綱になるだろう。


 思い立ったが吉日、だったか?

 席を立ちデ・ラ・カルたちに背を向けて個室から出て行こうとした。


「ルーちゃん、絶対に私たちは生き延びる。 だから必ず帰ってきてね!」


 元の次元に戻れればここに帰ってくる事はないだろうが、振り返らないまま手を上げておいた。




 個室を出て妖竜宿(シェイディドラゴンイン)を出ようとしたところでシャリーが待ち構えていた。


「貴様は全て知っているんだろう?」

「もちろんですわ、竜の神格、破滅(カタストロフィ)の象徴の赤帝竜(ルースミア)様」


 シャリーから神威は全く感じられない。 神威は隠すこともできるが、おそらく神ではないだろう。

 もっと超越した……


「ルースミア様なら答えに近づきかねないですから、その考えはその辺にしておいてもらいますわぁ」

「わかったわかった……1つだけ聞かせろ、我はサハラにはまた会えるのか?」

「もちろんですわ」


 その答えがもらえれば十分だ。


「少しだけルースミア様の手助けをしてあげますわ」


 そう言うとパンッと手を叩いてきた。


「それは一体何の呪いだ?」

「そのうちわかりますわぁ」


 この(シャリー)はこういう奴だ。 気にしたら負け、か。 (つがい)は上手いことを言ったものだな。


 こうして我は魔王に会うために帝都を離れた。




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