ルースミア、初代勇者の呪いを解く
それは無駄に長い話だった。
だがその中に気になるワードが幾つか見つかったのは、我慢して聞いたかいがあったかもしれない。
「——というわけなんだ」
長々とくだらない自分の苦労話を終え、最後に今の現状を話したところでやっと口をつぐんで黙ってくれた。
「それで呪いで戦えなくなった自分の代わりに、他人に魔王退治をやらせようとしているわけか」
この初代勇者は魔王との対決で呪いを受け、武器を振るう事ができなくなったかららしい。
「その身代わりのような言い方はやめて欲しい、みんなだって魔物のいない平和な世界を望んでいるはずだ」
ふむ、これが冒険者との温度差というところか。 冒険者がこれを聞いたらどんな顔をみせるか楽しそうだな。
「とりあえずそれは我にはどうでもいいことだ。 それよりも3つばかり気になったところがあるから答えろ」
まず1つ目は、当然ながら魔王が死んだら魔物がいなくなると言った根拠だ。 そして2つ目は魔王討伐を他人任せにしている呪いとはどのようなものか、最後が魔王に負けて生かされている理由だ。
まず1つ目の魔王が死んだら魔物がいなくなると思った根拠は、魔王が魔物を召喚しているのを目撃したからというなんともくだらない理由だった。
2つ目の魔王討伐を他人任せにしている呪いだが、これには我も興味を持った。
「魔術で呪いの魔術は無いのか?」
「カースという魔術はある。 だが、魔王の使うカースは違った」
魔術のカースは身体能力の低下をさせるだけらしいが、魔王が使ったカースは初代勇者が戦おうとすると体が麻痺したように動けなくなる事が頻繁にあるらしく、しかも魔術ではその呪いが解けないと。
まるで魔法の呪詛のようだ。 おそらく最後の理由である、生きている理由も関係がありそうだな。
「魔王はわざと私を生きて帰らせたんだ。 逆らうとどうなるかという見せしめだろう」
魔王とやらはなかなか楽しいことを考えるな。 しかしそれは争いを望んでいないようにも見える。
確か先ほどの昔話を聞く限りだと20年以上前だ。 となると……
「魔王の元に側近のような者はいなかったのか?」
「魔物はいたが、そういうのは見なかった」
当時はまだ準備が整ってはいなかった、あるいは力が不十分だったといったところか。
そして先ほど宣戦布告をしてきたということは、その準備が整ったといったところだろうな。
どちらにしても我には関係無い。 だが魔王は間違いなく魔術ではなく、魔法が使えるのは確かなようだ。
ならば多次元から来た者である可能性もあるな。
「話は聞いてやった、我はもう行く」
「なぜだ! 君には悪鬼を倒すほどの力があるのに放っておくというのか!」
まったく……勇者というのはこんな奴ばかりなのか?
「我には関係のないことだ。 自分の尻ぐらい自分で拭け」
「それができればしている。 ……この忌々しい呪いさえなければな」
「なら呪いを解いてやったら我に構わないと誓え」
「で、できるのか!?」
もし魔王が使う呪いが呪詛であれば、解呪で相殺できるはずだ。
そして相殺し解呪できたとしたならば、間違いなく魔王は魔法が使えるということになる。
ありえないとは思うが、我よりも魔力が上回れば解呪はできないがな。
「——誓おう」
まぁ魔王が攻めてくるらしいからな、ちょうどいい抑止にはなるだろう。
いくら我に関係がないとはいえ、協力者になった4人は見捨てるわけにはいかないからな。
「誓いを破れば、その時は破滅が訪れると覚えておくがいい」
「わかった」
サンドロ=アルベスの事があったせいでいまいち信用は出来なかったが、解呪の魔法を使ってやる。
解呪できたかどうかは弾かれたかどうかでわかるが、どうやら問題なく解呪したようだ。
「これで呪いは解けたぞ」
恐る恐るといった感じで剣を手に取って振り回しはじめた。
「剣が振れる! 戦える! 私は戦えるぞ!」
「それはよかったな、では今度こそさらばだ」
今度こそ部屋を出ようとした時だ。
「待ってくれ」
コイツはまだ我に何か用があるというのか?
「貴様は誓いを破るのか?」
そう口にすると何も言ってこなかったからそのまま部屋を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋を出るとイザベルが立って待っていた。
結構な時間いたはずだがずっと待っていたのか?
「ご用事は済まれましたか?」
「うむ」
なんとも妙な空気だ。 まぁ我には関係ないか。
微妙な雰囲気のままイザベルは我を城の外まで案内する。 その間一言も会話はしてこなかった。
「ではな」
「……はい」
ううむ、何とも言えない空気だったな。
それはさておき、早いところデ・ラ・カルたちのところへ戻っ……
あそこに戻るというのか! いや、1年居座った事もあるし、我の敵でもないのだから気にすることはないのだが、やはりあの正体不明の雌はどうにも苦手だ。
城の前の広場では兵士たちが戦いの準備で忙しそうに動き回っている。
エーテル界から攻めてこれる悪鬼を相手にするとなれば、守る場所も難しいだろうな。
この魔王が攻めてくるという状況の中、魔王の居場所を聞けるのはデ・ラ・カルたちしかないだろう。
城門を出たあたりで城の方から一際大きな声が上がる。
おそらく呪いを解いてやった勇者の報告でもあって喜んでいるのだろう。
妖竜宿にたどり着くと入り口の前でティアが1人で立っていた。 我に気がつくと走ってきて抱きしめてくる。
「ルーちゃん無事だったのね! 悪鬼に攫われたって聞いて心配したんだから!」
「我の心配は……」
まぁ、いいか。
「うむ、心配をかけたな」
「カルたちも中で待ってるわ、お腹……空いてるでしょ?」
「うむ!」
ティアたちといるとどこか安心感を覚える。 きっとどこか番の周りにいた者たちに似ているからなのだろう。
こいつらには戦いなんかで命を落とさずに天寿を全うしてもらいたいものだな。