第8話:世界征服?
タケルは、人工知能とのインタフェースの画面を見て、緊張した面持ちになった。
その表情を見た妻のミレイが不安を感じて質問した。
「なんなのよ、その怖い顔、どうかした?」
「こちらに飛んでくる巡航ミサイルだよ」
「それはそうだけど、そのミサイルがどうかしたの?」
「弾頭が核弾頭なのだよ」
「核弾頭なら怖いけど、小さな核兵器なら大丈夫なのでしょ?」
「このピラミッドなら大丈夫だけど、まさか巡航ミサイルに核弾頭を搭載できるとは思わなかったよ。それを意外に思ったわけさ」
「搭載できないと思っていたのね、でも、それはどうして?」
「単純に巡航ミサイルは小さいからだよ」
「じゃあ、外の世界の人たちは核弾頭の小型化に成功していたわけね、そして、そのことを軍事機密にしていたのね」
「そういうことさ」
「それで、このピラミッドは大丈夫なの? 100基も飛んでくるのだから、60基とか着弾するのでしょ」
「いや、着弾するのはせいぜい20基だよ。人工知能が迎撃ミサイルの再充填を素早くできるようにしたからね。だから、第一波の40基の次の40基も飛んでくる巡航ミサイルを迎撃するはずだよ」
「着弾するのが20基だと、このピラミッドはどうなるの?」
「どのみち大丈夫だよ。巡航ミサイルに搭載できるような核弾頭の威力は知れているからね。ヒロシマ型原爆の10分の1程度の火力しかないはずだよ。ただし、このピラミッドを普通の山に見せかけるために植えた樹木は燃えてしまうだろうけどね。それに、土も剥ぎ取られるかもね」
「じゃあ、このピラミッドは外面が剥き出しになるかもしれないのね?」
「そういうことだね。それでも、内部については全く大丈夫だよ、だから、心配ないよ。微震程度には揺れるだろうけどね」
それから間もなく、外の世界から発射された巡航ミサイルがピラミッドに迫り、ピラミッド側の80基の迎撃ミサイルがそれらを破壊した。そして、予想通り20基の巡航ミサイルがピラミッドの近くに着弾して、核爆発が生じた。
他のこともタケルの予想通りだった。すなわち、ピラミッドを覆っていた木々と土が剥がされ、ピラミッド内では微震を感じ、ピラミッドの合金製の外面が剥き出しになった。
その合金の色は金色だ。だから、金色に輝くピラミッドが忽然として現れた。
その顛末を見届けたタケルは、最高評議会の議場の席に着いた。
議場には最高評議会の他のメンバーたちが既に着席していた。
大統領が最初に言葉を発した。
「あんなに小さな巡航ミサイルに核弾頭を搭載できるとはね。外の世界の連中も侮れないね。それにしても無茶をするな。外の住民は大丈夫なのかな?」
タケルがこれに応じた。
「このピラミッドから半径50キロメートル以内の住民はとっくの昔に退避しただろ。小型の戦術核兵器だから大丈夫だよ。それに、このピラミッドも正体が剥き出しにはなったけど、内部の被害はゼロだよ。少し揺れたけどね」
「そうか、そうだろうな。しかし、なんだか拙いことになりそうだね。この次は戦略核兵器を搭載した弾道ミサイルが飛んで来るかもな」
やはりタケルが答えた。
「その可能性は大ありだね。人工知能の情報によると、最大の核弾頭の威力は40メガトンだけど、そのレベルの弾道ミサイルが20基も着弾すれば、このピラミッドでも流石に持たないね」
これに対して議員の1人が発言した。
「40メガトンのミサイルを20基も着弾させることなど可能なのか?」
これにもタケルが答えた。
「可能性は低いと思うよ。こちらの迎撃能力からして、20基の弾道ミサイルを迎撃されずに着弾させるには、そのレベルの弾道ミサイルを100基も発射しなければならないからね。可能だとしても、その準備にしばらくかかるはずだよ」
「それでも可能性はあるのだね」
「あるけど、それよりも心配なことがあるのだよ」
このやり取りを気にした大統領がタケルに聞いた。
「心配なことってなんだよ?」
「このピラミッドの人工知能が反撃することだよ」
「それなら、大統領であるこの私が反撃をやめさせればいいわけだろ」
「平時なら、それはもちろん可能さ。けれども、このピラミッドに切迫した危機が迫れば、人工知能が自動的に反撃するから、そうなったら誰もこちらからの反撃を止められないよ」
「止められなかったら、どうなるのだ?」
「このピラミッドは無事だけれども、外の世界はおしまいだね」
「それは、つまり、この議場の周囲の中庭に配備された100基の核ミサイルが発射されるということかな?」
「もちろん、そうだよ。このピラミッドの核ミサイルが主要都市と核施設をターゲットとして一斉に発射されることになるね。こちら側の核ミサイルは外の世界の核ミサイルとは桁違いの破壊力だからね、なにせ100メガトンだよ。爆風、熱放射、放射線だけでもかなりの被害を及ぼすけど、原子力発電所などの核施設が破壊されて死の灰が地球を覆うことになるね。そうなると、核シェルターなどに避難した人間しか助からないよ。その避難した人間たちにしても、シェルターに備蓄された物資が尽きたら結局は死ぬことになるね」
大統領がタケルの言ったことについて念を押した。
「それまでに外の世界から攻撃を受けることはないのか?」
「ないね。ピラミッドの人工知能は、壊滅的な危機を察知したら、必ず未然に対策を講じるから、敵に致命的な攻撃を許すことなどないよ」
「つまり、我々は外の世界の人類をほぼ皆殺しにしてしまうわけだな」
「その通りだね」
「それを防ぐ方法はないのか?」
「なくはないけど ・・・」
それからタケルは、大統領と他の議員たちに、かねてから練っていたプランを伝えた。
そのプランとは、またテレビ局のサーバを乗っ取り、ピラミッド側の戦力をテレビ放送で外の世界に伝えた上で、ピラミッドの中庭に置かれたミサイルの内の1基を発射し、宇宙空間で爆発させ、その威力を誇示することだった。
タケルは、そのようなデモンストレーションをすることで、外の世界の諸国がピラミッドへの攻撃を思いとどまると考えたのだった。
そして、結局、タケルのプランが実行されたわけだが、タケルの思惑通りにはならなかった。
外の世界には愚か者が多過ぎたのだ。
ピラミッドのミサイルは小さい。全長が3メートルしかない。核弾頭部分などは全長が30センチ、直径が20センチしかない。それでも、その核弾頭は100メガトンの威力を発揮する。
その威力の秘密は、核爆弾の歩留まりだ。ピラミッド側の核爆弾は、外の世界のそれと比べて、同じ質量の核物質から100倍の威力を発揮できるものなのだ。
ピラミッド側は、そのような核弾頭を宇宙空間に打ち込み、見事に爆発させて見せたわけだが、外の世界の軍事スペシャリストや科学者たちは、愚かにも、それをトリックだと決めつけた。
また、世界のリーダーたちも十分に愚かだった。
アメリカのトリンプ、ロシアのプッチン、中国のショウ、北朝鮮のキンなど、世界には選りにも選って、かつてないほど愚かなリーダーたちが揃っていた。
その愚かなリーダーたちの言うことを外の世界の大半の民衆たちが信じてしまった。
「あのピラミッドは世界を征服するつもりだ」、愚かなリーダーたちは、このように言って世論を煽ったわけだが、悪いことに世論はその妄言に従ってしまった。
だから、外の世界の人類たちは、タケルの一族のピラミッドのことを、人類を絶滅に追いやる究極の敵と考えるようになってしまったのだった。
それでも、ピラミッド側は、平和条約の締結を外の世界に向かって幾度も呼びかけたが、一部の平和主義者がそれに呼応しただけで、ことごとく拒否されてしまった。
そのようなことをするうちに3ヶ月が経過して、ピラミッドの人工知能が周辺の異変を告げた。
それに応じて、最高評議会のメンバーたちが議場に集合した。
まずタケルが発言した。
「皆が知っての通り、中国地方と四国の住民が退去し始めたね」
議員の1人がそれに応じた。
「ああ、あと数日でピラミッドの周りは無人になるね。つまりは、いよいよだな」
大統領が発言した。
「外の世界の連中は総攻撃を仕掛けてくるつもりだな。まったく愚かな連中だよ。特にリーダーたちなんか究極に愚かだね。なんだよ、あのアメリカのトリンプとかいう禿隠しオヤジは。たしか、あいつだよな、こちらのミサイルの威力がペテンだと言い出したのは」
これにタケルが応じた。
「それはそうだけど、ロシアのプッチンにしても中国のショウにしても、みんな負けず劣らずのバカだよ。やはり、『バカは死ななきゃ治らない』のかな」
そのような意見とも愚痴ともつかないやりとりの中、ピラミッド内に非常警報の警報音が鳴り響いた。
議員の1人が大声で言った。
「なんだよ、この非常警報は、外からの攻撃か?」
そのとき、「シュバッ」という短い音がした。
タケルはその音がした方を見た。
すると ・・・
「おいっ、ミサイルが発射されたぞ!」
「何も聞いてないよ」
それは、ピラミッドの中庭に木々に織り交ざって配備されているミサイルの1基が発射された音だった。
大統領が叫んだ。
「どこに飛んでいくんだ!」
タケルが素早く議場の大画面スクリーンを見た。
「北朝鮮だよ、ピョンヤンだよ!」
=続く=




