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我が家のミサイルで人類は破滅するの?  作者: 破魔矢タカヒロ
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第6話:意外な展開


 議員の1人はピラミッドを包囲する敵が攻撃してくると言った。




 しかし、議場の大画面スクリーンには意外な光景が映し出された。




 自衛隊と機動隊は、攻撃どころか、大急ぎで撤収を開始して、すたこらさっさと逃げてしまったのだった。




 それ故、ピラミッドの周囲には誰もいなくなった。




 その成り行きを見ていた議員の1人が「攻撃してくる」と予想した議員に向かって意地悪そうに言った。




「おい、攻撃してくるのだろ、さっきそう言ったよな? あの連中、とっとと逃げちゃったぞ」




 しかし、言われた議員は何食わぬ表情で言い返した。




「すぐに攻撃してくるとは言わなかっただろ。一旦は逃げるに決まっているさ。なにせ、こちらからのレーザービームの照射で装甲車が一瞬にして破壊されたのだからね。それなのに、同じ装備のままで攻撃してくるはずがないだろ。同じことになるだけだからな。少ししたら、そのうち攻めてくるよ。連中は、きっと、強力な装備を繰り出すに決まっているさ」




 このように言い返された議員が聞き返した。




「もっと強力な装備って、例えばなんだよ?」




「そりゃあ、機関銃や火炎放射器や装甲車でダメなら、戦闘機とかミサイルとかを持ち出してくるのだろうね」




 議員同士でこのようなやりとりがあったわけだが、それからの数日はピラミッドの周辺に何事も起きなかった。




 しかし、一週間後、ピラミッド内に非常警報の警報音が再び鳴り響いた。




 タケルの自宅の端末のモニタには、最高評議会の召集を告げるメッセージが表示されたが、タケルは円形広場の議場へと向かう前に、モニタの表示を人工知能とのインタフェースに切り替えた。




 そのインタフェース画面を注意深く見るタケルの背後から妻のミレイが声をかけた。




「ねえ、タケル、議場に行かなくてもいいの?」




「もちろん、行くさ。でも、その前に情報収集だよ。ほう、なるほど、巡航ミサイルがこちらに向かっているのか」




「巡航ミサイルって?」




「普通のミサイルは地球の引力を利用して放物線を描いて飛んでくるのだけど、そして、そのようなミサイルのことを弾道ミサイルと言うのだけど、巡航ミサイルは、飛行機みたいにジェットエンジンと翼で飛ぶのだよ。だから、地表に対して水平に飛ぶのだよね。低い高度を飛べるからレーダーに探知されにくいのだけど、ピラミッドのレーダーは外の世界のモノよりも格段に優れているから見え見えだね」




「じゃあ、この非常警報の原因はその巡航ミサイルなのね」




「うん、そうだよ」




「原因もわかったことだし、これから議場に行くのでしょ?」




「行くけど、もう少し見てからにするよ」




「何を見るの?」




「こちら側の迎撃ミサイルが巡航ミサイルを撃ち落としてから議場に行くよ」




「それで、画面上のどれが巡航ミサイルなの?」




「ほら、この黄色い点だよ。こちらに向かっているだろ。それで、この赤い点がこちら側の迎撃ミサイルだよ」




「あと、どれくらいで、その巡航ミサイルを撃ち落とすの?」




「うーん、この調子だと、あと20秒ほどかな」




「随分と早いのね」




「そりゃあ、こちらのミサイルも向こうのミサイルも音速の数倍のスピードで飛んでいるからね。あ、もうそろそろだな」




 タケルがそう言い終わるや否や、黄色の点と赤い点が重なり、赤い点がパッと大きくなって、どちらの点も消えた」




 タケルは、巡航ミサイルの迎撃成功を妻のミレイに伝えた。




「ほら、大きくなった赤い点が消えただろ、迎撃成功だよ。こちらに飛んできていた巡航ミサイルは、ここから北東に100kmほどのところで撃ち落とされたよ。やはり、外の世界の兵器なんか、我々にとってはオモチャだね。さて、そういうことだから、これから議場に行ってくるよ」




「でも、巡航ミサイルは既に撃ち落とされたのでしょ。それなのに、会議なんか必要なの?」




「もちろん、今回の巡航ミサイルについては、もう終わったのだから会議など不要だよ。それでも、外の世界には他にも核兵器とか最新鋭の戦闘機とかがあるからね。こちらからすれば遅れた兵器ばかりだけど、量的に半端ないからさ。一応は今後の見通しとか、最高評議会のメンバー同士ですり合わせておかないとね。というわけだから、ちょっと行ってくるわ」




「わかったわ、じゃあ、行ってらっしゃい」




 円形広場の議場に行くといっても、議場はタケルの自宅から目と鼻の先の中庭にある。だから、歩いても1分と少しで到着してしまう。




 それについては、他の議員や大統領も同じことで、大統領と議員は、その全員が中庭を囲む生活圏の集合住宅の1階に居住しているので、会議に出席するべき全員が2分足らずで議場に集合した。




 全員の着席を確認すると大統領が口火を切った。




「どうやら、この場の全員が巡航ミサイルの迎撃成功を確認してから自宅を出て来たみたいだね」




 すると、議員の1人がこれに応じた。




「うん、ピラミッドの住民は、全員がその程度の気を利かせるからね。やはり、外の世界のミサイルはチャチだね。こちらの迎撃ミサイルを全くかわせなかったね」




 もちろん、タケルも同じ感想なのだが、外の世界の各国に備蓄される兵器の尋常ならぬ大量さを憂慮して言った。




「あんな迎撃ミサイル、たかが1基だけなら鼻糞だよね。けれども、あれが100基ほど同時に飛んでくるとなると、少し手古摺るだろうね」




 大統領もその点を気にしていた。




「そうなのだよね。それでだけど、こちらが一度に迎撃できるのは何基かな?」




 これにはタケルが答えた。




「皆が承知しているように、こちらの迎撃ミサイルはピラミッドの底辺の一辺に10基ずつ配備されているよね。で、ピラミッドは当然四辺だから、同時に発射できるのは40基ということになるね」




 大統領が更に質問した。




「だったら、相手が一斉に100基だと拙いことになるのか?」




 やはりタケルが答えた。




「全く同時だと、60基は着弾してしまうよね。けれども、こちらには磁気シールドという防衛手段があるから、それをオンにすれば着弾してもピラミッドは無傷なはずだよ。まあ、被害を受けても、カモフラージュのために植えてある樹木が燃える程度だろうね」




 議員の1人がタケルに聞いた。




「その磁気シールドはどのようなタイミングでオンになるのだ?」




「人工知能が脅威に感じたら自動的にオンにするのさ」




「でも、今回はオンにされなかったよね」




「だって、今回は、敵の巡航ミサイルが1基だけだったからね」




 別の議員が別の問題を気にして言った。




「その磁気シールドは核兵器にも耐えるのか?」




 タケルが答えた。




「核兵器だと流石に無理だね、破られるよ。それでも、ピラミッドの外郭を形成する合金は分厚くて強固だからね。外の樹木と土の層くらいは炎上するなり剥がされるなりするだろうけど、ピラミッドの外郭はビクともしないよ」




 これを聞いた一同は安堵の表情になった。




 それでも、また別の議員がタケルに質問した。




「タケルが言っている核兵器とはどの程度のものなのだ?」




「戦術核兵器程度のものだよ」




「威力は?」




「この日本の広島や長崎に落とされた程度の威力だね」




「だったら、例えば、10メガトン程度の威力の戦略核兵器で攻撃されたらどうなる?」




「さあ、人工知能に聞いてみないと詳しいところは分からないけど、それでも、何回かなら耐えるはずだよ。でも、そんな心配は不要だよ。このピラミッドを戦略核兵器で攻撃すれば、ここの周辺のかなり広い範囲も被害を受けてしまうからね」




 懸念されることが一応は出尽くしたと判断した大統領が言った。




「ところで、さっきの巡航ミサイルはどこから飛んできたのだろうね」




 タケルはそのことも把握していた。




「日本国内さ。具体的には東京かその周辺だね」




 これを聞いた大統領は少し意外な顔をした。




「日本国内? 私が知る限り、日本国内に巡航ミサイルなど存在しないだろ。米軍の空母からなら話もわかるけど」




 タケルは、知っている情報からではなく、自身の常識から意見を述べた。




「それは表向きの話だろ。軍隊に軍事機密はつきものだよ。無いという話になっているけど、実は日本国内にもあるのだよ。それでも多くはないようだね。初回の攻撃ということもあるだろうけど、今回は飛んできたのが1基だけだったからね。でも、米軍の空母が乗り出してきたら、この次は数十のミサイルが飛んでくるかもね」




 議場では他の話も出たが、概ねはそんなところで最高評議会の会議が終了した。




 そして、それから、特に何もないまま2ヶ月が経過した。




 ピラミッド内に3度目の非常警報が発令された。




 そのとき、タケルは、妻のミレイと夕食をとりながら趣味の話などをしていた。




「タケル、また非常警報よ。このところ静かだったのにね」




 タケルは、妻に返答することなく、まずは端末のモニタに人工知能のインタフェースを表示した。そして、しばらく、その画面に見入っていた。




 そして ・・・




「やはりね、今回は50基の巡航ミサイルがこちらに向かっているよ。どうやら、米軍も乗り出してきたみたいだな。最初の巡航ミサイルを迎撃してから2ヶ月か、敵さんはかなり慎重に検討を重ねたみたいだね」




「慎重に検討を重ねたって、何について?」




「もちろん、こちら側についてだよ。なにせ、外の連中が知っているだけでも、こちら側は、強力この上ないレーザービームと驚くような精度の迎撃ミサイルを持っているのだからね。しかも、我々が正体を明かさないわけだから、そりゃあ、2ヶ月くらいは考え込むよね。いずれにせよ、巡航ミサイルが50基も飛んでくるということは、米軍の空母がここから遠くない海域に配備されたようだね」




 これを聞いた妻のミレイは少し怯えた表情で言った。




「50基も飛んできて大丈夫なの?」




「うーん、一度に迎撃できるのは40基までだからね、次の迎撃ミサイルを発射サイロに素早く充填するとしても、悪くすると10基はピラミッドに着弾するかもね」




「10基も着弾したらどうなるのよ?」




「人工知能が磁気シールドをオンにしたから、取り敢えず、ピラミッドの中は無事さ。けれども、問題は、今回の攻撃が終わった後だね」




「それって、どういう問題なの?」




「だから、巡航ミサイルが10基着弾した場合、敵は我々の迎撃能力が40基までであることに気が付くわけだろ。となれば、次は、50基の核ミサイルを一斉に撃ち込んでくることもあり得るよね」




 これを聞いたミレイの表情は流石に不安そのものだ。




「そ、それでも、このピラミッドは大丈夫なのでしょ?」




「さあね、核ミサイルが50基ともなるとね。でも、心配するな、今、人工知能が対策を練ってくれているみたいだからさ。私はこれから議場に行ってくる。最高評議会のメンバー全員で人工知能と相談した方が良さそうだからね」




 このように言うと、タケルは議場へと向かうべく自宅を出て行ったのだった。




=続く=



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