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我が家のミサイルで人類は破滅するの?  作者: 破魔矢タカヒロ
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第5話:解放



 住民投票が行われた。




 その結果だが、毎朝放送という関西ローカルのテレビ局の女性ディレクターと男性アシスタントディレクターの2人が解放されることになった。




 ピラミッド住民の投票行動だが、男性住民の6割が、そして女性住民の実に9割5分が「解放」に投票した。




 つまり、進入者2人を「殺害」する方に票を投じた女性住民は5パーセントしかいなかったわけだ。この結果は後に、子供を産む女性、つまりは生命を創る女性の性向を反映したものとされた。




 もちろん、「殺害」の方に票を投じた4割の男性は「解放」を支持した決定を「甘い」と考えて、住民投票の結果を不満に思った。




 なにはともあれ、「解放」の決定を受けて、進入者の2人が記憶を消去する薬剤を投与された上で、麻酔を施されて眠らされていた医療施設から連れ出され、ある程度の交通量がある県道の脇に寝かされた。




 このような形での「解放」の2時間後、進入者の2人は、たまたま通りかかったトラックに助けを求めて保護されたのだった。




 そこまでの情報の報告を人工知能から受けたヤマト大統領とその息子のタケル議員の2人は、ヤマトの自宅のバルコニーでコーヒーを飲みながら、住民投票の結果を振り返っていた。




「おい、タケルはどちらに票を入れたのだ?」




「それを聞くのは違反だろ」




「親子なのだから、そのくらい、いいじゃないか」




「じゃあ、まず、父さんの投票行動を教えてよ」




「断腸の思いで『殺害』の方に票を投じたよ。それで、タケルはどうしたのだ?」




「同じだよ。万全を期さないと禍根を残すからね」




「解放しても、かなり高い確率で何事もないはずだよな」




「それは、もちろんそうさ」




「私が思うに、ピラミッドの住民は予想以上に優しいのだな」




「優しいと言うか、甘いのだよ。このピラミッドの中の世界は5万年も平和だったからね。ここの外の日本でよく言われる平和ボケかもね」




「タケルの言うとおりかもな。ところで、解放した2人だが記憶が消えていないとしたら、どうなるのだろうね」




「あの2人は午後2時から午後4時まで放送されている暇な人間向けの『じゅげむじゅげむ』という情報番組のスタッフなのだよね。その番組の『昔の人は健脚だった』というコーナーの先乗り取材でピラミッドの近くに来ていたのだよ。そこで、たぶん、形の整った山を見つけたので、このピラミッドに何となく登ったのだろうけどね。とにかく、マスコミの人間と言っても、そのようなスタッフだから報道の人間よりもマシかもね。それでも、記憶が消えていなかった場合の今後は不明だね。とにかく、注意しながら状況を見守ろうよ」




「ああ、そうだな」




 そして、3ヶ月が経過した。




 その今、ピラミッドは警察の機動隊と自衛隊に包囲されている。




 その様子が最高評議会の議場の大画面スクリーンに映し出されている。




 議場には大統領と議員たちが集合していて、緊急会議に臨んでいた。




 まず大統領が口火を切った。




「2ヶ月ほど前からピラミッドの周囲が騒がしくなっていたけど、とうとうこうなったか」




 議員の1人が他も承知している情報を改めて口にした。




「あの解放した2人、記憶が消えていなくて、このピラミッドの存在を同僚たちに言って回ったのだよね。最初の内は信じて貰えなかったようだけど、そのうち、何人かのスタッフが山のように見せかけたこのピラミッドのことを探るようになって、そして、とうとうこの有様なのだよね」




 タケルがこの議員の発言に反応した。




「そのようなことなら、この場の皆が承知しているけど、とにかく、こうなってしまったのだよね。人工知能は『攻撃と排除』を進言しているけど、それは得策ではないよね」




 別の議員がタケルの意見に賛同した。




「ああ、そのとおりだよ。攻撃なんかしたら、山に見せかけたこのピラミッドの中に『何かがあること』を自らばらしてしまうことになるからね」




 ここで大統領が現状の分析を求めた。




「あの自衛隊と機動隊は何をしているのだろうね。県道に沿って、このピラミッドの北側と東側を包囲してはいるものの動きが何もないね」




 ピラミッドの北側と東側には、県道が弧を描くように走っている。一方、ピラミッドの西側と南側はピラミッドよりも高い山になっていて、部隊の展開が極めて困難だ。




 さて、大統領の発言にはタケルが応じた。




「赤外線センサーのようなモノとか音波探知機のようなモノでこちらのことを探っているようだね。つまり、中に何かがあると思っているわけだね。でも、このピラミッドの外壁はかなり分厚いから簡単には探知できないだろうね」




 タケルの発言にその場の一同が軽く頷いた。




 そのとき、突然、ピラミッド側から自衛隊をめがけて一閃の赤い光線が放たれた。




 その光線が命中した自衛隊の装甲車が一瞬のうちに破壊された。




 それを見たピラミッドの議場の一同の表情が瞬時にこわばった。




 大統領が大声を発した。




「おい、あれは高密度レーザービームだよな。こちら側から先に攻撃したわけか、いったい、どうしてだよ!?」




 これにはタケルが答えた。




「いや、先に攻撃したのはこちら側ではないよ。議場の大画面スクリーンには映っていなかったけど、人工知能によると、どうやら自衛隊側がこのピラミッドを覆う樹木を火炎放射で焼き払おうとしたみたいだね」




 大統領はタケルの答えを聞いても現状を理解できなかった。




「どうして樹木を焼き払うのだよ。意味が解らないよ」




 やはりタケルが答えた。




「だから、樹木を焼き払って、山肌を露出させようとしたのだろうね。それで何かがわかるとでも思ったのさ」




 議員の1人が悲観的な見通しを口にした。




「なんにせよ、これは、えらいことになるぞ。連中はこちらから先制攻撃したと受け取ったはずだから、きっと攻撃してくるぞ。そうなれば、人工知能が自動的に応戦するから、連中との戦闘は必至だね」




=続く=



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