第3話:進入者
そのけたたましい音が非常警報の警報音とわかり浮足立ったその場の一同だったが、タケルはいち早く平静を取り戻し、人工知能とのインタフェースを議場の大画面スクリーンに表示した。
そして、非常警報発令の原因をチェックした。
タケルの父親であり大統領のヤマトは警報音が鳴りだした原因を早く知りたがった。
「おい、タケル、どうだ、原因はわかったか?」
「うん、信じられないことだけど、わかったよ。外部からの進入者だよ」
外部からの進入者と聞いて大統領も議員たちもかなり驚いた。
そして、タケルに代わる代わる質問した。
「そんなのあり得ないよ。このピラミッドの出入口は生体認証を受けないと見えないし開かないよな。どうしてそうなるのだよ?」
タケルは、大統領と議員たちからの質問にテキパキと答えた。
「だから、外部の人間が生体認証にパスしたのだよ」
「認証されたのなら、それは内部の人間だろ。それなのにどうして非常警報が出るのだよ?」
「非常警報は生体認証にパスした人間に出たのではないよ。パスした人間と一緒にもう1人の人間が入ってきたのだよ。ピラミッド内部のセンサーがその人間に反応して非常警報が出たのさ」
「おいおい、その話は不可解だな。まず、外部の人間が生体認証にパスするわけがないし、外部の者として認識された人間が出入口から内部に入れるわけがないだろ」
「そうだね、すぐには理解できない話だよね。今、監視カメラの録画を再生するから、それを見てよ。見れば私が言ったことの意味がわかるからさ」
そう言うと、タケルは、監視カメラの録画の再生を開始した。そして、議場の大画面スクリーンに録画の映像が映し出された。
ところで、ピラミッドの出入口は2つあるのだが、進入者はその内の1つから内部に入った。出入口はステルス機能を備えているので、外部の人間からは見えない。
その出入口は、生体認証により内部の人間と認識したときにだけ姿を現す。その生体認証なのだが、全員が血縁関係にあるピラミッド内の住民に共通する特定の生体反応を検知するものだ。つまり、ピラミッド内の住民に共通する特徴を検知するわけだ。
そして、外部の人間はその特徴を持ち合わせていない。だから、外部の人間からは出入口が見えず、また出入口が開かない。
そのはずだった。ところが、進入した外部の2人の人間の内の1人がピラミッド住民特有の生体反応を示した。だから、その人間は出入口での生体認証にパスしてしまった。
すると、当然、その出入口が姿を現すと同時に開いた。そして、生体認証にパスした1人がすかさず出入口の内側に入ってしまった。もう1人は外部の人間と認識されたので内部に入れないはずなのだが、生体認証にパスした人間にぴったりとくっついて歩いたのでピラミッドの中に入れてしまったのだった。
再生された録画には、そのような映像が記録されていた。それを見た議場の一同は事の次第を理解した。
まず、ヤマト大統領が口を開いた。
「なるほど、こういうことか。それにしても、未知の出入口が急に出現して開いたというのに、この2人はそんな摩訶不思議な出入口からよくも中に入ったよな。好奇心が強いのか馬鹿なのか」
タケルが答えた。
「たぶん、両方だよ。この2人は、好奇心が強くて、しかも馬鹿なのさ」
議員の1人がタケルに質問した。
「それで、この2人は、今、どこにいるのだよ?」
「出入口に通じる部屋に閉じ込められているよ」
「誰が閉じ込めたのかな?」
「メカが自動的に閉じ込めたのだよ。2人とも怪しいと判断して、メカが睡眠ガスを局所噴射したのさ。だから、2人は、今、倒れて眠っているよ」
別の議員もタケルに質問した。
「それで、身元は判明しているのか?」
「身元なら、すぐにわかるさ。メカロイドが身元の分かるモノを2人から回収してエアシューターでこちらに送ったからね。もうすぐ取り出し口に到着するよ」
メカロイドとは要するに人間型の二足歩行ロボットだ。高度ではないが、ある程度の判断が可能な人工知能を備えている。人間そっくりにも作れるのだが、紛らわしいので敢えてメタリックな外観にされている。つまり、いかにもロボットに見えるというわけだ。
ピラミッド内の作業は、そのメカロイドがやってしまう。メカロイドは、軽作業も重労働もこなすのだ。だから、ピラミッド内の住民は労働や作業をしない。
さて、そのメカロイドが送ったという「身元の分かるモノ」がエアシューターの議場の取り出し口に到着した。
タケルは、その「身元の分かるモノ」をさっさと取り出した。
議員の1人が送られてきた進入者2人の所持品について尋ねた。
「メカロイドは何を送ってきたのだ?」
「外部の世界でスマホと呼ばれている情報端末だよ、それと名刺とIDカードだね」
「ああ、スマホか、聞いたことならあるよ。現物は意外にスマートだな」
タケルはこの感想に反応した。
「見かけはスマートだけど、インテリジェントとは言えないね。ここでは子供のオモチャにもならないよ。まだまだ原始的だね」
「そうなのか、まあ、そうかもな。とにかく、身元くらいはすぐに分かるのだろ?」
「もうわかったよ。選りにも選って厄介な連中が進入したものだよ」
「厄介? それは、どういう意味だ?」
「この2人はね、関西ローカルの毎朝放送というテレビ局のディレクターとアシスタントディレクターなのだよ」
「それだと、どうして厄介なのだ?」
「何を言っているのさ、厄介そのものだろ、マスコミの人間だぞ」
ここで大統領が深刻な表情でタケルに質問した。
「こういう場合に推奨される処置はどういったものだ?」
タケルも深刻な表情になっていた。
「念のためにマニュアルを再チェックするから、ちょっと待ってね」
そう言うと、タケルは、議場の大画面スクリーンに緊急時対応マニュアルを表示した。そして、数分の時間でマニュアルの内容に目を通した。
すると、タケルの表情がますます深刻なものになった。
大統領は、待ち切れずに、タケルの答えを促した。
「どうしたのだよ、もう読んだのだろ? 考えたくない処置のはずだけどね」
「ああ、読んだ。ただし、読む前から知っていたけどね。ことが重大なだけに、もう一度読んでおきたかったのさ」
「それで、推奨される処置だけど、やはり」
「うん、残念ながら、進入した2人の殺害だよ」
それを聞いた大統領の額にわけのわからぬ汗がにじんだ。
=続く=