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黎明樹  作者: ペティ
5/11

5. 髪を切ったその女性

瞑想の雲の中にいたので、アイスコーヒーの氷が溶けきっていることにも、ましてや夏の空気を連れて店内に入ってきた女性にも、椿は気づかなかった。



その女性は椿を見とめると、一直線に椿のテーブルに近づき、そして対面に座った。


窓の外にある欅の木を見て動かない彼を見て、その女性は苦笑し、まあいいやと口の中でつぶやくと、ぬるいアイスコーヒーを手元に引き寄せて一口飲んだ。


冷え性の彼女は、真夏でも冷たいドリンクは苦手なのである。



椿の視界の隅で、何かが動いた。

先日の回想を一通り終えた椿は、タイムトリップでも終えたかの表情でアイスコーヒーのあった場所に視線を戻した。


「それで、今はどんな妄想をしていたの。もしかして私のこと。」


対面に座る、當眞朔月とうまさつきは、いたずらっぽく笑った。


椿は、一瞬豆鉄砲を食らったような顔になったが、努めて平静を装った。

「ああ、そうだよ」と言っても彼女を動揺させることはできないだろう。

ただ、「アイスコーヒー勝手に飲むなよ」というほかなかった。



朔月は上品で静かな笑みを浮かべる。

昔からそんな感じではあったが、何か数年前とは印象が違った。


子供っぽいが、大人っぽい。


「冷え性なのよ。ぬるいくらいが丁度いいわ。ああ、これ。実は髪を切ったの。」


椿は、彼女の高校の頃の姿を思い返してみた。


確かに、朔月は夏場でも常にセーターを着ていた。

汗ひとつかかず涼しそうにしていたので、椿は大したものだとよく思っていた。


「それにしても、ずっとセミロングだったのに。どうしてまた。」


「ついこの前に別れ話をしたのよ。

バイト先の人だったから、最近バイトも出れずに暇してた訳。

それだから、気が触れてバッサリいっちゃったのよ。」


朔月は ショートにした髪を意図的にパサリと払った。

美容院で使われるシャンプーの匂いが椿の鼻を掠める。


椿は、なぜか明け方に咲く朝顔の群れを連想した。


「よく似合っているよ。背伸びした大人感が抜けたじゃないか。」


「五月蝿いわね。ショートにして、あとで美容室の鏡をみたら、現れた顔がこんなにも童顔で、自分でも少し動揺したわ。」


寒いわね、ここが。

と言いながら、朔月は今まで髪で守られていた白透明なうなじに触れた。


そして、ぬるいアイスコーヒーを減らしていく。


返してくれそうにもないので、通りがかった店員に、椿はアイスコーヒーを注文した。


ご閲覧ありがとうございました。これで登場人物が出揃って、物語も後半戦です。

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