女子高生になった魔法使い #3
その日の授業を終えた放課後。
頼久は慌ただしく帰り支度をしている。今日はダイニングカフェのバイトが入ってるそうだ。
「それじゃ千暁、先行くな」
「あぁ。バイト頑張ってな」
「今度お前ん家遊びに行かせろよ」
下心丸出しの頼久は、俺にそう言い残して教室を出ていった。
小学校からの仲の頼久が家に遊びに来ることは別に珍しくはないが、目的はエイマに違いない。
仮に頼久がエイマを好きになったら……。
「いやダメだダメだ!」
「諏ぅー訪くん!」
「ぅわっっ!」
帰り支度をしている所にいきなり乙幡が声をかけてきたものだから、俺の体は少しだけ浮いた。
「あ、あぁ乙幡。何?」
「放課後、エイマちゃん借りても良い?」
「えっ!?」
乙幡の背後で如月とエイマが立っている。
「いや、あの……」
登校時は空を飛んできたおかげで学校から家までの詳しい道のりをエイマは知らない。だから今日は一緒に帰るつもりだったが。
いや、それ以前に目を離すのは危険だ。
「学校初日だし、あいつ家までの道が分からないから」
「それなら心配ないよ。私諏訪くん家知ってるし」
確かに乙幡は俺の家の場所を知っている。
以前、乙幡と偶然たまたま奇跡的に一緒に帰った事がある。
いやだからといってオッケーは出来ない。
「私は構わないわよ」
俺が乙幡を説得しようとした矢先、エイマが間に割って入ってきた。
「奈々絵と円香が日本の女子高生の遊び方教えてくれるって。夕飯までには帰るし、道なら問題無いわよ。私を誰だと思ってんの」
よく分かってるからこそ反対してるんだろうが!
つうかもう下の名前で呼び合うとか打ち解けるの早すぎだろ……!
「諏訪くん、私達がちゃんとエイマちゃんの事お家に送り届けるから。ね?」
両手を合わせてお願いする乙幡。
そのポーズと上目遣いはかなりの反則だ。
「わ……分かった……」
「本当!? ありがとう諏訪くんっ」
俺のバカ────っ!!
エイマは俺に勝ち誇ったような笑みを向けて、乙幡と如月と共に教室を出ていった。
エイマが誰かと一緒にいるのと、一人でいるのとでは後者の方がよっぽどマシだ。
あいつは基本的に常識や秩序の理解が足りない。
今はどうだか分からないが、朝っぱらから人目を気にせず箒で登校する時点でアウトだ。
もしエイマが乙幡や如月の前で魔法を使ったら……。
そう考えるだけで俺は彼女達の後を追わずには居られなかった。
昇降口に駆け付けると、三人は桜並木の先にある正門をくぐる所だった。
「早くしないと見失うっ」
下駄箱に上履きを押し込んで、外履きに履き替えてから全速力で三人を追いかけた。
学校を出た後は、道の角を曲がる度に距離を縮めていった。
そしてそうこう跡をつけている内に、駅前の繁華街へとやって来た。
俺の前方数メートル先を歩く三人は何やら楽しそうに話している。
あいつ、乙幡と如月の会話について行けるのか?
つい一昨日までは魔法漬けの毎日で、同じ年頃の普通の女の子の生活とは無縁だった筈だ。
そんな奴が、日本の女子高生の話について行けるわけがない。
つまらないわ。などと言って一人で離れるのを、乙幡には申し訳ないが俺はにわかに期待していた。
☆
日本の女子高生の遊びには、単純に興味があった。
魔法学校には初等部から通っていたし、当時から流行だとか巷の遊びとは無縁だったから。
この際だ。魔法の勉強から離れて、一般人の娯楽というものを学ぶ良い機会かも知れない。
千暁は明らかに私を奈々絵と円香に預けるのを嫌がってたけど。
「エイマってさぁ」
隣を歩く円香が私に声を掛けてきた。
「モデルとかやれそうだよな」
「あ、私も同じこと思ってた! ハーフ系読モ!」
「どくも?」
「雑誌の読者モデルだよ。細いし美人だからいけそうじゃね?」
あぁ、ファッションモデルの事ね。
「多分向いてないわ。身長は160無いし、私自身、洋服とかお洒落には全然興味がないから」
私の返答に、奈々絵と円香は足を止めた。
「マジかよ? 勿体ねー」
「じゃあさじゃあさ、これからエイマちゃんに似合いそうな服見に行こうよ!」
「よし、決まりだ」
ウインドウショッピングとやらになるのかしら。魔法グッズなら散々してきたけど。
そういえば、魔法を知らない同じ年頃の女の子とこうやって街を歩くのも初めてかも。
私たちは駅前の賑やかな通りにあるショッピングモールにやって来た。
何でも、奈々絵と円香は行き先に困ったらとりあえずこの中をフラつくことが多いらしい。
モール内には沢山の洋服屋と雑貨屋が並び、同じように学校帰りなのか、制服を着た学生の姿は多かった。
町にあるお店が一棟のビルに集約されているショッピングモールは、ロンドンにもある大型のショッピングモールに似ていた。
そして奈々絵と円香はとあるファッションブランドのお店の中に入った。
「もう夏物の新作出てるぞ」
「エイマちゃん、エイマちゃんてスカート派? パンツ派?」
「えーと……どっちでもないわね」
「んじゃお任せね」
私に似合う服を選び始めた二人を尻目に、私も離れた所の什器に下がる服を眺めた。
正直、若干戸惑っている。
これが友達との過ごし方とやらなのだろうか。
少し嬉しいような、どうしたら良いか分からないような、複雑な感覚。
ふと、通路を挟んだ向かいにある書店へと目を向けた。
「…………うわ」
雑誌で顔を隠しているが、制服のおかげでバレバレだ。
洋服に夢中の奈々絵と円香の目を盗んで、私は書店に向かった。