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俺の従妹は魔法使い  作者: 柳沼みつぎ
【第2話】女子高生になった魔法使い
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女子高生になった魔法使い #2

 

 なんとか登校完了時間までに教室へ着いた。


「おう、ちあ……」


 肩で息をしながら席につく俺を、頼久が引きつった顔で見ている。


「お前それ寝癖……じゃねぇよな」


「え?」


 頼久が指さす方へ目を向けると、窓に映った自分の顔に思わず席を立った。


「顔洗って来る!」


 せっかくひと息ついたというのに、またも廊下を走って男子トイレに駆け込んだ。


 どおりで教室に着くまで周りにジロジロ見られるわけだ……。


 洗面台の鏡に映った俺の頭は、さっき箒で急降下した時に生じた空気抵抗のせいで髪が全部真上に突っ立っていた。


「くっそぉエイマのやつ……っ」


 普通なら言うだろ。あぁそうだ忘れてた。あいつは俺の髪が突っ立ってようがそれで羞恥に晒されようが何とも思わない薄情な奴だったな。


 まるでヘビメタのバンドにでもいそうなヘアスタイルを、水で濡らしていつものスタイルに戻した。


「よし……」


 いつものヘアスタイルを改めて鏡で確認したついでに、自分の顔をマジマジと眺めてみた。


「……なんか老けたな」


 昨日からの今日でこんなに顔に疲れが表れるとは。いや、十中八九さっきの箒での登校が原因だ。マジで死ぬかと思った。


 俺は溜め息をついてトイレを出た。

 教室に戻ると、何だかさっきより騒がしい。


「本当だって! 日誌貰いに行った時に先生と話してたんだって!」


「えーマジで?」


 クラスメートが話してる横を通って席に戻った俺に頼久が気付いた。


「あれ、直してきたのか」


「あぁ、ドライヤー当てすぎたみたいでな。ところで何の騒ぎだ?」


「転校生だって。日誌取りに職員室行った及川が見たって」


 早くも騒がれてるし。


「及川の話だとハーフみたいに可愛い子だったってさ」


「へ、へぇ……」


 エイマの事を頼久に言おうか迷っていると。


「おっはよぉ諏訪くん!」


 俺の肩を叩いて挨拶をしてきたのは乙幡だった。


「乙幡っ、お、おはよう」


「昨日の頭痛薬どうだった?」


「え…………あ、ああ! 効いた効いた! 凄いなあれ!」


「でしょでしょ〜! 頭痛持ちなら常備しとくと良いよ」


「ああ、そうするよ」


 言えない。

 乙幡からの貰い物を飲んじまうのが勿体無くてまだブレザーのポケットにあるなんて、キモすぎて言えない……!


「みんな転校生にテンション高いね。そういう私もワックワクのドッキドキだけど」


「そ、そうだな」


 ここで頼久が俺にこっそり耳打ちをしてきた。


「乙幡より転校生のが良くなったりしてな」


 はぁあ!?


「ぜってーあり得ねぇから!」


 ニヤつく頼久と目を丸くして瞬きをする乙幡。


 そこへ担任教師の樋口先生が教室に到着した。


 担任の登場で、クラスメートは談笑を切り上げて次々と自分の席に着席していく。頼久も体を前に向き直った。


 淡いベージュのパンツスーツを着た樋口先生は、今日も黒縁の眼鏡をかけ、茶髪のロングヘアを横流しにして大人の色香を教壇上から放っている。


「おはようございます。突然ですが、今日は皆さんに転校生を紹介します」


 待ってましたと言わんばかりに教室内は色めき立った。


「ほらほら静かに」


 樋口先生が教壇を下りて廊下に顔を出すと、再び教壇の上に戻った。


 そして廊下から想像どおり、すました顔のエイマが教室の中へ足を踏み入れた。


 それと同時に、教室内の誰もが両目をかっ開いて感嘆の溜め息を吐いた。


「紹介します。オリヴィエ・エイマさんです」


「はじめまして。オリヴィエ・エイマです。一昨日までイギリスのコッツウォルズに住んでました。よろしくお願いします」


 至って普通に挨拶を終えたエイマに、俺はささやかながら安堵した。


「オリヴィエさんはお母様が日本人と、お父様がイギリス人のハーフです。それと、オリヴィエさんは諏訪くんの従妹だそうです。諏訪くん、オリヴィエさんのこと、しばらくよろしくね」


「「えええええ──っ!?」」


 樋口先生のその一言が、クラスメートたちを今日イチの大声で驚嘆させた。エイマに集まっていた筈のクラスメートたちの視線が、何故か俺に集中している。


 そんなに不思議かよ。あいつと俺がイトコ同士なのが。


「それじゃあ、オリヴィエさんの席は乙幡さんの隣ね」


 ────!


 エイマの座席は廊下側の一番後ろの席だった。その左隣が乙幡の席だ。


 ちなみに俺の席は窓側から二列目の後ろから三番目と、何とも微妙な辺りだ。


「私、乙幡奈々絵。よろしくね」


「こちらこそよろしく」


 自分の席に腰を下ろしたエイマに、乙幡が声をかけている。そのへんも彼女らしい。


 なんとか転校生恒例の挨拶を無事に終えて、俺の心は暫し休まることとなった。


 それから一限目の授業を終えて、授業の合間の休憩時間を迎えた。


 転校生が来たら必ずと言って良いくらいに見る光景。いや、もしかしたら今回はエイマに限ってかもしれない。それはクラスメート達からの質問攻めだ。エイマの席の周りにはあっと言う間に人だかりが出来た。


「オリヴィエさん一昨日までイギリスにいたんだね」


「コッツウォルズってどこ?」


「日本語上手いよね」


「英語ペラペラなの?」


 俺は人だかりを自分の席から遠巻きに眺めていた。変なことを口走らなければいいが。


「おい千暁!」


 頼久の腕が俺の首をホールドした。


「本当にエイマちゃんお前の従妹なのか!?」


「残念ながらそうだよ! 離してくれっ」


 俺は頼久の腕を振りほどいた。


「マジか。あんな可愛い従妹がいたなんて俺にはちっとも教えてくれなかったじゃねぇか。さてはお前、独り占めしてただろ」


「お前あいつの話聞いてたか? 一昨日までイギリスにいた奴をどう独り占め出来るんだよ」


「ん、それもそうか」


 正直、エイマが魔法使いじゃなかったらとっくに自慢してたかも知れない。外見だけなら可愛いのは本当だからだ。


 エイマの栗色アッシュの髪色と、琥珀色の瞳は間違いなく日本人では見ることのない色素だ。

 そんな、まるで動物園に突如現れた珍しい生き物と言うのがしっくりくる彼女が、クラスメートの心を掴むのに時間はそう掛からなかった。


「オリヴィエさんて諏訪くんの家に住んでるの?」


 乙幡──!


 乙幡がエイマに質問している。俺は聞き耳を立てた。


「うん。暫くはあいつの家に居候」


「でもさ、マジで諏訪の従妹か? 全然似てねーよな」


 余計なお世話だ如月円香……!

 それに従妹なんだから似てなくたっておかしくないだろ!


 如月円香。金髪で元ヤンの彼女は乙幡と大の仲良しだから不思議だ。そもそもこの学校に入学出来たことすら不思議すぎる謎の生命体に等しい。


「諏訪くんと似てないのは仕方ないよ。オリヴィエさんのお父さんイギリス人だもん。諏訪くんは悪くないよ」


 乙幡のフォローが何故だか俺の耳には悲しく聞こえた。


「なぁなぁ、イギリスの女子高生って普段何して遊んでるんだ?」


「ん〜、そうね……」


 如月が新たにエイマに質問を投げた。それに対してエイマは。


「周りは分からないけど、私は勉強ばかりしてたから巷の遊びは分からないわ」


「えーマジ? 勉強ばっかも良いけど、息抜きも大事だぜ」


「エイマちゃん凄いね。前の学校じゃ成績良かったんじゃない?」


「そうね。常に首席をキープしてたせいか、時々喧嘩を売られることもあったわ。喧嘩といっても、正々堂々課題で打ち負かしたけど」


「へーカッコいい!」


 俺には分かる。喧嘩の相手はさぞプライドを傷付けられたに違いない。


 エイマはその後もクラスメートたちに囲まれ、意外にも嫌な顔ひとつせずに質問に答えていた。


 離れた所から見るそんな彼女が、その時は本気で赤の他人に見えた。


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