表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の従妹は魔法使い  作者: 柳沼みつぎ
【第1話】俺の従妹は魔法使い
4/42

俺の従妹は魔法使い #3


 エイマと最後に会ったのは五年前だった。


 リビングで改めて対面する彼女は、以前会った時よりもだいぶ大人びている。恐るべしハーフの成長期。


 そんな彼女は昔から愛らしく、まるで空から舞い降りた天使と形容されるような容姿をしていた。


 だが愛らしいのは外見だけに限る。

俺からすれば空から舞い降りた天使ではなく、空から降ってきた爆弾が正しい。


 目の前でアイスミルクティーを美味しそうに飲むエイマを、俺は直視出来ずにいた。


「ところでエイマちゃん、どうして家の玄関は壊れちゃったの?」


 母さんの疑問には俺も同意だ。

 何故他人の家に上がるのに玄関が壊れなければならなかったのか。


「ごめんねユリちゃん。原因はこれよ」


 エイマはソファーの足元に置いていた箒を俺たちに見せた。飛行機を乗り継いで来日するかと思いきや、その箒でイギリスから大陸と海を渡って来たと言う。


 入国審査やビザの取得どうこうの話は、もう敢えて聞かないことにする。


「これが最新のジェットエンジン搭載型でスピードこそ文句無しなんだけど、ブレーキの掛け具合が難しくて」


 見たところ庭の掃き掃除にピッタリのただの箒だ。柄は丈夫そうな太い木の枝と、コキアが穂の部分に束ねられている。


「それ、ブレーキってどうやって掛けるの?」


「体を引いて柄を叩けば速度が落ちて、逆に速度を上げる時は穂を叩くの。勝手は乗馬と似てるわね。馬と同じで言うこと聞くか聞かないかは信頼関係が重要だから」


 要するに箒との信頼関係が足らず家に突っ込んだというワケか。


「つうか、何でいきなり家で預かることになったんだよ?」


 エイマが来ることは唐突な上に理由もまだ聞いていない。質問する声も自然と低くなる。

 そんな俺に母さんが思い出したように説明を始めた。


「千暁にはまだ言ってなかったわね。エイマちゃんね、あっちの魔法学校を休学することになったのよ。それで暫くの間、うちで預かることになったの」


 あっちの学校って、魔法学校のことか。

 魔法学校がある事自体今でも半信半疑だったが、それを休学になったのは別に構わない。よりによってどうして日本の我が家に転がり込むのかが疑問だ。


「だから、何で家なんだよ? そのまま実家に居れば良かっただろ」


 答えになっていない。そうまくし立てると。


「本当なら退学のところを、一年の休学で許してもらったのよ」


 エイマの冷静な声色に、俺は一瞬たじろいだ。


「た、退学……?」


「まぁそんなことはどうでも良いわ。どうして日本にある諏訪家にお世話になる事になったかと言うと、全ておばあ様の命令だからよ」


 エイマの言うおばあ様とは、エイマの父方の祖母であり、その祖母もまた魔法使いだった。


 オリヴィエ家の女は昔から魔法使いになるしきたりがあり、その血筋こそが素質なのだそうだ。


「休学の間、魔法から一旦離れるっていう意味で魔法無しの生活を強いられたってわけ。まったく、あり得ないわ」


「お前さっきその魔法使ってたよな。イギリスから日本まで箒乗って来たよな」


「あらぁ、良いじゃない家の中でくらい。私はエイマちゃんの魔法もっと見たいわ」


 母さんは能天気の塊だ。

 エイマの魔法を凄腕マジシャンの手品と勘違いしてる節がある。


 幸いなことに諏訪家はエイマが魔法使いであることを知っているが、俺の父方の親戚はエイマの存在を知らない。


 勿論、魔法使いという存在が家族以外の他人に知れたら厄介極まりないのは分かりきっている。魔法使いなんてこの現代では迷信とされてるわけで、実際には実在しないと考える人間がほぼ大半だからだ。


「お前、イギリスに帰るまで絶対家から出るなよ。危なっかしいたらありゃしない」


「千暁、それは無理よ」


「何で?」


「だってエイマちゃん、明日から千暁と同じ学校に通うんだから」


「ええ!?」


 そんなこと一言も聞いてないぞ……。


「面倒みてねって言ったじゃない。エイマちゃん千暁と同じクラスだから」


 あれってそういう意味!?


 狐につままれた気分とは正にこの事だ。だがここで引き下がるわけがない。


「俺の通う紅ノ森高校は偏差値61とここらでもなかなかの学力だぞ。呑気に魔法だけ勉強してきたお前が日本の高校について来られるとは思えないな」


 ふん、言ってやったぜ。


「それなら問題無いわ」


 え?


 即座に答えるエイマは、羽織っているローブの中から一枚のA4用紙を取り出した。四次元ポケットならぬ四次元ローブだ。

そして用紙を俺の目の前に突き付けてきた。


「紅ノ森高校の編入試験全科目、90点越えの事実上、二年生じゃトップの成績らしいわね。日本語の家庭教師をつけておいて正解だったわ」


 並ぶ教科の点数に開いた口が塞がらない。いやしかし、日本語の家庭教師をつけてどうこうできるものでもない筈だ。


「お前! セコい手使っただろ!」


「失礼ね。シャーペンと消しゴムしか使ってないわよ。言っておくけど私、努力って嫌いじゃないの。魔法も努力したけど、世の中についていくには私たち魔法使いは魔法以外にも沢山努力しなきゃいけないことがあるのよ。呑気に魔法だけ? 冗談じゃないわ。あんたみたいに漫画とゲームで暇を持て余す無駄な時間なんて、私たち魔法使いには一切ないの。魔法使いナメないで」


 い、言い返せねぇ……。


 エイマの気迫に圧倒され、返す言葉が見つからない俺は口を半開きに黙るしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ