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俺の従妹は魔法使い  作者: 柳沼みつぎ
【第4話】魔法使いの実験レポート
17/42

魔法使いの実験レポート #1

 


 一体どうした。


 何が起きた。


 考えられるのはただ一つ。


「あ、鼻血止まった。全くエイマのやつ、いとこ同士だって結婚できるのに、そんなに恥ずかしいかな」


 洗面台の鏡の前で、髪にワックスを揉み込みながら独り言を喋る制服姿の千暁。時々鏡に向かってキメ顔をしてみせる姿が痛い事この上ない。


 さっきは何とか顔面を蹴飛ばして回避したものの、隙あらば馴れ馴れしくしてくる始末だ。

 これはもう一夜にして千暁の身にあべこべの実の効果が現れたに違いない。


 千暁の控えめで女の子に奥手な性格が、まんまと裏目に出たわけだ。しかし元の性格が奥手すぎるあまり、あべこべの実の効果によって想像以上に積極的な男になってしまった。


 このまま学校へ行って良いものか、廊下で頭を悩ませていると。


「エイマちゃん」


 ユリちゃんが洗面所にいる千暁を尻目にこっそり声を掛けてきた。


「千暁ったらどうしちゃったの? 学校行くのにあんな気合い入れてる所見たのは初めてよ」


「あ〜、ほ、ほら、吾妻くんの影響じゃない? 彼のお洒落を真似してるのよきっと」


「あぁ、ヨリくんね。だったら良いわ」


 簡単に納得してくれたユリちゃんは鼻歌交じりで去って行った。


「あ、エイマ。待っててくれたんだな。学校行こうぜ」


 廊下にいる所を見つかってしまった。本人は学校へ行く気満々のようだ。


 学校では自由に魔法が使えない。

 この時既に厄介だが、学校でのこいつの行動は楽しみどころではなくなっていた。


「エイマ……そんなに俺の顔が好きなら、学校休んで今日一日ずっと見つめててやろうか?」


 もうただのナルシストだ。


 今朝から何度目かの鳥肌が立った所で、私は千暁に忠告した。


「あんた学校でそんな寒いこと言うんじゃないわよ。それと、学校では私に絶対声掛けないで!」


「え、何でだよ!?」


「何でもよ!」


 一先ず学校に遅刻しない内に私は観念して千暁と家を出た。


 学校までの道中、千暁は一人で何かをずっと私に向かって喋っていた。


 一方の私はマシンガンのように喋る千暁を隣に早くも後悔している。

 木の実の効果の出方がこうなるとは思いも寄らない。誤算だったのは、千暁が自身の性格をどう思っているのかを熟知していなかった。


 昨日までの千暁を知る者ならば絶対に怪しむだろう。


 千暁を気絶させて家に連れ戻すなら今のうちだ。しかし。正直、セインと約束した謝礼は惜しい。


 私はブレザーのポケットから取り出した黒縁の眼鏡を掛けた。この眼鏡は以前セインの店で購入した物で、掛けた瞬間からグラスがカメラのレンズの役割を担い眼鏡を通して見たものが記録されるビデオカメラと同じ機能を持つ。

 勿論、用途によっては罪に問われ兼ねないので、魔法犯罪防止機能として十八歳未満が視聴不可となり得る映像は自動的にデリートされる仕掛けになっている。


 誰が映像を視聴不可だと判断してるかって、

 そりゃあ眼鏡そのものよ。


「うわ眼鏡女子! エイマお前、俺が普段眼鏡掛けない子が時々見せる眼鏡姿にグッと来ると知ってて掛けてくれたのか? 俺の為だなんて嬉しいゥグッ!」


「今知ったし不愉快だし不本意だけど報酬の為だから我慢するわ」


 うるさいハエは裏拳で撃墜するのが正解らしい。道端で顎を抑えてうずくまる千暁を置いて私は一人先を進んだ。


 その後私に追いついた千暁は相変わらずうるさかったけれど無視を徹底した。


 学校の正門をくぐっても無視を決め込んでいるというのに、その口が閉ざされる気配は無い。どうやら千暁のメンタルはチキンからフェニックスに進化したと思われる。


 しかしさっきから話している内容は全て私への下らない求愛だ。髪が綺麗だの瞳に吸い込まれそうだの、あべこべの実の効果とは言え、千暁自身口にしてみたかったのだろうか。

 クサい台詞を躊躇なく言えるその神経は、あべこべの実に洗脳されたと言ってもいい。


 教室に着いても尚ペラペラと喋る千暁が私の隣の席に座りそうな勢いだったものだから、私は再び裏拳を千暁の左頬にお見舞いした。


「あんたの席はあっち」


「うう……っ、暫く離れ離れだけど、寂しかったらすぐに言えよな」


 たった五メートルしか離れていない。


 さすがに自分の席へ向かってくれたので、ようやく訪れた開放感で苛立ちが和らいだ。


 既に登校していた吾妻くんと挨拶を交わし、いつもよりテンションが高めな千暁に彼は心なしか目を丸くしている。


 階段から落ちて頭を強く打ったって事にでもしておくか……。


 ふと、ブレザーのポケットからスマートフォンを取り出した。私が掛けている眼鏡の記録を見たのか、セインからメッセージが届いていた。記録した映像は肉声ごと、定期的にセインへと送られることになっている。


 メッセージボックスを開いてみると。


 〝今後は普段からもう少し優しくしてやれや〟


 千暁に同情する文面がそこにはあった。


「……余計なお世話よ」


 一人スマートフォンに向かって呟いていると、奈々絵と円香が教室に登校してきた。


「おっはよーエイマ!」


「うーっす」


「おはよう奈々絵、円香」


「あれ、眼鏡とか珍しいじゃん」


「本当だ、眼鏡も良いね」


「見えにくいと時々掛けるのよ」


 二人にそう説明していると。


「おはよう乙幡! 遅かったじゃないか」


 千暁が教室に登校した奈々絵を発見するなり駆け寄ってきた。


「おはよう諏訪くん。遅かったかな? いつもと変わらない時間に来たけど」


「待ちくたびれたよ。早く乙幡の顔が見たくて俺は落ち着かなかったんだ」


「大袈裟だなぁ諏訪くんてば」


 千暁の胡散臭い言動に嫌な顔ひとつせず対応している奈々絵。やはり奈々絵なら不審がらずに千暁の相手をしてくれるとは思っていたけれど、さすがに円香の目には変に映ったようだ。


「なぁ、諏訪のやつどうかしたのか? なんかいつもより格段にウザくね」


 円香の反応が正解だ。

 そこへ間髪入れずに吾妻くんも私と円香の元へ駆け寄ってきた。


「おいおいおいおい、どうしちまったんだよ千暁のやつ。人が変わったみたいにテンションがおかしいぞ」


「お前もそう思ったか吾妻」


「あぁ、昨日会った時はいつもどおりだったのに。エイマちゃん、あいつ家で何かあったのか?」


 ありましたが正直には言えません。


「実はね、千暁ってば家の階段から落ちて頭打っちゃってからあんな調子なのよ。けどすぐに元に戻るだろうから心配しなくて平気よ。お医者さんのケンちゃんもそう言ってたわ」


「いやエイマ、あいつの親父さん医者は医者でも獣医だよな」


「とにかく、生ぬる〜い目で見守ってあげてちょうだい」


 無理矢理納得させたものの、物怖じせずに奈々絵に話しかける千暁の姿に二人は呆然としていた。


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