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俺の従妹は魔法使い  作者: 柳沼みつぎ
【第3話】魔法使いのお買い物
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魔法使いのお買い物 #3

 

 ワケの分からない渦の中に飛び込めばどうなるのか、まったく想像がつかない。しかし俺の心配をよそに、体は風ひとつ感じない上に音という音も無く、周囲は眩しいくらいに真っ白な空間で普通に立って歩けるのだ。


「何してんのよ。通信経路が断ち切られる前に早く出るわよ」


「断ち切られたらどうなるんだ?」


「宇宙空間みたいな永遠に続く真っ暗闇に閉じ込められるの。運良く何処かの通信経路と巡り合うまで、その期間は最低一週間だとか」


「何ぃ!?」


 俺は急いでエイマの背中を追いかけた。

 すると少し先に、何処かの部屋の中の景色が縦長の楕円形になって現れた。


「あそこが出口よ」


 ここを抜けた先が魔法界。

 固唾を飲んで楕円形の出口へと近付き、先に空間を抜けたエイマに続いて俺も空間と部屋の境界線を跨いだ。


 空間を抜けたその先は本当に何処かの部屋の中だった。

 板の間の古い木造建てのそこには本棚が並び、机と布団が敷かれたベッドには生活感がある。


 俺とエイマが出て来たのは、これまたゴールドの真鍮で縁取られた高価そうな姿見だった。姿見は俺とエイマの後ろ姿と部屋の中を映して普通の鏡の役目を果たしている。

 とてもこの中を通って来たとは思えない。


 まるで夢を見ているかのような現実とは違うフワフワした感覚の余韻に戸惑っていると、エイマは部屋の扉へと近付いて、扉脇に置かれた袖机の上のハンドベルを手にした。


「何だそれ?」


「これで来店を知らせるのよ」


 そう言って、ハンドベルを二、三度揺らした。

 チリンチリンと音がしてから間もなく、部屋の扉が開いた。


「エイマ? なんだ、こっちに来れたのか」


 開口一番に放たれた英語に、俺は口元を引きつらせた。


 扉を開けたのは強面で無精髭を生やした細身の男だった。ヨレヨレの白いシャツにジーンズを履いたその男は、若く見積もっても二十代後半だろう。彫りが深い顔立ちから西洋人だと伺える。


 そんな男にエイマが詰め寄る。


「なんだじゃないわよ! 何なのよあれ!? あんたが送った分身の種、腐ってたわよ!」


 流暢な英語で怒鳴り返すエイマ。

 彼女が英語を話せるのは不思議ではないが、実際話してる所を見たのは初めてだ。

 何となくだが、さっきの腐った種にクレームでもつけているのだろう。しかし相手は強面だ。

 俺はあまり怒らせない方が良いのではないかと気が気でない。


「腐ってたぁ? そんなはずは……あぁ分かった。あの分身の種の花は雪国育ちでな、熱に弱いんだ。お前確か、今日本にいるんだろ。気温が十度を越えたら種は腐る」


「気温? 確かに日本は春だから……けど、そんなの知ってたら買わなかったわよ」


「分かった分かった悪かったよ。詫びに好きな商品持ってけよ」


「本当に!?」


 何やらエイマが嬉しそうに声を上げた。

 すっかり蚊帳の外の俺はエイマの背後からこっそり耳打ちをする。


「なぁ、何話してるかこっちはさっぱりなんだが」


「はぁ? あんたこの程度の日常英会話も分からないわけ?」


 悪かったな。英語は苦手なんだよ……っ。


「ところでそっちのは何だ? 珍しいじゃねえか、お前が男を連れて来るなんて」


「こいつは私の日本人の従兄。今はこいつの家に居候してるの。早速で悪いんだけど、こいつ英語が分からないみたいだからアレを貰えない?」


「ほう。アレか。待ってろ」


 男は扉の奥へ消えるとすぐに戻ってきた。

 そして俺にサクランボのような赤い木の実を差し出してきた。


「何だこれ? くれるのか?」


「それは食べると世界の言語が理解出来るようになる木の実よ。この商店には世界中の魔法使いが買い物に来るから、言葉の壁を無くすために彼が作ったの」


 とエイマが日本語で解説するが、半信半疑で俺はそれを受け取り口の中に入れた。

 噛むと甘酸っぱい味が口の中に広がり、見た目通りただのサクランボだ。


 しかし。


「どうだ坊主。俺の言葉分かるか?」


 おお!


 さっきまで英語だった男の言葉が日本語になった。


「すげぇ! 言ってることが分かる!」


「はは。一般人の反応見るのは久しぶりだなぁ。俺はセイン・ボスウェル。ここの店主だ。お前、エイマの従兄なんだってな」


「はい。諏訪千暁って言います」


「千暁か。よろしくな」


 セインさんは見た目よりも気さくに笑う人で、俺はようやく安堵した。


「挨拶はその辺で。早く商品を選ばせてちょうだい」


「待て待て。客が入って来ないようにカーテン閉めて来るからよ」


「悪いわね」


 そう言って再び扉から離れたセインさん。

 何故他の客が入って来ないようにするのか疑問だ。


「ビップ待遇か?」


「ま、そんなとこかしらね」


 話している間にセインさんが部屋に戻って来た。


「よし、良いぞ。前に来た時より新商品もあるからじっくり見てけよ」


「ありがとう」


 エイマと俺が部屋を出たその先には、広い店内に所狭しと並ぶ物という物が陳列された棚が並んでいた。それはぱっと見で分かる物だったり、何に使うのか分からない物まで様々だ。


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