弐
「参ったなぁ。肝心な事、何も聞けなかったよ」
「あの様子じゃ、母さん達は何も知らないんだ。こればっかりは仕方ないよ」
一人はベッドの上で、一人は布団の上で大の字に寝転がっていた。そして同時に溜息をつく。
「人形供養……やばいよな」
健一がぽつりと呟く。
それに、うん、と小さく声が返った。
「あの人形をマジでどうにかしなきゃならねぇってのに、俺達には何も出来ないんだよなぁ」
健一が寝っ転がったまま、悔しそうに頭をがりがりと引っかく。
それを聞いて、怜治が独り言のように呟いた。
「どうにかするなら、今夜しかない」
その声音には、何かの覚悟が秘められていた。
健一がそれを聞いて上半身を起こす。
「今夜しかないって……何かいい考えでもあるのか?」
怜治は健一を横目で見上げた。
「健ちゃん、俺、あいつらに名前を教えてみる」
「な……っ、何考えてんだ! そんな事したら……」
健一の言葉を遮るように怜治は言い放った。
「夢の中で学校の屋上に行って、俺達二人共月を見たよな?」
「それがどうしたってんだよっ」
「それを利用するんだ」
それまでベッドの上でわたわたしていた健一の動きがぴたりと止まる。そして真剣な顔に変わった。
「……どういう事だ?」
「諦めさせるんだ」
言って、すっと健一から目を逸らし、天井を睨め付けるように見上げた。
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夕食の席で文代と菊代から、「明日は朝早くお墓参りに行くから、夜更かししちゃ駄目よ」と釘を刺された。だが、もう深夜一時になろうとしている。今夜は夢の迎えが遅かった。しかしその迎えもそろそろだと二人は思い、健一はベッドで、怜治は布団で横になっていた。そして今夜は音楽をリピート状態でかけるのも忘れなかった。さっきから楽曲が何度も周回している。
二人は夢に引き摺り込まれたら、今夜もまた図書室で落ち合おうと取り決めていた。そしてその時を待っている。時々目を閉じてみるが、目を開けてもそこは健一の部屋のままだった。なかなか夢の中に誘われない。
健一は息を軽く吐き出し、目を閉じたまま怜治に語りかけた。
「遅いな」
「でも、そろそろの筈だ。あいつら……いや、少なくとも雪野は健ちゃんに仕返しがしたい筈だから、必ず迎えに来るよ」
「だな」
答えて、皮肉げに口端を持ち上げる。
それを聞く怜治は頭の後ろで手を組んで、腕枕をしながら天井を見上げていた。幾度か夢に誘われるのではないかと考えて瞬きをしてみる。それでもそこは健一の部屋のままだった。
そこで怜治はふと気になった事があった。もしかして、すでに夢の中なのではないかという事だ。今夜は二日ぶりに健一の部屋で夢を見ているのではないかと。
そう思い当たり、いきなり身を起こして健一の寝そべるベッドへと駆け上がった。
「なんだっ。どうした、怜ちゃん」
それには答えずに窓から空を見上げてみる。網戸越しの空には月が昇っていた。その月の光を確かめる。
そこには普通の月が放つ光があった。当たり前の現実の月。あの偽物の月が放つ光ではない。それを確かめてベッドに座り込むと、俯いて溜息を吐き出した。
いきなり自分を跨いで外を見始めた怜治に驚いて身を起こした健一が、怪訝そうな顔で声をかけてくる。
「どうしたんだ? いきなり外なんか見て」
「いや……。もう夢の中にいるんじゃないかと思って、月の光を確認しただけだ」
「月?」
不可解げに言って、窓から空を見上げる。そこにあるのは月だけだ。夢の中で見た月と寸分違わぬ月だ。星は街灯の明かりに紛れてあまり多くは見えない。
「夢の中の月は、なんか違うんだよ。校舎を照らしてる光もなんか偽物じみてて、普通の光じゃないんだ」
カーテンを閉めながら言う。
「そうか? 俺には同じようにしか見えなかったけどな」
「兎に角、まだ現実みたいだ」
吐息を落とし、目を瞑る。





