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黄昏の約束  作者: 原作:水音/著:九JACK
現代絶海の孤島にて
18/20

夢現

 目を瞑ると、思い出すのは、陽斗の顔。儚げな笑みを浮かべる姿、資料を持ってくれる頼もしい姿、どこか悲しげな横顔、赤い目……

「赤い目?」

 記憶の限り、田島陽斗という人物は純粋な日本人だったはずで、黒髪黒目だったはずだ。それが、赤い目?

 何故赤なんて思い浮かべたのだろう。


「人間として会い見えたときこそ、人間として結ばれましょう」


 黒髪赤目の少年は陽斗とよく似た声でそう語った。それから、夕陽の射す中、ゆびきりげんまんを交わした彼と──幼い少女。

 黄昏の約束、という言葉が亜希の脳裏をよぎる。

 はっと気がついたときには視界が眩み──亜希は夢の世界へと誘われていた。


 時は夕暮れ、水平線に沈む夕陽が眩しく、亜希は目を細めた。

 傍らには寂れた小さな映画館。何十人か収容できればいいくらいといったくらいの。

 入口には今やっているのであろう映画のポスターが貼られている。だが、貼られて長いのだろうか、肝心のタイトルの部分が擦りきれていてわからない。ただ、告知写真には美しい夕暮れが写し出されていた。

 その写真に惹き付けられて、亜希は入口を潜った。受付に人の気配はない。どうやら無料映画館のようだ。今時珍しい。だが、この島のことだ。誰かが副業に開いているだけかもしれない。

 案内に従って、上映室へ向かうと、映写室というのがあって、からからと音がする。きっと中で映写機が回っているのだろう。レトロな映画館だな、と思いつつ、上映室の扉を静かに押す。

 座席が何十席かある中、中央辺りの真ん中の席にぽつんと一人、男の子が座っている。

 亜希は導かれるようにその男の子の隣の席へと向かった。場内には綺麗な音楽が流れている。きらきらとしたイメージの涼やかな音楽だ。

 それを半分に聞きながら、亜希は男の子の正体に気づく。

「あ、田島くん」

「……ぁ」

 陽斗は小さく反応し、ぺこりと頭を下げる。何故彼がここにいるのかわからない。彼は確か今、診療所に入院しているのでは?

 ──診療所? 入院? 何を考えているんだ? 自分は。田島くんはただ、この映画を見に来ただけじゃないか。何を不思議なことがあるだろうか。

 もう座っているが、「隣、いいかな」と聞いた。彼は黙って頷いた。

 彼はすぐにスクリーンに目を戻したようなので、亜希もスクリーンに目をやる。

 そこから見える夕焼けは窓枠の向こうだった。海が少し見える建物の中から撮っているらしい。水平線に夕陽が沈むのが見える。階下はどうなっているのかわからないが、良い景色だ。

 少しずつカメラが引きになっていく。そこが病室だということがわかった。白い清潔感のあるベッドに座っているのは、茶髪の少女。その少女と向き合うように、少年が椅子に腰掛けていた。

 ぱっと画面が切り替わり、少年の顔が大写しになる。そこで亜希ははっとした。

 黒髪に赤い目をした少年は、隣に座る陽斗によく似ていたのだ。違うのは赤い目だけ。目鼻立ちは同じといっていいほどだ。

 今日は、衣川が入ってくることはない。だが、衣川のことなど、亜希の頭からは飛んでいた。

 映画の少年を見て、彼女はようやく思い出したのだ、全てを。

「私は、私は……キヌ……」

 そう呟き、隣を振り仰ぐ。

「ヨウ!」

 やっと出会えた。奇跡の再会に喜びに満たされながら、亜希は隣の人物に呼び掛けた。

 隣の人物──ヨウの生まれ変わり、陽斗は、静かに彼女と目を合わせ、微笑んだ。

 彼は笑みを湛えるばかりで、何も言わない。

 亜希が不審に思い始めた頃、彼は口を開いた。


「やっと会えたね、キヌ。でも、さようなら」


 ふっと幻であったかのように消える彼の姿。

 その残滓に彼女は手を伸ばす。


「待って!!」


 そこで、目が覚めた。

 そこは清潔感のある白いベッドの上。

 伸ばした手は、ただ空を掴んだだけだった。



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