表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の約束  作者: 原作:水音/著:九JACK
現代絶海の孤島にて
14/20

暁の催促

 その日の夜、陽斗は不思議な夢を見た。

 夢を見るのは珍しくない。特に、ヨウだったときの夢は頻繁に見るから。ただ、その日いつもと違ったのは、小さな映画館の中の客席に座っていたことだ。目の前にはスクリーンがあって、そこにキヌと約束を交わした日の映像が映し出されていた。

 こうして見ると、まるで映画のような話だよな、と陽斗は他人事のように思った。

 しばらく見ていると、ふと隣に誰か座っている気配がした。さっきまで自分一人しかいなかったはずなのに、と思いながら、気配のした方を見、ぎょっとした。そこに座っていたのはキヌ──であるはずの、亜希だったのだ。不思議そうな顔をして、スクリーンを眺めている……

 そこで後ろからばたばたとけたたましい音がして、扉が開かれた。

「行かないで!!」

 切実に祈るような、聞き覚えのある声がする──


 ぱちり、と目を開いた。窓を見るとまだ薄暗く、夜明け前だとわかる。時計を見ると、午前は四時も回っていないようで、だいぶ早く起きてしまったな、と陽斗は思う。だが、眠気もないため、二度寝する気は起きなかった。

「散歩でもするか」

 思い立って、陽斗はカーディガンを羽織った。別に遠出するわけじゃないから、軽装でいいだろう、と寝間着にカーディガンを羽織って出る。

 なんとなく、近くの浜辺に向かって歩いていた。寄せては返す波の音が耳に心地よい。

 こんな時間に散歩をしているなんて知ったら、母さん怒るだろうな、と陽斗はふっと笑みを浮かべた。

 日の出まで海を見ていようか、なんて浜辺に立っていた。さらりと吹いた風が砂を巻き上げ、けほ、と少し咳をこぼす。

 水平線から日の出を拝めるとは贅沢なものだ、と思いながら海の向こうを見つめていると、ざく、と砂を踏む音がした。こんな時間に誰だ? と振り向き、驚いた。

「あら、田島くんじゃない」

「先生……」

 歩いてきたのは亜希だった。大人っぽいお洒落なサンダルに白いパンツ、水色のTシャツとなかなか夏っぽい格好だ。

「こんなところで何してるの?」

「日の出待ちです。先生は?」

「早く起きちゃったから、散歩。田島くん、随分早起きさんなのね」

「あー……たまたまです」

 夢で貴女に会った、とは言えず、陽斗は目を逸らす。「隣、いいかしら?」というのにこくりと頷いた。

 まるで、夢と同じだ。亜希が隣に座るなんて。

 そう思って緊張していると、亜希がくすりと笑った。

「どうしたんですか?」

「いや、夢みたいだと思って」

 陽斗が首を傾げると、亜希は続けた。

「さっき見た夢で、映画館みたいなところで、田島くんの隣に座っていたのよね。なんだか不思議」

 それを聞いて、陽斗は電撃の走るような衝撃を覚えた。自分がさっき見た夢でも、いつの間にか亜希が隣に座っていた。小さな映画館で。

 ──夢がリンクしている?

 咄嗟にそう思ったが、亜希が、「スクリーンはあったけど、やってた映画の内容までは覚えてないのよね」と呟いたことにより、我に返った。

 この人はキヌだけれど、記憶がなくて、結局亜希にとっての陽斗は「田島くん」という一生徒に過ぎないのだ。

「あ、そろそろ日の出の時間ね……わあっ」

 見て見て田島くん、と肩を叩いてきた亜希にぴくりと反応して、陽斗は海の方に目を向ける。曖昧だった海と空の境界線を明らかにするように、太陽が照らし始めていた。

 陽斗は何度か見ているのだが、今年この島に来たばかりの亜希には新鮮だったようで、しきりに興奮している。まあ、陽斗も、何回見ても飽きないくらい、綺麗だな、と思うのだが。

 暁、というのだったか。日の出のことを。

 ちょうど今の光景はあの「黄昏の約束」の日と対になっているようだ。傍らには亜希(キヌ)がいる。

 けれど、亜希はキヌだったことを覚えていない。

 陽斗はそっと、傍らの亜希の手に触れた。

 どうか、思い出して。

 そう祈りを込めると、心音がどくどくと高鳴り──やがて、陽斗の視界は眩んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ