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黄昏の約束  作者: 原作:水音/著:九JACK
現代絶海の孤島にて
10/20

葛藤

「まあ、恋慕を抱くのは勝手だがな、相手は教師で、俺たちゃ生徒だぜ? どっかの恋愛小説でもあるまいし、想いは引っ込めた方がいいんじゃねぇの?」

 確かに、衣川の言う通りだ。耳に痛い。

 そう、陽斗と亜希は生徒と教師の関係。少女漫画なんかで「生徒と教師のイケナイ恋」なんてのも巷ではそこそこの需要があるらしいが、実際問題、実現するのは難しい。何せ、教師と生徒では、年が離れすぎている。

 恋愛に年齢なんて関係ない、という言葉はよく聞くが、世には外聞というものがある。そりゃ、十年二十年となれば年の差なんて気にならなくなるだろうが、黄昏の約束を果たしたい陽斗としては、そんなに長い年数待っていられないのだ。

 人間になったものの、陽斗の悪魔だった頃の気質は失われてはいない。悪魔は欲深く、辛抱の利かない生き物なのだ。

 せっかく会えたのに、という思いもある。だが、陽斗は無理矢理亜希にキヌとしての記憶を取り戻させようとは思わなかった。あの約束は穢れのない純粋なものにしたかったから。

 もどかしいとは思う。けれど、陽斗は自力で思い出してほしかった。そうしたら「また出会えたね」と笑い合うことができるはずだから。

 笑っている亜希(キヌ)を見たかったから。

 前世で元の寿命より長くなったキヌであったが、そのために犠牲になったヨウの寿命を思い、あまり明るい笑顔は見せてくれなかった。だから、今度は満面の笑顔を見たいのだ。

 ヨウはキヌに惹かれていた。憂いを帯びた彼女の表情も麗しかったが、やはり、日だまりのように笑っていてほしい。

 大人になって、快活に健康に暮らせているということは、あの頃のように病に悩まされることはなく、伸びやかに生活できているということだ。ヨウはそうして幸せを噛みしめて生きていく彼女の人生を望んだ。

 そこに自分のような異物が割って入るのはどうかと思われた。

「はは、もちろんわかってるさ」

 それでも気になることは気になる。複雑な心境を抱えながら、本日は解散となった。


「はあ、しかし……」

 初日で知り合ったクラスメイトの名前が「きぬがわ」とは。「きぬ」という言葉と自分には縁があるのではないか、ととりとめのないことを考える。

 薄暗くなってきた窓のカーテンを締め、より暗くなった部屋の中で、ベッドにぼふんと飛び込む。

「……はあ」

 一言で言い表すなら、憂鬱だ。

 チャラそうな隣人ができたのはともかく、あの亜希という教師が自分のクラスの副担任ということは……関わらずにはいられない。

 それを想像すると、辛くて仕方なかった。自分は覚えているのに亜希(あのひと)にとって自分は赤の他人なのだ。そのように接される未来を予測するとより一層心に鬱屈としたものが溜まっていく。

「……思い出してくれたらいいのに」

 ぽつりと呟いたそれが我が儘であることは百も承知だ。

 けれど、彼女は彼女で幸せになってくれるのなら、それはそれでいいのだろう、というのも陽斗の一つの考えである。

 だが、前世でまた会おうと約束をしたのだから、やはりそれは叶えたい。

 そんな二つの思いの間で、陽斗は葛藤していた。

 葛藤しているうちに心の中がぐちゃぐちゃになって、胸が掻きむしりたいほどに痛くて苦しくなってくる。まずい、と気づいたときにはもう遅い。──発作がやってきた。

 しばらくげほげほとしながらその場に踞る。落ち着いてきたところで、なんとか吸入器を取り出し、懸命に息を吸う。途中、噎せたが、応急処置だ。仕方ない。

 頭もがんがん痛くなってくる。どうにかなるわけでもないが、陽斗は頭を抱えて踞り、ぜぇぜぇと息を繰り返した。

 本当は、心の底で思っているのだ。




 ──なんでもいいから思い出して、キヌ──


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