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チュートリアル14

「全く! 何だってんだ!」

「あはは、確かにさっきの文章はちょっと腹が立ったよね」


 珍しく憤慨するテンリと、目が全く笑っていない状態で笑い声をだすトーカがクエストを受けたおっさんのところに戻って来ていた。

 現在はクエストを完了して料理店の中に入ってきているところだった。


「クエストの報酬が料理だけってのもまたなんとなく腹が立つしな」

「そうだね、獲得した食材もほとんど持っていかれちゃったし」


 二人はぐちぐちとひたすらに文句を言いながら料理を待っている。

 この時点で料理が出来ているはずなのに待たせる理由は何なのだと文句を言いたくなるテンリだったが、テンリがそのことについて文句を言う前にトーカが「そういえば」と話を変える。


「いったいどんな料理が出てくるのかな?」

「ああ、まあそれについては予想できるよ」

「え? 本当?」


 テンリからのまさかの返答にトーカは驚く。

 そのトーカの反応にテンリはニヤリと笑うことで返すと「あくまで予想だけど」と前置きして話し始めた。


「まず、この島のルールだけど。三日おきに島の配置が変化するってものだったのは覚えてるよな?」

「え? あ、うん」

「じゃあ聞くけど、五つの島の配置って何パターンあるだろう?」

「え? えっと………………わかりません」


 全身不随になって以降あまり勉強していなかったトーカはショボンとなる。

 そのことにテンリは軽く笑うと、キッとトーカに睨まれたので視線をそらす。

 が、すぐに向き直るとトーカに言い聞かせるように解説し始める。


「じゃあまず六つの島をそれぞれ《1》、《2》から《5》って番号を付けて、それぞれの島の位置を《A》、《B》から《E》まで設定するとしよう。

 それで、とりあえず《A》の位置に《1》から《5》まで好きな番号の島を配置できるとしたら、《A》に配置できるのは何通り?」

「む! それは流石にバカにしてるでしょ! 《1》から《5》まで入れることが出来るなら5通りじゃない」

「そうだね、正解だ」


 プクゥと頬を膨らませるトーカに苦笑しながらうんうんと、うなずいて「じゃあ」と話を続ける。


「《A》の位置に何か好きな数字を入れたとして、次に《B》の位置に別の番号の島を入れるとしたら、《B》には何パターンの島を入れることが出来る?」

「えっと、《A》にすでに一つ島が入ってるなら、5から1を引いて4通り?」

「そうだね。じゃあ《C》について入れてみると──」

「さらに一つ減るから3通りだね。あ、ということは《D》の時は2通り、《E》の時は1通りだから全部で15通りだ!」

「うん、不正解だね」

「なんで!?」


 ひらめいたという感じのトーカの答えをバッサリと斬り捨てるテンリ。確かに間違っているのだが、実に慈悲容赦ない対応だ。さすが魔王であり《断罪者》であると言える。

 ビックリするくらい容赦なく違うと言われてプンスカと怒るトーカにテンリは苦笑を浮かべる。


「途中までは合ってたよ? でも最後の詰めの部分が間違っているんだ」

「どういうこと? あとは足すだけでいいじゃない?」

「残念ながらそうじゃないんだな。

 例えばだけど、《A》の位置に《1》の島を当てはめたとしたら、その次の《B》の位置には《2》を入れることも出来るし《3》の島を当てはめることも出来るし、《4》や《5》も同様に当てはめることが出来る」

「そうね、だから4通りなんだし」

「うん、でも、それだけじゃない」


 まるで学校の先生のようにさらに解説を始めるテンリ。


「もしも《A》の位置に《2》の島を入れたら、《1》、《3》、《4》、《5》を入れることも出来るよね。

 そしてこれは《A》の位置に他の番号を入れても一緒だ。

 つまり、《A》の位置に《1》から《6》を入れたとき、それぞれの番号ごとに5通りのパターンで《B》の位置に島を配置することが出来るんだ」

「う~ん……ということは5×4で20通りってこと?」

「そう、その通りだよ」

「ムムム……その流れだと、全部を掛け合わせるのが正解になるのかな?」

「そうだね。これは図に書いて分岐させていくのが一番わかりやすかったりするんだけど、まあともかくこの場合は足し算じゃなくて掛け算をする必要があるんだ」

「ということは5×4×3×2×1=120通りだね」

「そう、その通り」

「やったね」


 トーカの言葉にテンリはうなずき、トーカも喜ぶ。


「でも、それがどうしたっていうの?」

「ああ、ここまでは簡単な数学の問題だからな。ここまでは前座みたいなものだ」


 今の計算に何の意味があるのかというトーカの質問に、マサムネはここからが本題だというのを伝える。

 そのことに気がついたトーカが聞く態勢に入ったので、テンリはさらに話を進める。


「さて、島の並べ方は120通りあるとわかったわけだけど、この島の配置が換わるのは何日おきだったっけ?」

「三日おきでしょ? 何なの? さっきから私をバカにしてるの?」

「そんなつもりはないよ」


 あまりにも簡単な問いかけが続いて、頬をプクッと膨らませるトーカにテンリは苦笑して弁解する。


「そう、三日おきなわけなんだけど、じゃあ島の配置が全てのパターンを迎えたときには何日消費していることになる?」

「え? 三日おきの120通りだとしたら3×120で360日……ってほぼ一年じゃん!?」

「そうその通りなんだよね」


 ようやっとここまで来たという反応のテンリに、トーカは未だ驚きが収まらない。


「まさかこのイベントは一年に一回しかないとでも言うの!? そんなのものすごく大きなイベントじゃないか!? ボクたちそんなイベントをやっていたの!?」

「そうだよ、だからきっと時間がかかるって言ったんじゃないか」

「な、なるほど……」


 テンリが面倒くさがっていたのにはちゃんとした理由があったことに今更ながらに気がついたトーカは、なんだか少し恥ずかしくなって頬を朱くしながらうつむく。

 その様子にテンリはちょっとドキッとさせられてしまい、誤魔化すように咳ばらいをして補足する。


「まあ年に一度はこのイベントの内容だと確定とは言えないけどな。もしかしたら崖の上の料理店がある島が今いる位置に移動したときにイベントが発生するとも取れるし」

「……でも、これだけ大掛かりなイベントならきっと年に一度のものじゃないのかな?」

「まあ、そう考えるのが妥当だと思うけどな。……だからこそイベントが中途半端な気がして腹が立つわけなんだけど」


 テンリが怒っていた理由はそこにあった。

 なぜなら、年に一度のイベントなはずなのに、様々なところが手抜きをされているようなものであり、尚且つ最後の最後はあれだけ期待させていた海底への道がないなどという始末。

 これは例えるなら未だ完成していない世界遺産──サグラダファミリアを手抜き工事したかのような所業である。ゲーマーにとってみれば、世界中の建築家が怒鳴り込みをするよりも恐ろしい事態になりそうな予感がする所業と、同じようなレベルで腹が立つことだ。


「ともあれ、これがほぼほぼ一年に一度のイベントなら、食材を確認することで料理をなんとなく予想できると思うんだよな」

「食材? えっと、確か食材は豆と栗と卵と昆布と伊勢海老だったよね? それで一年に一度って言ったら…………あぁ!!」


 テンリの言葉を聞いて考えたトーカが、今までなぜ気づかなかったのかとばかりに大声を上げる。

 突然大声を上げたトーカにテンリはビクッとなり、そしてさらに次の瞬間にはトーカの顔がものすごく近くに寄ってきたことにさらにビクッとなる。魔王様を驚かせる移動速度とは並ではない。あの最後までからかわれた勇者がこの光景を見たら唖然とするだろう。

 しかし、当人はそんなことなど知ったことではないと、至近距離からテンリに確認する。


「もしかして、おせち料理?」

「あ、ああ、多分ね」


 豆はフィールドが黒かったことから〝黒豆〟と判断できるし、栗は〝栗きんとん〟に、昆布は〝昆布巻き〟になって、伊勢海老は豪華になった〝海老〟である。

 これらはそれぞれに意味を持つおせち料理の定番だ。

 テンリの予想では最後の海底があるのなら〝鯛〟のようなモンスターが出てくるのではないかと予想していた。まあ、それもなくなっているのだが……


 もちろん一年に一度というのが確定ではないし、もしかすれば何か別の料理ができるかもしれないが、確率としては高いだろうという判断だ。


 そして、


「おう、料理ができたぞおめえら」


 それは料理をおっさんが持ってきた重箱を見て確信に変わった。

 綺麗な模様が描かれた重箱をおっさんが置くと、少しもったいぶるかのようにゆっくりと開ける。


 そこには──


「「おお~!」」


 まさに「宝石箱や~」と言うかのようなキラキラと輝く食材たちがあったのだった。


 ◇◆◇◆◇


「うまっ! 栗きんとんうまっ!」

「この伊勢海老もぷりぷりで美味しいよ!」


 なんとも中途半端なクエストをクリアしたテンリとトーカはクエスト報酬の一つである豪華おせち料理を堪能していた。


 獲得した食材たちは非常においしく、また他にも綺麗な紅白かまぼこなどの触感も本物さながらでありながら、しかし味わい深さがより深くなっているように感じたりと、獲得していない食材たちにも味に力が入っていて、それはもう頬が蕩けるようなものである。


「それにしても今って春だよね?」

「ん? おう、そうだと思うけどな」


 ふと、思い出したようにトーカが放った言葉にテンリが反応する。その顔には「どうしたいきなり?」としっかり書かれてあった。

 その顔に対してトーカは疑問に思ったことを口にする。


「なんでこの時期にイベントがあったのかなぁと思って」

「……ああ、なるほど、おせちと言えば正月、つまりはもう少し時期が前のはずだってことだな」

「そういうこと」


 トーカの発言にテンリは納得した。


 もうすでにこのデスゲームが開始されてから一年近くが経っている。正式サービス開始がだいたい新年度早々の時期であったことから、現在はどう考えても春なのだ。

 そんな中でなぜ正月料理ともいうべきおせちがこの時期なのか、何ゆえか食にこだわりが強いトーカの発言に納得する。


「考えられるのはあの馬鹿どもが、とりあえず今完成されているイベントを片っ端から特に考えることもなく入れたってとこか? この迷宮内でも後半のイベントってなんだか結構ひどい内容のものが多かったからな。デスゲームが始まれば外からの干渉なんてほとんどできないだろうし……」

「なるほど、それは確かにあるかもしれないね」


 今度はテンリの言葉にトーカが納得を示す。

 さらにトーカが島を走り回って手に入れた卵から作られた伊達巻きを口に運びながら、


「そういえばあの人たちってどうなったの?」


 と今更のように質問した。

 トーカとしてはあのあまりにも自己中心的な阿呆どもなど興味がないし、そのタイミングでテンリのことが好きだと気がついてそれどころではなかったために忘れていたのだが、今その話が出てきたのでちょっと気になったのだ。

 そんな、トーカにとってみればあっさりと忘れられるような取るに足らない質問だったのだが、これにテンリは黄金色に輝く数の子を口にいれようとしたところで「うぐっ」とうめきながら一時停止し、そしてこう答えた。


「…………食事中に答えることじゃない」

「いったい彼らに何をさせたのさ!」


 まさかの返答にあの馬鹿どもがいったいどんな目にあったのか逆に気になってしまったトーカ。まあ、今の発言を聞いて気にならないほうがおかしいだろう。

 だが、その発言をしたことにトーカは後悔することになる。


「いや、別にただ仲良く(・・・)してただけだよ? うん、それだけ」

「へえ~、本当に~?」

「本当だよ! ただ、その……仲良く(・・・)の度合いがちょっと、ちょ~っとだけ普通じゃない(・・・・・・)だけで…………」

「? …………な!? ま、まさか!?」


 最初は強く言い切ったテンリがだんだんとしどろもどろに意味の分からないことを言い始めたのでトーカは不可解に思うが、その後に仲良く(・・・)の意味を理解して唖然とした。


「……もしかして、肉体的に仲良く?」

「…………さあ?」

「その間は肯定だよね?」

「…………さあ?」

「……そうなんだね」

「…………」

「……はぁ」


 まさかの事態にトーカはため息をつくことしかできなかった。


「まあ、確かにあの人たちにはいい罰になるのかな?」

「………………たぶんな」

「なに!? その間は一体に何!? そして多分ってなに!?」


 想像したくもないような状態であろうアルトリアたちのことを思うと、なんとなくそれくらい強要されて当然ではないかなと思ったりしたトーカだったが、なぜか煮え切らない態度のテンリに驚愕した。

 テンリはテンリで渋い表情をしながら、


「いや、目覚めるかもしれないし?」


 などとトンデモナイことを言うのでトーカはまたしても「何のことですか!? アホなんですか!? アホなんですね!?」と声を荒げる。


 実際、人間というのは初めはいやでも、強要され続ければそこに楽しみを生み出してしまうこともあるし、あるいは現実逃避気味に嫌悪感の非常に高いものを好きになってしまうことなどというのも……まあ、なくはない…………だろう。

 テンリは過去にそういうことを好きになった人種を何度か見たことがあったりするので、100パーセントないとは言えないのだ。


 そんな過去のちょっと恐ろしい経験を思い出してしまい、まさしく「嫌なものを思い出してしまった!」という顔をしたテンリを見て、なんとか衝撃の情報から回復したトーカが話題を変えるように「こほんっ」と咳ばらいを一つ。


「じゃあ、テンリくんの中にボクへの恋心は目覚めてくれたかな?」

「ふぇ?」


 まさかの質問にテンリくんからアホな声がでた。ついさっきまでの話との落差もあったので無理はないかもしれない。


「な、何を──」

「ん~? だって、今回のデートに関してはボクのことを好きになってもらうために行動していたわけだし?」

「うっ」


 それからトーカが言った言葉の意味を理解したテンリが慌てたように言葉を発そうとしたが、そこに食い気味に、普段のトーカなら使わないようなおどけた、しかしあざとく可愛らしさをアピールするような声でそんなことをのたまうので、彼女いない歴=うん千年の魔王様は言葉に詰まる。


 そんな魔王らしからぬ態度にクスクスと笑いながらも「で、どうなの?」と問うトーカ。どうやら逃がしはしないらしい。

 そして、テンリも自分を好いてくれている女性に対して無粋なことを言うわけにもいかないので、


「好きなのは変わらないし、トーカを大事にしたいって気持ちもあるにはあるさ。それこそ、付き合いたいなぁ、と思うくらいには」

「ほ、本当!? ……って、なんでそんな顔をしてるの?」


 その点については嘘はないとハッキリ宣言する。それに喜ぶトーカだったが、そのあとに困ったような顔になるテンリにトーカは戸惑いの表情を浮かべる。


「でも、俺たちの関係はたぶん、この仮想世界の中だけだろう」

「な、なんで──」

「たぶんだけど、ゲームクリア後の俺はゲーム内で殺人を幾度となく行ってきた危険人物だし、そんな人間が自由に何かを出来るとは思えないから」

「そ、そんなの、この状況ならやむを得ないんじゃ──」

「────いや、そうしなければいけないと俺自身が思っているんだ。これは俺が背負うと決めた罪だから、相手が赦すとか赦さないとかそういう問題じゃない」


 そもそもこの世界において、自分の行為について〝赦す〟ということを行うのは、正しくは他者ではなく自分だ。

 そしてこのゲームが始まって以降、犯罪者プレイヤーだけとはいえ幾人もの命を散らしてきたことをテンリ自身が赦すことはおそらく一生できないのではないかという感情があった。


「今、トーカとこうして楽しい時を過ごしていることさえも、もしかしたら俺がキミに甘えているかもしれないって何度も思ってしまうんだ。

 もしかしたらトーカは俺を許してくれるかもしれないけれど、でももしそれに甘えてしまったら、俺は俺が犯した罪を忘れてしまう。そんなことは俺にはできない。

 それにそもそもこんなことを考えている時点でキミと一緒にいるべきではないかもしれない……」


 テンリの感情は結局のところ、これだけ純粋に好きだと言ってくれている人に対して、自分が不純な動機を持っているから、あるいはこれからのことを考えるなら確実に自分は生きずらい人生を送ることになるだろうということがあって、そんな自分がトーカと一緒にいていいのかという不安だった。


 これはある意味では彼女いない歴=うん万日の男がいろいろこじらせたりしたものもあるかもしれないが、やっぱり存在する男の意地みたいなものでもある。

 男なら、付き合う女性にカッコつけたいと思うし、何よりそれが自分のことを好きだと告白してくれた側であるのならなおさら気合が入ったりする。


 だからテンリとしては「やっぱり付き合うのは……」と思ったのだが、


「うん、なんかテンリくんがアホだってことがよくわかったよ」


 トーカの言葉はなんとも辛辣だった。

 「んな!?」みたいな顔をしているテンリに対して、トーカはやれやれとなぜかアメリカンな雰囲気で大げさに肩を竦める。


「キミはボクを舐め過ぎだよ」

「?」


 トーカの言葉に意味不明という顔のテンリ。それを見てまたアメリカンなやれやれをしたトーカはもっとわかりやすく説明する。


「ボクは、キミをそんなことで諦められるほど安い恋をしたつもりはないよ」

「な、そんなことって──」

「ボクにとってはそんなことで済まされるレベルなんだよ」


 互いに互いがこだわるポイントというのが同じだということは世の中ではほとんどないだろう。それが男と女ならなおさらだ。特に男の意地なんてものは得てして女性からしてみれば「そんなことで……」とあきれられることも多いことが多々ある。

 だから、トーカからしてみればテンリが付き合うことをためらう理由なんて、それはそれは取るに足らないものであり、そんなもののために自分が好きな人と付き合えないと言われても納得などできるはずがない。


「それにね? キミはボクとこうやって過ごしていることを不純だなんて言うけれど、ボクだって打算的な狙いがあったりするよ?」

「は?」


 まさかの発言にテンリが驚くが、トーカはなんてことのないようにその狙いを告げる。


「テンリくんが魔王なら、ボク身体を直してもらうか、あるいはホルムンクルスでも作ってもらおうかなぁって思ってたし。うん、どうせならボクの身体を魔術的マシーンとかその他もろもろ魔法で改造してもらうのもいいかも」


 これはトーカの本音だ。

 テンリが魔王だと認識したその時からテンリに将来的には現実で動ける身体を作ってもらおうと思っていたのである。

 そのことを知らされたテンリは唖然としていたが、トーカは「それに……」とまだ何か話すことがあるようだった。


 いったいこれ以上何があるのだろうかと戦々恐々としているテンリにトーカは告げる。


「今更じゃないの?」

「へ?」

「忘れたとは言わせないよ? 〝ボクにパートナーでいてほしい〟って。

 この言葉はボクにとってみればプロポーズと何ら変わりがないからね? だからキミが今している行為はプロポーズ後に怖気づいたあほ男だよ? 一体何を血迷ったらそんな発想になるんだか……」

「あ、あれ?」


 テンリはここに来て自分の発言や行動のおかしさに気がついた。

 そもそもそんなことを言うくらいなら、最初からトーカと一緒に行動しなければよかったわけで、だからこそ今その点について悩んでいること自体がおかしいのだ。


「まあ大方、これまではほとんど楽しむという行為をこの世界でしてこなかったから、ここに来て自分はこんな風に楽しんでいていいのかって思ったのかもしれないけど……」

「うっそうかもしれない」


 最初にトーカと行動したときも、トーカからの依頼という面があったし、その後の冒険でも何かしらの建前が存在していた。

 それが今回に関しては全くなかったので、ふとそんなことを考えてしまったのではないかというのは実に的を射ていた。


 そんな一人で阿呆なことをしていたことに気がついたテンリはテーブルの上に突っ伏してしまうのだった。


「とまあそういうわけで、まあ付き合う付き合わないは別にしても、キミにボクの身体を何とかしてもらうまでは逃がさないからね?」

「…………はい」


 最後にまた冗談めかしてそういうトーカの笑顔にテンリは癒されたのだが、なんとなく言い負かされて悔しかったのでブスッとしながら答えるのだった。


 そして、それからいろいろと吹っ切れたテンリはとりあえずこのおせちを食べてしまおうとやけ食いしていたところで、ピコンッとメールが届くSEが鳴った。


「………………そうか」


 そのメールの差出人が誰か分かっていたテンリはすぐにメールを開くと、その表情を真剣なものに変える。

 そして──


「コンソールがあるであろう場所が見つかったそうだ」


 このデスゲームを終わらせるための最後の冒険が始まりを告げたのだった。

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