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チュートリアル9

「全く、一人で闘ってるんじゃないんだから気を付けてよね?」


 圧巻の剣技を披露してテンリのもとに戻ってきたトーカの第一声がそれだった。

 テンリは思わず「うっ」となってしまう。

 確かに先ほどの戦闘ではトーカを万が一にも死なせないためにという意思をもって行動したものの、最後の最後はフォローされてしまった形なのだから、トーカの言葉にはぐうの音も出ない。


「すまなかった。途中から意識が完全に自分のことだけに集中してしまってて」


 これは事実ではあるが、久々の真剣な戦闘とはいえ周りの状況が見えていないというのは魔王としてはちょっとした痛手だ。これは反省せねばならない。


「……まあ、いいけど。ところで目当ての金属は手に入ったの?」


 テンリの気持ちがトーカに伝わったからか、トーカはしばらくジトッとした目を向けていたもののすぐにそれをやめて話を変える。

 そのことにテンリは内心ほっとしながら、また責められないようにきっちりと返答を返す。


「ああ、《熱氷石》っていう安直な名前の鉱石が獲得アイテムに入ってた。これが多分これまでなかった火と水属性の特攻があるやつなんだろう」

「そっか、よかったね」


 トーカはテンリの言葉に納得したようにうなずく。──と、トーカは思い出したようにテンリを見つめて言った。


「ところであれはアビリティをつなげるっていうできそうで誰も出来なかった幻の技術《必殺接続》だよね?」

「え? あ、まあそうだな」


 なぜか定着してしまった《必殺接続》という謎のワードにテンリは戸惑いながらもうなずく。これについてはいつの間にか定着していたのだ。もっとかっこいい名前はないのだろうかとテンリは思ったが、時すでに遅しと言った感じなので、出来る側としては微妙な気持ちでいっぱいだった。

 閑話休題。

 そんな戸惑いながらもうなずくテンリにトーカはものすごく瞳をキラキラとさせながら質問してきた。


「それってどうやったらできるの? みんなやろうとしてもできないみたいじゃん!」


 そりゃあ右手で〝襲〟と書きながら同時に左手で〝撃〟と書くくらいの難易度だから普通はできないよなぁとテンリは納得しながら、しかしさてどう説明したものかと悩む。

 そのまま実は魔王なんですと言うこともできるし、その方が手っ取り早いとも思う部分はあるが、信じてもらえない可能性の方が高い。というよりどう考えてもかわいそうな目で見られることが明白である。

 ただトーカにはなんだか嘘は通用しないような印象を受けるために下手なことも言えないのでどうしたもんかと言った感じなのだ。

 そういったもろもろの事情からいろいろと悩んだ結果テンリが出した答えは──


「……うーん、必死に練習してたらたまたま俺はできた感じかな?」


 嘘は言っていない。

 テンリもこの《必殺接続》は必死に練習した結果だし、その結果《並列思考》を魔王としての能力の中で獲得したことでたまたまできるようになったのだから、嘘ではないのだ。

 もちろん核心を突くものではないものの、この辺りが一番無難だろうとテンリは判断して答えた。


「ふーん、テンリくんだからできた感じなのかな?」

「さあね。他にもできる人がいるかもしれないけど、俺は知らないかな」

「そっか、まあ私も頑張っても出来ないからそこに力を注ぐよりはオリジナルアビリティに力を入れる方が建設的か~」

「…………」


 それも十分すごいことなのだが、とテンリは思ったが言わないことにした。一応トーカの方が現実的ではあるのだ。


「……そうじゃないかな? ともあれ、ボス攻略も終わったしさっさと次の階層に進んでしまおう」

「そうだね」


 そう言って二人はボスを倒したあとボス部屋の奥に現れた魔法陣に向かって歩き出し、足を踏み入れた瞬間に転移が発動した。


 ◇◆◇◆◇


「はあ~すごかったね~」

「そうだな」


 テンリとトーカはいったん44層のテンリの家に帰って来ていた。


「まさか序盤に出てきたモンスターたちが大量に出現するなんて」

「しかも十分強くなってたしな」


 二人は苦笑しながら先ほどまでいた45階層の光景を思い出す。

 45階層の転移した先は草原だったのだが、そこに出現してきたモンスターたちは序盤の階層に出てきたもののレベルやモンスターの格が上になっていたものたちが多数だった。

 転移直後の場所だけにそこまで多くのモンスターとエンカウントしたわけではないが、それでも迷宮の最終盤の階層にふさわしい強さを物量を併せ持っていることが感じられるだけの戦闘を二人は強いられたのだ。


「まあ、ある程度予想できてはいたけどな」

「どういうこと?」


 テンリがあれはきついなぁと先ほどの戦闘を思い出しながらぽつりとつぶやいた言葉にトーカが反応する。

 それに対してテンリは特に隠すことでもないと答える。


「この前のボス戦の時もそうだったけど、序盤の階層に終盤の階層のヒントとなる部分があるって言ってただろ? 今回もそれと同じだよ。25層はかなり遺跡が多かったわけだけど、その遺跡にいろいろな情報が断片的に書かれてたから、そこから予想できたわけだ」

「へ~」


 テンリの言葉にトーカは驚いたような顔をする。

 だがテンリはそれだけでは不十分とばかりに話を続ける。


「このゲームでのモンスターの格で行くとドラゴン基本的には最上位だ。それで統一された階層を抜けたとなったら、あとはもうモンスターたちが入り乱れるしかないっていう展開も予想できるしな」

「……なるほど、確かに言われてみればそうかもしれないね」

「で、多分だけど45から49まではモンスター入り乱れの階層になるんじゃないかな?」

「ふーん、50階層は?」

「そこはまあ迷宮のラスボスだろう。ゲーム的に」

「確かに、それはありそう」

「ま、こういったゲーム的に見たイベントの予想は無粋だけどな」


 そう言うテンリは薄っすらと笑みを浮かべていたが、すぐにその表情を引き締める。


「じゃあちょっと俺は鍛冶部屋に行ってくるわ。どんなインゴットができるか確認してくる」

「そう、ならボクは今回倒したツイン・ヘル・ドラゴンから手に入れた肉を調理するよ。毒見はよろしくね?」

「……なぜ毒見なんだ」


 テンリは苦笑しながら鍛冶部屋へと入ろうとした。


 コンコン


 扉がノックされたのはそんな時だった。


「なんだ?」


 テンリの家に来たいと思うもの好きなどこの世界に一人しかいないと失礼なことを思っていたテンリは首を傾げる。


 そもそもそう簡単に《断罪者》の家に尋ねてこられると恐怖と狂気のイメージがある《断罪者》という存在の神通力の効果が低下して望ましくないのだが、と内心毒づきながらもテンリは仕方なく扉を開けると、そこには幾人かのプレイヤーがいた。


「どちら様ですか?」

「おっと、そんなに怖い顔をしないでいただきたい。念のため確認させていただきますが、あなたがこの世界で最強と謳われている《断罪者》様でよろしいでしょうか?」


 テンリがそれなりの威圧を放つも、先頭にいた男がうっすらと笑みを浮かべてすぐに話しかけてくる。


「人に名乗らせるなら、まずは自分から名乗るべきなんじゃないかな?」

「──っ!?」


 その丁寧な言葉遣いながら、発言の中にひしひしと感じる見下した雰囲気に魔王としての威圧を抑え気味に放ちながらテンリが話しかけると、流石にその威圧には耐えられなかったのか、男は一歩後ろに下がる。


「…………」


 そのタイミングを見計らって背後にいる面々を確認してみると、どれもが最前線で闘っていたメンバーではないことが分かった。

 それに──


(……装備は見たことがないくらい豪華だな)


 テンリはそれほど意識していなかったが、装備がかなりキラキラ……どころかギラギラしている感じで、まるで自分こそが至高の存在とでも思っているかのような印象を受ける。

 身に纏っているものから振る舞いから態度から、すべてがテンリとは相容れないタイプの存在だとは思った。


「それで? もしかしてプレイヤーネームは名乗れないほど恥ずかしいやつだったりするのかな?」

「なっ! そんなわけがないだろう! 私の名前はアルトリアだ!」

「そうか、まあどうでもいいけど。一応俺はこのゲームでは《断罪者》で通っているプレイヤーだ。それで? そんな俺に何か用なのかな?」

「キサマッこちらが下手に出ていれば調子に乗りおって!」

「そんなもの、この家に家主である俺の方がこの場では偉いに決まってるだろ? むしろ人様の家に押しかけてきてその言葉遣いは何なんだ?」

「グッ」


 アルトリアと名乗ったプレイヤーの取り巻きの一人が怒気を表すが、テンリは冷静に正論をもって説き伏せると、あっさりと主張をやめてしまった。

 今のはテンリが狙って起こした安っぽい挑発だ。相手がどれくらい御しやすいかというのを判断するにはちょうどいいものだと思って言ったのだが、取り巻きがあっさりと反応してしまった。

 アルトリア本人はそこまで過剰な反応をしなかったが、そんなものにさえ乗ってしまうような愚か者が取り巻きにいるパーティーがなぜこんな場所にいるのだろうかと、テンリは本気で訝しむ。


(──一応考えられることはあるが……本当にこいつらがそうだとは思えないなというか……そういう場合は全力で許さないが……)


 脳内に出てきた一つの可能性をテンリはまさかと思いスルーして、とにかく今は情報収集しようとの判断に入る。──が、ここで思わぬ闖入者が現れた。


「あれ? アルトリアさん?」

「おおっ、トーカ君!」


 なんとトーカがいかにも胡散臭い男だとテンリが判断した人物と知り合いだったのだ。


「トーカ、この人たちは?」

「あ~、えっと……」

「構わない、私たちは彼にその話をするために今日ここにいるのだから」

「よくわからないが……じゃあとりあえず場所を変えたいんだけどいいか?」


 二人のよくわからない意思疎通にテンリは何故か不愉快な気分になるが、どうやらこの強制イベントは避けられないのだろうとテンリは判断して、場所を変えることを要求した。


「ん? ここじゃダメなのか?」

「ああ、よくわからないが、大事な話なんだろう? それならそれ用の部屋を用意してあるから、そこに移動したいって話だ。場所は別に罠を張ってるような場所じゃないぞ? 7階層に一つ家を買ってあるんだ。そこに行こうって話だよ」

「なるほど、了解した」


 テンリの言葉にアルトリアがうなずく。


「じゃあ、ついて来てくれ」


 ◇◆◇◆◇


 テンリの案内でトーカとアルトリア含めたちょっと怪しげなプレイヤーたち数名は7階層にやって来ていた。


「ここだ」


 テンリが立ち止まった先にあったのは、まるで大きくない、小さな小屋のような場所。

 それこそトーカたち全員がぎりぎり入れるのかどうかと言ったくらいの大きさで、正直に言えば《エアライズ・オンライン》最強を冠する《断罪者》の買った家とは思えない。


「ここがお前が買った家なのか?」

「ああ、念のために買っておいた隠れ蓑みたいなところだからな。目立つような場所ではなくしたんだ」


 アルトリアやその他不審者(テンリ視点)のメンバーたちは驚きの表情になっているが、テンリはなんてことのいないようにそう答えて中に入っていくので、他のメンバーも文句は言えずに中に入る。


「それで? 話したいことってのは何なんだ?」


 テンリは全員が部屋の中に入って早々に本題に入れと言ってくる。


「……いきなりだね」

「別に? あんたと何か世間話をするようななかでもないし?」

「…………」


 あまりにもド直球なテンリにアルトリアは戸惑いながら笑みを浮かべるが、当の本人はそんなことどこ吹く風とまるで相手を逆なでするかのように答える。


「そうか、まあ、確かにそうだね」

「ああ、だからとっとと本題に入ってくれ」

「黙って聞いていればこの人殺しプレイヤーが! アルトリアさんに対してなんて無礼な!」


 まるでアルトリアとは普通の会話をする価値などないと言っているかのようなあまりにもおざなりな態度にアルトリアの先ほどとは別の取り巻きの一人が怒りの声を上げる。

 しかし──


「黙りたまえ」


 以外にも止めたのはアルトリアだった。


「あ、アルトリアさん。し、しかし──」

「いいから黙れ、こちらは話を聞いてもらう立場なんだ」

「くっ、はい、わかりました」


 その取り巻きは思いっきりテンリを睨むが、テンリ自身は文句を言っている人間など初めから眼中にはなく、ずっとアルトリアの一挙手一投足を見つめるだけだった。

 そのことが余計に取り巻きの怒りの感情を助長させるが、テンリにとってはその程度の怒りなどまるで怖くないという態度だ。

 はっきりとわかる剣呑な雰囲気。


「と、とりあえず、テンリくんは話を聞いてあげてね?」


 それを破ったのはこの場では中立的な立場であろうトーカだった。

 トーカはテンリをややたしなめながら、ついでアルトリアを見ると言った。


「あとアルトリアさんもあんまり迂遠なことはやめた方がいいと思います。短い付き合いですけど、テンリくんの今の態度はかなり不機嫌なものになっているので……」

「そうか、人の心を色濃く理解しているトーカ君がそう言うならそうなのだろう。わかった、早速本題に入るとしよう」

「俺は……いや、何でもない」


 テンリがアルトリアの発言に何か言おうとするも、トーカがじっと見つめてきたのでここは自重した。

 ようやっとトーカの計らいによって本題に入る流れになったところで、アルトリアが話し始める。


「まず、私たちはこのゲームの製作者側だ」

「ふーん」


 衝撃の事実と言っても過言ではない発言であったが、テンリは特に驚くこともなくただ「そうなんですか、それで?」という態度をとる。


「……驚かないのかい?」

「この世界がデスゲームになったこと以上に驚くべきことなんてないからな。今の情報だって別になんてことのない情報だ。特に俺はあんたのリアルを知らないから嘘か真かもわからないしな」


 テンリはシニカルな笑みを浮かべながら肩をすくめる。

 その飄々とした態度は本当に意に介していないという装いで、アルトリア含めた全員が何故かは分からないが目の前にいるプレイヤーに凄みを感じさせた。


「まあ、唯一気になる点と言えばなぜリアル情報を今提示されているのか……ってとこぐらいかな?」

「そ、そうだったね」


 周りがどこかシンとしたのを確認したテンリは特に気にすることもなく言外に「話を進めろ」と促すので、アルトリアはすぐに話を進めることにした。


「なぜ今、私が君にリアル情報を提示したのかというと──」

「本当かどうかは分からないけどな」

「そこは……信じてもらうしかないが……とにかくこの情報を渡した理由は、今、私たちの方でこのゲームのログアウト不能状態を解消しようという計画がかなりいいところまでいっているからなんだ」


 その言葉にテンリがぴくっと反応を見せる。

 テンリの反応にアルトリアはようやく手応えありかと思ってすぐに話を進めようとするが、先に発現したのはテンリだった。


「……つまりあんたらは、このゲームに内側から干渉できるだけの力を有していて、現段階ではそこからさらにこの世界のシステムの根幹部分に介入できそうになってる……ってことでいいのか?」

「……そうなるね。理解が速くて助かるよ」

「賞賛はいい」


 アルトリアの言葉にテンリはすぐに首を振ると、「それよりも」と話を続ける。


「質問だが、なぜそんなことを秘密裏に行っていたんだ? それを知らせれば、多くのプレイヤーたちがこの理不尽なゲームで戦いを強いられるようなことはなかったはずだ」


 その声にわずかないらだちを込めながら、テンリはアルトリアに向ける。

 事実として、ここにいる製作者側がゲームに介入できるだけの力があり、そこから何とかログアウト不能というこのデスゲームの根っこ部分をいじれる可能性があるとわかっていたならば、全員最初の街にとどまっているだけでよかったはずなのだ。

 そのことを理解しているのだろう。アルトリアは首を振って弁明を開始した。


「それではこのゲームの管理者側にばれてしまう恐れがあるから、どうしても秘密裏に行う必要があったんだ。もしも私たちの動きが察知されたら、この恐ろしいデスゲーム内にいる私たちはあっさりと消滅させられる恐れもあった。さすがに製作者側でも管理者としての権限のごく一部を使える程度しかないのだからね」

「…………」


 その言葉にテンリはある種の理解を得ると、アルトリアに向けていた怒りを一時的に抑えて言った。


「なるほど、そういうことにしておくとしよう。──それで、俺にどうしてほしいんだ?」

「──っ!? ……本当に理解が速くて、ちょっと恐ろしいな」


 アルトリアがこの後に予定していたテンリへの要求にどう持っていこうかと考えていたところをテンリ本人が的確に突いてきたので今度こそ本当に驚きの表情を浮かべる。

 だがこれについてもテンリはそんなことよりも早く話せと視線でもって訴えかけるので、アルトリアもすぐに要件を言い渡す。


「もしも犯罪者プレイヤーが現れたとしても、可能な限り断罪しないでほしいんだ」

「────」

「もう少しでこのゲームに干渉できるポイントに到達することができるこの状況で、たとえ犯罪者であったとしても救える命を多くしたいと考えているんだ」

「────」

「もちろん、君がどれほどの思いで《断罪者》を演じてきたのかは理解している」

「────」

「だがだからこそ、もう君は望まない殺人を犯す必要な無い」

「────」

「すべてがうまくいった暁には、君がこの世界の秩序を守るためのヒーローだったのだと、製作者側で巻き込まれることとなった私が保証しよう」

「────」

「だから、胴か私たちの願いを聞き届け、私たちにこの後を託してはくれないだろうか」


 アルトリアが話す間、テンリはずっと無言だった。

 特に何かを言うでもなく、ただただ淡々とアルトリアの要求、その後の展開を聞いていたテンリ。


 その反応に──


(どう……いうこと……かな?)


 ここまで傍観者の立場を貫いていたトーカはとてつもなく大きな違和感を覚えた。

 トーカの勝手な判断だが、テンリというプレイヤーは基本的には冷静で、常に他者を尊重したうえで、あえて皮肉屋なところを出しながら行動してるように思っている。

 もちろんそれがある程度素であろうことはトーカもなんとなく感じているが、どこか横柄とも取れる態度はおそらくは《断罪者》としての振る舞いに関係しているのではといった判断ができるのだ。


 まあだからトーカはテンリに決闘を挑んで、強制的でも一緒にいられるようにしたのだが、その時のテンリの行動というのもかなり謎であり、トーカは実はそこが一番気になっていたりするのだが……


 ともあれそう言う理由から、基本的にテンリは相手の発言に何らかの、相手を出来るだけ怒らせたり、近づかせないような態度を常にたたみかかるように返すのだ。

 そんなテンリがただ無言で他人に話を聞いているというのは違和感の塊でしかない。


 そして何より──


(テンリくんがこんなに怖いと感じるのは始めただな……)


 思わず後ずさりしてしまうようなその圧力に、トーカは仮想の冷や汗をかいた。


 そして、トーカが感じたその大きな違和感と圧倒的な威圧感の理由はこの後すぐにわかった。


「なるほど、そういうことか……」

「ん? そういうとはどういうことかな?」

「いや何、大したことじゃない」


 テンリは乾いた、張り付けたような笑みを浮かべて言った。


「俺はお前たちを絶対に許すことはできないと、そう思っただけだからな」


 そう、テンリの先ほどの普通ではない態度は、圧倒的なまでの怒りの表れだったのだ。

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