90話
前回やった次話予告?なんですかそれ?おいしいの?
予告なんてものは覆すためにあるんだ!(汗
ひさしぶりに5000文字超えた。内容は……相変らずかもしれないけど、伏線は張ったつもり!
大河の集落から北東に半日ほど離れた場所にある雪山に設置されているダンジョン《氷雪の祠》。
エレノアの在籍するパーティ《吹き荒ぶ熱風》……FSの人たちと別れて五日が過ぎた。私はこの五日間彼らと行動時に遭遇したクエスト【巨獣からのお願い】を進行させるべく、林で鹿狩り、雪山で氷の鳥狩り、深雪の平原で白い虎 (注:ホワイトタイガーであり、断じてビャッコではない)を狩り、様々な肉を大量に集め回った。
あと一週間もすると大学の夏休みも終了してしまうので、その前のラストスパートみたいなノリでプレイ時間を一日当たり三十分も伸ばして頑張った結果です。
大学と言えば始まって一カ月経たないうちに学祭があるんだよね……。去年の学祭では同級生達の謀計でひどい目に合ったから今年は目立たないように、準備を終わらせたら逃げないといけない。
特に今年は【Eternal Story】……エスがあるから余計な時間を取られるのは本気で勘弁願いたい。
ちなみに去年の私の担当は学祭で使用する資材の買い付け。毎年資材の卸をしてくれる会社の人と会って、何を発注するかなどを話しあい、当日に大学の先輩が運転する軽トラで資材を引き取りに行くのが役割だった。明らかに後者は力仕事なのになぜ私のような女子が行かされたのかというと……男だけだと華が無くて、力仕事するにも気合が入らないから、学内の綺麗処の誰かに来てもらって応援してほしいという事だった。それになぜか私が選ばれてしまったと……。
その理由は他の候補者が辞退したからというだけなんだけど、それがなぜかは知らない。
当時は綺麗処に選ばれてうれしい気持ちがあったけど、その時の対応のせいか一緒に資材を取りに行った先輩方に壁ドン告白されたり、同じ担当になった自意識過剰系(断じて意識高い系ではない)に付け回されたりと、とんでもない目に合った。
そしてそういう事態になる決まって現れる顔だけモデル男子(一話参照)が鬱陶しかった。あの顔だけの人って女子の中では要注意人物としてリストアップされてたんだよね。まあモデルの仕事をしていて、なまじ顔がいいから裏の顔なんて気にしないと言っていた子もいたけど、そういう子は決まって地獄を見てたっけ。女の子が遭う地獄がどういう物かなんてあえて言わなくてもいいかと思う。
被害に遭った子の半分くらいは退学したり、休学しちゃってるという事から想像してください。天帝オンラインをやっていた時のエレノアに「アンタは口車に乗りやすいから心配だわ」とか言われたけど、いくら私でもそれが何を意味してるのかは分かるよ。
だから私も夏休み前にあの男に告白された時には危機感を持ち、どうやって断ろうか必死に頭を動かした。
結局、あの男は学校に女探しに来てるようなものだし中身が外面に追いついていない残念な人だから、私なんかよりもすごく綺麗でかわいい子があなたの事を探してるという話をふり、その子ならきっとあなたも満足できるんじゃないですか?みたいなニュアンスで煙に巻いた。問題を先送りにしたともいえるけどね。
それにあの男は狙った存在にはしつこいという噂もあるので大学が始まったら注意しないといけない。
……話がそれちゃった。まあ学祭の話は置いておくとしてっと……エスの話に戻るね。
ー ダンジョン《氷雪の祠》 ー
年中猛吹雪に包まれる雪山の中に存在する洞窟内にある何かを祭った祠。しかし中には凍る事のない湖と豊富な植物が自生しており、植物を食する草食獣やその草食獣を狙う肉食獣が多く集まってくる。
だがこの洞窟の存在は文献には記されているものの、中の様子を鮮明に記録した書物は存在しない。
「という風な説明だけど、別に吹雪に襲われてるフィールドでもなかったし、中にも説明文のような湖なんてないよね。植物が生えていたような跡は見えるけど……」
肉を集め、フィールドを散策していると巨獣と遭遇。やはり必要な分の肉を集め終わると現れてくれた。
巨獣も肉の量を見て喜び、尻尾を振っていた。
巨獣はついて来いとばかりに歩き始めたので私もそれを追いかける。ついていった結果このダンジョン《氷雪の祠》へときたわけだけど……。巨獣はしばらくここで待ってるようにという感じの仕草をして私を放置してどこかへ行った。
フィールドの説明を見て首をかしげる私。どう見ても何もない。ぶっちゃけ洞窟の中にあるこわれかけた祠……いやもっと言えば何かが存在してたと、かろうじてわかる程度の残骸。
気配察知のスキルで内部を調べても生命反応などない。あの巨獣はなぜ私をここに連れてきたのだろう。
私はてっきりお腹を空かせた仲間のいるところへ案内してもらえるものだと思っていたんだけどね。
「ガオッ!」
しばらくすると洞窟の入り口に巨獣が戻って来た。その後また歩き出し、時折振り返る。ここからまた歩くことになるみたいだね。
巨獣はグルリと洞窟のあった岩壁を回りこんでいき、マップ上では祠のある場所とは正反対の場所で止まった。
「ガオォォン!!」
再度巨獣が吠える。すると、その場にあった岩の壁が崩れ、洞窟が姿を現した。それと同時に大小さまざまな魔獣系モンスターが姿を現したことから、この獣たちが巨獣の言っていた保護対象のモンスター達みたい。
実はこの現れた洞窟こそが本来のダンジョン《氷雪の祠》一層と言う訳だ。
便利機能であるマップを見ると、確かに洞窟内に大きな湖がある。というか一層目の半分は湖で埋まってるじゃん。最初の洞窟はダミーなんだと思う。
説明文にあった洞窟の特徴を調べた冒険者はいたんだろうけど、あの裏の洞窟に気づかず最初のダミー洞窟だけを探索し、文献が嘘だったという決定をしてしまったため詳しい情報を更新できなかったのだろう。
「この子に肉をあげればいいの?」
巨獣に聞いてみると、首を横に振る。どうやらこのモンスター達だけではないらしい。
どうせあげるなら全員がそろっている状態で……という事だろう。
巨獣とモンスター達はそのまま洞窟内へ入っていったので私も遅れまいとそのあとを追う。
洞窟の中は外ほど寒くはなく、継続ダメージを食らわなかった。最初の方の洞窟では変わらずダメージを受けてたのに。
奥へ進むこと数分。そこには広大な湖と色とりどりの植物がある。採取ポイントも見えることからとっても問題はなさそう。
「マスター。この辺りの植物素材ですが私の実力ではまだ扱えない高ランク素材が数多く採れるようです。私を呼び出していただければ採取をさせていただきますが?」
数日前に大量合成の仕事を終わらせ暇そうなティアが話しかけてくる。やはりティアのレベル上げは合成を使用することで少し上がっていた。たぶん初期スキルの片割れ【チョメチョメ(謎)】を使用しても経験値は稼げるだろうなぁ。
だけどこれを使うことは絶対……ではないけどそうそうないと思う。なぜなら合成で稼いだ経験値でレベルアップした際に【採取】と【木工】スキルを会得したからである。ティアはもう間違いなく生産方面へ進むことが確定したことが見て取れるね。
「扱えない素材があってもアイテムボックスの邪魔にならない?」
「そ、そんなことはないかと思います。きっとすぐに扱えるようになるはずですので……(希望的概念)。
それに私が所持できるアイテムの量も増えましたのでこの辺りで取れる素材も最大限までストックしてもまだ余裕です!」
そう、ティアはレベルが上がるごとに所持アイテム枠が増加していく種族だった。卵から孵ったときは素材と完成品を合わせて十五種類のアイテムしか保持できなかったけど、今は二十五種まで所持できる。
ちなみに私達プレイヤーのアイテムボックスは一律五十種類で一種類に付き九十個までスタックできる。
「そう?なら好きしてもいいけど……そういえば前に言ってた合成の自動作成って言うのは今も継続されてるの?」
「はい、もちろんです!一日以内に作成可能なものを随時作成し、私のアイテムボックスに保存しております。ご覧になられますか?」
「見るのは別にいいや。どうせヘリオストスまで戻らないと処分できないしね。あっ、でも料理系のものがあるなら貰っておこうかな」
「今はまだオーク肉のソテーだけです。マスターが集められている肉の素材を頂ければもっと種類を作れるのですが……」
「うーん、今あるお肉は渡せないかな。今まさに必要な状態だからね」
「っ……そ、そのようですね。マスター、戦いになっても私は召喚しないでくださいね?死んでしまいますから……」
ティアと会話をしている間にいつの間にやら集まっていたたくさんのモンスター達。
その中には当然巨獣の姿もあり、おそらく全員がそろったらしく巨獣が前に出てくる。
《クエスト【巨獣からのお願い】を完了させますか?y/n?》
どうやらここでyを押せばクエストが進むみたいだね。もちろん押しました!yを。
するとまずはスノーウルフという種族の集まりがズズイッと歩みだしてくる。
私は彼らに鹿肉を差し出すと彼らの目が輝き、ハグハグッと肉に飛びついてきた。
続けてアイスドベアーズという熊のモンスター達、ただしがりがりに痩せている。
熊だったらこのフィールドで餌とれるんじゃないの?って思うけど、彼らは偏食家らしく決まった種類のものしか食べない。その素材がほとんどとれないため絶滅の危機だったそうだ。
あまりに痩せすぎて食べれる食材が取れるところまで移動することも出来ないのだとか……。
その熊たちにはスノーバードの肉を差し出すと、やはりがっついていく。
その後もマジモンキーという猿とその上位種マージナルモンキーの群れ、エリアルパンサーという豹のモンスターの群れ、そしてなんとクエストアイテムの対象である冬空獅子の番が数組程度来たので鹿肉を与えた。
冬空獅子の数は本当に少ないらしく、絶滅の危機というのは本当らしい。
私はこの実情を知った以上、最後まで残っている冬空獅子の目玉の収集クエストを破棄することを決めている。そうすることでギルドの評価などは下がるだろうけど、今までの報告分だけで上級鑑定士への紹介はしてもらえるだろうことは間違いないしね。
そんな感じで次々と出てくるモンスター達に肉を与え、気が付くと残っているのは巨獣のみ。
そして残っている肉はエルドニアワームの肉(ボス肉)とエゾシカの高級足肉の二つだけ。
ボス肉や高級足肉を出した時すでに食事を終えたモンスター達も目を輝かせたけど、巨獣に与えるものだと気づきしぶしぶとあきらめていた。
「さて、約束だよね?これを食べるのなら私と契約して魔法sy……ゴホンッ、家族になってもらうよ?」
ついついオコジョみたいな別世界の謎生命体が言いそうなコメントが飛び出そうになったよ。
「ガオォンッ!!」
どうやら肉を食べる前に何やら私に用事があるみたい。
「ん?もしかして家族になる前に私の力をしっかり把握しておきたいとかそういう事?」
「グオオォンッ!!」
巨獣がそうだと言わんばかりに吠える。だが忘れちゃだめだ。これはクエストですでに条件を満たしている以上巨獣は私に家族になることを拒否できない。ここでたとえ私が負けたとしても、彼が私の家族になることに変わりはない。ただ私たちの中の序列で彼が最上位に立ってしまうという以外は。
「そう……見たいというのなら見せてあげてもいいけど、後悔しないようにね?」
当然序列を奪われるのは私としても困る。私の持つ力をすべて使って彼を従えてあげようと思う。
どこかで聞いたけど動物の序列は自分が上位になるより下位にいる方が安心するらしいからね。上位で苦労するのは人間である私で良い。……言っておくけど差別じゃないからね?
「グルォーン!!」
巨獣が一声鳴くと、配下になるモンスター達が潮が引くように物陰に隠れた。それと同時に謎フィールドが現れ壁を作る。どうやら巻き添え防止の障壁だね。無機質な音声さん以外のシステムが仕事してるの初めて見た気がする。
「それじゃ……久しぶりに全員召喚!……ルドラは大丈夫?寒くない?……そう、大丈夫なんだね?ティアは?嫌?……そう、でも呼び出しちゃう!」
そういう訳で呼び出されたコウガ、セツナ、イリス、クルス、カエデ、ルドラ、そして涙目のティア。
「ま、マスタァァ。戦闘では呼ばないでってあれほど言ったじゃないですぁぁ!」
「あはは、ごめんごめん。勢いで呼んじゃった」
「ひどいぃぃ!こ、こうなったらマスター!私は最初から全力を出しますからね」
「え?実は戦えるの?まさかあの使わないスキルが戦闘系だったり?」
「なに言ってるんですか!全力で逃げに徹しますという事ですよ(ドヤ顔)」
「……そう、わかったわ。好きにしていいけど……皆の邪魔はしないようにね?」
「マスター……そういうなら最初から呼び出さないでください……」
それはごもっともです。だけどもう呼び出しちゃったから戦闘が終わるまで送還できないんだよね~。
「グオォォッ!」
巨獣が用意できたのかという感じで睨みつけてくる。ふふっ、私を睨みつけるなんて強気な子だね。
「えぇ、こっちはいつでもいいよ。かかってらっしゃい」
家族になるこの子のためにもブートキャンプで身に着けた私の新必殺技を見せてあげるわ。キャンプで強くなったのがコウガ達だけだと思ったら大間違いなんだからね。ふふっ、覚悟しておきなよっ!
次話は木曜日位になる予定。やっぱり2~3日ないと書けないっすから。




