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88話

 「どうも、はじめまして~(な、なんでアイがここにいるのよ!?)」


 つい先ほど、げぇっ!とか言われてしまっていたけど、なんとか取り繕い表面上は初対面のように挨拶する私たち。しかしその陰でチャットの方ではものすごいコメントがやり取りされていた。

 エレノアが在籍しているパーティー名は《吹き荒ぶ熱風(ファイアーストーム)》通称FSというらしい。パーティーメンバーの全員が火の属性の攻撃方法を持っているからそういう名前に決めたらしい。その紹介をした時、エレノアがそっぽを向いていたことを私は見逃していない。ふふっ、恥ずかしいんだね!


 「えっと、ここで採掘をしてたらクエストのお手伝いを頼まれたんです(エレノアこそなんでコッチにいるの?当分ソロでレベル上げに専念するとか言ってたくせに!)」


 「そ、そうなんですの?(そ、それは、あれよ。自分よりレベルの高い相手が居る場所で稼ぐならパーティの方が効率が良かったからよ)」


 「はい。とは言いましても皆さん様子を見る限りお手伝いしなくとも次は勝てるんじゃないでしょうか?(ていうか、ですの?ってどこの人よ。エレノアの口調変すぎ~)」



 目には見えないが私とエレノアのリアルの体には脂汗が大量に流れているのは間違いない。

 そのままお互いになにやら言い合いつつ、表面上は笑顔で自己紹介を終えた。


 「ところでそこのやけに大きな狼は一体なんでしょう?(そんなデカいやつ仲間に居たの?)」


 落ち着いたところでエレノアが問いかけてくる。他のメンバーらしき人達も気になっていたらしく、ぜひ知りたいといってくる。


 「種族は秘密ですがセツナという私が初期から育てている大事な子です。見た目通り強いんですよ?」


 「そうですのね~(ちょっと、セツナってあの普通サイズの狼だった子よね?なんでこんな急に大きくなってるのよ!)」


 エレノアのですのね……とかそういう言葉尻が気になって返事を打つ手がプルプルと震えてしまう~。エレノアもその様子を察しているのか若干頬が赤い気がする。大丈夫、エレノアはこのパーティではそういう言葉遣いで対応してるってことだよね?冷やかして亀裂なんて入れる気はないから安心していいよ。



 「ところで、そちらのお二人が死に戻りするほど強いモンスターだったんですか?」


 私としてはパーティの中では一番レベルが低いとはいえ、エレノアが死に戻るなんてそう簡単に信じることはできない。だって、話をしながら片手間にボスを倒しちゃうエレノアだよ?


 「あ~、いやそれは俺をかばう行動をしたから巻き添えで死んだというか……」


 ……どうやらエレノアは乱入してきた巨大な獣の攻撃からパーティメンバーをかばおうとしたが色々状況が悪く結局二人とも死に戻ったらしい。前のゲームでもそうなんだけどエレノアったらパーティでの自分の役割は承知してるはずなのに、たまーに予想外の行動をとるんだよね。今回はそれが出てしまったという事なのね。


 「なるほどぉ(ねぇ、エレノアのデスペナって経験値でどれくらいなの?)」


 「(そうね、今回のはざっと14~5万って所かしらね)」


 い、意外と多いなぁ。エレノアのレベルは現在42とのこと。調べてみるとデスペナは現在経験値の5%~30%の中でランダムで決まるらしい。今回のエレノアのデスペナが大体20%のマイナスで先ほどの数字となると……なるほど。死霊王の時に逃げたくなる気持ちも想像できた。

 レベルが上がりたてならともかく、ある程度まで増えてたらデスペナを受けるのはそういう経験者であるなら誰でも嫌がるもののはず。私もレベルが上がる状態だったらもっと、計画を練って行動してたと思うしね。



 まぁ、とりあえずエレノアが居るなら私としては安心できるし、協力はしてあげてもいいかな(なぜか偉そう)?

 若干エレノアが居心地悪そうにしてても気にしない!先日、私をストーキング(黙認してしまったとはいえ)したツケをここで払ってもらっちゃおう。ふっふっふ。ついでにエレノアの攻撃スキルもいくつか考察させてもらおうと思う。さすが私、魔王ってるぅ~(?)。



 私が……というか見た目からして強そうなセツナが戦力に加わると聞いて、喜ぶFSの人達。

 本当はまだコウガの方がステータスもスキルも強いんだけど(進化したばかりということを知るエレノア以外が)喜んでるから良しとしよう。なお、私はセツナに指示を出したり回復アイテムによる回復を行うだけで戦いから逃げ回ることにしてる。エレノアにも知られていない魅了も使う気はない。仮に何かの拍子で発動しても装備の効果ということでごり押しできそうだし。


 それに巨大な獣の事も気になるしね。たぶんこの巨大な獣ってジャンヌ・ダルクの人達が言ってたやつだと思うんだよね。そういう意味でも一度は遭遇しておきたい。


 パーティに参加すると決めた以上は今もなお手に持っているピッケルは必要ないね。アイテムボックスにしまっておこうっと。

 あとエレノア以外の他のメンバーに関しても自己紹介をされたけど、最初に声を掛けてきたバッカスさん以外覚えられ(覚える気が)なかった。フレンド申請もしないかって言われたけど……なんとなくパーティを組んでいるエレノアに悪い気がするし、クエストが終わった後に気が向いたら……と濁しておいた。



 「あのーところで私からも聞きたいことがあるんですけど、ここで取れるクエストアイテムについて何か知りませんか?」


 「ん?ここらのクエストアイテムというと……《冷雪の麦穂》と《冬血の結晶》だけど、どっちの事だ?」


 五層へ向かう道すがら私の質問にバッカスさんが答える。前者は知らないので冬血の結晶についてと返答する。出現するモンスターはセツナや、吹き荒ぶ熱風(FS)の戦闘メンバーが倒していく。


 「それならこの階層の入り口に筋肉の像があっただろ?あれを採掘すれば数回に一回は手に入るはずだぜ。もちろん入り口に戻らなくてもこの先の部屋に行けば採取できる場所はたくさんあるぞ」


 な、なんと、あの入り口の筋肉像にピッケルをふるえばよかったなんてね。上の階層と同じく氷の像と思い込んでたけど、思い出してみれば白い鉱物っぽかった気がする。……まあ採取目標は分かったし良いか~。


 「そうなんですね。ありがとうございます。あとで掘りに行こうっと!」


 「よろしかったら後でお付き合いしますわよ?(アイ、後で話したいことあるから付き合ってよね)」


 「それは助かります、ぜひお願いします(ん?わかったよ)」



 四層を抜け最下層の五層へ到着。五層は階段を下りた先が広間になっており、そこには青い体の氷の蛇が蜷局を巻いていた。爬虫類系の特色である冷気弱点が影響してないから普通の物質系統のモンスターだね。


 そして階段の後方を見ると例の巨大な獣(略:巨獣)が起き上がり、こちらを見ていた。見た目は情報通り青い体毛に覆われた牙の長い獣。いうなればサーベルタイガーかな?

 あれ?ジャンヌ・ダルクの人たちは白い体毛だったって言ってたけど……もしかして外で出会ったから雪が積もっていたとかそういう事だったのかも?もしくはやっぱり獣違い?


 巨獣は氷でできた物質系ではなく普通に魔獣系統のようだ。どうやらクエスト目標の冬空獅子とは別の個体みたいだから倒しても問題ないね。表示されているレベルは54……かなり高い。



 「こっちは俺たち五人で十分だからエレノアとアイリさん、そしてセツナで獣の気を引いてくれ!」


 バッカスさんの声が飛ぶ。えー、私も戦うの~?そんな話聞いてない~とは言わず頷く。

 なんで言わないかというと……セツナが巨獣に対して風魔法7のトルネードシュートを放ったからである。


 「ちょっと!アイ!その子暴走してない?」


 慌てるエレノア。大丈夫!セツナにこの指示をしたのは私だからっ!


 「皆さんの邪魔にならないよう、巨獣を四層までプルし(ひき)ます。その間にみなさんでそこのクエストボスを倒してください。仮にこちらが先に片付けば合流しますので!」


 そう叫んで走り出す私とセツナ。ちなみにエレノアは取り残されてたけど、はっと我に返り私たちの後を追いかける。当然ながらFSの皆さんが後ろで「いくらなんでもその人数でそいつの相手は無理だろう」とか「あぁ……狼のケモ成分が……」とか聞こえるけどガン無視。

 あっ、でもケモ成分という発言をした人は、あとでセツナに触らせてあげてもいいよ?わかってる人には私は寛大だからね!あっ、でもセツナが嫌がったらごめんね、その場合は無しで!




 ジャンヌ・ダルクのメンバーが出会った奴と同一のモンスターであれば各種フィールドを徘徊するタイプのモンスターということで階層が変わっても追いかけてくるはず。その予想は当たり、巨獣は攻撃を仕掛けてきたセツナを追い、階段を上り始めた。


 「ねぇアイ、私は皆と同じ階層で倒さないと私だけクエストクリアにならないんだけど?」


 「だいじょーぶ、だいじょーぶ!ここに来たのは私のスキルをバッカスさん達に見せたくないだけ。それに私達ならこの巨獣を倒すなり、退けるなりする事くらい可能だってエレノアなら分かるよね」


 「下の戦いが決着するまで時間をかけるつもりはないって……そういう事なのね?(砂漠で見たあの状況をまた見ることになるのは、ちょっと御免こうむりたいんだけどね。いろいろ心臓に悪いわ……)」


 階段を上りきった四層もまた広場である。巨獣とセツナが並び立ってもまだ余裕があるくらいには広い。



 「グルルッ……」 セツナが唸る。


 「ガオォゥッ」 巨獣が吠える。その目は血走っており、口からは涎が滴り落ち、特徴的な牙がギラリと光っている。


 「涎が汚らしいわね。この巨獣はお腹でも減ってるのかしら?……だとしても同じ部屋にいた蛇を食べないのはおかしいわよね……」


 エレノアがボソッとつぶやく。考えれば氷の蛇を食べてもお腹が膨らまないからというのは容易に想像がつくけどこの場では言わない。まさかこの巨獣……セツナを食べれるとでも思っているのかな?そんなこと私が許さないよ?



 「セツナ、見た目以上に強いかもしれないから油断はしないようにね。特に今はコウガ達の手助けがないから無茶をしないように!」


 「グルルルッ!」


 こうして巨獣とセツナの戦いが始まった……と言いたいところだけど違う。やっぱりランク6っておかしいかもしれない……。セツナが巨獣を圧倒してる。まだレベル低いのに、巨獣より有利ってことは巨獣のランクは高くて4と言ったところだね。仮にランク5だったとしたら表示されてるレベルの関係で巨獣の方が有利になるはずだもん。



 セツナ有利のまま戦闘開始二分後には、巨獣の体力はすでに半分をきっていた。


 「……前回見なかった新しいモンスターの群れが増えてるじゃない……」


 その理由は当然、私の軍勢スキルに依るものである。念のために呼び出せるようにしておいた。

 セツナが巨獣の気を引いてるうちに私が手持ちの+値の高い配下を選んで呼び出したのである。闇の森のナイトアサシンの進化形であるナイトデスアサシンとか、ヘルボアーだとか暗闇の山で勧誘した個体も数体混じっている。当然ながら勧誘しただけで呼び出せない個体もまだまだ多いけどそういう子は、いつでも呼び出せるようにきっちり配合による強化を行っている。はやく王種を倒せるくらいの力を手に入れて、新しい軍勢スキルを得たいものです。


 あっという間に四層の広間はモンスターで埋め尽くされ、巨獣は次々と絶え間のない攻撃を受け続け、体力が大幅に減少し、今に至る。巨獣自身の攻撃も威力は高いのは認めるけど、なんとなく力が乗り切っていないのか破壊力に欠けてる気がする。


 「ガオォォ……」


 心なしか吠える声に力がない。だけど油断してはいけない。手負いの獣は何をするのかわからないからね。


 グギュルルルルゥ~


 「へっ?」


 緊張が増す中、何とも言えない音が響き渡る。私の配下たちがざわめいている中でも聞こえるほどの大きな音。その音の主は言うまでもなく……


 「……もしかしてエレノアが言うように本当にお腹が減って気が立ってただけとか……?」


 「クゥウン……」


 先ほどまでの勇ましい吠え方と違い、かわいらしい声が聞こえる。巨獣はその場にうずくまり体を丸めている。その姿はよく見れば猫っぽく見えなくもない。時折聞こえる空腹の音も徐々に巨大化している。

 どうやらお腹の減りが限界を迎え、動く気力もなくなった模様。


 「ぜ、全員、戻って。セツナは、こっちで」


 すごいお腹の音と、可愛いらしげな鳴き声に戦闘続行の意思をくじかれた私は軍勢を解除し、セツナを呼び寄せる。セツナはぴったりと張り付くように私を警護しつつ、私と共に巨獣の元へ向かう。


 「アイっ!不用意に近づいたら危ないわっ」


 エレノアの声が聞こえる。でもセツナが近くにいるから平気だよ!でもエレノア……その手の動きは何かな?何かネコっぽいのを撫でまわしているような動作に見えなくもないんだけど?

 確かに体を丸めてるとあの巨獣は猫に見えなくもないけどさ~……。


 「お腹が空いているならこれでも食べるかな?」


 私が取り出したのは氷窟に来る前に林エリアで乱獲した鹿の肉。巨獣の目の前にどっさりと積み上げると、巨獣は目を見開きがっつく。毒が入ってるとか考えないのが獣らしいよね。肉系アイテムってプレイヤー的には調理しないと食べれないんだけどなぁ。そういえば昔のコウガ達は肉系アイテムをそのまま食べれたね。最近は食いつかないけどさ。


 百以上あった肉の山があっという間になくなる。その時間なんと30秒。


 「ガオンッ!」


 「まだ足りないの?……うーん、これが最後の一つなんだけど……」


 そういって私が取り出したのは言うまでもなく……《エゾシカの高級足肉》である。説明文にもあった通り巨大な肉食獣の好物だっていうし。


 「ガ、ガオーォン!」


 これでもか!と言わんばかりに目を見開き、とびかからんとばかりに腰をひく巨獣。その口からは目に見えて涎が滴り落ちる。セツナはその体勢に気づき私の前に飛び出し、非常事態に備える。それにしても普通の鹿の肉を出した時とは反応が違いすぎる……。


 「グルルッ……」


 飛びかかってくるのかと思っていたけど、巨獣はその体勢からぺたんと伏せの体勢へ移行する。


 「そう、そんなにこの高級足肉がほしいのね?」


 「ガオォーン!」


 「どうしようかな?このアイテムってさ、もっのすごぉーく珍しいのよ。その反応を見る限り貴方もわかっているのよね?」


 「ガ、ガオッ!」


 「それをタダでほしいというのはあまりにも都合がいいわよね?」


 「ガ、ガオンッ……」


 ……やばい、なんかこの巨獣の反応がすごく面白い!はっきりとこっちの問いかけを理解してるのもすごい。


 「欲しいのならそうね。私の家族になるというのはどう?もしかしたらこれよりおいしい肉が食べられるかもしれないよ?」


 こっそり覇気が発動される。エレノアが居るのにいいのかって?大丈夫!エレノアは今巨獣にくぎ付けになってるから私が少しくらい覇気のエフェクトを出しても気になんかしてないって。


 「ガウゥッ……」


 覇気を感じ取ったのか何やら考え込む様子を見せる巨獣。しばらくすると……


 《【巨獣からのお願い】クエストが発生しました》


 無機質な音声さんの声が響く。


 「ん?クエスト?」



 思ったよりこのゲーム奥が深いのかもしれない。まさかモンスターからのクエストが発生するだなんて……ね。

この回でまたエレノアの出番が終わるはずだったんだけど、あと1・2話くらい名前が出て来そうです。

エレノア嫌いの人には申し訳ありませぬ。

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