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80話

 流れでゼリンという女性プレイヤーと部屋を共にすることにし、共に料理に舌鼓を打ち、少しばかりの情報交換をした後ログアウトし、あっという間に次の日になった。

 まあ情報と言っても今までどんなモンスターと死闘を繰り広げたとか、野良で組んだパーティで一人だけパートナーに選ばれなく、あぶれて悲しかった……とかそういったものばかりだ。私としては王種の情報がほしい所だけど、ユールから出てきたばかりの人にそれを求めるのはあまりにもハードルが高すぎたね。


 あとはレベル上げ云々についてもいろいろ愚痴を言われたけど、私自身にはレベルの概念がないのでどう答えていいかわからなくて曖昧に相槌を打つのがやっとだった。



 ベッドから起きあがり、冒険の準備を整えていると同じくログインしていたらしいゼリンが現れ話しかけてくる。


 「昨日はありがとうございました。おかげ様でおいしい食事を食べることも出来て満足できました」


 「別にいいんだよ。それより今日からどうするの?私は今日からしばらく別のフィールドに行くからこの宿には泊まれないと思うんだけど」


 「あっ、大丈夫です。私の目的はここで料理を食べることで、言い方を悪くすれば味を盗むために来ただけですので。昨日は黙っていましたが私のサブ職業は《闇料理人》と言いまして、食べた食事の食材と素材があれば同じものを作りだすことができるんです。出される料理の中の一部とはいえ、それらの材料もしっかり把握できましたので、もうここで休む必要も低く、あとは適当に過ごそうと思います」


 どうやらゼリンは数少ない料理人系のプレイヤーだった。だけど説明を聞く限り新しい料理を生み出すタイプじゃないのでエルドニアワームの肉を渡しても調理してもらえそうになく残念です。

 やっぱりこれはシオリさんに渡すしかないのでしょうか……。



 当面彼女は知った食材などを集めることに奔走し、ゆくゆくは露店を開くつもりだという。私はそれを聞いて「そう」と返し当てが外れたことと、その能力で生み出した少し脚を延ばせば手に入るような物……例えばこの宿で言うと泊まることで食べることができるおいしい食事を泊まることなく食べられるようになる……が、それに対し長期にわたる需要があるのかな?飽きられたりしないのかな?と考えてしまい苦笑いである。


 ゼリンさんもその辺は気づいてそうなのであえて指摘はしなかったが少々気になる。

 なお彼女が求める素材のいくつかは常闇の高原と暗闇の山で採れるものも含まれており、売りつけることはできるけど、なんとなく光の領域であったように最新の素材を持っていると納品を迫られかねないので、あえて黙っていた。彼女がもし買取をしていたらこっそり売るくらいはしようと考えて。




 宿をでて街を歩くこと数分の距離にある町の中央部の分岐点。ゼリンさんはヘリオストスの東部にある常闇の高原方面に戻り素材集めに、そして私は西部にある大河へ向かうことにしている。


 「アイリはこの後しばらく町を出るって言っていたけどどこまでいくつもりなの?」


 「西の大河方面にクエストアイテムの採取に行こうかと思ってます。ギルドで聞く限り片道半日近くかかるみたいですし、行って帰ってくるだけだと味気ないので周辺で少しレベル上げでもしようかと思ってるよ」


 「へぇ、距離的に考えても出現するモンスターが強そうだけど大丈夫なの?」


 「えぇ、おそらくは大丈夫かなっと。このヘリオストスに来るために暗闇の山を抜けてきたので、下層エリアと同程度なら何とかなるしね」


 「見た目に寄らずアイリは強いプレイヤーだったんだね。たしかあの山って一撃の攻撃力が高い巨大なモンスターが出るっていうこの辺りでは頭一つ分以上抜きんでてるって言われてるフィールドだったはずだし」


 「あ、あはは……。まあ抜けてくるくらいならスキルを使えば何とかなりますよ~」

 (言えない……あそこのモンスターは図体が大きくて威圧スキルによって強いと錯覚させてくるだけのモンスターだなんて……)


 実際あの暗闇の山のモンスターのほぼ全員がスキルの【威圧(大)】を持っており暗闇の山のフィールド効果【錯覚】と併用することでイメージで強いと思わせているだけなんだよ。


 【威圧(大)】は相手に恐怖を植え付けて事象を曲解させる効果があり、普通にコウガが持っているただの【威圧】とは別のスキルである。


 【錯覚】というフィールド効果も【威圧(大)】と組み合わせることによって効果を十全に発揮するもので、曲解したイメージを固定化させ、それを当然のものと認識することで本来は五十程度しかダメージを食らっていなくても百ダメージ食らっているとか二百ダメージ食らったとか認識させることで無理だと思わせているのだ。


 それを回避するにはどうすればいいかというとそれを上回る効果を持つスキルを放てばいい。

 私たちの場合ならイリスの光魔法か覇気で威圧を使うモンスターを魅了にすれば解決する。他のプレイヤーの場合なら、火とか光(闇の領域に使い手がいればだけど)もしくは松明などの光を放つ探索系アイテムであたりを晴らすことで錯覚のフィールド効果も弱まり探索が容易になる。錯覚の効果が弱まれば体感ダメージも減るからね。


 巨大で強大なモンスターの種もわかれば、こんなものだった。

 とはいえ、何度も言っていることだけど私自身は流れ弾に当たっただけで死ねるフィールドには変わりない。だからこそ、私を物理的に守る役目を持つルドラと、イリスの光の魔法はこの山では手放せない存在だった。




 「もし行く方向が同じだったらパーティとか組ませてもらって恩返しがしたかったんだけどしょうがないか。いつか私がアイリに追いついた時に恩返しできるように頑張ることにするわね……」


 「そんな……恩返しとか考えなくてもいいんだよ。次に街で見かけたりしたら声を掛けてくれるだけでもうれしいから」


 「そう?それなら何かあった時のためにアイリにフレンド申請してもいいかな?」


 「えぇ、もちろんいいよ」



 こうしてゼリンさんとフレンドになり、それぞれの目的地へ行くためゼリンさんは東へ、私は西へ分かれる。


 「さてと、大河に向かう前に改めて受注しているクエストの確認をしておかないとね」


 《冬闇の雫の採取、もしくは収集。指定数10個~以上。納品数により報酬が変化する。基本報酬三万D》

 《冬血の純結晶の採取。指定数5個~以上。納品数と大きさにより報酬が変化する。基本報酬五万D》

 《冬空獅子の目玉の収集。指定数1個~以上。納品数と品質により報酬が変化。基本報酬十二万D》



 冬闇の雫というのは大河エリアに住むモンスターであるリバースツリークという魔物から手に入る。

 手に入れる方法としては二つあり、夜間の植物系モンスターの動きが鈍い間に枝から直接採取するか、もしくはリバースツリークを討伐してドロップアイテムとして収集するかである。

 とりあえずの目標としてはレベル上げも兼ねて収集で行くつもりだから恐らく目的のモンスターさえ見つかればすぐに集まると思う。採取だと目に見えてないと採れないけど倒しちゃえば、目に見えてなくても確率でドロップするからね~。


 冬血の純結晶というのは同じく大河のどこかにある白くて大きな鉱石から削り出すことができるアイテム。これを採取するには採掘レベル15か採取スキルレベル20以上もしくは専用のピッケルが必要です。

 私は採取も採掘も持っていないのでヘリオストスの雑貨屋でピッケルを購入済みです。その数なんと10個。ここまで多く購入したのは理由があり、純結晶を掘り出すと確率でピッケルが破損するみたい。平均で2つ掘ると壊れるみたいだから一応多めに買っておいたと言う訳。予想外に多く掘れればその分報酬も上がるし元は取れるはず。


 最後に冬空獅子の目玉の収集。収集という事から所持するのはモンスターだとわかる。ギルドで受付さんに確認を取った限りでは青と黒の体毛を持つ雷の属性を操るライオンみたいなモンスターで、目玉だけでなく、人によってはその毛皮や肉も高額で取引されているという倒せる人から見れば美味しいとこだらけなのだそうです。

 このモンスターに関しては生息地は大河であると言われているものの目撃情報が少なく、依頼が達成されずに長く残っていた不良物件なのでその分報酬もあがっている。個人的な感想としては狩られすぎて生息数が減ってるんじゃない?と言いたくなるよほんとに。



 クエストの確認をしていると西門が見える。そこには数人の衛兵が立っており出入りに関して何かを行っているみたい。


 「待て!門を出入りするのであれば身分証の提示と通行料を支払いなさい」


 気にせず近づくと衛兵の一人にそう呼び止められる。身分証は分かるけど出るのにもお金が必要な門があるんですね。まあお金には余裕があるから冒険者ギルドのギルド証の提示と通行料を支払うんだけどね。

 あっさり支払ったのはここで出し渋って余計な問題に発展するのを防ぐため。


 しかし、金払いの良かったこの行動のせいで西門を出てしばらく進んだ先でイベントに遭遇することになったのだった。

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