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79話

 ー ヘリオストス ー


 広大な闇の森を超え、その先にある巨大で強大なモンスターが生息する《暗闇の山》を超えるか、その周りにある山よりはマシな強さのモンスターが生息する《常闇の高原》を迂回することでたどり着くことができる闇の領域内では比較的大きな町。

 周りに巨大で強大なモンスターが生息する地域や逆に手ごろなモンスターが出現するフィールドやダンジョンがあることからクエストが多く発生するため、闇の領域のある程度の実力を持つ住民の冒険者やユール周辺では物足りないプレイヤーが多く集まる。




 「やっと着いたね。お疲れ様、皆」


 ユールを旅立ちリアル換算で七日ほど経過してようやくたどり着いたヘリオストス。

 道中いくつか存在する中継地点でログアウトやコウガ達の育成、はたまた軍勢スキルの強化を行い、久しぶりに戦力を増強させた私がこの数日頑張ってくれたコウガ達に労いの言葉を掛ける。


 ちなみに本来ユールからヘリオストスを目指すなら常闇の高原を選び迂回するルートを選んでも最長三日もあれば到達できるが、まあ理由は先も述べた通り私達を見る目が居なくなり、久しぶりに力を発揮できる状態になったので山と高原の中継地点を行ったり来たりして素材を採取したり、モンスター討伐をしてコウガ達の強化にかかりきりになっていたのである。


 そのフィールド滞在期間中には何度か【統治】スキルの方に通知があり、資金を補充するように言われたから常に最大金額をキープしておいた。まだ今のところ、懐は温かいけどこの辺の素材を集めておけばいつか物入りになった時に役に立つかもしれないしね。

 あとはトリビアからの近況報告に関しても砂漠の開拓が順調に進んでおり、まだ問題らしい問題は起きてないという事だから安心だね。

 


 「ガルルッ!」「クワァッ!」


 代表してコウガとクルスが返事を出す。なんとなく「問題ない」とか「もっと戦いをぉ」とか言ってそうな気がしないでもないけど、まあ気にしなくてもいいと思う。

 実はエレノアの目があった時期も十分に力を出していいと言っておいたのにコウガ達ったら力をセーブしてレベル上げをしてたんだよね。多分コウガ達なりにあまり力を見られたくないという私の想いを汲み取ってくれたんだと思うんだけど。


 戦闘回数の多くなるフィールドで頑張ったこともあり、進化組の皆も一人当たり7~10レベル上昇している。ちなみにコウガとセツナはまだ進化をさせていない。新しい進化の条件が解放されたのを確認した結果、私としては進化をしても大丈夫な気がするんだけどね。

 コウガ達がまだ今のままでいたいという素振りを見せるから保留にしてる。きっと何かがあるんだと思うけど、その時が来たらコウガ達の意見を尊重しようと思うの。




 ヘリオストスの町に入るとユールとは違い人で溢れていた。火の魔法を使い、口から火を噴くパフォーマンスをしているピエロみたいな冒険者もいれば、トゲ付きの鉄球を持つシスター服のプレイヤー、なぜか箒ではなくはたきをもったメイド服のゴツい男子まで威風堂々?と歩いているのが不思議で仕方ない。

 ぶっちゃけこの中なら私の服装も浮いたりしてないと思う。っていうか、まともそうなプレイヤーが居ないんだけど?


 「……さてと、トリビアの言っていた上級鑑定士のお店を探して、しばらく滞在することになる宿屋の確保もしておかないとね……。あっ、その前に冒険者ギルドにも顔を出しておこうか。どっちの案件もギルドで聞いた方が早そうだし」


 ということで、冒険者ギルドを探して町の大通りを歩く。大体冒険者ギルドとか武器屋というのはこういった大通りにあるのが定番なので、町に入って五分も歩けば見つけることができた。

 

 さっそく冒険者ギルドの受付でクエストを見ながら気になっていた情報を集めていく。


 「上級鑑定士は北エリアに店を構えてますが、最近は人が増えたせいで忙しいらしく、突然行っても仕事を受けてもらえないかと存じます」


 なんですって!?それは困るわね。

 私は何とか仕事を受けてもらえないか冒険者ギルドに交渉し、結果その上級鑑定士が出している依頼を片付ければ紹介はできるかもしれないという言葉をもらった。


 「では上級鑑定士からの依頼をお請けになるのですね?こちらがその依頼です。数がたくさんあるので大変だと思いますが、頑張ってください。」


 ギルドから提示された依頼の数はなんと15個。内容は大抵が鑑定時に消費する各種媒体の調達依頼。

 もちろんそのすべてが別種類のアイテムなのでかなり大変そうなのは言うまでもない。


 「あっ、この素材持ってます。あ、あとこれもこれも……」


 なんと来るまでに通った《闇の森》や《常闇の高原》、《暗闇の山》で採取したいくつかの素材が依頼の対象品だったのでいきなり大半を消すことができました。えっ?展開が早い?いやいや、こう言う時のために採取をしてたんだからいいの!



 「素晴らしいですね。今提示いただいた素材は特定の地域で朝しか取れない素材や夜しか採れない素材が多いというのに………」


 あっという間に依頼の大半を消化した私にギルドの受付さんも顔を綻ばせた。

 なんとなく今のこなした分だけでも交渉すれば鑑定士に紹介してもらえそうなんだけど……どうせなら全部片付けちゃいたいもんね。


 そんなこんなで残った調達依頼は残り三種。それらの素材がある場所を聞くと西にある《冬闇の大河》周辺でとれるんだそうです。

 次の行き先は決まりましたね!と言う訳で準備です。もちろん宿の位置も聞いておきましたよ。


 お金に糸目はつけないので設備とかが、きっちりとした所を紹介してもらいました。ちゃんとしてない宿屋の場合、他のプレイヤーや住民の冒険者と雑魚寝することになるんだって。もちろんその方が安く済むらしいけど、うら若き乙女としてはゲーム内でもそういう行動はしちゃだめだと思うんですよね。

 特に私の服って見た目的にも脱がせやすそうじゃないですか……って何度も言うけど全年齢向けのゲームですからそのように脱がせることはできませんけどね。




 情報提供してくれた受付さんに別れを告げ、宿に向かった。宿の外観は大きく、今まで町の中を歩いた限りでは一番豪華なつくりをしているように見える。うーん、確かにこれだけ豪華そうなら安全も確保できそう……。そう思い、中に入るとそこでは……


 「泊まれないってなんでさー。お金ならさっき一週間分払っておいたじゃないですか!」


 紹介された宿でプレイヤーらしき女性と宿の女将さんらしき人が言い合いをしていた。


 「何度も言うようだけど、今この宿には高貴なお方が滞在していてね。申し訳ないけどしばらく他のお客は泊められないんだよ。払ってもらった宿代は返すし、うちには劣るけどいい宿を紹介するからその矛を収めてもらえないかねぇ?」


 「うぅ……そんなぁ。やっと噂に聞いていた食事がすごくおいしい宿に泊まれると喜んでたのにひどいよ……」


 どうやらこの女性プレイヤーはこの宿で出される食事を目当てに来ているらしい。確かに中継地点にたまに現れる露店とか、この街の中でもおいしそうな香りがするものに出会った記憶はないね。

 その点この宿からはすごく食欲をそそる香りがしている。うん、気持ちはわかるよ!



 「こんにちはー。ギルドに紹介されてきたんですが泊まれますか?」


 「なんだい、またお客さんかい。すまないね。今この女性にも説明していたんだけど、今は他のお客さんを泊めるわけにはいかない事情があるんだよ」


 「話は聞こえていましたがそこをなんとか!」


 「そうは言われてもねぇ……んっ!アンタ……なんとなく高貴な香りがするね……」


 女将さんが身を乗り出し、クンクンと鼻をヒクつかせながらくるりと私の周りをまわりだした。ちなみにこの女将さんは猫系の獣人種で鼻が利きそう。……ゲームの中でお風呂に入ったりできてないから匂ったりしてたりするの?なんかすごい怖いんだけど?


 「ふむ、やはりアンタからは高貴な香りがするね。アンタなら泊まってもいいよ」


 おや、なんかラッキーです。高貴な香りってもしかしなくても魔王であることが関係してる?


 「えぇ!な、なんでですか!お金を払っていた私が拒絶されて後から来たこの人……ほわぁっ、すごい美人さん……じゃなくて、なんでこの人が許可されるのさー!」


 「もちろん高貴な香りがしたからだよ。何度も説明したじゃないか」


 女将さんが答える。このままだとまた先ほどのような押し問答になりかねないので助け舟を出すことにした。


 「あのぉ、この人も泊めてあげてくれませんか?お金は払っていたといいますし……」


 「そうは言われてもねぇ……アンタが泊まれる部屋は用意できるけど他の部屋はさっき言った高貴なお方が全部借り上げているからねぇ……」


 「あぁ、それなら私と同室でいいですよ?女将さんもあなたもそれならいいですよね?」


 「ふむ、あたしはアンタのツレって事にするなら断る理由はなくなるんだけどねぇ」


 「ふえっ?いいの?」


 女性プレイヤーが突然降ってわいた話に困惑している。別に宿に泊まるくらいなら危険はないはず。それにおいしい食事を食べたいという気持ちも共感できるからね。


 「もちろん。その代り費用は折半よ」


 「はいっ。良くわからないけどありがとうございます。これでここの食事が食べられます!」


 「と言う訳で女将さん手続きをお願いしますね」


 「はいよ。ただし高貴なお方の滞在する部屋には近づくんじゃないよ?いいね?」


 「わかりました」「はい」



 こうして流れで同室を借りることになった私とプレイヤーが改めて自己紹介をしていく。


 「私はアイリです。しばらくの間だろうけどよろしくね」


 「あっ、この度はなんかありがとうございます。私はゼリンといいます。よろしくお願いします」



 お互いに自己紹介をしたのち、ゼリンが槍使いだと知りました。ゼリンはユールで二カ月を過ごし、ようやくヘリオストスに拠点を移してもいいくらいまで育ったとのこと。

 ユールにいた時からヘリオストスにはおいしい食事が食べれる宿があるという噂が流れており、行ってみたいと思っていたそうです。そして念願が叶って宿の受付が完了し、武器屋で修理を済ませて戻ってきたところ、突然あのように言われて困惑していたとのことだった。


 闇の領域にはおいしい食事を食べられるところが少ないといったがそれは、単純に腕のいい料理人が異常に少ないのだ。光の領域ではマイナーな料理人という職業だったが、闇の領域ではなぜか料理人を持つ人が生まれにくいのだとか……。なるほどそういうことだったのね。

 料理人が少なく敵の肉にも毒性が含まれるのが多い為、調理には高度な腕が必要になる事からお店が少ないと言う訳。結局味気ない食事の露店ばかりが増えているということ。



 そこまで話したところで女将さんから食事の準備が整ったとの話を受け、部屋の中に運び込む。

 メニューは《闇恩鳥の姿焼き~ハーブ仕立て~》という物で噂通り(とはいえ、私はこの街に来るまで深く考えてなかったが)すごくおいしかった。


 食事を堪能した私たちは部屋の中の領域を決めて、それぞれの思い通りに過ごすことにした。

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