77話
1か月ぶりの投稿です
文章の「ぶ」の字も思い浮かばなかった。
私は今ヘリオストスという町の宿屋にいる。砂漠の遺跡から脱してなんやかんやの末にユールに戻り、パーシヴァルさんにいくつかのお知らせとお願いをしたのち、ヘリオストスに向けて旅立った。
コウガ達仲間のおかげでヘリオストスには、あっさり到達でき、宿をとることも出来た。その宿の中で私は一人、物思いに耽っていた。
発端は運営から届いた一通のメール。
その内容をたどっていき、行きついたある掲示板。
そこには私の仲間……コウガやクルスについてステータスが異常すぎるんじゃね!だの、私の服装に視線が向くのを止められないだとか、ありえない動き(イリスの空中遊泳とか?)をするペットモンスターがいるのはおかしい!と言った批判や、やっかみの数々。
そして周りの状況から見て二度目の死霊王討伐する前のエレノアが付いてきていた辺りの狩りの様子などの動画やSSがいくつか。
とはいえ、他の人に見られてたとしても大丈夫な程度の動き(軍勢やら魅了や覇気以外)しか載っていなかったので、ここまで炎上したのは投稿者視点で、あることないことを誇大に盛っているからだ……という印象が強かった。
運営からのメールにはこれらの件については迷惑行為だということで、実際にこれらを載せたプレイヤー達に数度記事を削除するようを呼びかけたが余計に悪化したためアカウントは無期限停止とした……となってるけど、掲示板に一度載ってしまった情報に関しては消しても消しても新しいのがアップされるとかでどうしようもない……という謝罪文も兼ねていた。
投稿された中には他のプレイヤーのSSなどのデータを盗み、あたかも自分が当事者のように使用しているとかもあったとか。この件がなぜ露呈したかというと運営がチェックをしていると、SSの保存データと投稿者のデータに特異点がいくつも見つかり調べたからだそうだ。膨大なデータの中からそんなの見つけるとか無駄に運営暇なの?
(なお、これは運営がそれとなく見守っているアイリに関するデータを調べていたから発覚したのであり、他のプレイヤーが対象だった場合は当然気づかなかっただろう)
まあ、どちらにせよ、運営としてはこのようにあっさり他人のデータを盗まれていてはまずいと思い、すぐさま対抗プログラムを組み、すでにゲームに反映済みらしい。仕事が早いね。
「私は無実よ。本当に何も知らなかったの!」
トリビアの研究所もとい、砂漠の遺跡からユールに戻るまでついてきていたエレノアにそういう話をすると、彼女は声を高く上げ否定した。エレノアは、ボス戦の事を聞くために待機していたみたいだけど、出てきた時、メールを確認した直後の不機嫌だった私の様子を見て聞くべき言葉を飲み込んでいた。
「別にエレノアが悪いなんて言ってないし、犯人はすでに罰を受けた後みたいだしね」
不機嫌だった理由を聞かれ、メールの内容を漏らしてみるとエレノアは移動をしながら掲示板を開きつつ、道中のモンスターも瞬殺していくという芸当をやっていた。んー、私じゃそこまで同時にこなすのは難しいよ。さすが廃人……。仮に私と一対一の戦いになったら瞬殺されちゃう(魔法ならいけそうだけど)
所でエレノア……普通に戦ってたけど、今倒したやつエリアボスっぽかったよ?
「だって、そのアイの映っていたSSのデータの大半は私が、アンタを追いかけていた時のものだったらしいじゃない」
掲示板を確認し、その問題となったデータを確認するとエレノア自身が持っていたデータと寸分違わぬものだったことから、データを盗まれたプレイヤーの一人はエレノアだったということがわかる。
「私は別にみられても良い所しか見せてないし、エレノアが悪いと思ってないって言ってるでしょ」
「それはそうなのかもしれないけどさ、そいつら……私の大事なデータを勝手に奪ったあげく、自分勝手に晒しておきながら、停止だけで済んでるのがムカつくの!運営には断固粛清をするよう抗議すべきよ!」
そうは言うけどエレノア……。あなたも最初出会った時は突き止めて晒してやるんだから!とか言ってたじゃない。それなりの付き合いのおかげで、なんとなく気を引きたいがための口先だけの言葉……と思ってたから気にしなかったけどさ。当然ながらそういった情報は投稿されてなかったから騒がれもしなかった。もしこの時に投稿されてたら、もう少し早くこのような案件になってたんじゃないかな。
どう転んでも私自身が気にしていない内容で騒がれよう騒ぐまいが勝手にしておいてって感じ。
私の可愛いコウガやクルスたちを貶したプレイヤー連中だけは、たとえ便乗しただけであっても許さないよ。掲示板のキャラネームだけはしっかりメモしておいたから会う機会があったら……ね(クスクスッ)。
それにしてもエレノアったら今こそっと、本音っぽいこと言ってくれたよね?私の大事な……ってさ。
言葉だけを聞くとデータだけが大事だったかのように見えるけど、この発言をした際のエレノアが「あっ、しまった!?」っていう表情をしてた所、ちゃんと見てたよ。このゲームって照れたりしたらそういうのがわかるように反映される点が無駄に出来がいいよね。
「まあ、運営は運営で対応してくれたみたいだし、私自身が被害を受けたと思ってないからいいんだよ」
「だからって……やっぱりアンタが気にしないならそれでいいわ。でも今回罰を請けなかったプレイヤーに対しては私が自分の恨みをのせて晴らすことにするわ」
「そうなの?別にしちゃダメとは言わないけど、程々にしないと前のゲームみたいに言われちゃうから注意してね」
「わかってるわ。同じ轍は踏まないように見極めるつもり。まっ、仮に何か言われたとしても、あの時みたいに暴れたりしないわ」
以前エレノア達と一緒にやっていた戦国系のゲームで私に関するチート疑惑が沸き上がった際にエレノアを筆頭として、いろいろ噂話の火消しとかをやってくれてたんだけど、そのことで逆にエレノア達に飛び火をしてしまった案件があった。
エレノア以外の他の面々は当り障りのないようにして回避したのだけど、エレノアだけは正面から批判を受け続け、結果いろいろと精神的に参った末に大暴走をおこし、そのゲームの掲示板関連が一時期大荒れしたことがある。
「実際問題、掲示板で私の事がどういわれようと気にしない性格なのはエレノアがよくわかってるよね?」
「ええ、だから勝手にやらせてもらうわ。……ところで砂漠での件なんだけど……」
「残念だけどボス戦のスキルに関しての質問には応じないよ?」
エレノアは今までの話の流れを断ち切り、自分の興味のある内容へ話をシフトさせようとした。
私としてもこの話が消えるのは願ってもないからね。掲示板で顔も声も知らない人に何を言われても気にしないけど、知り合いに言われるのは嫌なんだよ。
「……仕方ないわね。とりあえず王種発見の報告はすることになるけど、いいかしら?」
「良いも何も勝手にしたらいいよ?王種のプレイヤーが存在するって言うのはさっきのワールドアナウンスでバレちゃったんだし」
「そうよねぇ。じゃあそれはいいとして……アンタ次はどうする予定なの?」
「ん~?エレノアはもうついて来るのやめてくれるの?」
「そうよ。知りたいことはとりあえず知れたしね。……ってなんでうれしそうな顔してんのよ!」
「べべ、別に嬉しそうになんかしてないよ?気のせいだよ気のせい」
しくった。つい顔に出ちゃってたのかな。でもまあとっさの言い訳で誤魔化せたはず!
エレノアはじぃっと、私を見ながらため息を一つつき、話を続けた。
「まあいいわ。私もアンタについていってばっかりでレベル上げのペースが落ちてるから、そろそろ遅れた分を取り戻したいのよね。そういう事だからしばらくは追いかけるのをやめてあげるわ」
「そうなんだぁ、残念(やったぁ!これで軍勢の強化とかコウガ達のブートキャンプができる!)。
あっ、そうそう。次の予定の話だったよね。私としてはこれから王種討伐とプレイヤー関連の対人戦が増えそうだからそれに対応できるように戦力増強を目指す予定だよ」
「あ、アンタって子は……あれだけのスキルを持ちながらまだ強化するつもりなの?(今の状態でも実力はトップクラスなのにさらに上を目指す気だなんて、やっぱこの子は色々と危険だわ。何とか追いつかないと……今夜からは徹夜ね)」
「まだまだだよ。当分はエレノアからきいた樹齢王討伐を目標かな。まあその前にヘリオストスの町に言って装備を整えるつもりだけど……」
「そう。樹齢王は死霊王とは違った意味で強いから気をつけなさい。……それじゃ私は行くわ。また今度連絡するから」
「うん。またね」
こうしてエレノアと別れ、そのままパーシヴァルさんの邸宅へ。そこで領地を得たこと、トリビアに代官をさせていること、次の目的地がヘリオストスであることなどを伝える。
パーシヴァルさんは私が魔王として世界に認められたことをすごく喜んでくれた。
一応言っておくけど、私はまだ認められたくなかったんだよ?余計な問題が増えるのが目に見えてるから。
「話が変わりますがアイリ様……実はさる御方からアイリ様宛てに手紙を預かっております。その御方は現在ヘリオストスに滞在しておられるので、ヘリオストスに向かわれるのでしたらお会いしてはいかがでしょう?」
「私に手紙?だれから?」
「申し訳ありません。お会いしてからのお楽しみということでお許しください」
むぅ、気になる。まあ寄ったついでに人に会うくらいなら別に手間じゃないから良いけど。
私はパーシヴァルさんにヘリオストスまでの詳しい道順(ただし、道中のモンスターが強い直通ルート)を教えてもらい旅立った。
考えに考えた結果、巻き返しは無理と判断しました。
当分エレノアは出てこないので、忘却の彼方に送っといてください……。
次話別キャラ視点予定。




