70話 ダークエルフ視点②
「な、なんですって!?その情報は本当なの?」
私は驚愕の顔を浮かべながら、目の前でコップをキュッキュッと拭き取る仕草をしている人物に確認をとった。
「もちろん間違いのない情報だぜ。何せ、ついさっきこの俺自らが確認したんだからな」
その人物……酒場のマスターがニヤリと笑いながら答える。
「そう、じゃあさっきそこですれ違った銀髪の子がアイリって子なのね。すぐ追わないとっ!」
酒場のマスターにお礼と、情報料を支払い酒場を飛び出した。
このように酒場のマスターから情報を買えるようになるには、酒場のマスターからの信頼とギルドのランクの両方が高くなければならないし、さらに特殊なクエストを受注しクリアすることも条件に含まれている。
当然、酒場に情報屋というそんな側面があることなどこちらに来たばかりのアイリには知る由もなかった。(アイリは酒場のマスターは珍しい賞金首関連の情報しか知らないと思っているのだ)
「はぁはぁっ、どこに行ったのよ。見つけ次第、とっ捕まえて話を聞いてやるんだから」
酒場で情報を得てからすでに5分以上経過している。ユールの外に出られていれば周りは闇の森でどこに行ったか分からなくなる為、探すことはほぼ不可能である。いや、ユールの入り口を張っていれば出会えるだろうけどそれは時間の無駄になりうる。
そう考え、まだ町の中に居るという望みをかけてユールを駆けずり回った。当然走りながら闇の領域の掲示板を見ることは忘れない。
そこには次々とコメントが流れる【ヤバいっ!】という題名の掲掲示板があり、何がヤバいのか気になった私はそこで、銀髪の美人がユールにある大きな屋敷のほうに向かってるのを見たという情報を得て、急ぎその場所へ向かったのだ。
「い、いたっ!」
あれだけの容姿に加えて挑戦的な服装、銀色の髪にかなり強そうな犬のモンスターを連れているのだからユール内で目立たないわけがない。銀髪の女(美人だけど女としてアイリを美人と認めたくない)は大きな屋敷の前で門番と何やら話すと、中へ入っていった。
「えっ?噓でしょ?」
私はその状況を理解できていないでいる。銀髪の女が入っていったのはユールの中でも大きな影響力を持つ貴族の家。噂によると魔人王や吸血王とも懇意にしていると聞いていたから。
大きな屋敷の前に行き、初老に入ったくらいの門番と若い門番に話しかける。
「さっき銀髪の子がここに入っていったのを見たんですけど、私も入れてもらえないかしら?」
「ん?残念だがそれはできませんな。あの御方は私どもの主人の命を救ってくださった恩ある御方ですからここに出入りが許されているのです」
う、うっそぉ!?あの銀髪、いったいどうやってこの貴族に気に入られるようなことをしたのよ。
ここの貴族の命を救ったとかそういった関係のクエストなんてなかったはずよ!それにあの御方と呼ばれ、すごく敬われてるのが気になる……。
「それにあの御方は、魅わ……ゴホンいや、何でもない。と、とにかくあの御方だけは顔パスで通して良いことになっておるのでな」
「そういうことだ。君がどういった用事で来たのかは知らんが屋敷内に入れるわけにはいかないんだ。あきらめてくれ」
やはり入れてもらえないかぁ。まっ仕方ないわね。さっきの話からあのアイリっていうプレイヤーがここでログアウトとかしてるのは間違いなさそう。ならここを張ってればチャンスは来るはず……。
「では、あの銀髪の子とお話をさせてほしいんですけど、取次とかしてもらえないですか?」
「あの御方に取次ですかな?……ふむ、そちらは私共の方では決められませんので、主人に確認をしてまいります。失礼ですが名前を伺ってもよろしいですかな?」
「私はダークエルフのエレノアと申します」
「わかりました。では少々お待ちください」
門番のうちの初老の方が言い残し屋敷の中へ入っていく。そのわずか後に残った若い門番が話しかけてきた。
「あんたエレノアとか言ったよな?ユーグさんは、あぁ言ってたけど、取次とかそうそうしてもらえないと思うから過度の期待はすんなよ?」
「えぇ、その時はその時で別の方法を考えますので」
実際、取次いでもらえるとは思ってないからね。若い門番と話をしているとユーグという初老の門番が戻ってきました。
「ご主人は取り次ぐのは構わんとおっしゃられたのだが、すでにあの御方の姿が部屋にありませんでしたのでまた後日来ていただけますかな?」
ふぅん?部屋にいないってことはログアウトしたってことね。それならしょうがないか。出直しましょう。
「わかりました。また後日お伺いさせていただきます」
そう言い、屋敷を離れた。やる事がなくなったので、酒場に戻ると同時にさっきの若い門番が息せき切って入ってきた。
「おいっ!ここにエレノアとかいう冒険者はいないか!?」
イベントでもないのに、展開が早いわね。
「あらっ、さっきの門番さん。そんなに急いで、どうしたんです?」
「ふぅ、居てくれたか……。先ほどあの御方が部屋に戻られたので、君のことを話したら連れてきてくださいとお達しが来たらしくてね。スマンがついてきてもらおうか」
あっ、この若い門番、こっちの都合考えずに発言してる。まあ私としても好都合だからついていくけどね。
「わかりました」
こうして連れられてきたユールの貴族の屋敷。そこで私は銀髪と対面した。
「あなたがエレノア?」
銀髪がそう問いかけてくる。真正面から見て思ったけど、噂通り……いえ噂以上に美人ね、この子。
私が見とれているのを不審に思ったのか、首をかしげるアイリ。
くっ、女の私から見ても可愛い仕草じゃない……。まさか可愛さと美人を両立させる女がこの世界にいたなんてね。負けたわ……。
……ってそうじゃなーい!何、自分を卑下してんのよ私はっ!そんな事しに来たわけじゃないっていうのに! 深呼吸よ。すーはーすーはー……。
「え、えぇ、私がエレノアよ。あなたが死霊王を倒したアイリで間違いないのかしら?ちょっとある筋から情報を手に入れたからその確認をしたいのよ」
私の返しの質問にアイリがウッと言葉を詰まらせる。その反応から酒場のマスターの話が間違っていないことも確認できた。あとはどうやって倒したかを聞きたいところだけど……
「えと、それを聞くためだけにわざわざここまで来たんです……か?」
「えぇ、そうよ?おかしいかしら?」
「私はてっきり、メールの件で来てくれたのかと……」
「はあっ?メール?なによそれ意味がわからないわ、どういうこと?」
「えっ?あれ?もしかして気づいてない?さっき送ったんだけど……」
「ちょっと待って。全然話が噛み合ってないわ。少しお互いが何を言っているのかを整理しましょうか」
朗かにお互いの見解に相違があるわね。私とアイリはその点について話し合う。そしてその理由はすぐに判明した。
「改めて私はアイリ。エレノアとは、IーLINEでグループを組んでるはずだけど?」
「えっ?I-LINEで……?う、うっそぉ、まさかあんたがアイなのぉっ?」
「そうだよ?てかほんとに気付いてなかったんだ……私は名前を聞いてすぐ気づいたのに……。
さっきメールを送った直後のログインで、屋敷の人からエレノアが訪ねて来てるって聞いたから喜んでたのに、メールすら見てなかったなんて……ショックだよ……」
このエスでは同じ名前でプレイヤーを作成できない。当然、アイは私とのメッセージのやり取りでエレノアというキャラ名で作成したことを知っている(27話)ので間違えようがない。
「このゲームってさ、リアルに限りなく近いわよね……。あんたリアルでもその容姿ってわけ?」
「さ、さすがに髪の色と目の色は違うよ?」
「そのくらいは分かるわよっ!っていうか、いじってる部分がそれだけって事は、そう言うことなのね……やっぱり理不尽だわ」
その後もいろいろ話があったけど、根幹部分を聞けたのは再会してから数時間後のことだった。
《新たな王を発見したので《王の資質を持つものを探せ》の条件をクリアしました》
このコメントが私の中に流れたのは会話の終わり間際、彼女から言われたフレンド登録を断った話から始まる。
教えてもらうまでは私は死霊王の話を聞いたらそれで終わる関係のはずだった。しかし、アイがフレンド登録をしようと私にすり寄って接触したことで予想だにしなかった事態になった。それがさっきのクエストログ。
このおかげで、しばらくはアイリについて彼女の行動に目を向ける必要ができた。長く燻っていたクエストが片付く光明が見え、良さそうな報酬アイテムがもらえる。
フレンド登録をしていれば同じ領域にいる限り、どこにいるか表示されるので所在地を知ることもたやすいのよ。それにフレンド登録は申請した方からは数か月間消せないのよ。
ここで私から申請して、今の件がバレたらフレンドを切られるかもしれないしね。だから私はアイリから申請させ、それを受理した。
頭脳戦は私の勝利ね。って別に戦ってるわけじゃなかったわ。今のままでも報告するのは可能だけど、出来れば、どういった王なのかを調べられれば、このクエストは完全に終了できるわ。
翌日、予想通りの時間にログインしたアイリの後ろから堂々とついていく。アイリは私を見て「うわぁっ」って顔してるけど、何も言ってこないから了承したって事ね。
そうだっ、どうせだから掲示板に中継しちゃおう。アイリの事知りたそうなプレイヤーもいるみたいだし。
アイリはこの後闇の森へいき、レベル上げをするみたい。おそらく王のレベルを上げるつもりね。
どういった戦いをするのか、じっくり見せてもらうわよ、ふふふ。




