69話
ログアウトした私は携帯のI-LINEを起動し、メッセージを打ち込んでいく。
内容は先ほど考えた通り、私は闇の領域にいるので会いたいなーという感じです。とはいってもなんかまた既読スルーされちゃいそうだよね。みんなノリが悪いよね。
前に一緒にやってたゲームは、5人でいろいろ楽しんでたのにさー。だから……
「以前やってたゲームの《黒歴史SS》を数枚張り付けておいてっと……。これで返事してくれないならバラまくよ?」
と脅し文句を備え付け、あとは本人だけがわかるような個別コメントをメッセージにのせて送信……っと。
え、やってることが魔王っぽい?いえいえ、流石にリアルで魔王モードにはならないよ。
これだってすでに彼らに同じ様なことをされているので、それをノシ付けてやり返すだけです。どこにも問題なんて無いですよ?
メッセージを送信した後、台所のシンクにたまっている今までの生活ごみを片付けて廃棄や家の掃除などをすませておく。いい加減生ゴミは片付けておかないと、どこからともなく黒いのが湧いちゃうじゃない?
特に残暑が厳しいこの時期はとくにさ……。
あれだけは絶対目に映したくないから予防できるうちに予防しておかなくちゃ。なら出したその日に片付けろ?そこまで直ぐやらなくても大丈夫だよ~あはは~。
「ふぅ、ご馳走様~。さてそろそろログインして砂漠へ行く前の追い込みを頑張らないと!」
パーシヴァルさん宅へ再度ログインしました。
外に出る前に、皆の毛のお手入れとか済ませてこうかな…。進化してからさらに触り心地が良くなったから、トリミングの時間がどうしても長くなっちゃうんだよねー。
コンコン……
「はい?どなたですかー?」
トリミングが間もなく終わろうという頃、私の滞在している部屋がノックされた。
ノックの主はパーシヴァルさん宅の警備兵もとい初老の門番の人。一応自己紹介されたんだけど名前覚えれてないんだよね。
「アイリ様に面会したいという冒険者の方がいらっしゃってますがどういたしょう?」
「冒険者ですか?うーん、どうしようかなぁ……」
「お名前はエレノアと申しておりましたが、お知り合いではございませんか?そうでなければお断りさせていただきますが?」
「エレ……ノア?本当にエレノアって名乗ったの?」
「はい、ダークエルフのきれいな女性でしたよ。もちろんアイリ様ほどではございませんが……」
うそ~、エレノアからもう連絡がきたの?メールを送ってからまだ20分くらいしか経ってないのに。
こんなに早いってことはメールで返事するより、ユールで会った方が私を驚かせるとでも思ってるのかも?実際驚いたから負けを認めてあげるよ。
そういえば、門番さんが後半何か言ってた気がするけど、エレノアという名前に興奮してた私は普通にスルーしてました。
「それじゃあ、この部屋に通してくれますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、確認するまで絶対とは言えないけど、おそらく私の知り合いですから」
「そうでございますか。では少々お待ちください」
初老の門番が一旦退室したので、その間に途中だったトリミングを済ませてコウガとセツナ以外を収納へ戻しておく。部屋の中に顔のある樹があったり、空を飛ぶ魚や子竜がいたらエレノアもびっくりするかもしれないしね。ちなみにクルスは今はユールの集落内を散歩中。やっぱりあの子は空を飛んでるときが一番生き生きしてるから。
しばらくするとノックの後に扉が開かれた。そこには黒っぽい肌で耳がピンと長い綺麗な女性が立っていた。
あれぇ?この綺麗な人、さっき酒場で見かけた人だよね!?
へぇ~、これがエレノアのキャラなんだね。私の時のを思い出してもらえばわかるだろうけど、エスでのベースキャラの見た目はある程度までしか変えられないからエレノアはかなりの美人さんってこと。
コウガとセツナはエレノアを見てピクンッと一瞬耳を立てる。たぶんエレノアの強さを感じ取ったんだと思う。私の気配察知にも強そうな感じがビンビン来てるよー。
「あなたがエレノア?」
もちろん確信を持って聞いてみる。私としては彼女が以前のノリで話しかけてくれると思ってたからね。
しかしその予想は外れ、エレノアは私を見たまま、口をポカーンと開けてフリーズしていた。
あれ?私の顔に何かついてるのかな?もしかしてログイン前に食べた焼きそばの海苔でもついてたのかな?そうだとしたらすっごい恥ずかしいんだけどっ?
色々考えてる間にエレノアは落ち着いたらしく返事を返してきた。
「え、えぇ、私がエレノアよ。あなたが死霊王を倒したアイリで間違いないのかしら?ちょっとある筋から情報を手に入れたからその確認をしたいのよ」
あぁ、この声……聞き覚えがある……気がするよ。最後に通話したのは半年近く前だからあまり自信がないけど。
それよりも先に死霊王のことを聞いて来るんだ~?
てっきり、いつも通りのノリで「あんたねぇ(顔ドアップで)いつもいつも……ぺっちゃらくっちゃら(なんたらかんたら でもOK)」って来ると思ってたのに明らかに反応がおかしい。言葉に違和感を感じるよ?
「えと、それを聞くためだけにわざわざここまで来たんです……か?」
「えぇ、そうよ?おかしいかしら?」
「私はてっきり、メールの件で来てくれたのかと……」
「はあっ?メール?なによそれ意味がわからないわ、どういうこと?」
「えっ?あれ?もしかして気づいてない?さっき送ったんだけど……」
「ちょっと待って。全然話が噛み合ってないわ。少しお互いが何を言っているのかを整理しましょうか」
これはあれですね。これで通じてないってことは、私がI-LINEの相手であることにすら気づいてないね。一応こっちでの声はリアル(というか通話時)と同じだから気づくと思ったんだけどなぁ。
エレノアがこっちのこと気づいてないならきっちり教えておかないと。
「改めて私はアイリ。エレノアとは、IーLINEでグループを組んでるはずだけど?」
「えっ?I-LINEで……そういえばアイリだったわね。はっ!……う、うっそぉ、まさかアンタ、アイなのっ?」
「そうだよ?てかほんとに気付いてなかったんだ……私は名前を聞いてすぐ気づいたのに……。
さっきメールを送った直後のログインで、屋敷の人からエレノアが訪ねて来てるって聞いたから喜んでたのに、メールすら見てなかったなんて……ショックだよ……」
「うぅっ、そんな悲しそうな顔するなぁ。それにアンタがアイだって言うなら、中途半端な時間にログアウトしないっていう私の行動くらい把握しているでしょうがっ!」
おや?やっと口調が元に戻ってきてる。エレノアはよくわからない相手には丁寧に対応する癖があるからね。それが砕けて来てるってことは、そろそろいつも通りの会話ができるようになるね。
ここからしばらくエレノアから私の容姿に関しての質問があり、それに答えていた。
それが一段落した後は、またI-LINEでの友人関連の話へシフトする。
「そりゃ、他の3人と同じレベルで廃人だってことは知ってるよ?」
「待ちなさい。何自分は違うといいたそうな話し方をしてんのよっ!」
「え?事実だよね?私のどこが廃人だというのさ~?私はエレノアや他の皆みたいに寝る時間を削ってまでゲームをプレイしてないから、一般の定義から見ても廃人じゃないでしょ?」
「そんなわけないでしょうがっ。そのプレイ方法とやらで、アンタが廃人と呼んでいる私たちをあっさり抜いている密度の濃いプレイ方法こそがアンタが廃人であることの何よりの証拠でしょうが!」
「そそそ、そんなことないしっ!?と言うか、何をもって私がエレノアを超えてるっていうつもり~?」
「はぁ……やっと私がここに来た理由にもどれるわね。私がここに来た理由はこの領域でトップレベルの私でも倒せなかった死霊王を倒したプレイヤーがいる情報を手に入れたからよ。まあ、それがアイだったのは正直予想外だったけど」
「えぇっ!死霊王って誰も倒せてなかったの?」
「そうよ。まあ、闇側にいるのだけは確定してる他の3人と協力すれば倒せただろうけど、アイツら、今どこにいるか不明なのよね。携帯の方も読むのは読むみたいだけど返信なしで連絡もつかないし。ってアイならわかるわよね。メッセージに既読がついてたんだから」
そういえば、今までのメッセージ既読はついてたけど返事はなかったっけ。
そっかぁ。他の皆は闇の領域にいるのは確定だけど、目立った動きはしてないんだねぇ。
「それって他の皆はエスでは慣れあいたくないってことなのかなー」
「……そうかもね。アイツらも自分勝手だし、前のゲームみたいに自分の得になることがないと、一緒に行動しないんじゃないかしら?」
「そっかぁ。まあそういう事ならそれでもいいかぁ。話したかったんだけどなぁ」
メッセージの件もたぶん面白い案件でも振ってきたんじゃないか位で確認しただけなのかもね。
ゲームを進めて面白そうなことがあればメッセージで送ってあげようっと。
「ところでエレノアー?」
「なによっ?」
「せっかく会えたんだし、フレンド登録しとこうよ」
「しなくてもいいわ。どうせこの話を聞けたらさよならするつもりだし」
「そ、そんなこと言わないでよー」
私がそう言い、引き留めようとエレノアに触れたとき……
「へっ!?うそぉ!?ホントに?」
エレノアがあり得ないものを見たという表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「……事情が変わったわ。フレンド登録しましょうか」
「えっ?えっ?いきなり心変わりとかすごい理由が気になるんだけど?」
「フレンド登録が終わったら教えてあげるわよ、さっ、早く」
私は首をかしげながらもエレノアとフレンド登録を済ませる。エレノアははなぜかガッツポーズをしてる……。むむぅ、意味不明だぁ。
「アイ……じゃなくてアイリ。アンタさぁ私に隠してる事があるわよね?」
「いきなりなにさ?私が何を隠してるっていうの?」
「アンタ……何かの王よね」
「っ!?な、なな、なんのことかなー?」
エレノアから突然語られた王という言葉。しかも確信したうえでの発言っぽい。
私はあわててピヒューピヒューとあまり鳴ってない口笛を吹きながら誤魔化した。エレノアはかなりジト目で私を見つめている。うぅ、誤魔化せてなさそう……。
「前のゲームの時も思ったけどアンタ隠し事下手すぎるわよ?」
「……一応聞きたいんだけど、なんでわかったの?」
「認めるってことでいいのね。それじゃ教えてあげる。私はね、いま未確認の王種を探すクエストを受けてるの」
この時点で笑顔を浮かべる私の頬をタラリと冷汗が伝う。
「も、もしかしてそれって前に返事で言っていた、何かの証を持つ人物を探す っていってたやつ?」
「えぇ、それよ。答えを言うとアイリに触れた瞬間、そのクエストの報告が可能になったわ。それはつまり、アンタが未確認の王種であるということに他ならない。プレイヤーが王種だっていう事も気になるし、その辺をじっくり教えてもらいたいんだけどねぇ?」
まさかそんなクエストがあったなんて……どうせバレてるんなら魔王だっていうことくらいは教えてもいいかなぁ。
エレノアだったら多分大丈b……「あっ、それとクエストだからこれNPCに報告することになるからね」 ……全然、大丈夫じゃなかったよぉ!?NPC=住民、住民に知られる=住民も掲示板を使用しているらしいのでそこに流出する可能性が大……=私有名になる。だめじゃん!
闇の領域に来てそんな日もたってないのに、魔王だっていうだけ追いかけられそうだし。この辺にいる王種が……。
「は、話したくない」
「どうしても?」
「うん、それにステータスを知ろうとするのはノーマナー」
「そう、ならいいわ。しばらくあんたに付きまとってどういう王か私が判断するから」
「えぇっ!?」
「それが嫌なら教えなさい?」
「……ダメ」
「それじゃ、しょうがないわね。確かアンタは早朝から夜の23時までの時間帯しかゲームをしてなかったわよね。その時間なら私もログインしてるから、しっかり付き合ってあげるわ」
な、なんてことでしょう。まさかエレノアから《私をストーカーする宣言》を聞くことになるなんて……信用してたのにー。今まで通り、時間を決めてプレイしてるのが仇となった展開だよ……。困った。
少なくとも明日から砂漠に行くのは無理そうだね。トリビアに伝えておかないと……。
さっき(前話で)すれ違ったばかりなのに速攻出会わせてしまってすいません。
この辺はサクサクッと進めたい気分だったので。
2章は一章同様に戦闘を端折り(1話~2話弱で終わらせる形)つつ、修行と後日掲載される○○を中心に行きたいと思ってますのでその点ご了承くださいませ。




