表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/195

64話

 目の前の赤目のゾンビは私達を見つけると「ヒュヒュヒュ」と言いながら襲い掛かってきた。

 とは言っても杖を持ってる時点で接近戦をしてくるとは思えない。案の定、ある程度の距離に近づくと立ち止まり詠唱を行う。


 「えっ!?詠唱が超はやい!?」


 赤目のゾンビは魔法の詠唱を始めたかと思うとすぐに発動してきた。

 真っ黒な球体の魔法を次々とこちらに放ち、次の詠唱を行う。どうやらこの赤い目のゾンビは魔法弾幕型らしい。

 文字通り魔法をひっきりなしに発動して相手に接近させずに攻撃してくるタイプだ。だけどこう言う相手は接近戦に弱いという相場がある。とまあこれはガイアにいるときに広場で他プレイヤーが話しているのを聞いただけなんだけどね。

 ちなみに私はこのタイプのモンスターとは戦ったことがない。なぜなら遠距離攻撃とか私が最も苦手とする攻撃方法だから。

 見切りにくい攻撃をされて被弾した日には死ぬ事まちがいなしだもんね。だからこそこういう相手との戦いは避けに避けた。



 赤目のゾンビが放った球体の魔法は私達の前に着弾する。狙いが甘いのか、わざとなのかは知らないけど、高威力っぽい闇魔法であるのは間違いない。


 何発も放たれる魔法を避けるコウガ達だったがそれも長くは続かない。なぜなら赤目のゾンビは避けた先にも魔法を放っていたからである。


 「ギャウンッ!」


 闇の球体が後方で魔法を使おうとしていたセツナを捉える。セツナはこの一撃で体力の6割を削られる重症。


 「セ、セツナッ!くっ、イリスは今回、回復役に徹しなさい」

 「グルウゥ」

 「コポッ!」


 私はその威力の高い魔法に驚きながら指示を出す。コウガとクルスには隙を見つけたら攻撃するように言ってあるけど、コウガの攻撃機会はおろか、空にさえ弾幕を張っている為、クルスですらうかつに空からの攻撃を仕掛けられない。


 私の覇気もこう何度も連発される魔法には効果が対応しきれないので、かなりきつい。覇気は赤目のゾンビが放ってくる魔法よりもクールタイムも準備時間も長く連続発動できないからね。

 カエデも赤目のゾンビの魔法が届かない遠距離から木の実爆弾を飛ばすが如何せん命中率が低いし、仮に直撃コースに飛んでも弾幕となっている闇魔法で落とされる。


 残りのルドラはというと、ギシギシ言いながら仲間の壁になっているけど、食らう攻撃全てが即死レベルのはず。まあそれでも生き残ってるのはイリスの回復の速さと、スキル【甲殻】のおかげなんだろうなぁ。

 甲殻のスキルはレベルが高ければ、一撃死を防ぐ確率が上昇するもの。それで耐えても残りの体力は数字で言うと1しか残っていない。

 それはつまり次以降の攻撃を食らえば確実にダメージを超過するのでやられる。だからこそイリスの回復が必要なんだよね。



 「困ったなぁ。何とか隙を作れれば良いんだけど……」


 そう考えながら私も闇の魔法を大きい動きで避ける。ここに来る前にそろえたコトノの装備のおかげで少しは身体能力補正があるから正面から来る分は避ける事は可能。しかし……


 「ガ、ガルルッ!」


 対処法を考えるのに夢中になっており、一瞬回避をおろそかにしてしまった私にコウガが吠えて、危険を知らせる。


 「えっ!?あっ、しまっ……」


 既に私の目の前には闇の球体が迫っている。コウガやセツナ、クルスまでもが私を庇おうと接近するが間に合わず、闇の魔法は私に直撃した。



 「きゃあぁっ!………てあれ?」


 闇の球体は確かに私に直撃したのに、なぜだか生きている。てか無傷?

 他の子たちがアレだけダメージを食らう魔法を食らえば、私なんてひとたまりもないはず。ほんとに何で生きてるの?



 とりあえず生きてる事に首を傾げつつ、慌てて魔法の射程から離れ、先ほどのログを確認する。


 《アイリは死霊王ネルググのヘルブラストをレジストした》


 うん?どーゆーこと?またしても突っ込みどころがでてきたけどそれは置いといて……懐かしのヘルプコマンドを呼び出し、レジストについて調べた。

 それによると、レジストとは相手の魔法攻撃を完全無効化した状態であるという事がわかった。その条件は相手のINT値よりも2倍以上高い魔法抵抗力が必要だということが書かれている。


 「あっ、もしかしてこれのおかげ……?」



 名前 アイリ

 種族 人族 

 適正 魔王・調教師

 LV 1(-/-)

 スキル

 アクティブ


 【テイム】

 【統治】

 【気配察知13】

 【※エクスチェンジ】

 【覇気】

 【軍勢・魔獣/獣】

 【軍勢・魔鳥/鳥獣】


 パッシブ

 【好感(小)・魔人】

 【好感(大)・魔獣/獣】

 【好感(大)・魔鳥/鳥獣】

 【好感(中)・魚獣/魚】

 【好感(中)・死霊/精霊】

 【好感(小)・妖魔】

 【好感(小)・魔樹/植物】

 【不興(小)・魔蟲/虫】

 【不興(微)・魔粘体】

 【メイクアップ】


 強さ

 STR 1(+17)

 VIT 1(+12)

 AGI 1(+12)

 DEX 1(+1)

 INT 15(+13)

 CHA 200(+237)


 装備

 ケトラーウィップ STR+3・攻撃時判定に地・水の効果が乗ることがある(小)

 ヒマティオン・フェザー VIT+4(1+3) INT+7(4+3)・CHA+12(9+3)

 チャームネックレス CHA+4

 鬼樹のサークレット+2 STR+9、VIT+8、INT+5

 クイーンシューズ+3 AGI+12、CHA+15

 鬼姫の躯手 STR+5、CHA+6



 つまり、こう言うことだ。魔法防御に関係があるINTとCHAの合計は現在補正込みで450オーバー。そして敵の魔法をレジストできているってことは赤目のゾンビ改め、自称死霊王ことネルググの設定INT値は間違いなく225以下ってこと。

 まあ闇の深遠とはいえ、普通に出会うモンスターのINT値がそこまで高いとは思えないもんね。


 つまり、死霊王とやらが、どの位の強さか知らないけど私のステータスの前では奴の魔法攻撃は、ほぼ全て無効化が可能ってことだよね!私って魔法に対してすごく強いキャラになってたんだ。……まあ物理装甲は相変わらず低そうだけどさ。

 けど、そうと分かればこっちのもの!


 「みんな、私の後ろについてきなさい。そして相手に近づいたら一斉攻撃よ。あっ、カエデとルドラはここで待機ね。残念だけど貴方たちの攻撃スキルはそこまで強くないからね。その代わり他の戦いでは目一杯戦って頂戴」


 「ガウッ?」「グルル?」「コポォッ?」「クケケッ?」と攻撃スキルが強いメンバーから「主を前に立たせて良いのかな?」的なニュアンスの返事が。

 ワサワサッ、「ギシィ」と待機メンバーの残念そうな返事を聞きながら、私は前に出た。



 「付いてきなさいといいつつ、やっぱ正面から魔法の直撃を食らうとなると怖いなぁ」


 コイツは死霊王とか言われてるみたいだけど、光の勢力で戦ったオークキングと同じような名前だけのヤツに違いないわ。おそらく闇の深遠に出るフィールドボスくらいの扱いなんだろうね。

 死霊王はなおも魔法を放ち続ける。それが全て私に当たっているものの、やっぱりログには「レジストしました」という相手にとっては残酷な表示が流れ続ける。うん、余裕余裕。でもコウガ達に流れないように気を付けないと。

 でもまさか、私が壁役をすることができるようになるなんて夢にも思わなかったよ。物理壁はルドラに、魔法壁は私で確定だね。



 私が近づくに連れて死霊王は一撃あたりが強力な魔法を使い始めたみたいだけど、それでも私の魔法防御を破れるほどではなく無力化。


 「もう終わりだよね?それじゃあ、皆やっちゃって!その前に【エクスチェンジ】!」


 死霊王の前方数メートルまで歩み寄り、私は鞭を使って死霊王の杖と腕を巻きとる。……当然私の攻撃も相手に通らないけど、多少なり動きを封じることが出来た。

 使用した【エクスチェンジ】ではINT値を犠牲にして攻撃する子達に能力上昇効果を振り分けていった。スキルの効果は素のステータスを仲間や配下に振り分けて攻撃強化などをサポートする能力。

 とはいえ、一気にINT値を使ってしまい、私にダメージが通るようになってしまってはダメだからINT値を1ずつ下げて行き、ダメージ無効のログが表示されるのを確認している。

 結局INT値を1まで下げてもダメージが無効されたのでCHAだけで相手の魔法攻撃力を上回っていることが確認できました。



 そこからは、あっという間の出来事。コウガやクルスが攻撃の起点となって次々と物理的な攻撃を放っていく。魔法攻撃が得意なはずのセツナまでもが、ガジガジと噛み付き攻撃を仕掛けている。

 噛みついてる場所は死霊王の体のところどころにある骨の部分。ゾンビらしく腐肉部分もあるけどそこは噛むことはあっても食べたりはしてないようです。お腹壊したらダメだから絶対食べないでねぇ。



 死霊王といえど魔法タイプ、接近戦に対する防御能力は低い。恐らく、普通のパーティ戦でこいつと戦う時にネックとなるのは、如何にして相手に早く近づき、高い攻撃力で倒すかで勝負が決まるんだね。


 「ワレガ、マケル……トハ……」


 10分ほど攻撃が続き、最後の言葉を吐きながら死霊王は倒れた。その体は分解され、ドロップアイテムとなって私のアイテムボックスへ納品される。

 まあその辺の成果はユールに戻ってから考えるとしようかな。まあ予想通り名前負けしてる通常モンスターだったんだ。てか、喋れるなら「ヒュヒュヒュ」とか言ってないで最初から喋れ~!



 ≪闇の深遠において、王種モンスター《死霊王ネルググ》が討伐されました≫


 「ふぇっ!?」


 という全体ログの後に続けて流れたログが……


 《プレイヤー:アイリが王種を倒した事で魔王の資質が強化され魔王の熟練度がⅡになりました》

 《プレイヤー:アイリの魔王の資質が強化された事で新しいスキルを取得しました【軍勢:魚獣/魚】【好感(小)・物質】【好感(小)・亜人】、さらに一部のスキルが変化しました》

 《プレイヤー:アイリの魔王の資質が強化した事によりステータスが上昇しました》

 《個体名クルスが王種モンスターを討伐したことで封印されていたスキル【雷撃衝】が解放されました》

 《個体名ルドラが王種モンスターを討伐したことで特殊進化の条件が解放されました》

 《個体名コウガのレベルが上昇しました》

 《個体名セツナのレベルが上昇しました》

 《個体名イリスのレベルが上昇しました》

 《個体名クルスのレベルが上昇しました》

 《個体名カエデのレベルが上昇しました》

 《個体名ルドラのレベルが上昇しました》

 《個体名コウガの進化が可能になりました》

 《個体名セツナの進化が可能になりました》

 《個体名イリスの進化が可能になりました》

 《個体名クルスの進化が可能になりました》

 《個体名カエデの進化が可能になりました》

 《個体名ルドラの進化が可能になりました》



 れ、レベルのあがり方が半端ない……。みんなが一気に進化可能になるとか。

 死霊王とか言うアイツ、本当に王種だったんだ……実はすごいヤツだったのかぁ。あの程度の攻撃からはそう思えなかったのに。


 レベルの上がり幅がバラバラなのはモンスターのランクの違いによるものです。必要経験値が多いランク3のコウガ・セツナ・クルスは4~5レベル程度上昇……いや、今までの事考えたら、程度なんて言葉で考えられる数字じゃないんだけど。あぁ、あとクルスを仲間にしたときから封印されてたスキルの内のひとつが解放されたね。

 でも、コーカサスの時は解放されなかったところを見ると、倒した王種の数か、倒した王種の強さによって封印が解けるのかな?まあ、他の王種を倒せばわかるんだし、詳しく調べるのは後でいいよね。


 ランク2のイリスとカエデに関しては10レベル近くも上がってるね。

 そしてランク1のルドラがヤバいぃ!特殊進化条件を満たしたとか出てるし、レベルの上がりも18あがってるとか……。



 イリスが進化したそうにせわしない動きをしているけど、今は森の賢者を探すことが目的だから、ユールに戻ってから私の得た新しい軍勢スキルや職業の表記も含めて詳細を確認することに決めた。


 今現在は闇の深遠にいるんだから闇の森深部まで戻らないと。先の死霊王クラスとまではいかないまでも強いモンスターが出てくるかもしれないしね。そう考え、マップの名前が切り替わる場所まで戻り探索を進めると小さな小屋を見つけた。


 ここが森の賢者の庵かな?まあ尋ねてみればわかるよね。





 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 「なんだと?あの死霊王がやられた?だ、誰にだ?」

 「それが全くの無名の者らしく情報が全く手に入りませんでした」

 「たわけがっ!すぐにそいつについて調べ上げろ!」

 「はっ、直ちにっ!」


 闇の領域のとある城内において位の高そうな人物とその部下と思われる人が話をしていた。

 位の高そうな人が部下に指示を出し、豪華そうな椅子に座る。


 「闇の深遠という人の寄り付かない場所ということから放置され、あげく強くなりすぎて、ここ数十年倒されていなかったあの死霊王を倒すほどのものが闇の領域に現れていたとは。見つけて絶対に俺の配下にしなければならんな。くくくっ」


 そう呟く位の高そうな人物を物影から一人の女性が見ていた。


 「まさか死霊王を倒した者を配下にしようとしているなんて……急いであの方に知らせなければこの領域に大変なことが起きてしまう……」


 女性はそのまま闇の中へ姿をかき消すかのように居なくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ