52話
「きゃぁっ!」
コーカサスは目の前に並んでいたコウガ達には目をくれず、私へ突進攻撃を仕掛けてきた。
けど横合いからコウガが素早く体当たりをして斜線をずらしてくれたので、私の低いAGIでもよけることが出来た。
「あ、ありがとうね、コウガ」
コウガは当然の事だともいわんばかりに鼻をフンと鳴らす。うん、その鼻を鳴らす仕草も可愛いよ!
町に帰ったら最優先で今までの戦闘でボサボサになった毛皮を梳かしてあげるからね~。
出会いがしらの突進を避けられたコーカサスは面白くなさそうに上空をブンブンと飛び回り、次にどう攻めるか考えているらしい。どうやら先ほどの一撃で私をすぐに狙うのは面倒だと判断したらしく、周囲に居る5体のモンスターを先に片付けることにしたみたい。
とはいえ、隙があれば間違いなく私を直接狙ってくるだろうから気をつけないとっ。
相手が空中を飛び回っているので、まずは同じ舞台で戦えるクルスとイリスの二人がコーカサスを攻める。瞬間的にとは言え、コウガも空を走る【空蹴り】のスキルを使えるのだが、相手がどういう行動をするか分からない以上、手持ちの札をさらしたくは無い。
クルスは空を飛びながら大砲とロックレインを同時発動すると言う技を見せる。
コーカサスもその同時攻撃を全て避ける事は適わず、大砲と岩に衝突して、その体に傷を負わせた。うん、クルスってば元々空の王だっただけあり、空での戦いはお手の物ね。
今までの敵は、弱すぎてクルスのポテンシャルを発揮できなかったのかもしれない。けど今の相手は仮にも虫の王の肩書きをもつコーカサス。クルスはコーカサスを自分とほぼ同格だった存在として最初から本気を出しているみたい。
私も空での戦いに関しては、クルスには指示を出すことはしない。だってクルスの方が空に慣れてるんだもん。余計な指示を出して怪我とかさせたくない。
対して、クルスの陰に隠れていたイリスはと言うと、虎視眈々とクルスの技を避けた先を狙って水魔法の【アクアプレス】をコーカサスに当てていく。
この魔法は、纏わり付く水で相手の行動力を下げる効果を持ち、最近イリスがお気に入りの魔法です。この魔法で速度を下げ自分の【突進】や【重打】を当てることこそが、イリスの戦術だと思う。
しかし、コーカサスもただやられているばかりではなかった。蟷螂の鎌を振るうと真空刃が発生しイリスを切り裂き撃墜させ、安全に攻撃を仕掛けていたクルスにも手傷を負わせたのだ。
「イリス、クルス。戻ってきなさい!セツナは氷魔法で攻撃、カエデは爆発する実を投げて足止めして!」
戦闘に関しては口を出す気はあまり無いけど、傷を負わされたのなら話は別。
指示通りセツナたちが動いていくのを見て、戻ってきたクルスとイリスに対してポーションを使う。
「やっぱりボスというだけあって攻撃力はすごく高いのね」
今までコーカサスが見せた攻撃は、突進と真空刃といった高い威力を持った攻撃とその他の威力の高くない攻撃。それらは合体した虫モンスターの特長を生かした攻撃が多かったので、見える部位でまだ出ていないモンスターの攻撃手段も予想が付く。
「コウガ、ボスがこっちに来たら接近戦になるわ。その時はボスの顎とカブトムシの角、あとは後方の蜂の針に注意して。後はコウガの判断に任せる」
「ガルッ!」
コウガは短く返事をするとコーカサスをしっかり目で捉えるが、まだ行動を行わない。
以前と同様、私の護衛をしているのかと思いきやそうでもないらしい。
コーカサスがセツナとカエデの攻撃で足止めされている間に回復を済ませたイリスとクルスも戦線に復帰し、それぞれ攻撃を繰り出していく。一気に4対1になったコーカサスだが、慌てることなく攻撃をかわしていく姿はまさに王の余裕だろう。むしろ対応する相手が多くなるに連れてコーカサスの動きがよくなっている気がする。
「ジジジッ!」
攻撃を食らっても動じなかったコーカサスがこの時、初めて声を出した。
すると、コーカサスに合体していた虫たちが分離し、クルスたちに襲い掛かった。コーカサスに合体したモンスターはカブトムシ、クワガタムシ、蟷螂、蜂、セミ、そして何処にその要素があるのかわからないけどトンボの合計6種類。それぞれが角、顎、鎌、針、声、不明のなにかを司っている。
分離した虫たちはそれぞれが対応しやすいと判断した相手へと向かっていく。
相手をしている4体の中で一番強いと判断されたクルスへ向かっていったのはクワガタと蟷螂が、イリスにはトンボが、セツナとカエデの方にはセミと蜂が向かっていく。
そして残ったカブトムシは私とコウガが居る方へ飛んできました。
「あぁっ!よりによって本体っぽいカブトムシがこっちに来たぁ!?」
明らかに接近戦タイプのカブトムシがコウガと相対する。しかしその目線は私にも向いているので私も気合を入れなおす。
いざとなったら覇気を使って行動阻害を狙わないといけないからね。
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《 クルス VS クワガタ&蟷螂 》
蟷螂とクワガタはお互いに意思疎通が出来るらしく、お互いの行動を邪魔せずクルスに対して的確にダメージを与えようとする。
蟷螂は少し離れた所から真空刃を飛ばしてくるし、クワガタは突進して相手を顎で鋏み、噛み切ろうとしたり投げ飛ばそうとする。
クルスはこの場で注意するべきは蟷螂よりも、クワガタと判断している。と言うのも真空刃自体もかなり危険なのだが、合体していた時よりも若干威力が低いので数度食らったところで特に問題はなかった。
しかし、クワガタの顎による攻撃に関してはヤバいと思わざるを得なかった。
突進から顎による攻撃を避けたクルスが見たのは、クワガタが自分よりも明らかに太い障害物の木を顎で挟み粉砕していたことから。
もしアレを自分が食らえば一撃で戦闘不能になるのは想像に難くない。しかも分離していてあの威力なのだから、合体した時も危険なのは間違いない。
クルスは蟷螂の真空刃をロックブラストや大砲で封じながらも、ロックレインでクワガタの接近を防いでいく。クワガタ自身が装甲の厚いモンスターなので、土系魔法を当てられれば装甲を薄く出来るはずなのだ。装甲が薄くなれば、クワガタを片付けることなど容易い。
まあクワガタの動きもそれなりに速いのでなかなか当てられないのがネックなのだが……。
せめてこちらにも後一人いれば何とかなるだろうに……と思いながらクルスは延々と相手の隙を狙う。クルスはレベル的にも種族ランク的にも有利なのだが、それはどちらか一体を相手にした場合の事であり、今回のように同時に襲ってこられては同格……いや若干不利といった所だ。
「クケェッ!」
クルスは思う。こんな体たらくでは自分から王の座を奪った存在と戦うなど夢のまた夢だと。
この程度の不利くらいどうにかできなくてどうする!と自分を奮い立たせ、クルスは行動を行う。
そう……あえてクワガタと接近戦をする事にしたのだ。接近戦できる所まで近づけば蟷螂からの真空刃の頻度は低くなるはずで、真空刃を使えなくなるとほぼ間違いなく接近戦を仕掛けるために近寄ってくる。
まずそこを叩く!
事実、クルスがクワガタに接近すると真空刃が飛んでこなくなり、蟷螂がジリジリとこちらへ近寄ってくるのが確認できた。
クルスはクワガタヘの攻撃の手を緩めず、その瞬間を待った。
「クケッ!」
待ち望んだ瞬間が来る。クワガタの一撃を避けたところにクルスの後方から鋭い鎌を振り下ろす蟷螂。
クルスは一声なくと、土魔法を発動させ、クルス自身は素早く視界を奪った蟷螂の後ろへ回り込んだ。クワガタもクルスの今まで見せなかった素早さを見てすぐに追撃に移ることが出来ないでいた。
蟷螂からするとクワガタと意思の疎通をしながら放ったトドメの一撃のはずだった。
しかしそれは今、土に阻まれ蟷螂は一瞬その思考を止めた。
「クケェェェ!」
クルスはその一瞬を逃さすに【堕翼撃】を瞬間的に発動させ、直線に並んだ蟷螂とクワガタへ炸裂。
クワガタ達の体力は一気に危険域まで減少したのだった。
「ジジジッ!!」
クルスが、トドメを刺そうと足に力を入れた時、セミの鳴き声が響いた。
次話は他のメンバーの戦いから始まります。
流石に全員分を書くことは出来なかった。




