30話 幕間アルバイト
「響さん、フロント、ヘルプお願いしまーす」
「あっ、はい。分かりました」
現在20時少し前くらい。私はネットカフェ《Diver》でアルバイト中です。
今日、一緒のシフトになった小枝子さんの妹、奈緒ちゃんの声を聞き私も返事をする。
今ドリンクバーの入れ替えしてたんだけど、相変わらずタンクが重くてササッと済ませることが出来ません。エスと同様、非力だなぁってしみじみ思います。
作業途中なんだけど、今の所ドリンクバー周辺にはお客さんがいないし、ヘルプに向かわないと。
フロントには沢山のお客さんの姿がありました。年代的には10代後半から20代にかけて位で男女の割合は8:2って所かな?
いつもならこの時間は人が少ないんだけどなぁ。だって20時前って言えば、ナイトパックの適用もされない微妙な時間だし、今から入ってもあまりお得感がありませんよね。
あっ、誰にも聞かれて無いからお客さんという言い方をしてるけど、ちゃんと応対をするときは《お客様》っていうから細かい所は気にしないでね。
「ねぇー早く受付してよ~」
お客さんの一人である女性が焦れたように奈緒ちゃんに話しかける。隣には彼氏っぽい男性がひとりいて「まあ焦るなって……」とかいって宥めてるけど待ちすぎてイライラしちゃってるのね。
「も、申し訳ありません。もう少々お待ちください」
実は奈緒ちゃんも私と同じでここのアルバイトを始めたばかりで作業に慣れてない為、こう言った事案が何度か発生するんです。私もバイト4日目に、お客さんが多い時間帯にあたり今と同じような事態になったとき時、すごい焦ったもん。
そのときは小枝子さんと我那覇さんがいたので助けてもらえましたけど……
「奈緒ちゃんお待たせ。手伝うね」
「あっ、響さん。助かります」
「後ろでお待ちのお客様~。こちらでお伺いします」
「あ~、やっと受付できる~」
先ほどの女性の希望する部屋(リクライニング・座敷・ソファーなど)を聞き、手順通りに作業を行い無事フロントに並んでいたお客さんが全員捌けました。私がフロントに入った時、女性と一緒に来ていた男性が私の顔をジロジロ見つめて来るのが正直気分が悪かった(気持ちが悪いじゃないですよ)。
……彼女?と来てるのに他の女に見惚れるって最低な行為よね?
「響さんありがとうございました。あぁー、それにしても何でこんな急に人が増えたんだろ?」
「いつもならこの時間空いてるのにねぇ」
「急に忙しくなられると混乱しちゃうからやめて欲しいよぉ」
「そうね。でも奈緒ちゃんは私より先輩なんだから泣き言は言わないように!」
「ブー!たった1週間早く入っただけですから先輩とかじゃなくていいんですー!」
「さてと、あっ、奈緒ちゃんそろそろ上がりよね?」
時刻は20時。奈緒ちゃんの勤務時間終了です。高校生なら21時くらいまでは働けるのに姉である小枝子さんが奈緒ちゃんを心配して20時で終わるように言いつけているんだって。
「あっ、そうですね。後1時間、響さんだけになっちゃいますけど大丈夫ですか?」
「多分大丈夫。この後のシフトの人が結構速く来てくれるから、それまで頑張れば良いだけだし」
「あはは。そうなんですね。それじゃあ私はお先に失礼しますね!お疲れ様でしたー」
「はーいお疲れさまー」
ふぅ、後1時間、注文とフロントを一人でこなさないといけないのかぁ。あぁー嫌な予感がするー!
プルルルルッ
プルルルルッ
……お客さんからのコールです。やっぱり注文きちゃいましたか。
「すいませーん。きのこのピザとー、鳥のから揚げとー、ポテト盛り合わせおねがいしますー」
「はい、お時間少々頂きますがよろしいですか?」
「はい、だいじょうぶでーす」
……せ、セーフです。具を乗せてオーブンで焼いたり、袋から出して油で揚げたりするだけの作業ですみそう。jストップウォッチさえちゃんと動いてるのを確認すれば何とかなります!
これで卵焼きとかオムレツとか頼まれたら時間がいくらあっても足りません……よ。
よし出来ました!提供行ってきまーす!
プルルルルッ
プルルルルッ
「あっ、注文いいっすかー?ヘルシー野菜のシーザーサラダと、オムレツおねがいしゃーす!」
……ひぅ!?きたー、きちゃいましたよ!?私が手を加える必要がある料理は、アルバイト開始して2週間経ってもまだまだ上手く出来ないんですよぉぉぉ!?
ぎこちない手つきで野菜を千切り何とか盛り付け、数分とは言え時間が空くので冷蔵庫で冷やしておく。
ドレッシングをかけるのは提供前で大丈夫。そうしないと水分で薄くなるんだって。
次に冷凍のオムレツの具をレンジでチンしながら卵を溶いていく。
レンジが止まり、熱々の具が出来た所で正念場である焼きの作業です。
ジュワー!
フライパンに油と卵をひき、具を載せ卵で包んでいく。破れないように慎重にしすぎると卵がこげちゃいますし、早くひっくりかえそうとしても皮が破れちゃうので加減が難しいのよね。
自慢じゃないですけど、ここで働く前は卵焼きですら焦げ焦げにする腕前なんですからね!
今だったら焦げる割合は7割で済むくらいかな……。
運が良かったのか、何とか見た感じは上手く包み込むことが出来ました。
後はケチャップをかけて……冷蔵庫からサラダを出してドレッシングをかける。
よし、提供いってきまーす!
プルルルルッ
「さーせーん。オムレツ4人前おねがいしゃーす!」
いやぁぁ!もう許してぇぇぇ!
先ほどと違い、2回ずつ巻き直しを行った結果、提供が遅れたことをここに明記します……。
「ちーっす。あれ?今って響さんだけなの?」
21時になる15分前に交代で入る夜シフトのバイト君がやってきました。
彼の名前は野村祐介といい、実は私と同じ大学で同じ講義を受けている人でもあります。まあここに来るまでは顔を知っていても話したことはなかったんだけどね。
「そうですよ。20時に一人あがったので。1時間とは言え一人は大変でした」
「そっか。でもちゃんとこなせたんなら良いんじゃないか?」
「オムレツさえなくなればもっとスムーズに出来たのにっ!」
「ぷはっ!?えっ?もしかして響さんって料理苦手なタイプ?」
「わ、悪いですか?」
「いや。悪くないさ。ていうか意外だった。何でも出来そうな感じがしてたから余計にね」
「私にだって出来ないことはありますよ」
むくれながら言うと、野村君はキョトンとしながら反応に困っていた。
野村君と話をしているうちにもう一人のアルバイト柴崎君がやってくる。彼は基本無口なので私も挨拶程度しかしてないんです。
二人が揃った所で21時を過ぎ、私はあがることになりました。
「それでは野村君と柴崎さん、お疲れ様でした。後はよろしくお願いします」
「あいよー、おつかれー!気をつけて帰れよ~」
「お、おつかれ……」
ネットカフェを出て愛車の自転車に乗り自宅へ。
今日もしっかり汗をかいたのでシャワーで汗を流し、食事を食べてから少しだけエスをプレイし就寝。
明日は森でリベンジですね!がんばらなきゃ!
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「やっべぇ!さっきの響さん。マジやばかったわぁ~」
「何がだ?」
「さっき響さんと話してる時に料理できないっていう話になってさ、それでちょっと拗ねられたんだけどさ、その怒った表情が上手く表現できる言葉が見つからないほど綺麗だった。いやぁ、あれは確かに大学で一番人気争いするだけのことはあるわ~……本人全く気付いてないけど」
「確かに綺麗だよな。俺もなんて声をかけたら良いわからねぇし」
「あっ、もしかして柴崎が響さんの前だと突然無口になるのって、照れて話せないだけなのか?」
「わ、悪いかよッ!?」
「いやいや、青春してるなって思ってさ」
夜のシフトの男性二人にこう言った話のネタにされているとは気付かない愛梨だった。




