27話
「ブシシシシッ!」
声に驚き振り向いた先にいたのは岩の上にいたのは大きな黒いサソリ。どこからそんな声を出しているのか疑問につきますが、このサソリ以外に何もいないので間違いは無いのでしょう。
「みんな、魔法とかあまり使えないかもしれないけどがんばろう!」
私の声に4体が戦闘体勢を取る。だけど黒サソリはブシシシッと鳴いているだけで襲ってくる気配がなかった。むしろ、敵意は無いといわんばかりに鋏も尾も上げていない。
あれぇ?明らかに虫型だから問答無用で襲い掛かってくると思ったのになぁ?
根気よく暫く様子を見るも黒サソリは全く動きを見せない。とりあえずこちらを見ているには見ているけど警戒してるわけでも無いし……。
「黒サソリさんは戦う気はなかったりする?」
あまりに動きが無いのでついつい尋ねてしまいました。
「ブシッ!」
どうやら黒サソリもそのつもりのようです。私達から戦闘の意思がなくなったと見ると黒サソリは、なんとなくついてきてほしそうな目をしてカサカサと動き出した。
「みんな、ついて行って見よう」
「「オンッ」」「コポッ?」「クケッ!」
黒サソリについて行った先は岩清水を採取した源泉のほんの少し奥まった所にある岩に囲まれた広場。岩の間には所々穴が開いており、なんとなくここが彼らの住処だということが分かる。
黒サソリはそこでブシシシと鳴くと思ったとおり、穴という穴からサソリたちがカサコソと這い出てきます。むー、あまり見てて気持ちの良いものじゃないかも……。
「ブシシッ!」
案内した黒サソリ……(なんかリーダーっぽい)がまたしても鳴くと穴から出てきたサソリたちがなにやら卵のようなものと何かを運んできます。
うん?彼らが何をしたいのかさっぱり分かりません。
卵と一緒に出てきたのは体の半分が潰れかけている白いサソリ。既に息も絶え絶えといった感じですが、彼(彼女?)を見せてどうするのでしょうか?
「ブシシシッ、ブシッ!」
リーダー黒サソリが私達のほうへ向き直り鋏を持ち上げつつ、なんども頭の代わり?に尾をペコペコ下げる。どういうこと?ほんと意味わかんないんだけど。
見るとその死に掛けっぽい白サソリもかすかに尾を下げているように見える。
この流れって……あれじゃないかな。実は私達のどけた岩のどれかに挟まれていた白サソリがいて、それを気付かず助けたからお礼っぽいことを言われてるとか。となると卵は彼らからの感謝の印なのかな?
でもあれです。岩の下で生活してるサソリが岩に挟まれて死に掛けるとか少しだけかわいそうな気分に。ぶっちゃけると、こっちが助けたくてやったわけじゃないから感謝されても困るんだよね。
状況が理解できた所で無駄かもしれないけど、使う機会のあまりなかったポーションを取り出し、体が潰れて死にそうな白サソリに掛けてあげる。ポーションって死んでさえ居なければちゃんと効果を示すんだね。白サソリの様子がマシになったところで、レアモンスターである鯰の肉を食べさせてあげた。
ナマズ肉を出した時、コウガ達はすごく悲しそうな顔をしてたけど、ここは人助けならぬサソリ助けだから我慢してね。私としても意図しなかったとは言え中途半端に助けて放置すると言う真似は出来ません。
レアモンスターの肉を食べて元気になった(レベルがあがった?)白サソリはその体を綺麗な形状に戻し、嬉しそうに走り回っている。持ち上げた尾をブンブンと振って元気さのアピールも出来たようです。
それを見たリーダー黒サソリもなんとなくブシシシッの声が高くなっていて喜んでいるのが分かります。
この様子から黒と白のサソリは番だったりするのかもね?
「フシュー!」
「ブシシシッ!」
黒白2体のサソリが私に何度も何度も頭を下げ、卵を押し出してくる。やっぱりお礼みたいですね。
まあもらえるって言うならもらいますよ~。
お礼を言い足りないのか他にも脱皮した皮をいくつもつけてくれた。数で言うと40くらい?その後サソリたちと別れ、沢に戻ってきた私達。手に持っている卵を見ながら呟いた。
「卵を貰ったは良いけど、サソリって卵生じゃなかったはず……?」
アイテム名は《魔物の卵》。説明文にはモンスターの卵という表記しかありません。
「サソリから貰ったんだし、きっとその辺のモンスターが生まれるんだろうけどどうしよう……。
シオリさんに渡して食べたらダメなのかなぁ……確かどこかの国では食べてるって聞いたことがあるもん」
この言葉を口に出した時、なんとなく卵の中で何かがビクリと反応を示した気がする……。
沢での休憩を終え、一旦ガイアの街へ帰還する。今回はなんとなく歩きつかれたのでガイアの街の広場でコウガ達の毛を梳かしてあげようと思います。
イリスにはそうですね……広場の噴水の中にでも入って泳いでもらいましょう。
雑貨屋で購入した獣用の櫛を使いコウガとセツナの毛づくろいを行う。コウガはしつこく梳かされるのが苦手らしくある程度整った所で逃げ出しました。逃げたって言っても私の手が届かない程度の距離ですけど。そこで丸くなって卵を温めている。卵が孵るのを一番期待してるのってコウガなのかも知れない。
対してセツナはこう言う毛づくろいが大好きらしく、私がやめない限り延々と続けさせてくれます。
やっぱり女の子だから身だしなみは大事よね。ちなみに2頭から《犬の毛》というアイテムが10個前後手に入りました。
実はこのアイテム、ランドッグのレアドロップなのですよ?野犬の毛皮というのはよく手に入るのに、犬の毛はあまり手にはいらないとか。それならと毛皮から毛を剥がせば、毛本体は壊れたアイテム扱いになるから都合よくはいかない。
次に鳥用の毛先の柔らかい櫛をだしてクルスの羽毛を梳く。外側の毛は硬いけど内部の方の毛はフワフワしてて温かいのです。クルスはもと王というだけあり、こういうケアをされる事には慣れていたのかな?
いつも堂々としていて、時折目を細めて気持ち良さそうにしている姿が見れるもん。
当然彼からもアイテム《王者の羽毛》というものが毎回3つほどいただける。
すごいよね!でもこれは質が良さそうだから流通させにくいんだよね。今までの毛づくろいで集まった王者の羽毛はすでに20を超えちゃってる。何とか目立たずに処分できないかなぁ。
噴水で泳ぐイリスは、あまりにも長い時間放置されていると後ろから水を掛けてくるので、他の子たちの毛づくろいをしている間に数回程度噴水に手を入れてあげると、イリスが手を何度か突きに来ては満足してくれる。
たまに肉の欠片を指先に付けてあげと、突きに来る回数が増えるのがちょっと楽しい。
さて、次は南東の森にいくか南西の海岸に行くか迷う所です。
その辺はご飯を食べながら考えようかな~。そういうわけで一旦ログアウトです。
食後、ログイン前に携帯のチェック……。まだこないと思っていた返事が来ていました。
そう、I-LINEのネトゲフレンド枠の一人からです。ちゃんと携帯のチェックはしてくれてたんですね。ある意味感心です。
彼女の名前はエレノア。今までのネトゲを全てこの名前でやってきている廃人さん。この名前が使用済みのゲームはやらなかったというほどの徹底振り。逆に言えば大抵のゲームの正式稼動にキャラ登録だけして、データを残し、時間ができたときに楽しむタイプだったともいえる。
それにしても既読は4件付いてるのに返信はエレノアただ一人とか……ひどいと思うんだ……。
彼女は闇の勢力に属し、特殊な証を持つ人を探す旅にでてるんだって。
それってグランドクエストか何かかな?と質問を返しておく。多分待ってても返事は来ないだろうし、ゲームでもしてのんびり待とう。
という訳でガイアに到着。さあ次にやるのは……ユーディットさん関連の森か海岸か……もしくはパーシヴァルさん関連の山以外の抽象的な表現をされているフィールドの正体を調べるか、すっごく迷ってる。
ご飯のときに考えたんじゃないのかって?
もちろん考えましたよ~。でも迷っちゃったんですからしょうがないじゃないですかー!




