23話
朝一で受けたクエストを消化し、魔王クエストが一段階進んだ所で一旦ログアウト。
思ったよりも時間が経っていたみたいでお昼を少し過ぎちゃってたみたい。
とりあえずカップラーメンにお湯を入れて、待っている間にエスの情報サイトを漁る。
私の仲間が4体に増えて一人で行けるところが増えたので、トッププレイヤーより先に進んでしまってる可能性もあるんだよね。そうすると知らず知らずのうちに、誰も持っていないような素材を流通させちゃう可能性があるじゃないですか?
そう言った事を防ぐ為にこれは大事なことなんです。
調べた結果、その心配はありませんでした。トッププレイヤー達は私よりも先を探索済みで私が心配していた素材に関しても既に少ないながらも流通してるって書いてた。
「これならコトノたちに素材を渡しても大丈夫だね。せっかくだから装備の制作頼んじゃお」
と調べることに夢中で気づいた時にはカップめんが伸びてました……不覚です。
伸びたカップめんを食べきった所で、携帯の《I-LINE》を起動し【ネトゲフレンド】の項目に載っている4名にエスの状況について情報交換希望と書いて送っておきました。
彼ら?彼女ら?も私と同じレベルでゲーマーですから、このメールにいつ気付くか分からないので気長に待つことにしましょう。
初アルバイトまであと4時間……アルバイト先は家から徒歩10分のネットカフェ《DIVER》というお店。初出勤だから20分くらい前には着いておきたいかなぁ?
それを差し引いても3時間はプレイ出来るから、ログインしちゃうよ~。
エスにログインし、すぐにコトノとルグートに持ち込んだ素材で適当に作って欲しいとメールを送ると二人からすぐに【OK】の返事が来ました。
「アイリさ~ん!やっと……やっと、私に装備品を作らせてくれるんですね!すっごく待ってたんですからね!」
「そ、そうだったの?気になってたのなら顔を出してた時に言ってくれればよかったのに」
「だ、だってアイリさん。いつも忙しそうに素材を取引したら話をする間もなく出て行っちゃうから言えなかったんだも~ん」
あぁ、確かにそうだったかもしれない……。課題の関係でログインしてからすぐ片付けられるクエストを重点的に済ませてたから結構時間に終追われてたのよね。
「ごめんなさいね。でも今日から大学も夏季休暇に入ったからダイブと余裕が出来ると思うから、話をする時間は取れると思う」
「あっ、アイリさんって大学生だったんだぁ?じゃあ私よりお姉さんなんですね」
「そうみたいね。別に答えなくても良いけど年下って事はコトノは今高校生くらい?」
「そうですよ~。高校2年生。受験勉強を考えないといけない時期なんです」
「そっかぁ。私もその位のときは……デスクトップの育成系オンラインゲームにはまってたわ」
そうそう、たしか当時で既に7年も続いている動物を捕まえて別の動物と交配させて新しい動物を作り出す科学者が主人公の【キメラの箱庭】って言うのが流行ってたの。
あのゲームで私が気に入ってたのは、純血種の究極鬼熊(熊にも70種類いてそれを全て捕まえて熊だけで交配させてできた史上最高の熊)と天海蟷螂っていう超レアなガチャ限定(ガチャは無課金でも回せる様になるアイテムがあった)モンスター、あと四神の朱雀(1プレイヤーに付き四神のいずれか1匹しか入手できず交換は不可)を交配し作り上げた【アルティメットグリフォン】っていう子だった。
私は彼を作り上げてレベルを最高にしたところで完全燃焼してしまい、しばらく充電期間を置く事にしたのです。
休止後、今の大学に合格が確定して心機一転、もう一度再開しようとしたらなんと《サービス終了しました。長らくの御愛好まことにありがとうございました》のコメントが……。あれには泣けましたよ。
当然その日は寝不足で翌日高校に行ったら、目の下のクマを見て皆にすっごい心配されたっけ……。
「うわぁ、すごいんですねぇ……私もそのゲームならやりましたけど、欲しかった四神の玄武が出なくてやめたんです」
「あ~、玄武を使う交配沢山あったからそのどれかを狙ってたのね?」
「はい。【オーシャンカイザー】って言うのを作りたくて頑張ってました」
「うんうん。確かにあれも強いキメラだったよね。他にも【ダイナモレヴィア】とか居たけどそっち方面は考えなかったの?」
「はい。友人がそっちを既に持っていたので、友人が持っていないのを作りたかったんです」
「その気持ち分かるわー」
と話しているうちに時間は過ぎ……
「あっ、もうバイトに行く時間が近いから落ちないと。コトノ、装備の制作はお願いするわよ?」
「はい。預かった【鯰のヒゲ】【大山虫の羽】【轆轤蛇の表皮】、その他のレア結晶。これだけあれば良いものが作れますから安心してください。結晶に関しての強化もお任せしてもらえるんですよね?
あとデザインとかはほんと~に私にお任せしてもらっても良いんですか~?」
「えぇ、ミニスカとかじゃなければ特に指定はしないよ。あと、可能だったらフード付きのマントもお願いね?」
「分っかりました!全力で取り掛かっちゃいますよ~!」
コトノに別れを告げ、ルグートにも素材はまた次回持ち込みするとメールで知らせてログアウト。ちょっと喋りすぎたね。
アルバイトは17時から21時までの4時間。現在時刻は16時20分、ギリギリですね。
私は急ぎ外面用装備もとい、メイクを施し戦場(バイト先)へ向かった。
「始めまして。本日からこちらで働かせて頂きます響愛梨です。よろしくお願いします」
「うひゃぁ。こんな場所に働きに来るとは思えないほどの美人じゃないか」
「わし……ここでバイトしてて今日ほどラッキーだと思ったことは無いぞぉ!」
「こらぁ。そこのダメ男二人!先輩なんだからまずは挨拶っしょ!」
「「そ、そうだった!」」
アルバイト先にいたのは男性従業員が二人と女性従業員が一人の計3名。今日出勤じゃない女の人も居るらしくこの夕方のシフトは私を含めてこの5人で回すことになるみたい。
「んじゃ、改めまして、俺は宇崎大輔。大ちゃんって呼んでくれ!」
「次わしだよな?わしは我那覇浩太。わしの事はこーちゃんでいいぞー!」
「……よろしくおねがいします。宇崎さん、我那覇さん」
「ププッ、二人ともスルーされてるじゃん。あっ、私は園田小枝子。呼び方は何でも良いよ。よろしくね響さん」
「こちらこそよろしくお願いします。園田さん」
「あっ、やっぱ苗字呼びは止めよぉ!実はもう一人も園田って言うのよ。まあ私の妹なんだけどね」
「そうなんですか?じゃあ小枝子さんで良いですか?」
「OKOK~。あっ、妹は奈緒って言うの。姉妹ともどもよろしくねー」
こうして始まったアルバイト。初日というだけあり覚えることが沢山あります。
ドリンクバーのタンク交換とかレジのジャーナルセットとか……あとは店内の掃除とほったらかしにされた本の整理ですね。
本がある理由はネットカフェという分類だけど、ちゃんと漫画や雑誌といったものも読めるようになっているから。
このうちのタンク交換に関しては宇崎さんとか我那覇さんが同じシフトだったら彼らにやってもらえば良いとの事です。
いやいやー、仕事なんですからちゃんと私がやりますよ!
……んっぐぐ……。
「ゼエッゼエッ……」
分かってはいましたけど12リッター入りのタンクは重かった。ドリンクバーのところまで持ってくるだけで汗が吹き出てきました。ここからまだ中身のタンクの入れ替えとか圧力ホースの組み換えとかしないといけないとか…まあここから先はそこまで重量物があるわけじゃないからできますね。
それにしても予想以上にハードです……けど最低限は出来ないと……。
「響さんはそんな無理しなくても良いんだって。力仕事は俺らがマジ手伝っちゃうからさ。むしろ響さんはレジというかフロントに立つべきだぞ!!」
「そうだ!まさにその通り!響さんがそこに居てくれるだけで俺達はいつもの10倍は頑張れる!(うなじを流れる汗……いろっぽいなぁ。さすが女子大生……)」
「へぇ?あんたたちずいぶんと優しいのね?私の時と対応が全然違うと思うんだけどどういうことか説明してもらえる?」
「さ、最初なんだから無理させてやめられたら困るじゃないか!」
「そ、そうだぞ!?別に他意はないんだぞ?」
宇崎さんたちは冷や汗を流しつつバックヤードに後退していく。どうやら二人は小枝子さんの事が苦手みたい。
私もなれてきたら小枝子さんみたいに軽口が叩けるといいな?一緒に働く仲間として付き合えるくらいにはならないと。
こうして私のアルバイト初日は終わりました。帰宅後はお風呂に入ってベッドに入ります。
だって明日も今日と同じ時間に起きてエスに行くんだから!




