181話
《降石の谷》から帰還したその足で向かったのはこちら側の拠点であるハルトムート。鳥王を倒すついでに受けていた素材集めやら討伐系のクエスト報告をするためです。光の領域側での貢献値を増やさないと王種の情報を得られませんから、しっかりやっておかないとね。
なお、いつの間にそんなものを受けていたのかとかは気にしないように‥‥。私のモットーは効率よくやりたい事をやる事なのですから(おそらく…)。
と言う訳でそこそこの報酬金を受け取り、【完全統治】スキルの投資金額を増額しておく。ぶっちゃけ私自身がお金を必要とするのはこのスキルを使う時くらい。
なぜなら装備はコトノだったりBさんだったりが試作品が出来るたびに見せてくれたりするから。もちろん気に入ったものがあれば相応の素材による支払いをしているので問題はないはず。今どき物々交換で装備を手に入れてる人って私くらいなのではと思わないでもないけどね。
その代りにコトノ達からは万年金欠だと思われてそうだけどそれはまあ甘受しておきましょう。
「アイリさ~ん、私たちのギルド会話でルグードとBさんの二人から《ブライトス宝石鉱山》での素材集めの話が出てるんですけど一緒にいかがですか?」
「あー、あそこですか」
《ブライトス宝石鉱山》とは少し前に王種の一体である宝金王ギャラルホルンを倒した場所。あれから大分時間が経ちましたし、復活してからそこそこ力を取り戻している頃ですか。まあすでに一度倒しているので能力を得るという意味では期待できないけど、クルスとルドラのレベル上げには丁度いいかもしれない。
「一緒に行くのは大丈夫だけど、私を誘っても大丈夫?これってコトノ達のギルドの中での狩りなんでしょ?」
「全然問題ありませんよ~。むしろアイリさんが一緒に来てくれるだけでみんなテンションが上がりますから楽しくなること間違いないです~」
「そういうモノなんだ?まあ色々やりたい事(クルスとの飛行訓練とか)あったけど、知り合いと一緒に狩りをするのも楽しそうだから行こうかな?」
「やったぁ!ようやくアイリさんと狩りに行ける~。皆にも言っておきますね~」
コトノがすごくうれしそうです。まあ確かにコトノとはサービス開始初日に知り合っているにもかかわらず、一緒に狩りに出たことなかったもんね。
知り合った当初は魔王としての力を隠すのに必死だったから他プレイヤーとの狩りとか考えてる余裕がなかったもん。今はまあ隠し方を覚えたから他人と組んでも大丈夫!ちゃんとバレないように立ち回れるようになってるからね!
「主よ……それは本気で言っておるのかのぅ?」
ロアンがなにか言ってる気がしたけど気にしないっ!
数十分後、待ち合わせ場所であるハルトムート出口の門には《裁縫師》コトノ、《彫金師》ルグート、《鍛冶師》B・ルドラー、《忍ばずの》はったり半蔵、《正体不明》リリカ、《お茶好き》ランド流布、《やけに白い人》アルビノ、そして《爆炎調理王》シオリの姿があった。
ギルメンの中には昨日会ったシノアやプリーストのエリスと言った人もいるんだけど、どうしても都合が付かないという事もあり今回は不参加になったらしいです。
見ての通り知り合いが多いんだけど軽く説明を……。はったり半蔵からアルビノまでの四名は私がこちらに戻ってきた初心者ダンジョンの中で顔を合わせた事のある人達。まあ顔見知り程度の知り合いだけど、コトノ達のギルメンと言う事なので悪い人達じゃないだろうね。
ちなみにそれぞれの前に付けた《裁縫師》などの呼び名は私の独断と偏見で勝手につけてます。
「アイリさん、今日はよろしくね」
「こちらこそ~。と言うかシオリさんもこのギルドに入ってたんですね」
「んー、今までは別のギルドにいたんだけど、最近料理作成の強要が増えて来てね。イラっとしたから抜けてきたの。で、そこに丁度知り合いでもあるコトノさんからお誘いを貰ったから入らせてもらったのよ」
シオリさんは今や、超売れっ子料理人。私が勝手につけた爆炎調理王と言うのもあながち間違っていないのです。ちなみに彼女の料理のファンは私も含まれている。いや、だってほんとに美味しいんだよ?
当然私も食べているのだからコウガ達も料理のファンである。今も町の中でのサイズになっているコウガ達はシオリさんに群がっているからねぇ…。
「それにしてもアイリさんの連れているモンスターはたくさん増えたんですね」
「まあね。なんだかんだで一年近くプレイしてるんだから従魔が増えるのは当然じゃないかなぁ?」
「確かにそうですね~。なんだかんだでもうすぐサービス開始から一年経つんですよねぇ」
話をしながらシオリはコウガ達にエサを与えている。うーん、皆尻尾振り過ぎ!
てかロアンが一番がっついてるんだけど!?私自身が料理できないから美味しい物をあまり食べさせてあげてなかった反動が出ているのかなぁ。これからはやはり美味しい物を作れる人材を集めるべきでしょうか‥。よし、後でトリビアに連絡して調理系の能力を持つ人材を育ててもらうように言っておこうっと。
そんなこんなをしているうちに話が進み、メンバー訳をするという話になりました。
「まず私とアイリさんは同じパーティで~、他の……」
「なっ!?ギルマスっ、ちょっと待て!職権(権限)乱用は良くねぇぞ!」
コトノが当然のように私と同じパーティになると言い出したことから、ギルメンの中から不満の声が上がる。なお、渦中の私の意見が聞かれることは無い‥‥。
「だって~アイリさんを誘ったのは私だから、その位の役得はあってもいいよね~。それにそれにアイリさんの初フレンドは私なんだから決定なんですぅ~」
とまあめちゃくちゃで子供っぽい理論?でメンバーの割り振りを強行したコトノ。
変わらず不満は出たけど、ここで時間を取られて目的の場所に行くのが遅れるのも問題と言う事もあり、数人が身を引いてくれた無事に二つのパーティが結成された。
コトノをリーダーとして私、Bさん、はったり半蔵さんの四人組と、ルグートをリーダーとしたリリカさん、ランド流布さん、シオリの四人組である。
まあPTを分けていると言っても行動は同じなんだから特に問題はないと思う。もちろん分けてくれた理由は私が家族を呼び出す必要があるのでその枠を確保するためです。まあ結局半々になったから私としても呼び出す子は一体だけにしようと思う。……ボス戦があれば話は別だけど。
「それでこの中で戦闘が出来ないのは……Bさんとリリカさんでしたよね~?」
「おぅ、悪いな。鍛冶スキルや生産スキルをメインにしているから戦闘スキルは大槌くらいしかないんだ。しかも筋力上昇系のパッシブもないから相性の良い特化武器を持っていても大したダメージは出せん」
「この中で歴戦の勇者っぽい強面のBさんが一番まともに戦えないなんて端から見たら誰も思わないだろうなぁ」
コトノの確認に茶々を入れるアルビノ。Bさんはそんなアルビノに一撃を入れている。本当にダメージは出てないけど……。実は鍛冶スキルと言う言葉から金属を鍛えるので筋力が必要になると思われがちだけど、実際に必要なのは器用さなのでBさんの主張は間違っていないのだ。てか生産職なんだからその位は認識していて当然なのかもしれないけどね。
残ったリリカさんだけど、彼女はアルケミスト(錬金術師)の職業適性らしく、彼女自身の戦闘スキルは皆無と言ってもいい。だけど作り出した錬金生物を戦いに繰り出すことが出来るらしいので、まったくの無力と言う訳でもない。ちなみに錬金生物のランクは使用した素材により1~5まで確認されているんだそうです。なかなかやりますねー。
戦闘可能なメンバーはランド流布さんは弓を、シオリはフライパン(盾として使用も可能)や包丁などの武器に加え、爆炎魔法を扱う。はったり半蔵さんは、戦闘面ではちゃんと忍らしく、斥候・暗殺系が得意なんだそうです。
そして最後にアルビノさんだけど、こう見えてヒーラーなんですって。いや、まあ真っ白な人と言う印象だったからヒーラーでもおかしくはない(?)んだろうけど、びっくりしました。
残った知り合いであるコトノ達の戦い方に関しては初心者ダンジョンにいる時にある程度見せてもらったから説明は省きます。
「よ~し、それじゃ宝石鉱山に向けて出発!」
「あ、それならソリを出しますね~。いらっしゃいコウガ・セツナ」
「わんっ!」「ガウッ」
町を出てすぐに私はソリを出し、コウガとセツナを呼び出す。ソリには10人まで乗れるので今いるメンバーを全員乗せることも余裕です。
コトノ達からすれば今迄も馬車などには乗ったことがあるだろうけど、高ランクモンスターであるコウガ達が牽くソリの速度には驚いていた。
こうして私たちは道中に問題など全くなく宝石鉱山に到着したのだった。
次回の更新も引き続き不定期です。申し訳ありません。




