180話 閑話 -光の領域・強化クエスト-
更新が遅くなり申し訳ありません。
前半と後半で同じような言い回しをしているように思う所などがあるかもしれません。
これについては感想などがあれば内容を多少ですけど変えようと思います。
希望を言えばそういうもんかと読み流してくれることを期待しとる次第です‥はい。
「さあ行きますわよ!【爆裂殴打】!!」
メイスを振りかぶった女性が目の前にいる巨大な無機物系モンスターに突っ込んでいく。女性の使用したスキルにより爆発・破砕されていく無機物モンスターの体。
「俺の剣じゃあんまり効かねぇけど、ジュリさんにばかり任せる訳にはいかないよなっ!【空烈斬】」
続けて軽装の男性剣士が風属性を持つ遠距離スキルを放ち、メイスの女性…ジュリさんと呼ばれたプレイヤーに迫りくる別種モンスターの腕を切り飛ばした。
「ユウキ、ジュリさん。すぐに魔法撃つから離れろよ~。【溶岩流】」
さらに言葉を発したのは魔法使い風の男性で、魔法により赤くドロドロになった液体をモンスターへ向けて発射、そのモンスターの体をジュワーと溶かしていく。
これらの攻撃によりジュリさんことジュリエイト、軽装の剣士ユウキ、魔法使いシバの前にいたモンスターの群れは姿を消した。
「やはり皆さんは強いですね。私の力では相性が悪すぎるようで、肩身が狭いです」
戦闘には参加していなかったもう一人の女性プレイヤーであるシノアはつぶやく。
シノアがまだレベル50台になったばかりに対し、ジュリエイトたちはすでに60レベルであるため戦闘力に差が出るのは仕方のない事。それに彼らが現在いるフィールド《ヘルツ古代遺跡》は基本的に物理耐性が高い種族のモンスターばかりなので属性系の攻撃が出来ないシノアのような属性スキルを覚えていない物理プレイヤーには荷が重いのだ。
そんな場所であるにもかかわらずシノアが何故このメンバーに選ばれているかというと単に守りの面で目をつけられたからである。シノアは大剣をメインに使っているが、攻撃能力よりも攻撃を捌く力、いわゆるパリィ能力に優れている。
「大丈夫よ、シノアさん。貴女の役割はこの先から増えていくのです。まだ遺跡の序盤で無機物ばかりですけど奥に潜ればあなたが得意な人型モンスターも出現しますわよ」
そう語るジュリエイト。実際シノアは人型相手だとそのパリィ能力を発揮しやすいが、相対する種族が違うだけでその能力が激しく上下してしまう。もちろんその原因は単に経験もしくは熟練度の違いである。
シノアは今までゴブリン種やオーク種、オーガ種などの人型種とばかり戦いレベルを上げてきた。まだかろうじて獣種や鳥種には対応できるが無機物などの自分のレベル上げの範囲に居なかった種族に対しては勝手がわからないのでその能力を発揮しきれないのだ。
ちなみに大剣を使っているからと言っても無機物と相性が悪いという事ではなく、武器種だけを見ればむしろ人型を相手にするよりは向いているのだが本人はまだ気づいていない。
「ご迷惑をかけてすみません。ですが人型が来た時には必ずや役に立って見せます!」
流石にレベル50を超えているのに人型以外とはまともに戦えませんと言うのはマズい気がしているシノアは、これからはもっとたくさんの種類のモンスターと戦おうと心に決めつつ言葉を発するのだった。
さて、ここでジュリエイトたちがこのフィールド《ヘルツ古代遺跡》に来ている理由を説明しよう。彼女達はここにレベル上げに来ているわけではない。確かにレベル的には適正に含まれているものの、町からは遠いうえ、ドロップアイテムもレア以外を除き既に出回っている素材(ただし品質的には良)ばかり。
だがこの遺跡には光の領域で二つ目となる覚醒の祭壇が見つかっているのである。
覚醒の祭壇と言うのは特殊なアイテムと引き換えにレベルキャップを上げることが出来るようになるもの。
一つ目の祭壇は約二カ月前にガイアの近くの広大な森の最深部にあった。ここではレベル上限が初期の50から60まで引き上げられている。一つ目の祭壇での上限解放ではフォレストキングと呼ばれる適正レベルが45のボスモンスターを倒し、そのドロップアイテム(確率は4~5割程度)を持っていることとベースレベルが40以上、そして中級スキルを3つ以上持っている事だった。
そしてこの二つ目のヘルツ古代遺跡で発見された覚醒の祭壇の条件は、【叡智の欠片】【勇気の欠片】【希望の欠片】というそれぞれの名を冠するモンスターを倒しアイテムを集める事とベースレベル50以上、中級スキル8個以上、上級スキル1つ以上という条件だった。この位の条件だと普通にプレイをしていれば到達できる範囲である。ただこの頃になると2ロットや3ロット目の販売で新規参入した人が所属しているプレイヤーギルド内のレベルの高い人に付いて行き経験値を得るパワーレベリングなどされていたりするので条件を満たせない人も度々居たとか……。
無事それらの条件を満たしたジュリエイトたちは後は覚醒するだけと言わんばかりに古代遺跡に乗り込んだわけだが、奥に行くほど激しい攻撃をしてくるモンスター(特に人型)が多く、攻撃力はあれどもその他の防御面では甘かったため祭壇までたどり着けずにいた。
そこで目を付けたのがシノアの存在。シノアは光の領域で冒険者ギルドが独自に統計を出している種族別討伐リストの中でレベルはそこそこなのに人型種を倒した数がダントツで高かった。レベル的にはジュリエイトたちの戦力にはなり得ないが人型が多くなる遺跡深層部ではその力を発揮してくれるかもしれないという事で一時的に勧誘したわけだ。
シノアも光の領域でツートップの片割れと言われているジュリエイトに誘われ困惑していたが、その目的を聞き丁度自分も条件を満たしているし、渡りに船と言う事で誘いに乗った。ただ、遺跡前半部やアイリと会った《降石の谷》では人型以外が多かったため目立った活躍が出来ていなかった。
もちろんその辺もシノアの自己申告によりジュリエイトたちは承知している。ジュリエイト達からすれば遺跡後半部で力を発揮してくれればいいのだから……内心大丈夫かと不安に思っていたりするがそこはもうシノアを信じるしかないのである。
そんなこんなでようやくたどり着いた遺跡の後半に入り出現し始める素早さと腕力に優れたアサルトゴブリンやら突出した腕力以外のステータスは平均であるバスターオーク、腕力バカのストレンジャーオーガといった亜人種モンスター達。
「なるほど。ここに出るのはこういうタイプなんですね」
シノアはスキルにより、相対するモンスターの性質を見分けている。そこから自ずと相手に応じたパリィを行うのである。
今迄目立つことが無かったシノアはここぞとばかりに活躍。ゴブリンには受け流しを主体とした対応を、オークやオーガに対して受け流しからのカウンター等に繋げて行く事で敵に囲まれて身動きが取れなくなる事をなくすようにしていた。その腕前は数匹程度なら後ろに流れるだろうと思われていた個体ですら自分にひきつけ、敵の隙を生み出した。そこを突くようにジュリエイト達も動く。
「想定以上にすごいですわね。連れて来て正解と言う事かしら」
「あー確かに。俺ではあそこまで確実に受け流しを発動させるのは難しいぞ」
「シノアのおかげで俺の方まで敵が流れてこないのはありがたい。これなら俺も攻撃に専念できる」
シノアの動きを見ながらジュリエイトたちはそういうのだった。この働きがあったことでシノアは上位プレイヤーから目を付けられ、その力を伸ばしていくことになるのだがそれはまだ少し先の話だ。
そうしてとうとう最深部へ到着したジュリエイト達は祭壇にアイテムをささげた。すると……
《これより覚醒の試練を行う。試練のモンスターを撃退せよ》
一つ目の覚醒の時もあったコメントが流れ、転送された先には巨大な守護者と呼ばれる巨人系ボスモンスター。
「ボスも人型でしたか。助かります」
シノアはそう言いながら守護者へ突っ込んでいく。ここに出現するボスモンスターには人型と無機物の二種類が存在する。ジュリエイトからそう言った内容を聞いていたため、無機物系のボスだった場合はジュリエイト達の援護を、人型だった場合は盾役として活躍する予定だった。
人型の守護者の攻撃は巨大な剣による攻撃。現実であれば物理的にプレイヤーの体格では受け切ることはできないがそこはステータスやスキルがモノを言うゲームの世界。受け流しスキルを発動しシノアはその攻撃を受け切る。その隙をついてシノアの数倍の火力を持つジュリエイト達が足元を攻撃することでその体力を削っていく。
守護者と言えどその攻撃をすべからく受け流しされたり、武器を弾かれたりしては思うように攻撃に転じることも出来ず、ジュリエイト達の圧倒的な攻撃力の前にあえなく没した。
そもそもこの守護者の攻略法もすでにクリアしたもう一つのブレイブソウルのメンバーから教えて貰っていたため、ここまで来た時点でクリアできることはほぼ確定していたのだ。シノアがいなければ多少の被弾はあっただろうが…。
《見事なり。試練を乗り越えたことを証明する》
謎の声が響き、シノアやジュリエイト達にレベル上限突破のコメントが流れる。ジュリエイト達を入れてもまだ3組目のクリア率と言う難易度だったが、今回のジュリエイト達の目的はこの古代遺跡での相性のいいスキルを検証することもあった。
その一つが大剣スキルとの組み合わせによる【パリィ】だったがジュリエイトから見てもシノアの大剣でのパリィのうまさは際立っていたため、あまり参考ははなっていない。むしろジュリエイト側からすればこのプレイヤースキルを持つ人材がまだ50レベルになったばかりだという事に驚きを覚えているのは前述通りだ。
「ボスは大したことなくてよかったです。流石ジュリエイトさん達ですね攻撃力が桁違いでした」
「あら?それもこれもシノアさんがボスを惹き付けてくれていたからですわよ?あなたのプレイヤースキルは十分に上位プレイヤーとして通じますわ。レベルを上げるなりして早く私達に追いついて来てくださることを期待しておくわ」
「ほ、ほんとうですか?」
「あぁ、俺達も同じ意見だぜー。ただ特定の種族に対応できないのは早く直してくれないと困るなぁ。まあ野良パーティにでも参加するなりして経験を積み、次会う時に直っていることを期待しておくぜー」
トッププレイヤーの一員であるジュリエイトとユウキやシバにまでお墨付きをもらったシノアはもともとノリやすい性格だったこともあり、以後様々な地域に赴きその力に磨きをかけて行く事になる。
そんな彼女が闇の領域に本拠を置く正体不明(?)の最強魔王と相対するのはまだまだ先の話である…。
次回更新は…いつになるんだろう‥できるだけ早く書きたいとは思ってます…。




