177話
ポータルをくぐった先には所々に木々の茂った林のようなフィールドが存在した。
今まで荒れた大地だったのにボスのフィールドだけ違う事って多いよね。まあ鳥王がアウル系……ようするに梟の独壇場になりうる森系じゃないだけマシじゃないかな、うん。
クルスクラスの体だとどうしても木々を避ける際に大きく傾かせたりしないといけなくなり機動力が落ちるけど、森林にすんでることが多い梟ならそういうのに慣れてそうだもんね。
「ホーホゥ!俺の配下最強のライトニング・フェニックスを倒したのか?以前の兄上でも苦戦をする相手のはずだったのだが‥」
「クケェ!あの程度で最強の配下とはな。……主殿の元で強くなった我にとってはあのような存在など取るに足らん。さて、弟よ。鳥王の座を貰いに来たぞ?無論、首を洗って待っていたのであろうな?」
鳥王エンベラス(以後鳥王)とクルスの会話。鳥王は相性の悪い相手を倒したことによる驚きを、クルスは軽く返事をした後、鳥王を倒す為に喧嘩を売っている口調ですね。
「ホーホゥ!?……いいだろう兄上よ。以前は兄弟という事で殺さずに逃がしてやったが、温情を与えてやった俺の前に再びその姿を現し、今は強き王である俺に向かって暴言を吐いた事を後悔させてやる」
「クケェ。我とお前の間にある実力の差もわからぬ愚かな弟よ。お前の方こそ王の座に胡坐をかき、ふんぞり返っていた事を後悔させてやろうぞ」
「ホーホゥ!笑止。俺の方が強いに決まっているだろう!もう話すことは無い、さっさと死ね、兄上ぇ!!!」
鳥王は言うなり木々の中へ飛んでいく。って直接攻撃してこないのっ!?
梟は狩りをする際には翼による音を立てない。要するに奇襲が得意な種族です。とはいえ、奇襲程度に後れを取るクルスではないですけどね。
問題があるとすれば梟は押さえつける力が強いらしいんですよね。本物の梟であるなら餌をとるときに小動物を押さえつけて動けなくしてから捕食するっていうし?
だからクルスが気を付けるべき場所があるとすれば、鳥王に捕まらない事だろうね。……そもそもクルスの巨体を押さえつけられるほど、鳥王の体はクルス程大きくないけど、ここはゲームの正解だから物理法則が仕事をするとは限らないのです。
「クケェ。王種になっても戦い方は変わらんか……やはりお前も他の王種達と同様に王に成り、さらなる先を目指すことはしなかったのだな…一度とはいえ我を倒しただけに非常に残念だ……」
クルスはそういうと鳥王が飛んで行った方向の林を見て岩石魔法を発動させた。
その魔法はメテオレイン。火属性と土属性を鍛えぬいた派生先に隕石魔法というモノがあり、そこにもメテオという魔法があるけどそれとは違う仕様である。
メテオは火を纏った一つ辺り2~5㍍くらいの巨大な隕石が大まかな範囲内に降り注ぎ攻撃するものだけど、クルスの使ったメテオレインは特定地域に岩を降らせる魔法でフィールドに損傷を与える効果もある。これだけを聞けば地属性の時に覚えているロックレインと変わらないけど、ロックレインの岩は大きくて1㍍程度、メテオレインの場合はその隕石の大きさが一つに付き10㍍にかわっている。
単一属性を極めた場合と、複数属性を取得している場合ではその辺の設定が違う。
奇襲を狙い鳥王が潜んでいるだろう林全体をつぶすかのようなメテオレインにより林を攻撃。巨石が落ちたため林の至る所にクレーターが落ち、隠れるための木々がなくなってしまい、たまらず飛び出てきた鳥王に向かってクルスは追撃を掛けた。
「クケッ。我の魔法の見た目に騙された馬鹿者め。(自称)最強(笑)の王種が聞いてあきれる……今、姿を見せた以上、これから先、お前の奇襲を受けることなど一切ありえん」
実はこのメテオレインという魔法、見た目がド派手な割には対モンスターや対人攻撃力的なものではかなり威力が劣る。先ほども言った通りフィールドにダメージを与える事を重視した魔法だからです。
どうやらクルスは、そんな魔法の見た目に騙されず王種としての耐える強さを見たかったらしいが鳥王はそのクルスの期待にそえなかったようです。まあ見た目があれだけド派手だと逃げたくなる心理はわかるけどね…。
「ホーホゥ。兄上よぉ。いきなり俺の住処を吹き飛ばすとはご挨拶じゃねぇか!危うく死ぬところだったぜ。ホッホゥ~!」
原型をほぼ残していない自分の住処を見ながら、目や口元をヒクヒクさせながら強がりを言う鳥王。それを見てクルスも私と同じことを思ったのでしょう。鳥王ってば、あのダメージ的には蚊に刺された程度になるだろう魔法で死にかけたっておもってるんだな、と……。
※ ちなみに捕捉なのですけど、スキルなどでフィールド破壊してしまったとしても戦闘終了後にフィールドを切り替えたりするなど、一定期間をおけば復活するのです。そうじゃないと生産職の資源とかすぐに枯れちゃいますからね。
奇襲作戦をとる手段をなくした鳥王は仕方なくと言った具合に、クルスと向き合った。
当然お互いの眼は相手を屠ることに集中している。一撃で決まるとはさすがに行かないだろうけど、一合目のファーストアタックを取れるかどうかって意外と後の戦闘に響くんだよねぇ。
「ホーホゥ!!【音飛羽】」
「クケェ!【岩流波】」
鳥王が放ったのは固有スキルらしきもので、鳥王の体から出現した無数の羽根がものすごい速さで飛んでいき刃のように鋭くなった羽根で相手を切り刻むもの。
クルスが放ったのは使い慣れた岩石魔法のでまっすぐにしか飛ばせないが、威力と弾速が早い【岩流波】という魔法。
この二つのぶつかりは拮抗しあい、押し合いへし合いの末に対消滅した。だけどクルスも鳥王も互いの攻撃が拮抗していると見るや否や高く舞い上がり、激しい空中戦を繰り広げていた。
突然だけど梟というモノは耳が良い。離れた場所はもちろん土の中にいる獲物ですら聞き取るのだからよほどなのだと思う。そしてその特性はこのゲームにも適用されているらしい。
何が言いたいかというと、予想以上にクルスが鳥王相手に苦戦しているという事だね。
クルスの放った魔法も鳥王はスイッと避け、反撃の音波攻撃を仕掛けてくる。クルスは耳がいいわけではないので、鳥王のような避け方は出来ない。音波攻撃を食らったクルスは混乱状態に陥り、フラっとバランスを崩し、地上へ落下していく。
当然それをそのまま見過ごす鳥王ではない。押さえつける事に特化したその爪でクルスを捕らえようとする。
「クケッ……?ヌッ!」
あわや捕らえられる直前に何とか混乱状態から脱したクルスは背後に迫りくる鳥王の気配を感じたのか回避行動を取った。鳥王からすれば今までの必勝パターンの一つであり、混乱状態から脱されたとしてもすぐに行動は難しいだろうと思っていたため、避けられたことに驚きを隠せない。
「ホォワッ!?俺の攻撃をよけるたぁ、やるな、兄上。だが次はこうはいかねぇ!」
鳥王は再び舞い上がり、クルスを空中戦へと誘う。クルスもそれを受けるべく高く舞い上がった。
2018/3/5
話を修正しましたが、魔法の設定に説明を書き加え、いくつかの文章を削除いたしました。




