175話
降石の谷の最深部は王家の谷という別マップ扱いになっている。ジュリエイトさんが言っていたように普通にここを訪れてもモンスターが出現するなどと言ったことは無い。だけど、冒険者ギルドで鳥王の情報を得た上でここを訪れると普通に来た時とは全く違った様子になると言う。
ちなみに冒険者ギルドで鳥王の情報を得るには条件があり、一定以上のギルド貢献値と、調教師もしくはテイマー系の職業のメンバーがパーティ内に居て、鳥・魔鳥系のランク4以上のモンスターがいることが条件である。
「ホォッーホゥ。久方ぶりの獲物が来たかと思いきや、俺との勝負に負け、権威を落とし追放された兄上殿ではないか。久しぶりだなぁ、ホッホゥー!」
私たちが王家の谷に入るとこのような声が響き渡る。
声の方向を見ると巨大な崖の上に巨大なアウル系統のモンスターが止まっていた。
「……えっと貴方が鳥王エンベラスでいいのかな?」
「ホッホゥー、如何にも!俺がこの王家の谷の覇者であり、そこの愚かな兄を打ち倒せし最強の王種である。頭が高いぞ、ひれ伏せホッホゥー!」
「クケェッ!!」
エンベラスの言い分にクルスが声を上げる。どうやら鳥王エンベラスは他の王種の存在に関しては無頓着らしい。まあそれも自分が強者だという自負があるからこそだと思うけどね。でも最強は言いすぎじゃないかな?
「ホッホゥー。む?兄上よ。王種の力を落とした際に言葉も無くしたのか?だが去り際は言葉を交わしたはずだが?ホッホゥー」
「クケェ、我が弟ながら口が軽いな?我が話せる事は主殿にすら内緒にしていたのだが……まあここまで来た以上はまあ些細な問題か。どうせ力と取り戻せば話す事になっていたのだからな」
「えぇ!?く、クルスがしゃべったぁぁ!?」
突然、低いながらもイケボで話し始めたのは私の横にいたクルスだった。私は驚きのあまり、百面相になっているに違いない。
「主殿、永らく内緒にしていたことに関しては後で詫びるので少し大人しくしてほしい」
「それは無理!気になりすぎるし?」
「主殿、そこは我の事情を慮って引き下がっていてほしいのだが・・・」
「ならきっちり後で説明する事!じゃあ話を続けていいよ?」
私とクルスの関係を見て鳥王エンベラスは口角を上げて笑っている。何がおかしかったのか私にはさっぱりわからないけど。
「ホッホゥ。兄上は俺との戦いの後、そこにいる人間の従魔になったのか?愚かな選択をしたな、兄上よ。従魔に成れば今までの力はほぼなくなり、成長率も野生の時よりも落ちるのが分かっているだろうに」
「クケェ!残念だが我が主殿に関していえばその法則は当てはまらぬ。まあその意味はこのすぐ後にお前は思い知ることになるだろうが……」
「ホッホゥー。やはり従魔になり、兄上はより一層野生をなくしてしまったようだ……。
だが兄上と言えど王種である俺に戦いを挑むには通過しなければなならない試練がある事は分かっているだろう?」
「クケェ。無論。我に挑む時にお前が超えた試練のことであろう?」
「ホッホゥ。その通り。だが兄上の時の温い試練とは違い、俺が手を加えた最強の試練を超え、俺に挑戦しに来ると良い。話の続きはその時だ、ホッホゥ!」
「クケェ、いいだろう。お前の持つ王種の肩書は本日をもって再び我の元に戻ることになる。王種として最後の時を過ごすんだな」
「ホッホゥ。兄上のその傲慢を再び叩き潰してやるよ」
そういうと鳥王は飛び立つ。どうやらここで戦いをするわけではない様子。鳥王の飛びたった方向をみると転送ポータルがあったので、そこに入れと言う事なんだと思う。
さて、とりあえずは話がひと段落着いたようですので……じゃあ早速質問タイムかな?
「クルス、話せることを黙ってた理由をのべなさい?」
うん、質問じゃなくて詰問だね?微妙に覇気が洩れてるけどいいよね?
「主殿が我と会話をしたかったという想いは、十分わかっていた。だが我は主と話すときは王種でありたいと決めていたため話さなかった。結局、我が弟の軽口のせいで守れなかったが……」
「なるほどね…私としてはちゃんと話しておいてほしかったけど、これまでの事に関してはクルスが決めてたことだから今更何も言わないことにする。だけど今この瞬間から私に内緒ごとをするのは禁止だからね?」
「クケェ!承知した!」
「そういえばロアン?クルスが話せる事に気づいてたりした?」
「そそ、そんなことは全く気付いておらんぞい?こ、この我が斯様に大事な案件を隠すなどあるはずないじゃろう?(汗)」
「ふーん、気づいてたんだ?」
ものすごく狼狽するロアンを見てあっさり看破する。隠し事が下手すぎるよ?もしくはわざと?まあどっちでもいいけどさ。
「すまんのぅ。元王種だと聞いた時から言葉が話せる事に関しては気づいておったのじゃが、クルスが言葉を話そうとしないから何やら事情があると思い、報告をしなかったのじゃよ。代わりに我がクルスの言葉を伝えておったのでのぅ」
「クケェ!やはりロアン殿には気を使わせてしまったようだ。心遣い感謝する」
それにしても一度王種になってたら会話が出来たんだね。それなら王種を持つ家族の誰かが仮に負けて王種の称号を奪われても会話は可能なんだ…。配下はやられたら復活がないから無理だけど。
「ところでクルス。王種に挑む試練って何?」
「クケェ!我の時の話なのだが、それは現王種の配下の魔物たちを倒す事で得られる証を携えて、王種の前にたどり着く事。我の時の配下はその時に弟にやられた‥」
「そっか。鳥王が言ってたけど、クルスの時より厳しくなってるらしいけど、一人で挑む気なの?」
「クケェ、無論。奴の配下がいくら強かろうと王種だった当時のステータスを圧倒的に上回る我が負けるなどありえぬ!それにこのエリアの者どものランクを見る限り奴の配下も良くてランク5であろうしな」
「そう。まあ私もクルスなら大丈夫だと思ってるけど、どうしても無理なら私を頼るようにね?」
「……クケェ!了解した……」
「こら、クルス。全然頼る気の感じられない返事をしないの!」
「クケェ……」
鳥王の言う新しくなった試練がどういうものかは、行かなくては分からないので私達は鳥王の差って言った王家の谷の奥地へ続くポータルへ足を踏み入れた。
そこに待っていたのは500を超える鳥系モンスターの群れ。
「クケェ!ふむ、数で我をどうにかしようなど、浅はかにもほどがある……いざ参る!」
クルスは高く飛び上がり戦闘を開始した。クルスは開幕早々に岩を降らせるロックレインや大地を爆発させ直上にいるものを攻撃するアースバーストなどの魔法を駆使しつつ、隙を見て直接攻撃を仕掛け次々とモンスター達を討ち落としていく。
その空を舞うクルスの姿は圧倒的だ。
たまに生き残った個体が私たちの方に来たりするけど、まあそれは一緒に行動する以上仕方ない事なのでコウガ達が処分していく。あくまでもこのフィールドでのメインはクルスなのだから。
第一波、第二波と大量に出現するモンスターを撃墜していくクルス。当然これだけ戦えばレベルも上がっている。第三波目を倒し終わるころにはレベルが68まで上がり新しくスキルを覚えていた。
そしてそのままクルス無双が続き、最後の第五波を全滅させると、鳥王の直属の配下であろうライトニング・フェニックスという今までのモンスターとは比べ物にならないほどの強さを持つモンスターが現れた。
そのモンスターランクはなんと6。王種になっていてもおかしくないランクです。
一方クルスはランク5なので、ランク上は不利。だけどそこは地力のレベルやステータスがモノを言う。
「クケェ、弟にしてはマシな配下を持っているではないか。だが我の前では先のものと同じ。まあ弟に使う前に先ほど覚えたばかりのスキルをお前相手に確かめてやる」
クルスはそういうと、嘴に力をため始めた。




