174話
あれからしばらく降石の谷を進むとジュリエイトさんが求めていた叡智の石板が大量に出現する地域に到着しました。ここに来る道中では先ほどのような隕石兵や爆破する魔剣などと言ったモンスターに襲われたけど、ジュリエイトさん、ユウキさん、シバさんの三人はここの経験者だから特に苦労した様子もなく対処していった。
シノアに関しては初見だったらしいけど、ジュリエイトさんの指示をよく聞き、特に足を引っ張る様子もなく戦闘をしていたように思います。
そして私の方はと言いますと王種が治める地域のわりに出現するモンスターが弱かったので、メインアタッカーがクルスからディアスに変わったことくらいでしょうか?クルスの半分以下の攻撃力しかないディアスでは戦いが長引くことが多々ありましたけど、まあそれは想定内ですので問題ありません。アーシェの応援スキルの育成にもなりましたしね。
クルスにはこの後に控える鳥王エンベラスとの戦いがあるのでそろそろ休んでおいて貰わないといけないのですから。
「さあ着きましたわよ。ここには魔法攻撃を主にする叡智の石板が大量に出現しますわ……というか確認するまでもなく目の前に大量にあるモノが叡智の石板ですので遠慮なく攻撃を仕掛けてくださいまし」
ジュリエイトさんの言葉を聞いた私はすぐに周辺を調べる。
すると、なるほど確かに私の【感応】スキルに、そこらに転がってる岩に敵の反応が多数紛れ込んでますね。
「あ、そうでしたわシノアさん?もし魔法耐性が高くないのであれば無茶をせず、離れた場所にいる個体に集中するようにお願いいたしますわ。複数の叡智の石板から魔法を食らってしまっては、すぐに死に戻りする羽目になりますわよ」
「は、はい。注意します」
ふむふむ。叡智の石板は魔法攻撃主体かぁ。じゃあ私の敵じゃないね。だからってジュリエイトさん達の前で堂々と魔法無効化をするのは流石にマズそう。
という事でいつも通りルドラにお願いしようっと!
「じゃあ私達もアイテム集めのお手伝いをしようか。クルスは後方から魔法攻撃主体で。ディアスとアーシェは二人で叡智の石板を倒す事に集中一応言っておくけど隕石兵と同じく状態異常は効かないだろうから物理で押し切って!そしてルドラは……そうね私たちの中間に立って範囲ダメージ軽減スキルの【守護】を頼もうかな?」
四人の返事を聞き、私は戦況を見る事にしました。ジュリエイトさん達は大丈夫だと思うけどシノアの事は心配だからね。
「それでは参りますわっ!!【歓喜する乱打】」
そういって飛び出したジュリエイトさんは手にしているメイスでボコンボコンと叡智の石板をたたき割り始めた。……ていうか叡智の石板を一撃なんですね?それにしても前線に出た途端いい笑顔してますね…。
確かにメイスとかハンマー系の武器は無機物系に特攻効果を持ちますけど、初級フィールドならまだしも、このレベルの敵を一撃は流石に難しいのでは…?
……うーん、ジュリエイトさんって、おしとやかそうなアバターに見えて実はSTRがバカみたいに高いんですね。しかも被弾するたびに回復をしているんだけどその回復魔法の能力も高いみたいだから、おそらくSTR=INT型でしょうね。ちなみにINTが高いと魔力回復量が上がるので、こういう弱点を突ける戦闘では厄介です。なんでプリーストなんだろう。初期の質問にどう答えたのか、私、気になります!
「俺も行くぜぇ!」
ジュリエイトさんと時を同じくして飛び込んでいったのはユウキさん。ユウキさんは盾と剣を持つ剣士でどうやらSTR<AGIって感じでしょうか。なぜそう思うかと言いますと、単純にすばやく移動し斬りかかるタイプで攻撃は避けれるモノは避け、難しいものは盾で弾くプレイ方法だったから。
一撃あたりのダメージは流石に特化武器を持つジュリエイトさんの半分にも満たないけど、被弾が少なく手数で敵の体力を削っていく。
まあ、言ってはなんですけどごく普通のプレイヤービルドをそのまま強化した感じですね。安定を求めるとこうなるんでしょうけど、私としては見ててもあまり面白くない。っていったい何様なんでしょうね、私。
あっ、魔王様というツッコミは無しで!
「炎の海よ敵を飲み込め!イラプション!!」
続けてシバさんが火属性の上位っぽい魔法を詠唱している。発動と同時に叡智の石板の周囲に溶岩が噴き出し、継続ダメージを与えていく。叡智の石板は動かないモンスターだから魔法でも反撃できない距離からこういった範囲魔法でジワジワと攻められると弱いんだよね。まあこの動けないモンスター系の経験値は総じてかなり少ないから、こいつらでレベル上げをするかって言われたらほとんどのプレイヤーはしないと答えるだろうね。
「くっ!硬い…」
で最後にシノアだけど、単体相手に大剣で頑張って対処しているけど単純に火力という面で苦労してるね。叡智の石板が放つ魔法攻撃も結構食らってるみたいでポーションを使用する回数が多いように思う。
時折、大剣で魔法を弾くマジックパリィが発動しているけど狙ってやっている感じじゃないですね。スキルレベルによるオート発動の方でしょう。
「あっ!?」
ポーションを使用する事に気を取られていたシノアの元に叡智の石板が放った《ディープシャドウ》の魔法。シノアは驚きで動けない。当然これを食らえばシノアは死に戻りをすることになりますので、私は指示を出した。
「クルスっ!」
その声だけで理解したのかクルスが放ったロックボルトの魔法がディープシャドウを打ち消した。
魔法で魔法を破壊出来る事は以前闇の領域で説明した通り。
魔法の中心部に魔法を当てる事で最初から範囲魔法でない限り、魔法を打ち消すことが出来るのです。その技術を魔法を使え、かつ戦闘に出るウチの家族たち(ディアスやアーシェ以外)は皆習得している。
「シノア、今がチャンスだよ。そいつを倒しちゃって」
「あ、はい。ありがとうございますアイリさん」
素早くポーションを使用したシノアが大剣を振りかぶり、叡智の石板を滅多打ちにして倒す事に成功した。敵を倒し終わったシノアはスタミナポーションやらマジックポーションと言ったものを使用し完全回復すると、私に会釈をして次のモンスターへと向かって行った。
……あぁ、私たちの方の戦闘の事を忘れてました。こっちはこっちで問題ありませんでしたけど。だって守備の要であるルドラが居るのに、ディアスたちがやられるはずがありませんからね。
攻撃が利きにくいなりに頑張って倒してましたね。ここまでの複数の戦闘でディアスとアーシェもだいぶ育ちましたのでステータスの確認でもしておきましょうか。
名前 ディアス
種族 スターデビル♂ 悪魔種ランク4
LV 41(23504/165000)
スキル アクティブ【麻痺爪30】→new【獄痺爪10】【刹裂25】
【連撃爪50】→new【烈爪連撃5】【獄爪繚乱9】
【暗黒魔法31】【眠りの魔眼】【貼付の魔眼】
パッシブ 【囁き42】【魔眼成功率上昇】 new【爪攻撃強化19】
強さ
物理能力 1450
魔法能力 820
名前 アーシェ
種族 フェアリーホープ♀ 精霊種ランク4
LV 43(68520/150000)
スキル アクティブ【応援50】【風魔法30】→new【精霊風5】
【聖魔法41】【支援拡大】【悲鳴】
パッシブ 【支援強化50】→new【支援超強化10】【取得量増加】【精密魔力】
強さ
物理能力 350
魔法能力 1400
このようになっており、進化したスキルが増えて攻撃力もそれなりにあがった感じでしょうか。効果としては次の通り。
【獄痺爪】:麻痺爪の持つ毒素よりも強力な麻痺毒効果を付与する。レベルが上がると状態異常にする効果とスキル攻撃力が上昇する。
【烈爪連撃】:ハチャメチャに爪を振るう事で2~5回の連続攻撃が可能になった。3回までは命中率はそのままだが4回目以降の攻撃は命中率が下がり、攻撃力が上がる。レベルにより基礎攻撃力が変化。
【爪攻撃強化】:爪に関する攻撃を強化できる。レベルがあがるとその分強化割合が上昇する。
【精霊風】:風魔法から派生した【嵐魔法】とは違った自然精霊種の専用魔法。レベルが上がるごとに魔法を習得できる。覚える内容は補助系統が多め。
【支援超強化】:【支援強化】よりも強化率が高い。
ベースレベルが40を超えた事で二人とも次のランク5への進化が可能になっているけど、ステータスの伸びがなくなるまではこのまま育てるつもりです。
私のキャラ設定時の質問のおかげで家族や配下達のレベル上限は99まで可能になってますけど、レベルが上がってもステータスが伸びなくなる境目があるんです。
大体ランクの10倍から13倍の間位でしょうか。今回の場合だとランク4ですから40・44・48・52レベルのどこかでステータスが伸びなくなると思います。
と、ステータスを確認している間にジュリエイトさん達の方の戦闘が終わったようです。
その表情は目的の品が大量に入手できたのか笑顔です。
「叡智の欠片……今までにない程の大量ですわ~~おほほほー!」
ジュリエイトさんが高笑いをしており、ユウキさんとシバさんは落ち着け!と声を掛けている。
ちなみに私たちの方のドロップにも叡智に欠片がいくつかあったので、今度遺跡の方にも顔を出してみようと思います。……まあ他の地域で採れるとかいう特殊な素材を集めないとダメそうですけど、この叡智の欠片以外の必要アイテムはバザーでよく売られているらしいので後でチェックしておかないとね!
「アイリさん。先ほどはありがとうございました。おかげで死なずに済みました」
「どういたしまして。ぎりぎりだったけど間に合ってよかったよ。クルスもナイスな一撃だったよ!」
「クケェ!」
「そうですね。クルスのあの魔法を破壊する攻撃が凄かったです。あれは狙ってやったんですよね?」
「そうね。闇の領域には魔法を多用してくるモンスターが多かったから覚えた方が良いのは確かかな」
「その方法って教えて貰えますか?」
「うーん、教えてあげても良いけど覚えるのはすごく大変だよ?ぶっちゃけレベル上げをする時間と同等の時間が必要だからね。攻略組を目指してレベルを上げるか、今立ち止まってこういった技術を磨くかそれはシノア次第かな。そもそも魔法を覚えてないとこの方法は使えないしね」
「あぁ、私は魔法スキルは全く持ってませんでした…」
「最低でも属性魔法をあげてアロー系かボルト系を覚えておかないと無理だね~」
「わかりました。なんとか魔法を覚えてきますので条件を満たしたら教えて下さい」
「うん、いいよ」
こうしてシノアと魔法破壊のやり方を教える約束をした後、落ち着いたジュリエイトさん達と合流した。
「想定以上に叡智の欠片が手に入ったので私たちはこれで撤収しますけど、アイリさんはどうなさるのかしら?」
「私はこのフィールドの最奥を目指すつもりですよ。目的に関してはレアモンスターかボス討伐と言ったところでしょうか」
「最深部には何もなかったように思いますが……まあいいですわ。それではここでお別れという事でよろしいですわね?」
ジュリエイトさんが少し考える素振りをしながら言葉を紡ぐ。
「うん、ここまでありがとう。他人と一緒に行動するのが久しぶりですから楽しかったです」
「私の方こそ、途中のお話などとても有意義でしたわ。それにフレンド登録もしましたし、また機会がありましたら狩りにお誘いしますわね」
「うん、その時はよろしく。それじゃ私は行きますね」
「アイリさん、またハルトムートで会いましょうね!」
「うん。シノアも魔法スキル習得、頑張ってね?」
「もちろん!」
ちなみにユウキさんやシバさんとも、道中で話しましたがやはり彼らで間違いなさそうです。
二人も私の事に気づきつつも、ネットゲームでのマナーの関係上、リアル詮索はしてきませんでしたし。
まあ逆に私がその話を振ってしまったんですけどね?別れ際に「バイト遅れないでくださいね?」と囁いてあげたら「俺らってそんなに遅刻してるイメージなのか?」って跪いてましたね。
ジュリエイトさん達と別れた後も遭遇するモンスターと倒し、あっという間に最深部に到着。
ここに鳥王が居るんだね‥。クルスを見ると緊張した様子もなく、むしろ何かが滾っているように感じるので問題はないでしょう。
あ、残念だけどここでディアスとアーシェは帰還ですね。一応ここでの戦闘はクルスが請け負うけど、万が一に備えてフルメンバーにしておきたいし?
呼び出されたのはやはりコウガを始めとしたメインメンバーたち。当然彼らの目的はクルスが現鳥王を倒し、王種へ返り咲く瞬間を見るための観客です。
「……それじゃ行くよ?クルス」
「クケェアアア!!!」




