173話
《降石の谷》に出現するモンスターは隕石兵、爆破する魔剣、叡智の石板の無機物系モンスターと、イワシという岩で構成されている体を持ったワシ型の鳥系モンスター達ですがなぜか無機物系扱いではない。断じて海にいる魚ではない事だけはちゃんと説明しておきたい…。
隕石兵は槍を持った人形でその鋭い突きで急所を狙ってくる地味に相手をするのが面倒なモンスターで、爆破する魔剣は文字通り魔剣が自由意志を持って様々な属性攻撃をしてくるモンスター。
叡智の石板に関しては他のオブジェクトと同化して魔法攻撃による不意打ちをしてくる物理前衛泣かせのモンスターです。
「あら?何てこと。隕石兵の群れが二つですわね…ユウキさんとシノアさんで前衛、私は中衛で支援ついでに前衛を抜けてきた個体を倒しますわ。シバさんは魔法で隕石兵を倒す事に集中してくださいまし」
「「「了解」」」
ジュリエイトさんの指示に素早く反応し展開するシノアたち。私には指示がなかったのはジュリエイトさんには私がどういう戦い方をするか知らないから勝手にやってほしいという意味だろうと解釈し、私は私でクルス達に指示を出す。もちろん対象はジュリエイトさんが選ばなかった方の群れですよ。
「それじゃ、クルスはいつも通りお願いね?ディアスとアーシェの二人は、成長してからは私の指示を受けて戦闘をするのは初めてだから、指示を聞き逃さないように。ルドラには育成時同様に今回もアーシェ達を守ってもらうのが主な役割になるからそのつもりでいてね」
「クケェッ」「フシャッ!」「ギャフッ」「(コクコクッ)」
三者三様(四人だけど)に返事を返す。まずはアーシェの【応援】スキルでクルスとディアスを強化。クルスはそのまま飛び上がり隕石兵へと向かって行った。ディアスの攻撃には状態異常を付けるものが多いですけど、こういった無機物系にはあまり効果の出ない種類ばかりなので純粋に攻撃力だけで勝負してもらわなくてはならない。ちなみに隕石兵など、このフィールドに出現するモンスターと、こちらのディアス・アーシェのランクは同じ4ですので、油断はできません。
ちなみに私の立ち位置はシバさんの近くですね。ルドラが近くにいないから私は必然的に後衛になるわけです。守られる対象が一箇所にいる方が防衛の手間もかかりませんしね。
「うっ……!?」
だけど私が近寄るとシバさんは呻きながらそっと半歩逃げる。なぜっ!?
「えっと、もしかして私に近寄られるの嫌ですか?(たぶん)初対面だと思うんですけど嫌われちゃってたり?」
「うっ、いや、そう言う訳ではなく(ゴニョゴニョ)……」
シバさんは赤面しながら何かを言っているけど私には届かない。だけどさっきも言った通り、守られる対象がバラけるのはマズいので、悪いけどシバさんには我慢してもらわないとね。
それに私もディアスとアーシェに指示を出さないといけないからこのような事に気を取られるわけにもいきませんし。
そうこうしているうちにジュリエイトさん達が相手をしていた隕石兵の数が減って行く。隣のシバさんも私がアーシェ達に指示を出していくことに集中すると、戦闘に気が向くようになったため殲滅力が上がったのでしょう。もちろん私にはなんだかんだで余裕があったので、シバさんのヘイトを稼がないように隙を見て魔法を放っていく技術に感心していたりする。
なんだかんだでこの辺まで来れるプレイヤーなんだから、プレイヤースキルは高いんだよね。
「これで終わりッ!」
シノアの声が届くと同時に最後の隕石兵が大剣で両断されその破片が崩れるように消えていく。
ちなみにクルス達が相手をしていた隕石兵たちは戦闘開始早々にクルスが数体を残し、その数体はディアス&アーシェの訓練に当てましたよ。
私とジュリエイトさんのパーティは別々なのでドロップアイテムも各パーティに振られるわけですけど、隕鉄の欠片という素材ばっかりでした。
素材のレベルとしてはまずまずと言ったところで光の領域での鉄製の武器防具生産の主流素材になっている。私としてはさっさと処分してもいいものだけど、闇の領域にいるカティちゃん辺りに渡せば喜んでくれるかもしれない。コトノ達が闇の領域の素材を欲しがったようにカティちゃんも生産職として光側の素材に興味位はあるだろうし?と言う訳で、どうせ増えていくだろう素材をカティちゃん用にストックしておきましょうかね。
「思ったより余裕でしたわね。私たちの目的アイテムである叡智の欠片を落とすのは、叡智の石板ですからもう少し奥まで行かないといけませんので先を進みすわよ?」
ふむー、ジュリエイトさん達の目的はそのアイテムなんだね。一応私の感応スキル範囲内にいくつか叡智の石板らしい動かない反応があるけど教えてあげた方が良いのかな?
まあこの辺は数が少ないから奥の方の密集地に行きたいだけかもしれないし、余計なことは言わないでいいかー。どのくらいの数を求めているかも教えて貰ってないしね。
「アイリさん。貴女の戦いは本当にモンスターありきですのね。他のテイマーでしたら、武器を持ってモンスターと並び戦うのが主流でしたので驚きましたわ」
「あはは。私、本当に戦闘はからっきしなんです。ですからこの子たちのような強い子たちが私を守るために頑張ってくれるんですよ」
実際カエデが王種になり槍と杖に変身できるようになり、それらを振るって戦闘をしてみたけど、やっぱりスキルがないから、予想以上にダメージが出なかったんだよね…。だから私の場合は自分に来る魔法以外の攻撃を回避するパリィ系スキルを得ておきたいと考えてる。魔法攻撃は多分レジスト出来るしね。
そういう意味でもスキルの種がもっとあればいいんだけど、闇の領域でも貴重な物らしく手に入らなかった。
「ですが、やはりモンスター達への指示は素晴らしい物でしたわ。まさか隕石兵の群れを相手に無傷で戦闘を終わらせるとは思っても居ませんでしたもの」
「そう言ってもらえると頑張ってる甲斐があります」
「ねぇ~、アイリさぁん~。私も話しに参加させてよ~。」
ジュリエイトさんと会話をしていると、シノアが近寄って言いました。ジュリエイトさんはそんなシノアを見ながら苦笑し「どうぞお気になさらず入ってきてください」と迎え入れる。
こうして私たちは女三人で姦しく会話に花を咲かせるのでした。うん、やっぱり人(特に同姓)との会話は楽しいですね。
ちなみにユウキとシバの二人はというと、また二人で固まりボソボソと話し合っていた。
「シバァッお前、戦闘中にひb……いやアイリさんに話しかけられてたろ?何を話してたんだ?」
「いや、緊張しすぎてて何を話していたのか全然覚えてねぇ…」
「はぁ~?お前、ほんとにあの人の前では無口になるよなぁ。そんな態度ばっかりしてるとマジで嫌われるぜ?」
「お、俺だって話をしたくないわけじゃないんだけどさ、どうしてもあのアイリというプレイヤーがあの人だと思うと話せなくなっちまうんだよぉぉぉ」
「可哀そうな奴だなぁ…」
シバの悲しい叫びを聞きながらユウキは、シバを慰めるのであった。




