172話
ハルトムートを出てすぐにロアンに乗り《降石の谷》へ向け移動を開始。
普通に移動するとゲーム内時間で数日かかる距離も王種であるロアンに乗る事で大幅に短縮できている。ちなみに他の調教・テイム持ちプレイヤーも大型獣系統のモンスターをテイムすることでパーティメンバー全員を載せて移動できるようになったのでそれなりに地位向上してきているらしいよ。(当然ながらモンスターランクが高いモンスターの方が乗せれる人数、移動速度が速くなる)
時間は進み、ハルトムートと《降石の谷》のちょうど中間に位置する《荒野の村》と呼ばれる中間地点にたどり着いた私達が見たのは、20人前後からなるPK達とそれらを相手に戦う通常プレイヤーパーティだった。
PK達はどうでもいいとして、それらを相手にしているのは僧侶服にメイスを持ちPKと戦う女性と、魔法を詠唱する魔法使い系の男性、剣と盾を持った男性剣士、そしてその中の一人である大剣を振り回している女性に関しては付き合いのある顔ですね。
「あれ?あの大剣つかってるのはシノア……だよね。PKの数が多くて大変そうだし手助けした方が良いのかな?」
と考えて判断が付く事でもないので、乱入させてもらっちゃおうかな。堂々とじゃなくてこっそりとだけど……ね。
「クルス、王種戦行く前に準備運動しておこっか。まずあっちの数の多いPK達を片付けて来てくれる?私の言った人たちには攻撃しちゃだめ、あと基本は不意打ちでね?」
「クケェ!」
クルスは返事をするとすぐに空高く飛び上がりPk達が固まっている場所に岩石魔法による大岩を落とした。ズズーンという音と共に数人のPKが潰されたようだけど、まだ10人以上いるので予断を許さない状況です。
そう思ったのは私だけのようでクルスの突然の攻撃で混乱するPKを見て好機と見たのかメイスを持った女性がパーティメンバーに指示を出し残っていたPKを殴り倒していく。どうやらPKの数が多いため長引いていただけらしく、時間を賭ければ倒す事は出来たようです。余計なことを……と言われないかちょっと心配。
もちろん、そのまま戦闘態勢を解くわけもなくメイス持ちの人が次に警戒したのは空で羽ばたくクルスだ。あの人たちにとっては今回はPKを先に倒したとはいえ、突然襲ってきたモンスターと何ら変わりないからね。次に自分たちが狙われる可能性は大いにあるわけだから。
それにテイムモンスターかどうかは近くにプレイヤーがいないと種族名しか現れないので、軽々を解くわけにいかないのは道理でもあります。
「その子は私の家族ですので攻撃しないでくださいね」
シノア以外のそれぞれメイスや剣を構え、戦闘態勢をしていたので攻撃されたら困ると思い、私は彼女たちの前に姿を現す。そんな私の登場を見てシノアがやっぱりと言ったような感じで声を上げる。
「あ、やっぱりアイリさんでしたか!クルスっぽい鳥がここに居るからもしかしたらと思ってました」
「やっほー。シノア。多勢に無勢っぽかったから勝手に手出しをしたけど、余計なお世話だったかな?」
「そうでもありませんわよ?あのままでも行けたとは思いますけど余計な時間が掛かっていたと思いますので助かりましたわ」
私の言葉に反応したのは、口調がお嬢様的なメイスを持ったパーティリーダーらしき女性。魔術師と剣士の男性二人はなぜか私を見て固まってますね?近くでよくよく見たらなんとなく見覚えのある顔で、週に何回か見るくらいの人達ですが今は気にしないで良いですよね。キャラメイクでいじってれば似た顔なんていくらでも作れる上、普通に人違いの可能性もあるわけだし。
「それならよかったよ。それじゃ私はいくね!」
「ちょっ?アイリさん待ってくださいよ!」
元々手出ししたらすぐ去る予定だったのでロアンに乗り去ろうとしたらシノアに呼び止められた。メイスの女性も呼び止めようとしてたらしく口を開きかけていましたがシノアの声にかき消されてしまったらしい。
「んー?何かな?私も早くモンスター狩りに行きたいんだけどなー」
「お礼位ちゃんと言わせてほしいのと、もし《降石の谷》あたりに行くなら一緒にどうです?といいたかったんですよー」
「なるほど~。でもお礼はさっきそこのメイスの人に言ってもらえましたし、十分だけど?」
「私がまだお礼を言ってないですよ?」
「シノアはフレンドだからね?余計なお世話の可能性があっても助けるのは当然でしょ?」
「アイリさん……ありがとうございます」
「どういたしまして。それでさっきの話の続きだけど、なんで私の向かおうとしてるのが《降石の谷》ってわかったの?」
「このマップの先にあるのは《降石の谷》と《ヘルツ古代遺跡》だけですから。前者はレベル60~70で、後者は70~80位でちょうどいいモンスターが多く出現するんです。アイリさんと再会する前の事ですけど、そのヘルツ古代遺跡で謎の祭壇が見つかった事で調査も兼ねてジュリエイトさんのパーティに入れてもらってるんです」
「へぇ~、私が闇の領域に行ってる間にそんな展開になってたんだ?てか、その話からするとシノアたちは古代遺跡目的だよね?なら何故《降石の谷》までくる必要があるのかな?」
「それは私が説明いたしますわ。その前に自己紹介もさせていただきますわね?私は臨時調査パーティーのリーダーをやっておりますジュリエイトと申しますの。見た目の通りプリーストをしておりますわ」
「あ、私はアイリです。よろしくお願いします」
「えぇ、アイリさんの事は存じておりますわ。白銀の獣姫、女神様その他いろいろと噂が流れておりますので……」
「……どれも分不相応で恥ずかしい呼び名ですから、普通に呼んでください」
「そう……かしら?まあ本人が言うなら通り名で呼ぶのは辞めておきますわね。それで話の続きですけれど、古代遺跡を進むためにはいくつか別のフィールドで入手したアイテムが必要なのですわ。その一つが《降石の谷》にあるのでそれを私たちが入手するまで一緒に行動されてはどうかというお誘いなんですけれど、いかがかしら?あとはアイリさんの強さに関しても是非見せていただきたいのですわ」
なるほど。長々と説明されるより要点が纏まってて分かりやすいですね。確かに目的地が一緒なら一緒に行動するのもありですね。臨時とはいえシノアが一緒に行動してる以上、信用できない人達でもなさそうですし?……それにしても男性陣はいつまで私を見てるのかな?
「そうですね。ただ、一緒に行くのは良いんですけどパーティを組むのは遠慮させてください。私の強さはあくまでもテイムモンスターありきですから、一人・二人ならまだしも多人数でパーティを組んでしまうと、私自身が非常に危険(隠してる魅了スキルを使いまくらないといけなくなる)ですので……」
「もちろんそれで構いませんわよ。それでは参りましょうか」
そう言う訳で《降石の谷》で必要アイテムとやらを探すまで一緒に行動する事になりました。
私一人ならロアンに乗ればいいですけど、今回は一緒に行動する人がいるので、ソリにしましょうか。
と言う訳で私はコウガとセツナを呼び出し、ソリをひくようにお願いした。もちろん二人とも私が乗ってるなら断ることは無いので喜んでいる。
「雪国以外で犬橇に乗るのは初めてですわ…」
「流石アイリさんの家族ですね。以前別のテイマーの馬に乗りましたけど、速さが段違いです」
「確かに……はえぇな……」
「やっぱどう見てもアイリって人、あのひb……さんだよな?このゲームをやるような人だったのか?」
「リアルの詮索はご法度だぜ?まあ俺もそうだと思ってるけどな。あとできいてみようぜ」
「だな……」
魔法使いと剣士の二人がこそこそと話をしている。ちなみにその二人のプレイヤーネームは、剣士がユウキで魔術師がシバという。私の知ってる二人だとすると野村君と柴崎君だよね(30話参照)?
まあ、あちらも私の事に気づいているような素振りだったので、ここの攻略が終わった後のバイト終了後にでもそれとなく声を掛けておきましょうか。いくら人付き合いの無い私でも、現実の世界の事をエスの中で話す気はほとんどないですよ?(口が滑る事はあるかもしれませんけど)
そして数分後、目的地である《降石の谷》にたどり着いた私達。
ここでの戦闘パーティはどうしようかなー。攻撃のクルスと防御のルドラは確定として、敵のレベルとモンスターランクから考えても苦戦はしなさそう。という事は今のうちに育成したい子を育てるのがよさそうだね。
私はすぐにテイムコマンドを開き、派遣中モンスターの項目からアーシェとディアスを呼び戻した。
あ、アーシェは貰い物の魔獣の卵からうまれた精霊系、ディアスはティアの作った魔獣の卵からうまれた悪魔系の子です。ちなみにディアスは悪魔系王種になる潜在能力がある。
この子たちはランク4まで上げた後は光の領域内のダンジョンに派遣してレベル上げをしていました。派遣期間はまだ二週間ほどですけど、濃密な戦闘を繰り返したらしくスキルレベルの上昇が凄かった。
「クルスとディアスは前衛、ルドラは私の守護、アーシェは回復と支援をする事。わかった?」
私の指示に4人は返事を返す。ちなみにこの場では魔人王であるパーシヴァルを呼ぶ事はない。
人目がある中で魔人王を呼ぶと種族などがバレた時に問題になる……というか魔人族がいる時点で結構騒がれるのは想像に難くないのでね。
それにここでパーシヴァルを呼び、いつも通り人前でアイリ様とか呼ばれた日には、私が魔人族を従えた女王様扱いされそうなのが何よりも怖いんだよ。
「ま、また新しいモンスター?……アイリさんは一体何体のモンスターをテイムしてらっしゃるのかしら?私の知るテイマーの中では断トツにモンスターの数が多いのは確定ですわね‥」
それはともかくとしてジュリエイトさんがそんな言葉を出していた。
もちろん私も正直にまだ千体近くの配下が居ますとは言えないので苦笑いで対応することになった。




