159話
「待ってくれ!」
いざ私がアスベスト霊山の深部へ向かう道を進もうとすると声を掛けてくる人がいた。
振り返ると男女三人組でなにやら見覚えのある人たちだ。どこでだったかな?確か山……そうそう、クルスを仲間にした山で声を掛けてきた人たちでブレイブソウルとか言うパーティだ。……ついでに思い出したけどうちのコウガ達を貶した女性がいたはず。
実際は犬系が苦手だっただけなんだけど私にとってはそれで貶されたことをなかったことにはできない。
「アーサーさんでしたっけ?またあなた達ですか?前回も山で会いましたけど今日はどのようなご用件ですか?」
そういいつつ、コウガとセツナを前面に押し出す。だけどあの犬嫌いの猫獣人が全然怖がる素振りを見せない。……まさか、犬嫌いを克服したのかな?
「ねぇ、貴女の考えてること筒抜けなんだけど?……まあいいわ。その通りよ。私はこの数カ月で犬嫌いを克服したの。だからその子達も怖くないわ……(大きいこと以外はね)」
猫獣人……カーシャ……が答える。どうやらリアル(散歩中の犬を撫でる)とかこちら(犬系の魔物と戦う)でも触れ合う回数を増やし、本当に大丈夫になったらしい。な、なかなか気合があるじゃない。気に入ったよ。犬嫌いじゃないなら私が嫌う理由もなくなるからね。話を戻そうと思う。
「あ、あぁ、アイリさんだったよね?まずは久しぶりだね。今回、声を掛けたのは君が間違った道に進もうとしているんじゃないかと思って声を掛けさせてもらったんだ。そっちの道は霊山深部へ続く道だろう?僕らも一度入って全滅したから知っているんだけど、そっちには桁外れに強い竜種モンスターが沢山……」
「えぇ、知ってますよ?そこが私の目的地で狩場ですからね。と言う事で道を間違えていると言う訳じゃないので心配していただかなくても大丈夫ですよ」
そう笑いかける……ただし表面上のみ。そしてアーサーは赤くなりつつ口ごもる。それを見たカーシャが不貞腐れる。
「……え、あそこが狩場なの?本当に?」
そんな中、私の返答に驚いたのはエルフの女性。たしかサアラだったよね。
カーシャやアーサーも私の発した言葉を思い出したのか同じように驚きの顔を浮かべている。
「すまない。どうやらアイリさんは僕達よりレベルが高いみたいだね。だが、僕たちはこれでも領域内のトッププレイヤーであるつもりだから君があの竜達を倒せるほど強いというのは正直信じられないんだ。だから邪魔はしないから戦いを見せてほしい。君の言う事が真実だと確認さえできれば、その後はその場を去ることにする。だから同行を頼めないかな?」
ふーん、まあ別にコウガ達の強さに関しては隠す気はないからいいけどね。ただ軍勢スキルは使わない方がよさそう。まあ使わなくても余裕だから構わない。
「わかりました。でも一緒に居るからと言って私は貴方たちを助けたりはしませんよ?到着までにあなた達が襲われてしまっても無視します。それでも良かったらついてきても構いません」
「ありがとう。倒す事は出来なくても逃げるくらいはできるから気にしないでくれ。以前はこっそり付いて行って怒られたからね。今回はちゃんと頼んでみて正解だったよ」
以前は結構強引だった気がするんだけどなぁ?まあいいや。あれから時間も経って人との接し方に変化があっても不思議じゃないよね。
パーティは組んでいないけど私とブレイブソウルの面々は深部へ向かって進む。ブレイブソウルの面々も自分たちで倒せる竜種は協力して倒している。流石に長い間パーティを組んでいるだけあって無駄のない動きですね。なんだかんだでお互いの戦闘領域を侵害することなく進めた。
「うわっ、俺こいつに以前絞殺されたんだ!」
「このドラゴン、動きが早いうえに鱗で私の矢を弾くのよねぇ……」
「あぁ、魔法を無効化するドラゴンが……」
道中に出るのは先に述べたコバルトドラゴンたちを始めとして新しく、クルエルナーガという爬虫系の暗殺タイプのモンスターや、ティラヌスという素早い動きをする恐竜型のドラゴン、自分に対する攻撃魔法やプレイヤーにかかっている補助魔法を消し去るサイレンスドラゴンなど様々なラインナップです。
柴犬やら狼がそのドラゴンたちをざっくり切り裂いたり食い殺したりしていく様を見てブレイブソウルの三人は驚きの連続だった。もちろんルドラも呼び出して全員を守るように指示しておきました。
さっき言ってたことと違うって?そ、そんな事どうでもいいじゃないですか、恥ずかしい。
「アイリさんの仲間……特にその犬達がここまで強かったとはね……いやぁ、僕が間違っていたようだ。アイリさん達は強い。それはみんなに周知していこう」
今回連れているのはコウガとセツナ、ルドラだけで残りの子は収納の中で待機中です。過剰な戦力を見せる気はないので。
「えっ?別に周知とかしてもらわなくてもいいです。むしろ面倒が増えますから黙っててください」
「いや、だがしかし、トッププレイヤーでもまだ倒せないドラゴンを倒すその力はこれから先攻略を進めるうえで必要不可欠……」
「あぁ、私は攻略には全く興味がないんです。私の目的はこの子達と楽しくのほほんと過ごす事です。攻略はしたい人がすればいいと思います。私を巻き込まないでください」
「……その強さを持ちながらアイリさんはマッタリ勢と言う訳かい?」
「そうですね。したい事をしているうちに力を得てしまっただけなので。攻略してレベルを上げるだけが強くなる手段じゃないんですよ?」
「……ふむ、確かにそうかもしれない。釈然としない事もあるけどアイリさんの事は必要最低限の情報……たしか女神さまスレだっけ?に載せる程度にしておこう」
「……非常に気になるコメントが混じってますがあまり目立たせないでくださいね」
ブレイブソウルの面々は確かめたい事は確かめられたから僕たちは本来の目的地である狩場に戻ると言い、山を下りて行った。
ちなみに今まで倒した竜系はこの山でもまだ弱い部類なんだけどなぁ。むしろ本番はもう少し上った先にある《ドラゴンズホール》っていうダンジョンなのに……、本人たちがこれで満足したなら気にしなくていいかな。
ブレイブソウルと別れた後は戦闘が出来る家族を呼び出し進行速度を上げていき、そしてたどり着いたセーフティポイント。
「何とか孵化するまでにセーフティエリアに着けたね」
話しかけるとワンワンッと返事を返すコウガ。ここまでの戦闘でコウガとセツナはレベル55を超え、クルスはレベル64、イリスとルドラはレベル60を、パーシヴァルはレベル50を超えた。
カエデに関してもレベルを上げたいのだけど、ここに出現するドラゴンの中には火属性のブレスを吐く個体が多いので慎重に経験値を稼がせているため、かなり低めのレベル52だ。
ロアンに関してはレベル70に届きそうな勢い。
ティアは収納内で生産放置。たまに情報収集に行きたがるけど派遣した時にチョメっているから、しばらく我慢するように言いつけてる。毎回派遣後にレベルを上げて戻ってくるって言うのはそういう事でしょ?ちなみにティアはランク6まで進化できるようなレベルに至っているとだけ言っておきます。
《魔物の卵が孵化可能な状態となりました。種族を選んでください》
皆のステータスを確認していると卵が孵化したというコメントが二つ同時に流れる。ようやく新しい家族を増える時が来たね。
私はそれぞれの卵に表示された孵化種族の一覧を呼び出した。




