158話
「アイリさん、今日はどちらに行かれるんですか?」
いつも通りログインを済ませ、工房から出る際に声を掛けてくる工房主。コトノは店に並べるであろう装備品を作るのに忙しいはずなのに毎回必ず声を掛けてくれる。
「うーん、今日はコウガ達の育成かな。あと孵化中の卵がもう数時間で孵るから、その子たちの育成もするつもり」
「えぇっ!?アイリさん、まだペットモンスターを増やすつもりなんですかっ?コウガ達だけでも十分過剰戦力なんじゃないんですか?」
「あはは、まあね。けどやっぱり片方はティアの子だから孵化させたいんだよね」
ティアの子といったが血(データ?)のつながりがあるわけではない(はず?)。以前もティア自身が言っていた事だけど、あくまでもスキルで作ったのだから自分とは関係ない(はず)。
だけど私は大事にしているティアがペナルティを負ってまで生み出したこの子は育ててあげたい。
……そりゃ、あのペナルティ期間はなかなかきついものがあったけどさ(きつかったのはアイリでは無く、守る対象が増えていたルドラ達だったりするが、ここではその苦労の説明については割愛しよう)。
「そうなんです、それも驚きですよねー。魔獣の卵ってクエストの報酬か特定の敵を倒した際の激レアドロップのはずが実はペットモンスターのスキルで作り出せるなんて~。この情報のおかげでテイマースレが熱く激しく燃えあがってましたよー。《テイマー・モフラー希望者よ、決起せよ!》って感じでしたー」
掲示板に情報をあげてから数日しか経過していないけど、魔獣の卵を産む(作る)スキルを持つモンスターも数種類発見されている。いや、既存のモンスターでもスキルを持っている個体が偶にいるというのがわかった。
ただテイマー自体が少ないうえ、テイムの成功率も極めて低い事から誰も気づかなかっただけなんだろうね。この情報が上がってから検証班の人達が血の滲む思いをしてテイムスキルを調べ上げた。テイムスキル持ちの皆様もそれを手伝っていたであろう他の皆様もご苦労様です……。
「そう言う訳で霊山エリアまで足を延ばす事にするよ。やっぱり修行と言えば山だもんね」
「そうですかー。あそこなら手に入る素材の質とかもすごく良いですので、私も付いて行きたかったのですけど、受注品があるのであきらめるしかないですねー」
「別に素材に興味はないから手に入ったら売りに来るから期待してていいよ。……まあ機会があればどこかに一緒にいく?」
「はいっ~、もちろんお願いしますー。それじゃアイリさん、行ってらっしゃい~」
コトノに見送られハルトムートの街を出て東へ向かう。ハルトムートの街にも東西南北に門があり、平原や森などに繋がっている。
東門も出たら草原が広がっており、かなり遠くに山々が連なっている連山が見える。今回の目的地はそこで詳しいマップ名を《アスベスト霊山》という。霊山に向かう間に色々整理・確認しておこう。
この如何にも体に悪そうな名前の霊山には妖精・精霊系のモンスターが多く出現し、下~中級くらいの竜系のモンスターの出現も確認されている。ちなみに適正レベルは70以上らしいですね。パーティなら50代後半以上あれば頑張れば行ける範囲だし、当然敵が強いのでドロップ素材も美味しい。問題があるとすればレベルが低い場合、共に行くパーティの編成次第では同じ種族のモンスターしか狩れないという事だろうか。
物理・弓パーティなら物理抵抗力が低い精霊系がカモ、タンクと魔法系なら動きが早い妖精系がカモ(ここまで来れる魔法使いだと威力は低いが命中率の高い追尾系の攻撃魔法を覚えているので時間がかかる以外の問題はない)、竜種はレベルの低いパーティでは逆立ちしても勝てないから出直し推奨だそうです。
そしてその戦利品は精霊系モンスターからは各属性エレメント(生産職に渡すと属性効果を付けることが出来る)や属性を帯びた武器が何種類か、妖精系からは経験値獲得量が1~3%増える効果の付いたレアドロの装飾品、竜系からは装備品等は出ないけど品質の良い竜素材がドロップする……と言うこともあり、過疎化しているとはお世辞にも言えない。
私はコウガ達のレベルアップの為にも竜種を積極的に狙う予定だね。精霊や妖精系も見かけたら当然倒すけど、竜種に比べたら経験値の量が少ないから。
この言葉から想像がつくかもしれないけど、霊山での竜種の狩りは今までに何度か行っている。もちろんこっそりとね?
過疎化してない=人がいる……という事だけど、プレイヤーがいる範囲は竜系がうじゃうじゃ出てくる深部ではなく、妖精:精霊:竜がそれぞれ5:4:1(もしかしたら4:4:2かもしれないけど)の割合で出てくる範囲の話。
これらの範囲に出てくる竜種はランク4~5のコバルトドラゴンと霊山の固有種アスベスト・ワイヴァーン。
前者は名前の通りコバルト色をした鱗をしたドラゴン……いや恐竜で、地面をすごい速さで走って襲い掛かってくる肉弾戦タイプ。
後者の固有種のアスベスト・ワイヴァーンはこちらも名前からわかる通り、翼竜らしく空からの急襲を得意としており、その爪と牙には猛毒を秘めている。しかもこの猛毒は光魔法では解除できず、パーティで挑む場合は聖魔法以上のスキルを持っていないと、この戦いに来るなと排除されるほど。
私の場合はあれです。猛毒を解除する解毒薬をカティちゃんの店で購入したやつがあるので大丈夫っ!カティちゃんは錬成以外のスキルはほとんどとってるらしく、頼めば大抵のものを用意してくれるのが便利です。
えっ、あ、はい。ご都合主義ですが何か?
光の領域に薬を扱える知り合いが居ないのでこの薬を量産してもらうのは難しい。
なので最近はティアかパーシヴァルに闇の領域に出向いてもらい、購入してくる形をとっている。ちなみにこの方法は【モンスター派遣】スキルで行える。
もちろんついでにあちら側の様子を探ってきてもらうのも忘れない。(フレンド登録してる留守番中のトリビアとはちゃんと相談が出来るので領地関連で困ったことが起きた場合はいつでも戻ると伝えてある)
私が主に探ってもらっているのは例の吸血王の動向が八割。残り二割で王種達の事だね。
王種と言えば光の領域の王種に関しても調べないといけない。
一応ギルドの依頼を消化して信頼を稼ぎ、情報を得ようとしてるんだけど、王種の情報はかなり高ランクにならないともらえないらしく、足止めを食らっている状態。
まあ私達が本気を出せばギルドの依頼(特に討伐や採取系)はすぐにできるんだけどね?あまり一気に上げると変に目立ちそうだから自重してるだけ。
情報を得る手段としてはギルド以外だと住民から直接聞く事なんだけど、私が話しかけようとすると住民たちが足早に立ち去ってしまうんだよ……。どうやら光の領域の人達は魅力系への耐性が滅法低いらしく、私に関しては魅力が高すぎて逆に恐怖を覚えているらしい。怖がられるというのは初めての経験です。
……話を聞けないのにそんな事をどこで知ったかって?もちろん図書館だよ。人に聞く以外で情報を集められるとしたらここくらいしか思いつかなかったんだもん。
でもまあ、そのおかげでいくつか情報が手に入った。禁書図書館と言うダンジョン情報や、光の領域内にいる王種に関する事など。
禁書図書館には当然普通では手に入らない書物が読める。入館条件は無いけど図書館内にものすごく強いモンスターが出るらしく、図書館なのに本を読むことに集中できる環境ではないらしい。私ならその点の心配はないね?コウガ達が排除してくれるから。
禁書図書館があるのはハルトムートの街から北西に向かった遺跡群エリアにあるらしい。遺跡群エリアには禁書図書館以外にも数多くのダンジョンがあるとかですでにプレイヤーの何人かが潜っているらしい。
つづけてこちらの王種の情報についてだけど今確認されているのはこれら8種類。わかったのはもちろん種族と名前だけ。
鳥王エンベラス
獣王マルアーニ
竜王バハムート
人王ジークフリード
精霊王オベール・ケイロン
宝金王ギャラルホルン
大海王リヴァイアサン
霊樹王トネリー・ユグドラス
この中の鳥王はクルスと因縁が、獣王はコウガとセツナに関係が、大海王はイリスと関係があることが分かっている。イリスの因縁に関しては図書館で情報を調べているとイリスがものすごい反応を示したのでロアンの通訳できいたのだ。
人王に関しては一応私と因縁がある形になるのかな?あの時は逃げるしかなかったけど、次は負けない。
ほかの王種に関してはまあ追々って感じかな。
……っと、アスベスト霊山に到着だよ。
さあ、さっそく深部に向かってれっつご~!
「まってくれっ!!」
な、なにごと?




