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151話

 「こなくそっ!!【紅蓮一閃】」


 「その程度の攻撃では我にダメージを与える事すらできんぞ?」


 「せやろぅな。……けどこれならどうやっ!?【抜刀・紫電一閃】」


 炎や雷を纏わせた【魔刀術】スキルで習得できる幾多のアーツを使用しながら刀を振るうサムライ。

 【魔刀術】とは初期の基本武器スキルである【剣術】レベル30から派生した【刀術】をさらにレベル40まで鍛える事で派生する高等スキルの一つだ。


 魔人族のサムライ、ギンジロウと白く長い毛をふわふわさせたサーベルタイガーのような魔物であるロアンの戦いは長期にわたっていた。だが、これはあくまでもサムライ、ギンジロウ視点ならば……だ。

 ロアンから見れば目の前のサムライの刀術はどれも未熟の一言。もちろんまともに食らえば傷くらいはつけられる可能性があるとはいえ、武器の質がそこまでよくはないので所詮傷どまりだ。

 ロアンは戦闘開始、数号付き合ったのち力量差を図り切った。なので、後は目の前のサムライがやりたいように付き合ってやるだけだという認識で相手をしている。ギンジロウが使う武器で首を斬られようと、ロアンを殺すことは不可能なほどに差が開いている。


 上から目線だが、ロアンからすれば戦闘を終わらせようと思えば一瞬で終わらせることが出来る。だが、アイリからの「力の差があるようだったらギンちゃんが満足するまで付き合ってあげてほしいの。頼めるかな?」というお願いをかなえるべく、ギンジロウの動きを指摘するような挑発行為、何もしなかったらしないでロアン本人にではなく、主のアイリの方に文句を言われてしまいかねないので、そこそこ力の差を感じさせる一撃を放つ。


 ロアンが氷獣王として君臨してた頃、サムライ系の冒険者と幾度となく戦ってきた。もともと氷獣王が住処としていたのは大河エリアなどではなく、闇の領域でも深層と呼ばれるもっともっと奥深くの全てのものが凍り付く極寒の地。

 隠居する目的で闇の領域の表層まで来たが、そこで自分とは比べ物にならないほどの王の資質を持つ人族と遭遇。これを見守ることを生涯の目的とした。


 「温いぞ、小童がっ。昔我に挑んできたサムライはおぬしの数十倍は強かったわぃ。ほれ、もっと鍔の握りをしっかりせんと手から弾き飛ばされるぞぃ」


 「そんなことっ、言われんでもわかっとるっちゅうねんっ!」


 ギンジロウの攻撃はロアンの足の剣で悉く止められ、ギンジロウの武器を破壊しかねない反撃を次々と放つ。ギンジロウも必死に刀で受けていくがその攻撃は自分が止められるように手加減されていることが嫌という程理解させられるものだ。


 「王種ってやつは、こんな強い奴ばっかりなんかぃ!」


 「む?何やら勘違いされておるのぅ。自慢になるのじゃが我は過去王種の中でも災厄の二強と言われておった。じゃから、そんじょそこらの雑魚王種供と一緒にするでない。……とはいえ、今のワシは当時の一分の力も出せぬ老獣じゃがのぅ……」


 「……ははっ。マジかいなぁ。今の状態でもきっつい……というか力量差あんのに、これ以上の強さやったとか冗談辞めてほしいねんけど……」


 「冗談と思うならそれでも良いぞ?それよりも強さと言えば、お主が我が主と行動を共にする気があるのであれば、今の実力では到底、力が足りんのぅ……」


 「ワイは別にお嬢と行動を共にしたいわけやないで?ここに来る前の世界で才能の差を見せられてからそれに少しでも追いつこうとは思って行動しとるけどな」


 「ふむ?買いかぶりじゃったか?我はてっきり我が主と行動を共にしたいから力試しを挑んできたものと思っておったが……。主と関係がないというのであればこれ以上の手加減はせぬぞ?そろそろ飽いてきたのでのぅ」


 「……必死にやっとう本人を目の前にして飽きてきたとは、王種っていうんは口悪いんやなぁ……そんな口悪い獣を仲間にしとるお嬢が可哀そうになってくるわ!あんさんこそお嬢の傍にいる資格あらへんのとちゃうんか!」


 「……我ばかりでなく、我が主までバカにしよったな?この小童がっ!」


 ロアンは怒りのあまり現在の体で出せる本気を見せてしまった。それは後にギンジロウが再現できるようになる奥義の礎になる事をこの時の二人は知らない。

 次の瞬間、ロアンの姿を見失ったギンジロウの体は両断され粒子となってその場から消えた。



 「だぁぁ!なんやねんあれ、速すぎてみえへんわっ!PVPの動画記録はしといたけど役に立つかどうかわからんなぁ……」


 PVPなので、その場にペナルティなしで復活したギンジロウが叫ぶ。

 ちなみにそこには三角座りでイジけてるエレノアの姿もあったらしいが、それは関係ないから放置で良いだろう。そこにロアンが現れ話しかけてくる。表面上は先ほどの怒りの様子はうかがえない。


 「この我を一瞬でも怒らせるとはなかなかやりおるわぃ。じゃが、あの発言だけは頂けんぞ?」 


 「せやな。ワイもお嬢の事までは言い過ぎたおもとる。けどあんさんもワイの気に障る発言したんやからあんさんに言った内容は謝罪せぇへんで?」


 「構わぬ。おそらく我も我自身については色々考える事があり、図星を指されてしまった面があるでのぅ」


 とりあえずギンジロウはアイリの話を引っ張り出した内容ことは謝罪した。ロアン自身もギンジロウに失礼な発言をしたことを謝ろうとしたが、先ほども言った通り、それをされるとギンジロウも謝罪せねばならなくなるからと謝罪受け取り拒否されたのだった。

 これ以上話してもお互い不毛なのでさきほどのPVPについての話へシフトしていく。


 「ギンジロウといったかのぅ?お主の剣の腕自体はそれなりに良いのじゃが武器が付いてきておらぬようじゃな」


 「せやなぁ。まあ武器が付いてきてへん言われてもなぁ……今現在エエ刀が手に入らへんねんよ。カティが作れる奴でも今のが最高らしいしなぁ」


 「ふむ、そういう事なら……我が主よ!」


 「ん?ロアン、どうしたの?」


 自分が倒したエレノアに対し、いろいろ言い訳をしているが完全に無視されているアイリを呼び、呼んだ理由を話した。


 「このギンジロウとやらに刀という武器が余っておれば譲ってやってもらえぬじゃろうか?ほれ、あのメリュジーヌのカタコンベのモンスターからドロップしたのがあったはずじゃろ?」


 「あぁ、そういえばあるねー。属性刀が《火・氷・雷・闇・光》の合計5種類だけど……

ギンちゃん使いたいの?制限レベルあるけど大丈夫?」


 「はっ?あぁ、お嬢がええんやったら買い取るで?てかその前に性能みせて欲しいねんけどええか?」


 「あいあい~。どうぞー」


 アイリが見せた各種属性刀の能力値に驚くギンジロウ。そのどれもが今使っているカティ製の刀の数倍強い性能で能力補正値が桁違いだったからだ。

 その声に反応したミスティとカティまで刀の性能に驚いていた。なおこの二人もすでにコウガとセツナとの戦闘を行い、地味に二人に傷を与えるくらいまでは追い詰めたけど、セツナの負傷を見て怒ってしまったコウガに【狂乱】【焔纏】のコンボで燃やされてしまったらしい。


 「アイリさん。私もこの刀を参考資料として買い取りたい。まだ在庫あるの?」


 「うん?いいよ~。大体五十本ずつ位あるから好きなだけ持って行って?誰も使えない不良在庫だし無料でいいからね~」


 「「ちょっと(ちょい)まったぁ(まちぃっ)!!」」


 ギンジロウとカティの驚きの声が上がった瞬間である。確かに装備制限レベルが60からですぐには使えないとはいえ、この性能の武器ををタダで譲られるというのは二人が納得いかない。そもそも二人が驚いたのはこの高性能の武器が五十本近く在庫があることなのだがアイリはそんな違いには気づかない。


 「お嬢。それならワイは一本1Mで全種類購入させてもらうわ。相場がわからへんから足りんかったらあとで払うわ」


 「じゃあ私は分解作業もしたいから五本ずつ買う。値段はギンさんと同じで……」


 「……無料でいいのに……」


 「「(お嬢の)(アイリさんの)言う無料より怖いもんは無い(あらへん)!」」


 失礼な!と憤慨するアイリの姿があったかどうかはご想像にお任せする。



 現在レベルが58のギンジロウは早く属性刀を使いたいらしく、アイリにレベル上げに最適なダンジョンがないかを尋ねた。アイリが領地内にある最寄りのそれなりに手ごわいインスタンスダンジョンを教えるとスキップしそうな勢いで向かって行った。


 ミスティはというと戦闘した事など何処吹く風でコウガやセツナをモフっている。コウガも戦闘では少々キレてしまったとはいえ、戦いの中でミスティの力を認めたらしく、欠伸をしながら気持ちよさそうにモフられていた。


 カティはカティで、砂漠の集落というセーフティエリアにアイテム《万能工房》を開き、エレノアに頼まれたダークドラゴン素材の装備を作ったり同時進行でつい先ほど購入した属性刀の分解・抽出作業に没頭した。


 「アイ姉~。こうなったらカティはここからしばらく離れないと思うから適当に気をかけておいてほしいな」


 「わかった。私もしばらくはここに居ると思うから見れるときは見ておくわね」


 「うん、お願いねー。それじゃ私は修行してくる~あと杖ありがとー。それじゃねアイ姉~」


 言うと同時に転移していったミスティ。どうやら彼女はアイリと同じく【転移】スキルを持っているみたい。最後にミスティが言っていた杖とは三体の王種(樹齢王・星粘王・死霊王)の周回をした時に死霊王から再ドロップした【霊元髑髏の錫杖】を売った。アイリと共に樹齢王を倒したためか地味にベースレベルが60を超えており余裕で装備出来た彼女の火力はかなり上がっただろう。



 こうして未だに落ち込んでいるダークエルフの女性の事を放置し、領主館に戻ったアイリは数時間後にダークエルフ女性に放置したことを怒られてしまうのであった。な、なんて理不尽なっ!!

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