146話 閑話 ーとある観戦者視点ー
「これはすごい光景ね……」
「……せやな……お嬢はこの数を相手にする気なんか……」
砂漠エリアにある砂漠の集落から離れた所にある小高い砂丘の上に立つ二つの影は、砂漠の集落を囲むように配置されている魔人族と魔物たちの混成軍七千体を前にそのような感想を述べた。
双方ともまだ動きを見せていないとはいえ、雰囲気が物々しい為、いつ開戦するか時間の問題である。
「ねぇ、ギン。あの子……アイがこの数をどの位の時間で倒すか賭けない?」
「ええで?……てかお嬢が勝つ前提かいっ!」
「当然でしょ。確かに敵の数は多いみたいけど、別のゲームとはいえ私たちはアイが少数で大軍を倒すところを何度も見てきたもの。負けるとは思えないでしょ」
「……確かにせやなぁ。でも相手は魔人王とかいう王種やで?流石のお嬢も苦戦するやろ?」
「……さあそれはどうかしらね?直接王種を倒したところは見たことは無いけど、少なくとも死霊王を倒してた時は苦戦はしていなかったみたいよ?……話を戻すけどそれらの話を踏まえてギンは決着までどのくらいかかると思う?」
「……どうやろうなぁ。ワイはあんさんと違ぅてお嬢の戦闘のスキルを見たことないからなぁ。まあ数が数やし……まあ一時間ってとこちゃうんか?」
「へぇ、なかなかいい所をついてきたわね。それじゃ私はそれより短い三十分にしようかしら?」
「マジかいッ!?ワイの一時間でも短めに取った思うとるのに、それより半分短いって事はお嬢のスキルはよっぽどのもんや言うてんのと同じやで?」
「私も一部しか見てないけど、アイなら絶対にまだ何か隠し持ってるに違いないわ……」
「それは私も同感~というか、樹齢王戦でアイ姉のスキルを見ちゃったしなぁ」
ギンジロウとエレノアが話しているといつの間に横に来ていたのか二つの少女の影が追加されていた。
その影はミスティとカティラス……もといカティである。
「あらっ?アンタたちもアイを見に来たのね。ミスティカティ姉妹。特にカティはこっちに来ないと思ってたわ。装備を作る時間の方が大事でこういうのを無駄と言いそうだったし」
「エレさんっ、私たちを繋げて呼ばないで!とあるゲームの版権に抵触しちゃうからっ!?」
「……私は姉さんに言われたからついて来た。アイリさんが私の作った装備でどういう戦いをするのかにも興味があるから無駄な時間とは思ってない……」
「なんや。このゲームでは会わんようにしてたはずの四人がそろってもうたやんけ。……んで、ミスティたちはお嬢がどの位の時間で勝つか賭けるんか?」
「アイ姉が本気でスキルを使ったら、魔人王は別扱いと考えても、あの敵の軍勢が消えるまで数分くらいだと思うよ?まあ掛けるとしたら10分で壊滅状態になる事に所持金の半分ってとこかな?」
ちなみにミスティの所持金だが樹齢王を倒し、ベースレベルが60を超えたのでレベルに合った装備をそろえた為か現在すごく少なくなってたりする。一方それらの装備を手掛けた妹のカティは姉の懐事情を知っているので何も言わない、我関せずを決め込んでいる。
「っ……へぇっ?ミスティ、それ本当なのね?アイったらそこまで力を隠していたって言うの?」
「もちろん事実だよ。アイ姉ったらスキルで召喚した仲間を樹齢王に殺された瞬間ブチ切れしちゃってさ。あの耐久力に定評のあった樹齢王を瞬殺してた。翌日から樹齢王周回して素材集めをしてたのを私は見てた」
「……そ、想像以上みたいね……」
ミスティから樹齢王と戦っていた時のアイリの様子を聞かされ絶句するエレノア。ギンジロウの方も今の自分なら何とかできるだろうと考えていたが、今の情報を聞いて一人で立ち向かってもどうしようもないだろうという判断に至った。
なお、カティは会話に参加せず、砂漠の集落にある大きな館から出てきたアイリに注目していた。アイリが外に出てくる少し前に魔人王の軍が動き攻撃を仕掛けたのだ。
「それで続きなんだけd……」
「……!?姉さんたち……敵とアイリさんが動いた……」
カティのその声に会話を切り一斉に戦場に目を向けるエレノア達。外に出てきたアイリが最初に行ったのはコウガ達を正面から攻めてくる本隊にぶつける事と、集落を囲むように配置されている魔獣や魔人族の軍隊を倒す為に総勢1500体の配下を呼び出す事。
エレノア達はと言うと、どうやって1500ちょいであの大群をぶち破るのかを見ている。
まず配下達は集落の背後から攻めて来ていた魔人族と魔獣の混成軍を壊滅させ、その後左右に展開してきた魔人族の兵達を倒しアイリの元へ帰還。負傷者は多少出たらしいが死者は出なかったようだ。
それが終えると魔人王の陣地からものすごい威圧を放っている存在が出てきた。そう魔人王本人だ。
魔人王は自軍の兵たちが倒れている中をズンズンと進み、アイリたちの居る場所の手前までやって来た。
そこまでくると魔人王は自分の所持する虎の子の軍勢を呼び出し、決戦を挑む。
それに対しアイリが行ったのは25体の配下モンスターを呼び出す事。その後はその場で何やら歌を歌い始めている。
「……歌唱系のスキルみたいね。アイはあのスキルで配下のモンスターを強化して戦うという手段なのかしら……」
「せやな……。むっ!?なんや、ただの歌唱やなさそうやで。魔物鑑定あるなら見てみぃ。一部の配下のモンスター達のステータスの増加率が歌唱スキルの効果だけやったらあり得へん程、えらいことになって来とる……」
「……アイリさんの呼び出したモンスターのランクが大変なことになってる。全部ランク6以上で、ランク7も10体以上出て来てる。ちなみにエレノアさんとギンジロウさんが倒してた暗闇の山のダークドラゴンはランク5だからアイ姉の呼び出した配下モンスターは全員それ以上……」
「べ、別にダークドラゴン位は余裕なんだけど……ふーん、アイったらなかなか厄介な手札を持っているのね」
「ちなみにアイ姉は樹齢王戦ではランク7のモンスターを5体しか出してなかったよ。そう考えると魔人王を本気で相手してるように見える」
ミスティはそう言うが、ミスティもまたアイリの配下が現在、目に見えてる以上に強い存在が居る事を知らない……。アイリが本当の本気で配下全員を呼び出したことなど無いのだから。
「あっ、それはそうと、さっきの続きなんだけどアイ姉から聞いたんだけど家族と配下という区分があって……召喚された方が配下って言ってた……そっちは殺されたら復活できないらしいから、ついキレちゃったって言ってた」
「さ、さよか……とりあえず、お嬢の呼び出すモンスターを倒すのは良くないって事は理解できたわ。となるとお嬢が連れてる仲間モンスターなら大丈夫って事か」
「いつも連れてる方は家族としてすごく可愛がってる。こっちの方は倒されてもスキルとお金で復活出来るらしい。倒されたことは育成中に一度しかないみたいだけどね?
そのかわり配下モンスターと同じくらい強いらしい。ちなみに家族の中にはだいぶ前に討伐のインフォが流れた氷獣王が居る。ちなみに氷獣王は会話が可能で白い毛がモフモフなおじいちゃん虎だった!」
「……やっぱりあの白いサーベルタイガーが王種だったのね?あれほどまでに強い気配を感じたことが無かったからそうじゃないかって思ってたけど……てか、おじいちゃんなのね……」
「ほな聞くことは聞いたし、ワイは家族モンスターとやらの力を見せてもらうとしよか。ミスティの言う通りやったらお嬢の居る方はすぐ決着つくやろうしな」
そういうとギンジロウはそのまま集落の裏で赤く綺麗な鳥と戦うコウガ達の様子を見に行った。
残ったエレノア達三人は会話が終わった瞬間、アイリの陣営に向け魔人王が剣技を放ったところを見た。
闇の領域で一番と言っても良い剣士である魔人王の放った剣技の《次元断》はエレノア達4人の誰が相手であっても耐えられる威力ではない。
だがその剣技は一体のドラゴンによって止められたのである。




