141話
ようやく78話で書いた???視点の話に追いつく(?)ことが出来た。本来ならもっと早く来るはずだったんですけどね?まあ脇道にそれる展開が多いのは仕方ないですよね。
樹齢王を倒した翌日、私たちは物々しい雰囲気漂うヘリオストスへ到着した。もちろん理由はこの街を治める王種の魔人王が別の王種(私だね)の領地へ進軍中で不在だからである。
不在の間、町の治安を守るため、入り口周辺には魔人族の衛兵が怪しい奴が居ないか目を光らせており、無事そこを通過して町の中に入っても数人で組を作り巡回している衛兵が見受けられた。
この状態で騒ぎを起こせる人が居るのかなぁ。
そんな場所に何故侵入できたかって?もちろん普通に入ったに決まってるじゃないですか。
この衛兵は一体何から町を守るつもりなんだろうね?もし私がヘリオストスを攻めるつもりだったなら私の顔を知らない時点で(まあそれは魔人王も当てはまるんだけどさ)破綻してる気がするよ。
そんな感想を抱きながら途中で冒険者ギルドに立ち寄り、いくつかの素材納品依頼を受注・完了し、ミスティちゃんの妹であるカティちゃんの工房に前金として納めるまとまったお金の工面、ギルド貢献値稼ぎをした。
まあ忙しくて依頼を受けてもらえない可能性も無きにしも非ずだけど、用意するぐらいはかまわないと思うんだよね。
そうしてたどり着いた町はずれの見た目はこじんまりとした工房。
カティちゃんが一人でやっているというのならあまり大きすぎてもどうにもならないもんね。
その表札には《カティラス・ウェンブルグのマイスター工房》と書かれている。どうやらここがカティちゃんの工房で合ってるみたい。ここで思ったのはカティちゃんの名前が《カティラス・ウェンブルグ》であるという事と、マイスター工房を表示されるほど生産に力を入れている実績があるという事。
キャラネームでここまで長い名前を付けてる初期プレイヤーが居たんだね。それも私の知り合いに……。
……なお長い名前は私も苦手だから今まで通りカティちゃんでいくよ。
生産者の工房には専門店・雑貨店・マイスター工房とあり、専門店は文字通り剣なら剣、鎧なら鎧と専門に作り上げている店を指し、雑貨店は複数のプレイヤーが共同で出資、商品関連でも扱っているものは様々なお店を指している。
それに対し最後のマイスター工房というのは生産者一人で数種類の装備を作り販売している工房を示しており、このマイスター工房を名乗るには出店している地域で腕を認められ、かつ、専門店と同等もしくはそれ以上の高評価商品を作成・販売し続けていなければならない。
よって少しでもお客から不平不満が出てしまい、その対応に追われ不良品などを扱ってしまうとマイスター工房を名乗ることも出来なくなるわけ。
このことからカティちゃんの評価はヘリオストスで認められるほどすごいという事である。
「ここがカティちゃんの工房ね。それじゃ早速……おっと……」
私は扉を開けようとして静止。知り合いに会うんだし、ちゃんと髪の毛とか身だしなみを整えてから入らないとね?
「おじゃましまーす」
中に入るとまず目に付いたのは機織り機と彫金施設、それに奥の方に溶鉱炉と鍛冶場が見える。この時点で服系装備と装飾品、そして鉄などの金属を使った装備を扱えることが分かる。
この様子だと見えてない範囲にまだ色々置いてそうね。
「……いらっしゃい。何の用ですか」
「あなたがここの店主さん?」
奥から出てきたのは、金色の髪を左右でカール……いえドリル状に巻いているトロールの女の子。なお、トロールはキャラ作成時に初期選択で選べる種族の一つ。
パッと見た感じ体は小さいが、腕はなんとなく肉付きがよさそうです。きっと腕相撲をしたら私の腕はポッキリと折れるでしょうねぇ。
目付きはやや眠た気で、あまり長い話をしてた眠ってしまいそうな感じを醸し出している。カティちゃんは今までも話を続けづらい容姿を選択することが多かった(吊り目で怒っているような印象を与えたりした事もある)ので今回もそうなのかもしれない。
「……そうですけど……」
「そう、実は装備品作成の依頼をしたくて来たんだけど良いかな?」
「……大丈夫。ただ今は知り合いからの作成依頼もあるから、順番通りに取り掛かっても多分三日後くらいになる……」
うーん、最低三日後からかぁ。取り掛かりでそうなるともしかしたら魔人王戦には間に合わないかもしれないなぁ。何とか早く作ってほしいんだけどなぁ、無理なら仕方ないか。
光の領域にいる時からアクセサリと鞭以外の装備は変わってないんだし、新しいのを作る事には否は無いよね。
「そうね。それでいいわ。作ってほしいのは身に付ける場所を問わずに次の効果が付いているもの。見た目に関しては店主さんの評判を信じて任せるわ」
「……指定付与作業が入ると料金が割高になるけどいい?」
「構わないよ。その為にお金とか素材をたくさん用意してきたからね」
「……わかった、その仕事受ける。……次につけてほしい付与効果を教えて」
「いろいろ事情があって私の強化をするのが最優先事項になったの。今の装備のままだとモンスター相手には戦えるけど、対人相手では正直厳しいかもしれない。だからステータス補正は問わないけど対人耐性がつくような装備がほしいの。できるかな?」
カティちゃんは少し考え顔をしかめた。
「……残念。対人耐性というのは聞いたことが無い。本当にその効果が存在するのなら付与方法を探すのは吝かじゃない……」
「対人耐性がついてる実物があればいいの?うーん、たしか……あ、あったあった。これなんてどうかな?」
取り出したのは装備中のアクセサリである《花鳥風月》。
どうやらカティちゃんは対人耐性というものを見たことが無いみたい。まあ私も《花鳥風月》を手に入れるまでその存在を知らなかったけど。
まあとにかくこれを見せれば何とかできるかもしれないし、見せるだけ見せてみよう。
「……これはすごい……」
カティちゃんはパッと見て、まずそう呟いた。
「……ねぇ、このアクセサリの詳細鑑定してもいい?」
「もちろん、って詳細って事はもしかして五つの能力全部わかったりするの?」
「……もちろんわかる。私の鑑定スキルはすでに最高ランクの【真聖鑑定】。私に見通せないアイテムは存在しない!」
おぉ、あのおとなしいカティちゃんが自信たっぷりだ!?これは期待できるね。どうせだから残りの能力も鑑定してもらおうっと。これで魔人王を倒した後に行く予定だった《メリュジーヌの寺院》で鑑定してもらう用事がなくなるし、その分ダンジョン攻略というか育成に精を出せる。
早くレベルを上げてカエデを王種進化させてあげたいんだよね~。させてあげたいじゃなくてさせたいというのが正しいかもしれないけどさ……。
「なら、その装飾品の【薫り立つ美】【見通す視線】【対人耐性:中】以外の二つの効果を教えてほしいんだけど」
「……分かった。だけど先に対人耐性について調べる……ふむふむ……対人耐性付与に必要な素材が判明した」
カティちゃんがそう言って提示したのは《暗闇の山》の中にあるダンジョンの一つに出現する獣人型のボス《ヴェイパー・ウェアウルフ》のドロップ素材だった。
「ただ、これは対人耐性(小)の素材。この腕輪についてる対人耐性(中)を求めるなら、スタースライムゼリーが必要……。でもそんな素材見たことない」
スタースライムゼリー?何か聞いた事があるような気がするなぁ。
えっと、たしか~……あっ、星粘王から手に入れた素材にそんなのがあった気がする!
急いで確認すると確かにアイテムボックス内にスタースライムゼリーが数個存在した。やったね。これを渡せば装備品に対人耐性(中)が付けれるんだね。でも仮にも王種素材で(中)しかつかないってある意味凄いよね。
色々考えつつも提出してみるとカティちゃんは驚きの表情を浮かべた。
「……初めて見る素材……これは良い。初めて見る素材はすぐに試したくなる……」
カティちゃんテンション上がってきたかな?もしかしたら私の装備作成を先にしてくれたりするかも?
スタースライムゼリーを皮切りに珍しい素材(大抵王種ドロップだから当然なんだけど)を提出するたびにテンションが上がるカティちゃん。
だんだん目がキラキラしてきたね!これはいい兆候だよ?
「……これだけ真新しい素材があれば研究がはかどる。先にお客さんの装備を手掛けてもいい……」
よしキタァ!カティちゃんの興味を惹けたよぉぉ!
その後はカティちゃんに作ってほしい装備部位を説明し、現在装備中のものを見せたり、ティアが合成や錬成をした素材を提出。
「それで出来るかな?足りないものがあるなら分かる範囲で集めてくるよ。さすがに知らないものだったら時間をもらうけどね」
「……基礎に必要な素材はお客さんが大方持ってきてくれてるから取りかかるのはすぐにできる。だけど付与に関しては成功率の関係もあるからゼリーとかは多めに用意してくれると嬉しい」
そっか、じゃあ星粘王の周回は確定かな。モンスター派遣のスキルもあるからロアンとかコウガ辺りに倒して来てもらおうかなぁ。その辺は後で相談しよう。
こうして依頼を終え、完成した装備品のやり取りの為にフレンド登録をしました。その時カティちゃんが驚いた顔をしていたけど、もしかして私の名前をギンちゃんかミスティちゃんから聞いてたのかな?
「……それじゃ進展があったら連絡する。すぐに作業に入るから、出て行って……」
えっ?あれっ?私ってば追い出されちゃったよ?てっきりこの後は私と再会したカティちゃんが抱き付いてくれるはずだったんだけどなぁ?自慢じゃないけど私が前にやってたゲームでカティちゃんをすごくかわいがってたし……。まさかギンちゃんからもミスティちゃんからも私の事を聞いていなかったのかもしれない。
そうだとしたらカティちゃんから見たら私はただの装備を依頼しに来た強いプレイヤーという認識なんだよね……。最初に自己紹介をしてから装備の依頼すればよかったなぁ……。
はぁ、追い出された手前、すぐに工房を訪ねるのもどうかと思うし、今日は工房を訪ねるのやめよう。
……この気持ちは海岸エリアの洞窟内に復活していた星粘王にぶつけられ、その素材を余すとこ無く回収されたのだった。
なお、判明した花鳥風月の残りの二つの効果は次話にて公開予定です




